内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第16話「F・ディレイクの研究」
1 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 20:46:34.20 ID:Ak2TJ0oY0
          _,,..::ー-'`^゙ー―‐..、
        .,,.. '"      i     ゙`>、
      ,/      ,._」_、 i / /  (
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        \   /  _'ー‐'ノ゙`セ'}〕   俺の……俺の出番はまだかー――ッ!?
          )=、!、  .    ・ノ  |
          f"ゴ.    ,. ----、 !    ( ^ω^)は街で狩りをするようです 第16話 投下します
          !、(っj    レ―'‐'‐! !    まとめはこちら 内藤エスカルゴさん
          `'ィ゙ヽ_    " ̄`''./|    http://www.geocities.jp/local_boon/boon/Hunt/top.html
           .!  r‐-r.、  ,,. -! l

( ^ω^)「安心しる。ガイルさんはまた活躍するらしいお。
       しかも今回は出番あるらしいお」

ガイル「ま、マジで!?」

( ^ω^)「っていうか作者のお気に入りらしいお」

ガイル「うっひょー―――!! ガイル系小説始まったぁー―――っ!!」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/26(水) 20:48:20.96 ID:Ak2TJ0oY0
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、本名不明。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つ強化人間「システム・ディレイク」。
      人類の生き残りが発見されたボストンへ向かう。
      強力なセカンド「でっていう」との戦闘中、謎の男に出会う。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
       ブーンを強化人間に改造した弱冠19歳の天才科学者少女。
       過去セカンドに襲われ両腕を失い、義手を着用。貧乳。嫌煙家。
      人類保護委員会モナーからアルドボールの使用許可を得る。

('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ツンをからかうお調子者の変態。空気を読まない。
   ショボン、阿部と共に、「クー・ルーレイロ」なる人物とシステムの真相を暴こうと企む。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/26(水) 20:49:31.56 ID:Ak2TJ0oY0
――― その他 ―――

/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
   現議会長、元アメリカ空軍大佐。
   任務と「セントラル」の為には非情になる男。

( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
    バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
    自身の研究成果である「Hollow Soldier」を従える。

(  〓 )Hollow Soldier(虚ろな兵士):年齢不明
     モララーにより生み出された超人。
     クローンテクノロジーにより量産され、部隊として編成された。
     クー・ルーレイロなる人物がクローンのオリジナルとなっているらしい。

(´・ω・`)ショボン・トットマン:25歳。バーテンダー。
     不味いと不評のバー、バーボンハウスの店主であるダンディな男。
     その実態はガチホモであるが、精を出しているのは酒造りである。
     ドクオに仕事を依頼されるが単独では困難であると判断し、阿部さんに助力を頼む。

阿部さん 阿部高和:28歳。カレー屋の店長。
      ksmsカレー阿部というカレー屋を営むイイ男。
      その実態はガチホモであるが、精を出しているのはカレー作り…だけでは無い様子。
      経歴は、ショボン同様に不明である。

7 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 20:50:49.57 ID:Ak2TJ0oY0
LOG その日々の始まり


「クソッタレ! 何なんだコイツらはよぉ!?」

「知るか! 撃て! とにかく撃つんだ、ガイル!!」

一面に広がる、炎と煙。
その爆炎の中を平然として歩くのは異形の群れ。
米軍が誇る破壊兵器の数々は巨大な異形の前には歯が立たず、
味気の無い花火を何度も打ち上げているかのような、そんな光景ばかりが続いた。

「――ナッシュ、ナッシュ!? 応答しろ! ナッシュ!?」

当時の戦闘機を上回る速度で飛行する、怪鳥の群れ。
戦車の砲撃にもビクともせず、突撃を繰り返す異形の大軍。

いつしか軍は戦う事を放棄し、自らも逃げる事を選択する。
まだ感染拡大の及んでいない街に居座り、「閉鎖」という塀の中で
恐怖に震えながら、しばらく命を繋いでいた。

8 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 20:52:03.97 ID:Ak2TJ0oY0
人類が頂点を確信した科学力、それを持っても抑止される事の無いウィルス。
街の人々は尽く異形に喰われ、犯され、そして異形へと姿を変えてゆく。
そして矢継ぎ早に異形の子を産み落とし、新たなる生態系を形成していった。


「誰か……誰かああああ嫌ああああああああああああああああ」

「ああ、誰か、食い物……水を……」

各地から発せられる、SOSの叫び声。
しかし呼応は無く、軍からは感染者と迫害され、か弱い人々は孤立していった。

「に、兄さん! 兄さん!! どこ、何処にいるんだ!?
 アタシを1人にしないでくれ!! 一緒に逃げるんじゃなかったのかよ!?」

家族、友人とは散り散りになり、各々が疑心と食欲渦巻く集団の中へ身を投じる。
その中には、数少ない物資を奪い合うような、人々の醜い様も多く見られた。

人々は気づいていなかったのである。
皆が、こぞって我こそがと生へ執着しようとするのが、
本能に従って人間や動植物を蹂躙している「セカンド」と、何の変わりが無い事を。


それでも、人間の理性と愛と意志は、決して潰える事は無い。
人間として生きる限り、決して捨てる事の敵わない感情なのだから――。

9 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 20:54:04.03 ID:Ak2TJ0oY0

「おい、アンタ、乗んなよ。NYだろ? 乗り物無しで良く生き延びたな」

「あ、ああ、NYだ……アンタ、その装甲車どっから盗んだんだ?」

「盗んだ訳じゃねーが……元々軍の人間なもんでね。
 俺はジョルジュ・ジグラード。隣のはガイル。フロリダから来た」

「あ……は、ハイン、ハインリッヒ・アルドリッチ……。
 メリーランド州で車を失って……そこから歩いてきた……」

「歩いてェ? ハハッ、タフな女だな! 気に入ったぜ!
 ハイン、後ろに乗んなよ。昼間の内にNYまで行こうぜ」

「YO! 俺はベガだ! こいつがザンギエフで、こっちはバイソン! このピザは本田!
 ほら、腹減ってるだろ? 水と食料なら結構あるからよ!」

「あ、あ……う、うう……あり、ありがとう……」

絶望と恐怖に屈服した者は「セカンド」へ成り下がり、人間としての生を終えた。
希望を捨てず、最後まで生きようとした者の多くは『セントラル』へと辿り着いた。


そして、ボストンでは―――………‥・・

11 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 20:56:22.74 ID:Ak2TJ0oY0

「……皆、遅いな。無事なんだろうな……?」

静かで暗い部屋の中、マスクでこもった声と足音が響き渡る。
瓜二つである兄弟の内、弟の方は落ち着き無い様子で部屋をうろついていた。

兄弟は、在学中のハーバードが有する地下の研究区画に身を潜め、そこで家族や友人を待っていた。

優秀な兄弟は、埃が被っていた一部の研究区画を、この日の為に誂えていたのである。
使われていなかった区画とはいえ、勿論、学校側の許可は得ていたが。

「その内、来るだろう」

空間に響くのは、オットーと殆ど同じ特徴を持つ声。
分厚いマスクを通しているので、余計同じような声に聞こえてしまうだろう。

「兄者……なんて悠長な……心配じゃないのかよ!?」

オットーが強い口調で問い掛けた。

「心配に決まっているだろ……クソ!」

「……すまない、兄者……気が立ってて、つい……」

「いいさ。こんな状況で落ち着く方が無理だ」

13 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 20:57:31.85 ID:Ak2TJ0oY0
沈黙。
室内の広々とした空間が、余計に静寂感を煽る。
そんな雰囲気に耐え切れないのか、オットーは携帯端末を片手に、
部屋をグルグルと回り続けている。

オットーとは対照的であるが、アニーも床に腰を下ろし落ち着いた様子で、携帯端末を弄り続けている。
何度も安否確認のメールを送信したり、電話を試みたり――。

「ネットワークに支障は生じてないが……」

オットーが送信状況から、そう述べた。

「連絡が途絶えてもう10分……」


呟き、アニーは立ち上がると、

「弟者、車で探しに行こう」

マスクの奥から発せられたのは、オットーが待ち侘びていた言葉であった。

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 20:58:33.68 ID:Ak2TJ0oY0


地下深くに位置する区画をエレベータで抜け、2人は一階に出る。
エレベータを降りた所にすぐ、兄弟の乗ってきた車が停まっている。
ボストン製の、グレーカラーの可変型飛行自動車である。

オットーは携帯端末から浮かび上がっているモニターにタッチする。
すると、自動車のドアが1人でに縦にスライドし、搭乗者を迎え入れる。
オットーが操縦席へ乗り込み、アニーは助手席へ。
ハンドルに備え付けられた指紋認証式のキーを難なく読み込ませ、すぐさまエンジンを吹かす。

ハーバードは大規模な敷居を誇っており、学生教授共に車での移動が一般的である。
それは校舎内も同様であり、廊下や通路にあたる道の中央に車線が引かれているのは、
ボストン市以外に位置する大学からすれば、奇妙であろう。

「行くか。まずは何処に? ケンブリッジの方に行くか?」

ベルトをしめつつ、オットーが、アニーに尋ねる。

「連絡が途絶えたのは、元ケンブリッジ対岸から橋を渡った後だった。
 まず橋の方へ向ってみよう。近くにいるかもしれん」

ケンブリッジはマサチューセッツ州の有する市の一つであるが、今はそうではない。
ボストン市周辺の名大による貢献により、目まぐるしく発展したボストン(正確にはボストン市)が、
ケンブリッジなどの幾つかの市を吸収し、一つの市として拡大を果しているのだ。
その為、他州を含むボストン近郊の都市は、全て「ボストン市」として組み込まれるようになった。

16 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:01:04.52 ID:Ak2TJ0oY0
兄弟を乗せた車が、校舎の出入り口に向って方向転換した後、
速度制限以上の速度を持って移動を始めた。

車道左右に聳えるガラス張りの壁は、至る所にヒビが走っている。
ふと、オットーはガラス越しに見える外の様子を見てみた。

校舎を囲っている茂みの一部から、血塗れの人腕が突き出ていた。
目を凝らせば、そこら中に「食いカス」が散らかっているではないか。
既に大学内においても、セカンドの気配を実感させる光景が多々広がっている。
オットーは、ハンドルを持つ手を震せた。

「今は昼間だ、安心しろ。昼間は奴等の活動が幾らか大人しくなるって話だからな。
 外に見える死骸は、きっと昨日やられた連中が殆どだろう」

「兄者……」

実弟が恐怖に動揺していた事を見透かし、アニーは宥めたが、

「どうした? 意気揚々に出て行った割に怖気づいてるなwwwww」

いつもと変わらない調子で、オットーを煽るのだった。

「ち、ちげーよ!皆が心配なだけだ!」

17 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:03:01.97 ID:Ak2TJ0oY0

「おい弟者。ちゃんと前向いて運転しろよ」

「分かった分かっ――あ、おい、兄者!
 あれ、しぃさんだろ!? 誰かと一緒みたいだぜ!」

オットーが指差す方に、アニーはハッと顔を向けた。
ヒビの入った厚いガラスの向こう側に、紛れもないシーケルトの姿を見たアニーは、
満面の笑みを浮かべて一言「良かった」としか言わなかった。

「…………」

こんなアニーの笑顔、オットーが今までに見たことが無かった。


「……なあ兄者、あの男は誰なんだ?」

「さあ……友達かなんかじゃないかな」

シーケルトと平行して走るのは、ドレッドパーマが特徴的な長身の男。
彼女の恋人であるアニーも知らない男のようだ。

オットーは車のクラクションを軽く鳴らしてやった。
すると、シーケルトと男がこちらへ顔を向ける。
誰の車なのか気づいたシーケルトは、男と共に進路を変えてこちらへ近づいてきた。

19 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:04:52.06 ID:Ak2TJ0oY0
シーケルトは首を左右に振り、何かを探している。
その探し物を男が見つけたようで、2人はガラス壁の一部へ走り寄った。
彼女達のガラス壁の前には、小さな装置が付けられている。

シーケルトが左腕に巻きつけた携帯端末を装置にかざすと、
装置の付いたガラス壁が独りでにスライドし、2人を校内へ招いた。
その一部始終を見終えたオットーはすぐに、彼女達のいる方へ車を動かした。

「しぃ、無事だったんだな」

車の窓を開け、アニーが言った。
分厚いマスクで顔を包んだアニーを見て、シーケルトが一瞬たじろいだ。

「ええ……でも状況は酷いわ。ここまで来れたのが奇跡のように感じるもの」

「この校舎の地下研究区画へ……ほら、昨日連絡した場所です。
 そこは安全ですから、とにかくそこで隠れていてください」

シーケルトが頷いたの確認し、オットーは彼女に尋ねる。

「えっと、その人は誰なんです?」

「あ、この人はギコ……ギコ・アモット。ハイスクールからの友達よ」

友達と聞き、オットーは誰にも気づかれないよう小さく溜息をついた。
対し紹介された男は、途端に表情を暗くしている。

20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:06:33.44 ID:Ak2TJ0oY0

「自己紹介は後にしよう。とにかく、地下へ急いでくれ」

アニーが突然割って入った。

「分かったわ。それでアニー、貴方達はこれから何処に行くの?
 外は危険だから無茶な事は……」

シーケルトは途中で口を噤む。

「俺達は家族を探しに行く。ここに向ってるらしいんだが連絡が途絶えてしまったんだ。
 なぁに、無茶はしない。やばくなったら飛んで逃げ帰るさ」

「そういえば、しぃさんも連絡が着かなくなったんですけど、何かあったんですか?」

オットーが尋ねた。
シーケルトは疑問符をそのまま喉から出したような素っ頓狂な声を発し、
自分の携帯端末を忙しく操作し始める。

「え? あ、本当だ! こんなに着信あったなんて……。
 ごめんなさいオットー、アニー。
 化物に追われて無我夢中で走ってたから、気づかなかったの」

「そうでしたか……ウチの家族も連絡に気づいてないだけだと良いが……。
 じゃあ行こうか兄者。しぃさん、地下にマスクとスーツがあるから着てください」

車体から静かなエンジン音が流れる。
兄弟を乗せた車はあっという間にシーケルト達の前から姿を消し、校舎から出た。
それを見届けたシーケルト達は、エレベータを目指し、再び息を弾ませる。

21 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:09:05.44 ID:Ak2TJ0oY0

『市民の皆さんは速やかに近隣の避難場所まで……』

街中のスピーカーから鳴り響く、警告。
通りや「スカイウェイ」と呼ばれる空中トンネルには、未だ多くの車が血相を変えてタイヤを回していた。
中には車などの交通手段を失った人々も多く、シーケルト達のように足で逃げる者の姿も見える。

街の被害状況は多大である。
多くの建造物から火や煙が立ち上り、地面の一部は割れて隆起している。
割れ目から覗くオートメーションが不具合を起こし、バチバチと音を鳴らしているかと思えば、
時折、火山の噴火の如く地面を爆発させる事も。

車が兄弟に紹介するのはそれだけでなく、セカンドの生々しい恐ろしさも見せ付けた。
通りに並ぶ店の壁やウィンドウの多くに血や肉が垂れていたり。
味気ない道に、人体の部位が、造作も無く転がっていたり。

「あ、うわ、や、やべえッ!」

不意に切られたハンドルに、アニーの体がドアに叩き付けられる。
何かと思い窓を覗くと、目に映ったのは、車道に横たわる首の無い女の死体と、それに群がる人間達。

否、人間の姿に似た、化物だ。
小さな身体に詰まった紅色の臓器や血を啜るのに夢中になっている化物達は、
傍を通り過ぎるオットーらの車なんぞに、目を向けようともしなかった。

22 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:11:05.97 ID:Ak2TJ0oY0

「お、弟者、あ、あれを見ろ!」

アニーが促す方を、オットーは見た。
左手に見える通りに、足取りのおかしな挙動不審な男の姿がある。

「ううア゙ッ! がア゙ああアあおッ!あ゙ばあがああー――ッ!!」

男は突然叫び、自分の頭を掻き毟りながら、地面に頭を打ち付け始めた。
頭を打ち付けるのを止めたかと思えば、今度は体中を爪で引掻いている。

「何だ、あいつ……」

オットーが無意識にそう呟いた。

突然、男の背が血を吹き上げる。
血飛沫と共に背から生まれ出たのは、カマキリのような蟲の顔と足。
背から伸びた数本の足を地に着き、叫喚する男を背負うようにして、歩き始めた。

「あっ」

オットーが声を出した。
“カマキリ”の首がこちらを、自分の顔を見ているような、そんな気配をオットーは感じ、

「に、逃げるぞ兄者!」

アクセルを思い切り踏み込んだ。

23 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:12:11.48 ID:Ak2TJ0oY0

「――おい! もっとスピード出ないのか!?」

声を荒げてアニーが尋ねた。

「これ以上速度出ないぞ! しかしどうして!?」

オットーはハンドル部に埋め込まれたパネルにタッチする。
フロントガラスの一部にモニターが展開され、自動車後方の映像を映し出した。

――先ほどの“カマキリ”が追ってきている。
それも、この自動車を上回る速度で。

「ジャンクションに入ろう! 俺が入れる所を見つける!
 スカイウェイで飛ばないと追いつかれちまう!」

アニーはそう叫んだ。

バイクを含む自動車の空中走行は、スカイウェイのみでしか許可されていない。
車に埋め込まれたセキュリティが作動している為、強制的に制限を受けている。

そのセキュリティは唯一、ジャンクションの料金所で解除する事が可能だが、

「ダメだ! 一番近いジャンクションでさえ2キロ離れてる!
 目指している内にアイツに捕まってしまう!」

アニーは携帯端末の交通情報を参照し、そう述べた。

25 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:13:44.90 ID:Ak2TJ0oY0

「あ、兄者……兄者! 戻る、車を戻すぞ!!」

オットーの予想外の言葉の後、車が急停止する。

「何を言ってるんだ弟者――」

弟を怒鳴りつける言葉は、唾液を飲み込むのと共に喉の奥へ引っ込んだ。
サイドミラーに、ゆらりと映った“それ”は――――、


「あ、あああ、あああああ……! み、皆が……!」


――――“カマキリ”が、兄弟の家族を喰らおうとする光景であった。

幼い妹を抱えて走る父、ハンドガンを片手に応戦する母と姉の姿。
何故こんな所に? いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

擦り切れるような摩擦音を発して、車が旋回する。
方向を変えた後、車を“カマキリ”のいる位置まで走らせた。

26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:15:00.10 ID:Ak2TJ0oY0

しかし――――

無情にも“カマキリ”は、兄弟の家族を八裂きにし、
バラバラになった肉の塊を多量の足で一つ一つ口元に運び、食し始めていた。

口から滴る家族の血液、肉、髪。

腹と一緒に衣服を割かれた姉の死体は、化物に死姦されている。
首を失った姉の死体を犯しながら、“カマキリ”は、恐怖が張り付いた妹の首に足を突き刺し、
大きく開かれた奇怪な口内に放り込み、恍惚な顔を浮かべて、噛んだ。

ゴリ、とも、何とも言い表せない、音。


「「うああああああああああああー――――ッ!!」」


兄弟を支配したのは恐怖ではなく、怒り。
2人は足元に忍ばせておいたマシンガンを手に取り、車外へ飛び出した――

27 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:16:24.41 ID:Ak2TJ0oY0
第16話「F・ディレイクの研究」

けたたましいエンジン音とブースターの噴射音が、狭い路地の空間を振るわせている。
先に往く赤色に続き、ブーンの跨る黒色のバイクが跡を追う。
ブーンのBLACK DOGに対し、赤色のバイクは性能が若干劣るようで、差は徐々に縮まっている。

続け様にもう一つ、耳を劈く爆音が両壁に反響する。
翼を生やした恐竜のような生き物の咆哮である。

《でっていうwwwwwwwっうぇwwwwwwwwwwww》

――相変わらず憎たらしい声を出す奴だ。
めらめらと湧き上がる苛立ちを解放する為に、ブーンはSniperによる攻撃準備を進める。

折って割るようにトリガー部と銃身の連結を解除する。
分離し、内側が丸見えになったトリガー部には、3つの穴があった。
穴の一つ一つに埋め込まれた空のエネルギーカットリッジを宙に投げ、新品の物を装填する。

ブーンは再び銃の各部を連結させ、カートリッジの交換作業を終える。
左腕の付け根の辺りに銃の末尾を押し付け、そしてスコープを覗く。

28 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:17:50.11 ID:Ak2TJ0oY0
ブーンの視界に映ったのは、赤黒い色。
既に、セカンドのグロテスクな口内がスコープ内一杯に映っていたのだ。
つまり、それ程接近を許してしまっているという事である。

奇怪な翼竜どもの飛行はBLACK DOGの空中走行よりも速い。
更にバイクのフロントボディから放たれる弾幕をいともせず、ブーンを急迫しているのだ。
神経系統を制御するプログラムに頼らずとも、弾丸の命中が約束される距離関係であるが、
逆にそれがブーンを焦燥させていた。

(#^ω^)「――――ッ!」

セカンドに対するブーンの悪態は、Sniperの弾丸が撃ち出された際の爆音によって掻き消された。
同時に、翼竜の内1頭が腹に空洞を開け、地に堕ちる。

が、戦況はブーンの予想の通りに展開し始めてしまった。
1頭に費やした銃撃の間に、残りの2匹が更に距離を縮めていたのだ。
連射性に欠けるSniperでは、この素早いセカンドに対応し切れない。
かといってBlueBulletGunなどの銃器では、弾速に問題がある。

それでも一先ず、といった具合に、ブーンは2匹目を狙い撃つ。

翼竜は首を失ったが、高速飛行時に得た慣性により、死しても尚ブーンへの接近を継続する。
その風圧により、じゅくじゅくに溶けた皮膚や肉が死骸から剥がれ落ちてゆく。

段々と小さくなってゆく翼竜の死骸。
だが慣性は失わず接近速度は十分に驚異的であり、ブーンを無意識に一呼吸させるのだった。

30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:19:11.62 ID:Ak2TJ0oY0

《レロッ!wwwwwwwwwwww》

生まれた間隙を突かれ、敵セカンドの舌がブーンの攻撃よりも早く繰り出される。
瞬間的に伸びた長い舌はSniperに絡み、銃身をメキメキと押し潰す。
銃全体から放つ鮮やか蒼が、ふと、失われる。
殆どが機械で構成された銃である為、1つ2つの損傷により連鎖的な不具合を引き起こしたのだ。

スコープに映るのは「システムダウン」の文字。
このSniperは修理をしない限り、使用不可能となった。

(;^ω^)「マジかお!」

拉げたSniperを片手にそのまま、すぐさまブーンはホルダーから
BlueMachingunを引き抜き、目前の敵に向け乱射する。

しかし、一弾として命中せず。
悲鳴を上げるのは遠方に佇む機械仕掛けの建造物ばかりである。
然程身体は小さくないというのに、異常な速度だ。
それを成しているのは背から姿を覗かせる、身体よりも巨大な双翼か。


2つの巨塔が作り出した暗い路地の上空で、BLACK DOGが縦横無尽に駆け巡る。
急激な降下と上昇、身体に対し強烈なGを横殴りに叩きつける旋回。
目まぐるしく展開される、複雑なアクロバット走行だ。

31 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:21:37.84 ID:Ak2TJ0oY0
だが、翼竜は平然と追尾する。
それどころか、BLACK DOGを凌駕する速度である。
嘲笑うように周囲を旋回し、時折、電光石火の攻撃を繰り出す。

(;^ω^)「ぐ、ぬッ!!」

シャープな腕の爪、長く強靭な足、5本の長い尾。
セカンドは己の武器を駆使し、絶え間なくブーンを襲い続ける。
回避プログラムなどの運動システムのおかげでバイクを的確に動かせてはいるが、
如何せん、敵が速すぎる。

攻撃を捌き切れずジャケットと強化皮膚が削げ、銀色の装甲が次々と露になる。
硬い物質同士がぶつかり合う度、錚々な音が空間を振わせた。

《よっしー…………!》

――獲物は、紙一重で攻撃を捌くのに精一杯。
そう認知したセカンドは、ブーンの頭部目掛けて一気に宙を翔けた。
大口を開き数多に生えた牙をギラつかせ、ブーンの頭を齧り付こうと迫る。

咄嗟にバイクを流転させて対応するが、敵の狙いは別にあった。

(;゚ω゚)「な――――ッ!?」

――突然、得体の知れない硬質で鋭利な感触が首に巻きついた。
頭部への攻撃は囮。流転するブーンを狙い定め、尾を伸ばしたのだ。
尾に捕らわれたブーンはBLACK DOGから引き離され、再び空中を浮遊する。

33 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:23:39.09 ID:Ak2TJ0oY0
獲物を手中に収めたセカンドが、長い首を動かす。
ブーンの髪や肌を濡らすのは、開かれた口から流れ出る唾液。
髪は煙を上げ、肌は腐るように脆くなってゆく。

(; ω )「おおおおおッ!!」

いや、ブーンにとって捕らわれたのは逆に好都合だった。
“Booster”プログラムを起動し、強化された右腕で尾を分離させる。
右腕から放出されるブルーエネルギーにより、尾の傷口から抗体は侵入した。

―――だが、セカンドは怯まない。怯まなかった。
セカンドの異常なる食欲は、時に痛覚をも上回るのであろうか?
ブーンの脳裏にそのような疑問が一瞬走る。

セカンドは重力で落ちゆくブーンを再度捉える。
次は尾ではなく、強靭な顎を使って。
不快な音が、ブーンの頭の芯で鳴り響く。
頭蓋を保護するプレートが割れ、亀裂が走る音である。

死を誘う不協和音を掻き消すように、ブーンは喉が割れんばかりに咆哮した。
そして右手に持っていたBlueMachingunをセカンドの首に当て、トリガーを引く。

銃口から鳴る轟音とセカンドの叫喚の中、ブーンの意識は途絶えるのだった―――……‥・

34 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:25:25.54 ID:Ak2TJ0oY0


「橋の付近で見知らぬサイボーグを発見した……ああ、一応回収した。
 “でっていう”の群れを殲滅する程の戦闘力の持ち主だ。
 装備も初めて見る物ばかりだ……B00N-D1というのはコードネームか?」



「……ああ。今、採血して確認している」



「出たぞ……免疫の反応だ……それも強力な。
 彼は感染していない……ああ、俺の方は問題無い。
 抗体は先程打ってある」


「いや、気を失ってるから会話は無理だ。起きる気配も無い。
 …………ああ、そうだ。俺の装備では奴等に敵わなかったからな。
 ……ああ、エレベータの前だ。中に入れてくれ」

35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:27:00.28 ID:Ak2TJ0oY0
―――
――



.

「――――…‥ねえ―‥彼――‥…―――」

女性の声が聞こえた。
閉じた瞼の中、機械の網膜内に映るモニターに、6つの生態反応が表示されている。

   「――…‥ああ―お―らく、セン――ルの‥…――――」

男の声が聞こえた。はっきりとは聞こえない。
頭部の損傷が酷いせいか、視覚器官の調子も悪くなってるようだ。

「――――誰なんで――…‥」

子供のはしゃぎ声が聞こえた。

        「――…‥―者、どうす―――…‥」

聞き覚えのある、男の声。あのバイクの乗り手だろう。
温かみを感じさせない、冷たい声だ。
それともう一人……気配こそあるが、何か喋ろうとはしないようだ。

システム30%回復、活動可能。
新しく現れたモニターの文字を認識し、瞼を開く――。

38 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:28:31.47 ID:Ak2TJ0oY0

「よう、気がついたか!」

ブーンが目覚めたと同時に、白衣を着た黒長髪の男が朗らかに言った。
左腕の周りには、びっしりと数式が並べられたモニターを数枚浮かべている。
その数式が自身に関係のある物だと気づき、ブーンは身を起こそうとした。

( ^ω^)(あれ……)

――しかし、体が思うように動かない。
ブーンは何とか首を動かして自身の身体を見てみるが、拘束具の類も無い。
着ているのは着塗れのジャケットではなく、真っ白な白衣だ。
それと、自分が機械のベッドに乗せられている事に気づく。

「無理に身体を動かそうとするな。神経系統が幾つかダメになっている」

ブーンが損傷状況を確認しようとすると、その男が代わりに述べた。
一呼吸置かず、すぐに男は続ける。

「ギコに感謝するんだな。傷ついた君をここまで運んでくれたんだ。
 ああ、それとここはハーバードの地下研究区域……俺達の隠れ家」

ギコが赤いバイクに乗った男だと、ブーンは悟る。

( ^ω^)「それで、貴方達は?」

頭に浮かんだ疑問をそのまま、何の着色も無しにブーンは述べた。

40 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:29:48.59 ID:Ak2TJ0oY0

( ´_ゝ`)「5年前からここで生活してる者……で、とりあえずいいかい?
      俺はアニー・サスガ。歓迎するよ、ディレイク製のサイボーグさん」

( ^ω^)「あ、僕はB00――」

システムのバージョン名も担っているコードネームを述べようとしたが、
ブーンは思わず言葉を飲み込んだ。
代わりに口から飛び出したは、巨大な疑問符である。

(;^ω^)「な、何で、ディレイクを知ってるんだお!?」

「“フィレンクト・ディレイク”氏が提唱した独自の戦闘用サイボーグのシステム。
 生物工学の、特にサイボーグ学に身を置く人間なら誰でも知っている名前ね」

そう言ってブーンの顔を覗いたのは、若い女性。
疑問への回答よりも、ブーンは女性の美しい顔立ちに気を取られてしまった。

(*゚ー゚)「後頭部のサイバーウェアにディレイクって記されていたわ。
     私の名前はシーケルト・ゴソウ。皆からは“しぃ”って呼ばれてるわ」

( ><)「その人起きたんですか!?」

子供の声が鉄製の部屋の中に鳴り響く。
少年はカンカンと元気良く踵を鳴らして診療台に近づくが、

42 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:31:31.10 ID:Ak2TJ0oY0

(,,゚Д゚)「ビロード、邪魔をしたらダメだと言われただろう」

赤いスーツに身を纏ったドレッドヘアーの男に捕まり、足を止めた。
ビロードと呼ばれた少年は、バツの悪そうな顔を浮かべて押し黙った。

( ´_ゝ`)「肩車してやってくれ、ギコ」

アニーが頼んだ通り、ギコと呼ばれた男はビロードを肩に乗せてやった。
ビロードに明るい笑みが広がり、そして嬉々と声を上げる。

( ´_ゝ`)「ああ、紹介する。君をここまで運んだサイボーグの、ギコ・アモット。
      それから肩車されてる方の……ギコ、こっち来て顔を見せてやれよ。
      そう、こっちガキンチョが、ビロード・ハリス。今年で10歳になる」

( ><)「ガキンチョじゃないんです! 僕はもう良い大人なんです!!」

ギコの肩に乗った黒髪の少年が、片腕を振り回して抗議した。

( ´_ゝ`)「なーに生意気言ってんだ9歳児め。
      チン毛の一本でも生やしたら認めてやらぁ」

( ><)「卑猥な事を言わないでください包茎!!」

(;´_ゝ`)「ほっほほほほ包茎ちゃうわっ!!」

46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:32:59.40 ID:Ak2TJ0oY0

( ^ω^)「あともう一人の方は誰ですかお?」

(*゚ー゚)「え、もう一人?」


「……中々やるじゃないか、お前」

(;゚ー゚)「わっ!? 何隠れてんのよ!?」

何も無い空間から突如として現れた、中年の男。
立派な髭をこさえた口元には火の付いていない煙草。
全身を黒いスーツで張り付かせ、頭には古びた黒色のバンダナを巻いている。

「ステルス迷彩を見破るとは……アニー、奴は信用していいんだな?」

( ´_ゝ`)「じゃなかったら、ここに入れてないだろ?
      彼はソリッド・スネーク、元傭兵なんだとか。彼もサイボーグだ」

スネーク「若いの、悪いが煙草を少し貰った」

スネークと呼ばれた男は、何処からかマルボロのケースを取り出してブーンに見せた。
張りのあるソフトケースである事から、開けたばかりの煙草だとブーンは気づく。

( ^ω^)「どこが少しだお。返せおオッサン」

スネーク「そう硬い事言うな、若いの」

48 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:34:45.26 ID:Ak2TJ0oY0
( ´_ゝ`)「……それで、君は?」

笑みを消し、真剣な面持ちでアニーが尋ねた。
ブーンはどの身体の部位も動かさず、天井に埋め込まれた淡いライトを見つめ、話し始める。

( ^ω^)「僕はNY『セントラル』から調査に来た、B00N-D1。
      ブーン、って呼んでくださいお。
      ディレイク夫妻の娘、ツン・ディレイクに改造されたサイボーグだお」

(*゚ー゚)「娘さんがいたなんて初耳だわ! やっぱり聡明な方なの?」

( ^ω^)「ツンは14の時に僕を改造した天才少女ですお」

(*゚ー゚)「随分若いのに……流石はディレイク夫妻の娘ね」

舌を巻くシーケルトを余所に、ブーンは「身体付きや精神的な面を覗いて」、と
心中でほくそ笑みながら足した。

( ´_ゝ`)「――なあ、ブーン。君は調査と言ったが、一体ボストンの何を調査しに?」

割って、アニーが質問した。

( ^ω^)「えっと、『セントラル』の衛星が捉えた映像の中に、
      このボストンで人間の存在が確認されたんですお。
      それで、現地の人との接触やセカンドの討伐に、僕が派遣されたんですお」

51 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:36:05.18 ID:Ak2TJ0oY0
アニーとシーケルトが溜息のような声を漏らした。
衛星の存在に対してだろうか。

ブーンはそのまま続けた。

( ^ω^)「僕達『セントラル』が聞きたいのは、生存人数、
      現在の生活状況と、それからセカンドの情報ですお。
      恐らくだけど、きっと『セントラル』は貴方達を救出してくれるはずですお」

(*゚ー゚)「貴方が持ち帰った情報を元に、救出作戦を検討してくれるって事かしら。
     という事は、具体的な予定は未だ立てられてないのね……」

淡々と、そして前向きでない発言もしてはいるが、彼女の表情は明るい。
「ところで」と不意に一言、アニーが話題を切り替える。

( ´_ゝ`)「君の戦闘力を見込んで頼みがあるんだが……
       ――おい、おっさん。煙草は喫煙所で吸えって言ってるだろ?」

スネーク「……喫煙者は追いやられるばかりだ、なぁ若いの?」

( ^ω^)「若いの言いたいだけちゃうんかと。ってか煙草返せお!」

スネーク「そう硬い事言うな、若いの」

一言そう残し、スネークは部屋を出た。

53 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:38:21.93 ID:Ak2TJ0oY0
( ^ω^)「それで、頼みって何ですかお?」

場が改まったところで、ブーンはアニーらに聞き返した。

(*゚ー゚)「ギコの取ったデータを見て知ったんだけど、貴方、強力な免疫があるみたいね。
     しかも、あの“でっていう”と同等に渡り合える戦闘力があるなんて、驚いたわ」

(;^ω^)「で……って……いう……? あの恐竜みたいなセカンドですかお?」

シーケルトの口から出た間抜けな名前に、ブーンは少し困惑した。

(,,゚Д゚)「俺やスネークのスペックでは奴等の一匹ですら歯が立たなかった。
     お前の装甲や装備、プログラムでなければ殺されてしまうだろう」

それまで殆ど無言だったギコが、無機質な調子で言った。
パーマで太く纏まった毛をビロードに思い切り握られているが、ギコは顔色一つ変える様子がない。

( ´_ゝ`)「あー、なんか話が脱線しちゃったな。
      んで、頼みってのはだ、君にセカンドの駆除をお願いしたいんだ」

改め、アニーが述べた。

( ^ω^)「セカンドの駆除、ですかお」

コクリとアニーは顎を上下させ、続けた。

57 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:40:01.18 ID:Ak2TJ0oY0

( ´_ゝ`)「ここに逃げ込んでからしばらく、俺達はこの地下区域のとある倉庫から
      物資を補給して生活をやり繰りしていたんだ。言わば俺達のライフラインみたいなもんだ」

(*゚−゚)「そこに、何処からとも無く奴等が、セカンドが現れたの。つい先日の事よ」

(,,゚Д゚)「侵入経路は分からないが、恐らく微小なセカンドが急激に成長してしまったんだろう。
     俺が駆除を試みたが、奴等は数も多く手強い。
     命辛々、倉庫を繋ぐ通路を封鎖して撤退するのが限界だった」

( ´_ゝ`)「今の所危険は生じてないが、あのセカンドどもだ……安心して眠れやしない。
      君を修理する礼と言っちゃあ何だが、封鎖区域のセカンドを駆逐して
      ここの安全を確保して欲しい。どうかな?」


――思った以上に、ボストンの状況は緊迫していたようだ。
ボストンの人々の為だ、考えるまでも無い。

( ^ω^)「分かりましたお。出来る限りやってみますお。
      それに、個人的にもボストンの状況を早く聞きたいんだお。
      早速修理の方、お願いしますお」

ブーンの返答に、アニーとシーケルトの表情が綻ぶ。

(*゚ー゚)「やっと安心して眠れそうね!」

( ´_ゝ`)「全くだ。夜な夜な、壁を叩きつける音に悩まされる事が無くなるな」

58 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:40:40.36 ID:Ak2TJ0oY0

( ^ω^)「まぁ、しばらくすれば『セントラル』が救助に来ますお。
      でも隠れ家にセカンドが潜んでるなんて安心出来ませんし、任せてくださいお」

(*゚ー゚)「……貴方が来てくれて本当に良かったわ、ブーン。
     これで長い地下生活も終わりね……」

( ´_ゝ`)「引き受けてくれるんだな。じゃあブーン、早速修理を始めようか。
      フィレンクト氏には及ばんが、俺も学生時代は成績優秀で通っていた。
      君の修理くらいわけないさ……ギコ、ビロードの相手してやっててくれ」





――――

――


-




62 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:42:08.40 ID:Ak2TJ0oY0


( ´_ゝ`)「ブーン、確かディレイク夫妻はセントラルの設計に関わってたよな?
      ディレイク夫妻はどうしている? 無事なんだろ?」

アニーは、耳元から口へ伸びているスピーカーフォンを使って、ブーンに尋ねた。
ブーンがCTスキャンのようなドーナツ形状をした機械内に、隔離されている為だ。
もっとも、スキャニング機能は備えてあるが。

( ^ω^)「フィレンクトさんと“デレ”さんは……6年前、殺されましたお」

言葉にすぐ続いたのは、男女の甲高い和声。
キン、と耳を突くような共鳴音が手術台内を包んだ。

( ^ω^)「未完の『セントラル』の建造工事を指揮する一方、
      フィレンクトさんは最新の戦闘用サイボーグシステムを自らの身体で実験し、
      そして迫り来るセカンドと戦って死んだんですお……。
      サイボーグじゃないにも関わらず、デレさんも勇ましかったお……」

アニーとシーケルトの反応は無く、カチャカチャと忙しく動く機械メスの音だけが鳴る。
沈黙を彼等の反応と捉え、ブーンは続けた。

( ^ω^)「当時、システム・ディレイクは未完成でしたお。理論は完成してたようですけど。
      体内外の機構、プログラム……いずれも完成させるには時間と設備が足りなかったんですお。
      ディレイク夫妻が死んですぐ、『セントラル』は完成しましたお。見せてあげたかったお……」

( ´_ゝ`)「…………そうか。残念だ」

アニーがそう小さく相槌し、再び周囲は沈黙した。

64 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:44:16.65 ID:Ak2TJ0oY0
肩を開かれ、損傷した神経が交換される。
滞りなく正確且つ素早く動いてゆく器具を見て、ブーンはアニー達に質問した。

( ^ω^)「ところで、どうして貴方達はフィレンクトさん達の事を……
      尊敬っていうか、その、何て言えばいいんだお?」

纏まりの無い質問内容だが、アニーは笑いながら返した。

( ´_ゝ`)「俺達、何度か彼の講義を聞いた事があってな。
      一発で虜になったよ。彼の発想、理論はとにかく素晴らしい」

シーケルトがそれに続いた。

(*゚ー゚)「私達、彼の研究開発を手伝った事もあるのよ。
     本当に優しくて、面白い人だったわ」

( ^ω^)「それ、気になりますお」

( ´_ゝ`)「OKOK。あーそうだな……ブレイン・マシン・インターフェースって知ってる?
      だいぶ昔、軍事利用の為に研究されていたサイボーグ技術なんだけど」

パネルを叩く音をバックに、アニーが言った。
ブーンは顔を顰め悩んだ後、ハッとした表情を伴って明朗に答えた。

67 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:46:08.79 ID:Ak2TJ0oY0

( ^ω^)「兵士の脳に搭載された各種センサーを接続して、
      離れた場所から無人兵器を制御する、ってヤツですお?
      でも確か、結局おじゃんになったのを知ってますお」

( ´_ゝ`)「ああ。だいぶ昔のゲームや映画では、パイロットと機械を接続し、
      パイロットの思考で操作が出来る兵器なんかが登場してたが、まさにアレだね。
      君も言ったように、結局サイエンスフィクションの域を超えられずに終わったんだ」

アニーがまず応じ、シーケルトがそれに続いた。

(*゚ー゚)「人間を含め生物の思考って、色んな感情が複雑に絡み合って形成されてるのよ。
     だから思考……いえ、脳と接続した兵器は、かえって性能を格段に下げてしまう事になるの。
     そこでフィレンクト氏は新しい技術を提唱なさった――」

シーケルトは声の段々とボリュームを落とし、

(*゚−゚)「…………」

そして、どうした訳か、押し黙ってしまった。
見かねたアニーが、すぐに続きを代弁する。

( ´_ゝ`)「――人間の感情を単純化させるサイバーウェア、“System-Hollow”。
      正確に言えば、人間の感情を機械で制御する技術だ。
      脳による神経活動は複雑……そこでフィレンクト氏は機械制御する事で神経活動を単純化させた」

( ´_ゝ`)「具体的にはシナプスで行われるシグナル伝達の制御を……おっと、
      これ以上説明しても、ますます君の顔の皺を濃くしちまうようだな」

(;^ω^)「おっおっ……サーセン……」

70 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:48:03.72 ID:Ak2TJ0oY0

( ´_ゝ`)「そのサイバーウェア、“System-Hollow”を搭載すれば感情を無くせるって事さ」

――感情を無くす。
少し恐ろしい発想だとブーンは思うが、口には出さなかった。

( ^ω^)「そんな研究をしていたなんて、知りませんでしたお。
      しかし、何の為にそんな研究開発を?」

今度は具体的内容を持った質問。
予め答えを用意していたかのように、アニーは弁舌を振るう。

( ´_ゝ`)「このサイバーウェアは軍事利用等には至らなかったし、知らなくて当然だな。
      ってのも、完成直後にセカンド騒動が起こっちまったからな。
      これの研究開発に貢献出来た俺達としては、少し残念だった……」

( ´_ゝ`)「で、何の為にか。それはな、サイボーグ兵士の更なる強化の為だ。
      ところで、40年代の戦争でAI兵器とサイボーグ兵士が主流にならなかった理由分かるか?」

唐突に振られた質問だが、ブーンは間を作らずに答える。

( ^ω^)「それは簡単ですお。AIは今でも的確に動いてくれないですお。
      ……あ、そうかお! サイボーグ兵士でも脳は元のままだお!」

71 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:49:39.36 ID:Ak2TJ0oY0

( ´_ゝ`)「ご名答! 俺達みたいにベラベラ喋れる脳を持ってちゃ、
      時として恐怖や狂気が感情を支配してしまうだろ?」

(;^ω^)「ですお……」

ブーンは力無く声を出した。
今まで経験したどの戦闘を思い返しても、アニーの言う通りだったからだ。

( ´_ゝ`)「じゃあ薬物は? と思うだろうけど、薬じゃ完全な制御は不可能みたいなんだ。
      だから機械、サイバーウェアを使用するべきだってフィレンクト氏は仰ってた」

( ´_ゝ`)「氏は、このサイバーウェアがあればブレイン・マシン・インターフェースが
      実現すると述べていたんだが、何か知らないか?」

( ^ω^)「うーん……いえ、何も」

( ´_ゝ`)「そうか……非常に興味深かったんだがな」

そこで、会話はしばらく途切れる。

機械がカチャカチャと忙しく動く空間の中で、ブーンは自分なりの考えを纏めていた。
「感情を無くす」サイバーウェア、“System-Hollow”について、である。

と、ブーンは唸り声を上げ、会話を切り出した。

( ^ω^)「うーん……言うまいと思ったんですけど、やっぱり恐ろしい機能のような気がしますお。
      人の感情を無くすだなんて、サイボーグっていうか、本当の機械みたいですお」

74 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:53:28.52 ID:Ak2TJ0oY0
思い切って、本心を述べた。
しかし2人が“敬愛するフィレンクト氏”については、何も言わずにおいた。

――“あの優しいフィレンクトさん”に、そのような過去があったというのは
ブーンにとって初耳であり、到底信じられない研究内容に思えたからだ。

ブーンの言葉に対し、先に反応したのはシーケルトだった。

「アニー、ちょっと……その……」

( ´_ゝ`)「ああ……構わないよ」

シーケルトはマイクフォンを取り外し、そこから離れてゆく。
アップテンポに刻まれる踵の音が、デスクに置かれたマイクを通してブーンに伝わる。

(;^ω^)「な、なんか悪い事、言っちゃいましたかお……?」

( ´_ゝ`)「いやいや、気にしないでくれ……。
      でも、今後は“本当の機械”だなんて言わないで欲しい。
      ここでは考えてはいけない、言っちゃいけない悩み事になってるからな……」

( ´_ゝ`)「ギコは、“System-Hollow”で感情をカットしているんだ」

(;^ω^)「ええ!? そんな、どうしてそんな事を?」

( ´_ゝ`)「アイツは元は只の学生……俺達を守るサイボーグになる為……
      ……感情を捨てたいって申し出てきたんだよ……」

79 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 21:56:21.74 ID:Ak2TJ0oY0
それから4時間は経過しただろうか――――。

技術的な面でアニーが信用に足る技師であるのは、
網膜内のモニターに映る状況を見るだけでよく分かる事であった。

とはいえ、損傷内容は強化皮膚と内部プレートの破損が殆ど。
頭部内の神経系統の一部が切られていたのは致命的とも言えたが、損傷の程度は軽い。

しかしながらブーンの規格に合ったパーツを一から作り直す必要があり、
これが作業を長時間に及ばせたのだ。
よく4時間で修繕が完了したと言うべきなのかもしれない。

( ´_ゝ`)「お疲れさん。すまんな、随分時間が掛かってしまった。
      それで、調子は?」

ドーナツ形の空洞からスライドして出てくるブーンに、アニーは話しかけた。
会話らしい会話も4時間ぶりである。

( ^ω^)「問題無いですお! ありがとうございますお!」

肩を回したり飛び跳ねたりして調子を確かめ、ブーンは言った。
直後、ブーンの腹部から間抜けな音色が大きなボリュームで奏でられた。

(;^ω^)「ふひひ! サーセン!」

(;´_ゝ`)「飯、食おうか。俺も腹減っちゃったよ」

129 名前:訂正です ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:54:18.35 ID:Ak2TJ0oY0
部屋を出ると、改めてここが校舎であるという事にブーンは気づいた。
天井は低く、通路は幅広くない。
そこを占めているのは、必要性を疑われる程に数がある「実験室」だ。

物珍しそうに目を行き来させているブーンに、アニーは聞いた。

( ´_ゝ`)「ブーン、大学に行った事はあるかい?」

( ^ω^)「一度だけツンを迎えに入った事がありますお」

( ´_ゝ`)「ツン……ああ、ディレイク夫妻のお嬢様か。
      ……ちょっと待て、まさかツン・ディレイクは大学生だったの!?」

( ^ω^)「13の時には博士号を取ってたお」

(;´_ゝ`)「……化けモンだよ、そいつ。くそー悔しいなぁ」

( ^ω^)「今日初めて見た僕を直せるアニーも、凄いですお」

( ´_ゝ`)「いや、大部分は見慣れたディレイク氏の機構だった。
      驚くべきは君のプログラムとサイバーウェアだよ。
      特に目なんか壊れていたら、俺としぃじゃ直すのに何日もかかるだろうね。
      部品交換と修繕だけで

83 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:00:19.94 ID:Ak2TJ0oY0

薄暗い通路に、踵の音が静かに広がってゆく。

( ´_ゝ`)「この地下研究区画は5年前から俺が改造しててな……。
      今じゃ1人1室の豪華なアパートだ。
      さっき君を直した部屋のような利用価値がある実験室はそのままにしてね」

( ^ω^)「でも、元々は篭城するのに向かない所だと思いますお……」

実験室はガラス張りである為、中に入らずとも様子が良く分かる。
壁際に聳える大仰なディスプレイ、その前に敷き詰められた多くのコンソールなど、部屋にあるのは作業器具ばかり。
何かしら手を加えてやらない限りは、寛ぐのは無理だろう。

( ´_ゝ`)「だろ? でも、ここは凄く安全でね。
      かなり地下深い所に位置するし、ここに来るにはエレベータに乗らなきゃ無理。
      おまけに、乗るには電子ロックを解除して、幾重にも重ねられた壁を開いてやらなきゃならないんだ」

( ^ω^)「そういえば、ちゃんと電気が通ってるんだお、ここ」

( ´_ゝ`)「ああ。この区域の電源だけはセカンド騒動前に確保しておいたんだ。
      というのも全部、セカンド騒動前の下準備があったからこそなんだ。
      予め寝床を作ったり、必要だと思った物資も色々持ち込んだし、苦労したんだぜ?」

( ^ω^)「なんだか、簡易セントラルって感じですおっおっ」

( ´_ゝ`)「はは、良い褒め言葉だ」

87 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:03:06.31 ID:Ak2TJ0oY0
しばらく歩くと、上下に続く階段が。
アニーは階段を上へ行く。

従ってブーンが階段に足を掛けた時、アニーが突然振り向き、

( ´_ゝ`)「ブーン、1つお願いなんだが、この下には行かないで欲しい」

指で下を示し、言った。


( ^ω^)「ここから下の階には立入禁止って事でおk? 把握しましたお」

( ´_ゝ`)「すまんな、客だというのに……」

( ^ω^)「客だからこそ、弁えなきゃいけないんだお。
      気にしないでくださいお、アニー」

( ´_ゝ`)「気を遣って貰って申し訳ない……でも、精一杯もてなすよ。
      今日は修理を終えたばかりだし、ゆっくり休んでくれ」

( ^ω^)「そうさせて貰いますお。聞きたい事も沢山あるし。
      それに、ちょっとした長旅で疲れちゃったお」

91 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:04:39.40 ID:Ak2TJ0oY0


一階、二階と上がり、薄暗い階段を出る。
さっきの階とは打って変わり、そこは明るい光に溢れていた。

ガラス張り壁は内側からカーテンが掛けられ、鮮やかに彩られていると
同時にプライベート侵害を未然に防ぐ役を担っている。
流石にドアは透明なままであるが、上部に表札があるのがユニークだと、ブーンは思う。

「アニー」、「しぃ」、「ギコ」、「ビロード」、「喫煙所」――。

( ^ω^)「喫煙所はここですかお」

「喫煙所」と記されたドアに視線を送り、尋ねた。
アニーが含みのある笑みを浮かべ、返す。

( ´_ゝ`)「いや、そこスネークの部屋wwwwwwwwwwww
      通称喫煙所wwwwwwブーンも煙草はそこで吸ってくれwwwwwww」

(;^ω^)「なんと……他に喫煙所ないんですかお?」

( ´_ゝ`)「無いぞ。くれぐれもその喫煙所で吸ってくれよな。
      さて、とりあえず食堂に行こうか。食堂は一番奥の部屋だ」

(;^ω^)(確かにあのオッサン、追いやられてるお……)

96 名前:修正 ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:06:56.40 ID:Ak2TJ0oY0


ブーンの予想通り、食堂も厚いガラスが張られている。
この部屋にはカーテンなどは掛かっておらず、外から丸見えとなっている。
言うまでもなくテーブル、椅子が用意されている他、
部屋の隅には冷蔵庫を思わせる大きさのボックスが2つ。

5つある椅子に腰を掛けているのはビロードとギコ、それからスネーク。
携帯端末で何やら遊んでいるようだ。
ビロードとスネークは白熱している様子だが、ギコは唇を動かそうとしていない。

部屋の奥に1つドアがある。
ドアを備え付けたガラス壁の向こうには、キッチンのようなスペースが見える。
遠目に小さな電気コンロが確認でき、他にはレストランのドリンクバーのような機材が3台。
その前にはシーケルトの華奢な後姿がある。

( ´_ゝ`)「ただいまんまん。修理終わったぞーい」

食堂のドアを開くと同時、アニーが気の抜けた調子で伝えた。

( ><)「あ、やっと来たんです!!」

スネーク「か、勝ち逃げとは卑怯だぞビロード!!」

大人気ない煽りを無視し、ビロードは2人に駆け寄った。

99 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:08:59.82 ID:Ak2TJ0oY0

(;^ω^)「おっおっ?」

瞳を輝かせ、ブーンをじっと見つめるビロード。
何とも言えない無垢な顔付きは、少年のそれそのもの。

(*><)「一緒に遊ぶんです!!」

ビロードは青いズボンの大きなポケットから何かを取り出して見せた。
見覚えのあるブルーカラーの小さな機械は、ブーンの携帯端末だ。

( ^ω^)「お? 何で僕の携帯端末持ってるんだお?」

(,,゚Д゚)「それだけ外して持ってきた。要るだろ?
     他に必要な物があればバイクの所まで案内する」

( ^ω^)「あ……あぁ、有難うございますお」

問いに答えたのは、サイボーグのギコ。
ギコの抑揚が欠けた喋り方に戸惑いつつ、ブーンは微笑して返した。

(*><)「ブーン! 一緒にマインスイーパーやるんです!」

対照的に突き抜けるようなトーンが部屋を響かせる。
ビロードはブーンの袖をグイグイ引っ張って強請った。

102 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:11:24.95 ID:Ak2TJ0oY0

( ´_ゝ`)「これこれビロード。ブーンはお腹空いてるんだ。
      ゲームは後にしてもらいなさい」

( ><)「包茎野朗は黙るんです!!」

(;´_ゝ`)「ええいガキンチョめ! ってか誰だよ包茎とか教えてんの!」

スネーク「……人は意思を伝えねばならない。つまるところ、ビロードに性教育をだな……」

( ´_ゝ`)「スネークかよ! なーにが意思だ、そりゃ遺伝子だろう」

スネーク「冗談だ」


( ^ω^)「ゴメンおビロード。ご飯食べたらゲームで遊ぶお!」

( ><)「うー……わかったんです!」

ブーンとビロードは対面してテーブルに着き、ビロードは再び携帯端末を弄り出した。
するとそこへ、奥の扉からシーケルトが盆を持って現れる。

105 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:14:03.40 ID:Ak2TJ0oY0

(*゚ー゚)「お疲れ様。調子良いみたいね。それと……さっきはゴメンなさいね」

( ^ω^)「こちらこそ事情も知らず、すいませんでしたお」

シーケルトは、ブーンの前に大きな器とコップ、スプーンを一つずつ置いた。
器に盛られている――いや、注がれているのは液体化食料に良く似たゲル状の何か。
コップの内容物は、苦味のある香り高い煙を昇らせるコーヒーだ。

(*゚ー゚)「これ、ちょっと見た目が悪いけど、味はフルーティでイケるわよ!」

( ^ω^)「おっおっwwwwwwwwお構いなくwwwwwwww
      『セントラル』でもこんな物ばっか食べてますからwwwwwwwww」

(;゚ー゚)「え、嘘、そうなの!?
     てっきりパンとかスープとか、普通の食事をしてるのかと思ってた!」

( ^ω^)「ああ、穀物や肉をクローンで作ってますから、普通の食事もしてますお。
      ただ朝とか忙しい時の食事は、こういう簡易的な食料で済ませてるんですお」

( ><)「早く食べるんです!!」

(;^ω^)「おお、悪かったおビロード」

107 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:15:50.41 ID:Ak2TJ0oY0

( ^ω^)「ところでアニー、他の人達は何処にいるんですかお?」

スプーンでゲルを掬い、口元に運ぶ手前ブーンは尋ねたが、

( ´_ゝ`)「他の人達?」

質問内容が不明確だったのか、アニーは首を傾げて聞き返した。


( ^ω^)「えーと、その、ボストンの生き残った人達ですお」

( ´_ゝ`)「ああ、それなら此処にいる俺達5人だけだ」

( ´_ゝ`)「ボストン市内の心当たりある箇所をギコに調査して貰ったが、
      俺達以外に生き残った人間はいないらしい……。
      もしかしたら何処かで隠れているのかもしれんが、見つかった試しは無いな」

( ^ω^)「そうですかお……」

ブーンは皿を口に付け、一気にゲルを喉に流し込む。
一滴残らず平らげて皿をテーブルに置いた時、表情を暗くしたシーケルトの姿をブーンは見た。
その気配に気づいたシーケルトは、ブーンの視線から逃れるようにキッチンに戻った。

挙動不審な動きをブーンは疑問したが、その事について誰かに尋ねるのは止しておいた。
まだ口を付けていないコップを手に取り、少しだけ口に含んだ後、溜息を付く。

( ^ω^)「あー食った食った。よーしビロード、面白いゲームあげるお!」

(*><)「mjsk!? ktkrなんです!!」

109 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:18:44.95 ID:Ak2TJ0oY0

( ´_ゝ`)「……さて、俺はちょっと『下』に行ってくる。
      いつもクドクド煩いと思うだろうが、皆くれぐれも下には来ないように。
      危ないからな。ギコ、手伝ってくれ」

(,,゚Д゚)「了解した」

そう言い残し、アニーとギコは突然部屋を出て行った。


「下」。

先ほど立入りを制限された場所の事を言っているのだろうか。
ゲームから目を離し、困惑した表情を浮かべているブーンに、シーケルトが話しかけた。

(*゚ー゚)「あれ……ね、ちょっと訳あって……」

( ^ω^)「訳?」

(*゚−゚)「さっき、アニーが生き残りは5人って言ったでしょ?
    でも本当はそうじゃないの。もう1人いるのよ……人間が」

( ^ω^)「え……?」


(* − )「アニーの弟、オットーがいるの……ウィルス感染者よ」

シーケルトは、力無くそう言った。

113 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:20:18.38 ID:Ak2TJ0oY0
薄暗く、陰々たる気配が渦巻く、とある実験室。
ガラス壁ではなく、重厚な鉄鋼に覆われた窮屈感のある部屋の奥で、
蒼い水泡を光らせる培養管が、静かに作動音を唸らせていた。



人間の丈を遥かに越える巨大な培養管――、

その中で、あらゆる箇所を鎖で繋がれた異形が、浮かんでいた。



肥大した臓器が皮膚を破り露出しており、目の片方が酷く飛び出ている。

手足はどれも数本に枝分かれし、木々の細枝のように伸長している。
細枝の肉付きは悪く、まるでメッシュのように白骨を覆っているのだ。

背後からも同様の細枝が無数に生えており、それらは遠目に見ると円状を形成している。
東洋の仏像のような風貌である。

「さて……」

アニーの声と共に、培養管内の液が見る見る無くなって行く。
浮力を失った異形は膝付き、力無く項垂れた。

116 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:21:53.21 ID:Ak2TJ0oY0

蒼い液体の入った注射器を1つ、ギコは無言でアニーに手渡す。
アニーは注射器を自分の首筋に当てた後、一本の太いコードを掴んで培養管の扉を開いて中に入った。

そして、微動だにせず項垂れる異形の後頭部――サイバーウェアの入出力――に、コードを繋げた。


「このプログラムならどうだ……ギコ、コンパイルを」

アニーの指示に従い、ギコが培養管近くに設置されたコンソールを操作する。
培養管に埋め込まれたモニターは、一面に英数字と数式の羅列を書き起こしてゆく。

モニターに現れたのは、「エラー」の文字。


アニーの舌打ちが、小さく響いた。



                           第16話「F・ディレイクの研究」終

122 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/26(水) 22:25:02.78 ID:Ak2TJ0oY0
( ^ω^)「以上で終わりですお」

ガイル「おい、まさか俺の出番アレだけ?
     おまけがあんだろ? おまけ」

( ^ω^)「ねーお。しかもしばらく出番ないらしいお」

ガイル「ガイル系小説おわった……」


ってことで、皆さん支援ありがとうございました&お疲れ様でした!

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