内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第15話「科学都市 ボストン」
2 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:11:17.11 ID:/wDjUCk30
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、本名不明。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つ強化人間「システム・ディレイク」。
      人類の生き残りが発見されたボストンへ向かう。
      道中、“毒蜂”の駆除に挑んだが、苦戦の末に“女王蜂”と巣を駆除した。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
       ブーンを強化人間に改造した弱冠19歳の天才科学者少女。
       過去セカンドに襲われ両腕を失い、義手を着用。貧乳。嫌煙家。
      現在はジョルジュの看護とスーツを担当している。

('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ツンをからかうお調子者の変態。空気を読まない。
   モララーの研究に探りを入れようと、ショボンに『仕事』を依頼する。

5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:12:35.57 ID:/wDjUCk30
――― チーム・アルドリッチ ―――

从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
    対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
    資源と資金不足の為、現在はバトルスーツの開発を中断。

( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
    深紅の機体を操るバトルスーツ部隊隊長だが、セカンドウィルスに感染してしまった。
    ツン達が開発したスーツ「IRON MAIDEN」と抗体により、セカンド化を抑える。

ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
     バトルスーツ部隊副隊長としてジョルジュをサポート。
     ミッション中に遭遇した大型セカンドを、生身で倒した男。
     DJテーブル頭と罵られている。

6 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:13:48.99 ID:/wDjUCk30
――― その他 ―――

/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
   現議会長、元アメリカ空軍大佐。
   任務と「セントラル」の為には非情になる男。

( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
    バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
    自身の研究成果である「Hollow Soldier」を従える。

(  〓 )Hollow Soldier(虚ろな兵士):年齢不明
     モララーにより生み出された超人。
     クローンテクノロジーにより量産され、部隊として編成された。
     クー・ルーレイロなる人物がクローンのオリジナルとなっているらしい。

(´・ω・`)ショボン・トットマン:25歳。バーテンダー。
     不味いと不評のバー、バーボンハウスの店主であるダンディな男。
     その実態はガチホモであるが、精を出しているのは酒造りである。
     ドクオに仕事を依頼するが、困難であると判断し、阿部さんに助力を頼む。

阿部さん 阿部高和:28歳。カレー屋の店長。
     ksmsカレー阿部というカレー屋を営むイイ男。
     その実態はガチホモであるが、精を出しているのはカレー作り…だけでは無い様子。
     経歴は、ショボン同様に不明である。

10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:16:55.25 ID:/wDjUCk30
LOG 四角関係

オットーがハーバードに入学してから、数ヶ月が経った頃、
オットーは兄の研究室にしばしば顔を出すようになった。
目的は勿論、優れた環境での勉学であったり、兄と他愛の無い会話などであったが、
一番の理由は、美しいシーケルト・ゴソウの存在だった。

オットーは、いつしかシーケルト・ゴソウに淡い恋心を抱いていたのだった。

だが、オットーの恋が叶う可能性は希薄。
何故ならば、シーケルト・ゴソウは彼の実兄アニー・サスガの恋人となっていたのだ。


「弟者よ。ゼミが終わったら3人で遊びに行かないか?」

「え? いや、しかしだな兄者……そこは2人で行けよ」

「いいじゃないオットー君。別に気にする事ないわよ!」

兄と愛するシーケルトの恋路を邪魔する事など、出来ようか?
尊敬する兄を困らせてはならない。
愛するシーケルトを悲しませたくない。
そう自分に言い聞かせ、心で堅く意志を持とうとしても、
オットーはシーケルトへの想いは膨らむばかりであった。

態度や口では渋った様子を見せているものの、
本当は少しの時間でも良いからシーケルトの傍に居たいというのがオットーの本音である。

結果、彼等3人の日常は何ら問題も起きはしなかった。
オットーは、変わらない日常だけは壊したくはなかったのだ。

13 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:18:42.26 ID:/wDjUCk30
アニーとシーケルトは、共にトップレベルで3年生に進級している。
特にアニーは類稀なる才気を発揮し、未だ学部生であるにも関わらず、

教授「来たわコレ。ノーベル賞来たわコレ」

彼のサイボーグに関する研究は、生物工学学会で絶賛された程であるし、

スイーツ「あの2人、絵に成りすぎよねー。成績もルックスも抜群!
     あぁ〜私もアニーみたいな人と付き合ってみたいなー」

リア充「弟のオットーは? アイツも成績トップのイケメンじゃんwwww」

スイーツ「でもさー、アニーと比べるとパッとしないのよねーwwwwww
     なーんかアニーに諂ってるように見えるしーwwwwwww」

もはやアニーとシーケルトは、周囲が認める最良のカップルであった。
多くの生徒は「頭脳聡明、容姿端麗」と口連ねている。

(……クソ……)

そんな兄を持つオットーは、いつしか兄との比較を余儀無くされるようになった。
やがてオットーは、兄に対し、心の底から劣等感と嫉妬心を感じ始めるのだった。


そんなオットーや周囲の目を余所に、高嶺のシーケルトに近付く男がいた。

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:21:13.13 ID:/wDjUCk30


ある日、珍しくシーケルトは1人で昼食を取っていた。
するとドレッドパーマをあてた長身の男が、有無を言わさず、という表情を持って彼女に近付く。

「…………ギコ君」

「ギコ」と呼ばれた男は、無言でシーケルトの対面に座る。
だが彼が口を開くまで少しばかり時間が掛かり、両者を気まずい沈黙が包み込む。

「なあ、しぃ……その、考えてくれたか?
 その……お、俺とやり直す事……」

やっと発せられた言葉だったが、シーケルトは俯いて沈黙を続ける。
長い前髪で表情を隠し、全身を微動だにさせていない。

「な、なあ、しぃ! 頼むよ! 俺、お前の事が――」

「もうやめて……!」

俯いたままシーケルトが一喝した。
食堂全体に響き渡る程の声を正面からぶつけられたギコは、固まった。

17 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:22:25.56 ID:/wDjUCk30

「ギコ君。何度も言ったけど、やっぱり気持ちは変わらないわ」

シーケルトは顔を上げ、凛とした声で述べる。

「……どうしてなんだ?」

虚ろな表情を浮かべ、ボソッとギコは呟いた。

「……何度も言うけど、もう貴方の事好きになれないの。
 恋人として見る事が出来ないのよ」

「……お、俺は……!」

突然、ギコは立ち上がり、

「俺は、お前と一緒に居たくて今まで頑張れたんだ!
 だから、お前と一緒に入学する事が出来たんだ!
 ……本当にお前の事が好きなんだ……どうしようもないくらいに……」

感極まったのか、ギコは言葉を次々に吐き出してゆく。
目には薄らと雫を溜め、声は次第に擦れていった。

「頼むよ……しぃ。
 俺、お前がいないと……」

20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:23:58.43 ID:/wDjUCk30

「ごめんなさい、ギコ君」

一言だけ、そう言い放ち、シーケルトは席を立った。
1人テーブルに残したギコの方へ振り返らず、視線を落としながら急ぎ足で食堂を出る。

ギコは、呆然と座り込んでいた。
目から涙を零し、それを周囲に笑われている事にも気づかず――。


(ダメだ……何を言われても、しぃの事を諦められない……。
 こんなに辛い思いをするなら、いっそ感情なんて無くなってしまえばいいのにな……)


ギコは項垂れ、ネガティブな妄想に思考を委ねる。

ギコは何度も、シーケルトへの想いを消そうと努力していた。
だが彼女を忘れようとすればする程、彼女への想いが募るばかりだった。

21 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:25:44.81 ID:/wDjUCk30
第15話「科学都市 ボストン」

太陽に照らされ、眩しい輝きを放つ爽快なブルー。
果てなく続く壮大な大西洋は波を立てるばかりで静寂しているというのに、
隣接した湾岸道路では、この景観にそぐわない喧しいバイクの音が鳴り響いている。

それと、もう1つ。海の静けさを打ち破る者がいる。

重低音をリズミカルに打ち鳴らす、巨大な「異形」である。

片道3車線の広い車道にて、機械仕掛けの黒犬と、
それを掴み喰らおうと懸命に足を動かす奇怪な巨人が、壮絶なレースを繰り広げていた。

(;^ω^)「あああああもうっ!!
       いい加減に止まってくれお! しぶと過ぎるお!!」

自動操縦でバイクを走らせ、ブーンは両腕に構えたBlueBulletGunで応戦していた。
しかし、戦況は芳しくない。
直径45cm大の蒼い光弾を、何度もセカンドの巨大な足に撃ち込んでいるというのに、
巨人が足を止めようとする気配は一向に感じられないのだ。

《グゥウウゥウウウウウウウオオオオオォォオオオオオオッ》

肩から4つ生えた腕を振り回しながら、地鳴りのような唸り声を発す。
顔に埋め込まれた一つの巨大な眼球には何筋もの赤い線が走っており、黒目を除いて殆どが真っ赤だ。
耳の根元まで割れた口は、笑っているようにしか見えない。
そんな不気味な表情を浮かべる異形の巨人――サイクロプス(ブーン命名)は、ブーンを追う。

23 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:27:43.76 ID:/wDjUCk30
一歩一歩が大きく、BLACK DOGの速度を持っても距離が開こうとしない。
おまけに相当タフなようで、抗体を打ち込まれようとも決して足を遅めないのだ。

ブーンは、大型セカンドが少量の抗体では怯まない事は認識していたが、
これほど鬱陶しい大型セカンドとの戦闘は、あまり記憶していない。

(;^ω^)「止まれっつーに! こんにゃろっ!!」

ブーンは苛立ちを掻き消すように、トリガーを思い切り引き付ける。
こうして追われ始め、10分は経過してしまったのも苛立ちの原因であるが、
何発撃ち込もうともサーモグラフィに変化が現れない事が、苛立ちの根本であった。

ブーンは、目に映る光景を納得出来ずにいる。
大型とは言えどこれ程攻撃を受ければ弱体化するはずなのだ。

(;^ω^)「えーい、こうなりゃグレネードだお!!」

両手に持った銃をホルダーに突っ込み、右腕を突き出す。
その間、敵の足元を包んでいた煙が晴れ――

( ^ω^)「………………」

――現れたのは、火傷を負ったような、赤みを帯びた足の脛。
ブーンがそれまで懸命に続けていた攻撃は、全く皮膚を貫いていなかったのだ。
動きを止めるのに十分な抗体が体内に巡っているはずが無い。

153 名前:ちょっと修正 ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 22:35:08.19 ID:/wDjUCk30
(;^ω^)「10分間気づかなかったとは……アホ極まりないお」

そう呟き、バイクを走らせたまま、座席に両足でバランスよく立ち上がる。
ブーンがリアボディに右足を掛けたと同時、バイクから忽然とブーンの姿は消える。
サイクロプスに向かって飛んだのだ。

セカンドの一つ目に、蒼く光る刃を構えた金髪の男が映っている。
突然目の前に迫った獲物に驚いたサイクロプスが、瞼を閉じた。
バシン、と音が弾けた。
セカンドは幸運にも、その硬質な皮膚によって斬撃を防いだのだ。
直接攻撃に失敗し落ち行くブーンを、サイクロプスの巨大な拳が追ってゆく。

(;^ω^)「なんの! もう一丁!!」

瞬時に右腕のBoosterプログラムを起動させる。
エネルギーカートリッジが燃焼される甲高い音が耳を劈き、
腕の構造上開いてしまっている穴や隙間から、抗体の放つ蒼い光が漏れ出る。

( ^ω^)「今度こそ喰らえお!!」

セカンドの豪拳が直撃するよりも速く、セカンドのヘドロ色の腹部に蒼い光が軌跡を描いた。
加速させた右腕で振るわれたBBBladeは堅い皮膚を切り、肉を裂き、そしてウィルス細胞を分解してゆく。
付けられた傷口から多量に血が吹き出し、一つ目の巨人が腹を押さえ、蹲って悶える。

《グヴォオオォォォオォォオオォォォオオォォオ》

体内を燃やし尽くすような痛みを感じているはずだが、戦意と食欲は喪失していない様子だ。
腹から垂れた腸を押さえた1本の腕はそのまま、残った腕3本がブーンに襲い掛かる。
殴ろうと、掴もうと、引き裂こうと、矢継ぎ早に攻撃が繰り出されてゆく。

27 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:32:35.78 ID:/wDjUCk30

しかし、

( ^ω^)「遅いおっ!」

そんな暴風雨の如き怒涛の攻撃を、ブーンは華麗にさばく。
抗体が効き始めたセカンドの攻撃は、激しいだけで鋭さに欠けている。

( ^ω^)「よし……!」

セカンドの姿が次第に青色へ変化してゆくのを確認し、ブーンは力強くそう呟いた。
如何なる攻撃も弾く皮膚も、抗体が効き始めて柔くなっただろう。
ブーンは攻撃を回避しつつ、BBBladeでセカンドを斬り付けてゆく。
蒼い刃と長髪を煌びやかに振り回すその様は、まるで舞いのようである。

切傷が一つ付く度に、サイクロプスの雄叫びのボリュームが落ちる。
やがて、喉を絞り込んで出されたような悲痛な声が聞こえてきた。

そんな弱弱しい声が聞こえなくなる頃には、
一つ目の巨人は地に伏し、ピクりとも動かなくなってしまった。

( ^ω^)「ごめんお」

そう言い放つと同時に、ブーンがセカンドの頭部に光弾を数発撃ち込むと、勢い良く血が噴出した。
また、多量の抗体がウィルスを殺しているせいで、皮膚や肉が溶け始めている。
サイクロプスの周りには、多量の血液とペースト状の肉が池を作っていた。

ブーンは、生臭い溜りをピチャピチャと音を立てて後にした。
黒色の裾が、すっかり赤色に染まっている。

29 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:34:34.95 ID:/wDjUCk30
ブーンは煙草を吸いながら、近くに停まっている愛機の元へ歩いた。
煙草を吸い終わってから出発する事にし、ブーンはバイクの座席に片手を付いて落ち着く。

( ^ω^)「はー……」

目の前の肉塊に向かって、ブーンは煙を吐き出す。
鼻に付く潮の臭いと血の臭いで煙草の香りが分からず、ブーンは眉間に皺を寄せた。

ブーンは死骸を見ている内に、段々と虚しさを感じ始めた。

あれ程強く葛藤していたというのに、今はもう心に乾きが生じ始めている。
一度戦いに身を任せば、結局は昔と変わらぬ自分に戻ってしまおうとしている。

セカンドの生物としての尊厳を忘れてかけた自分に、
虚しさを感じずにはいられなかったのだ。

( ^ω^)(ジョルジュ隊長の言っていた事は間違っていないお。
       でも、セカンドにだって知性はある……だから、きっと愛や意志があるんだお……)

でも、と、ブーンは胸中で発する言葉を、一度切る。

( ^ω^)「お前達セカンドを殺さなきゃ人間が死ぬんだお。
       僕らも仲間を亡くしたくはないんだお……どうか、許してくれお」

ブーンは煙草をピンと指で弾き、ヘルメットを被る。
そしてバイクに跨ったと同時に、再びBLACK DOGの雄雄しい唸り声が、波の音を掻き消した。

30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:35:39.82 ID:/wDjUCk30


遠方の空は茜色に染まりつつあった。
日は地平線に落ちようとし、半月が薄らと姿を現し始めている。
一切の救いも無い、食欲と本能に満ちた暗い世界へ変貌する前兆だ。

( ^ω^)「……冬は日が暮れるのが早いお。
       もう、今日は寝床を探した方が良さそうだお、BLACK DOG」

ブーンが空を見上げながら呟いた。
BLACK DOGは主人の言葉に呼応するように液晶を一瞬ブルーに光らせ、速度を上げる。
ブーンを乗せたバイクは湾岸道路を降り、街を目指した。

しばらくして空の暗みが一層増した頃、ブーンは以前に調査を終えている住宅街に到着した。
ビルなどの大きな建物が殆ど存在していない、寂れた郊外だ。

一軒家の殆どは日当たりの良い造りであるし、
それほどキャパシティも無いので、小型セカンドの群れが棲家に使う事はほぼ無い。
また、獰猛なセカンドが一軒ごとに行儀良く棲み付く事は、決して考えられない。
そういった理由から、ブーンは調査の際の寝床を、郊外に位置する一軒家に決めている。

( ^ω^)「この家にするかお。ちょっと待ってるお、BLACK DOG」

ずらりと並んでいる家々から、比較的「窓」が多い家を見つけると、ブーンはバイクを降りた。
家の周りに排泄物や足跡などが無い事を確認した後、ブーンは足音を殺して玄関に近寄った。
セカンドが棲んでいる気配を感じさせなくとも、ブーンは常に慎重な行動をするように心掛けている。

31 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:36:50.08 ID:/wDjUCk30
半壊した金属製のドアを押し、静かに玄関を開ける。
玄関周りは荒れているが、そこから続く木造の廊下は埃を被っているくらいで綺麗なままだ。
血痕も無ければ鼻が曲がるような腐乱臭も一切無い。
サーモグラフィで見る限り、セカンドの足跡なども見当たらなかった。

( ^ω^)(2階にも気配は無いお……地下はあるのかお?)

いくら日差しが良い家であろうとも、地下があれば避難場所としての意味は成さなくなる事がある。
こういった一軒家を調査する際には、必ず地下の有無を確認しなければならない。
地下にセカンドが棲み付いている事は、そう少なくはないのだ。

ブーンは早く休みたかったのだが、地下へ続く階段を見つけてしまった。

沈みかけた夕陽が窓から射しているが、階段の奥は暗闇が溜まっている。
ブーンは視界を暗視モードに切り替え、様子を伺う。
どうやら、ドアは下りなければ見る事が出来ないようだ。
溜息を一つ付いた後、一歩一歩ゆっくりと階段に足を運んでゆく。

階段を下り、現れたのはベコベコに凹んだ電子ロック式のドア。
ブーンは試しに軽くドアを引いてみたが、ビクともしない。
凹み以外に損傷は無く、電気さえ通ればドアは機能を回復するだろう。

しかし奇妙なのは、内側から付けられたと思われる凹みが多い事だ。

32 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:38:02.01 ID:/wDjUCk30

( ^ω^)「気になるから開けてみるお!」

つい、慎重に行動する事を忘れ、好奇心に身を委ねてしまったブーン。
力任せにドアを蹴る事3回、ドアは枠を外れて部屋の奥へ飛んで行いった。

(;^ω^)「くさっ……ってことは、もしや……」

封を開けると、部屋に立ち込めていた悪臭が一気に外へ抜けようとした。
ブーンが嗅ぎ慣れた、腐乱臭である。
激臭と共に、次第にブーンの頭には嫌な想像が立ち込めてゆく。

まさしく想像通り、部屋の片隅にはセカンドの死骸が一つあった。
人の姿に近い姿である。
だいぶ痩せ細っているている事から、ブーンは餓死と推測した。
内側から見るドアには、拳の跡や爪跡が多く残っている。推測との辻褄が合うだろう。

( ^ω^)「この人、きっと閉じ込められたんだお……」

遠くから死骸をスキャンする限り、心肺機能は停止しているものの、
左目の視界中には熱量を示すモニターが映し出されている。
宿主が死んだとしても、セカンドウィルスは消滅する事は無い。

( ^ω^)「何だか嫌な気分だけど、ウィルスは駆除させて貰うお」

死骸にBlueBulletGunを向け、一度だけトリガーを引いた。
頭部、それから首が根元から消し飛んだ。
徐々に死骸の熱は下がってゆき、やがて生物の死骸として正常な数値を取る。

34 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:40:16.09 ID:/wDjUCk30
事を済ましたブーンは地下から上がり、一度外へ出る。
寝るための用意をBLACK DOGの収納から引き出す為だ。

( ^ω^)「シャンプーにリンスに石鹸とタオル2枚。歯磨き粉と歯ブラシ。
       水は3リットルあれば十分だお。着替えは適当に持ってくお。
       それから携帯端末に、えーと食料を適当に……こんなもんかお!」

武器庫ほど大きくは無いが、BLACK DOGのリアボディには
調査に必要な物資を収納したスペースが内臓されている。
武器庫と同様に、ボディが翼のように左右に開く設計だ。

荷物を手に抱え、ブーンは“ブラウン”邸に戻る。
先ほど気づいたのだが、この家の主の名は“ブラウン”というらしい。

リビングに行くとブーンはまず、埃塗れのテーブルやソファをタオルで拭き取った。
木造の立派なテーブルに荷物を置き、一先ずは一服と煙草を咥えた。
ソファに座り込み、ジッポライターで火を点けると、カビ臭い部屋に
煙草の芳醇な香りが染み渡るように広まってゆく。
テーブルに灰皿があったので、ブーンはその中に灰を落としてゆく。

( ^ω^)「ふー。色々あったけど、明日にはボストンに着けそうだお。
       本当は今日中に到着したかったけど仕方無いお。
       『セントラル』の安全確保だって、僕の仕事の一つだお!」

1人きりの部屋でブーンは呟く。
もう5年もこうして一人旅を続けているので、ブーンはすっかり孤独になれていた。

36 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:41:43.25 ID:/wDjUCk30

( ^ω^)「シャワーの前にレポートを書いて提出しておくお」

そう言ってテーブルの上に置いた携帯端末を取り、左手に巻きつけた。
ブーンは携帯端末からコードを引き出すと、それを後頭部の入出力端子に差した。
次にブーンは液晶に数回タッチした。
すると端末から数枚のモニターやパネルが宙に映し出され、ブーンはそれらを掴んで手元まで引っ張った。

『タイムズスクウェアにてGネズミを発見し、巣諸共駆除に成功。
 ショッピングモール○×△にて蜂型のセカンドを発見するものの、
 全滅には至らず、数千匹の蜂が野放しになってしまった。
 1人で駆除するのは難しいと判断。今後の対処を議会に検討して頂きたい』

ブーンは言葉を発しながら、パネルをタッチする。
タッチする毎に、文字がモニター上のテキスト帳に反映されてゆく。

『最後に、一つ目の巨人と湾岸沿いの道路にて遭遇し、撃破。
 巣の発見は出来ず、子や親などを持っているのかは不明である。
 なお、ボストンには明日の正午には到着する予定である。以上』

( ^ω^)「戦闘記録を添付して完成だお!」

別のモニターに表示されているサムネイル画像をタッチした後、テキスト帳にタッチした。
すると、画像がテキスト帳上に現れたのだ。
昔のPCの操作で言うところの、ドラッグである。

38 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:43:39.56 ID:/wDjUCk30

( ^ω^)「あとはツンに送信して終わりだおっと。
      おっと、ツンにメッセージを書くのを忘れてたお」

( ^ω^)「ツンへ追伸。ksmsカレー阿部っていうカレー屋が美味しかったお。
      特に看板メニューのksmsカレーは最高だったお!
      今度食べてみれくれお。感想聞かせて欲しいお!」

( ^ω^)「送信だお!!」

( ^ω^)「ふひひwwwwww
       うんこカレーを出されたツンの反応が楽しみだおwwwwww」

( ^ω^)「ちょっとゲームやるお!!!」

ブーンはモニターをタッチし、画面を切り替える。
新たに表示されたのは、携帯端末にインストールされている何本かのゲームタイトルだ。
その内の「HERO OF JUSTICE」と「alphabet」のどちらで遊ぶか悩んだ末、
ブーンはネットワーク型RPGの「alphabet」のロゴをタッチした。

(;^ω^)「むむっ! 来週に攻城戦かお!! 間に合うかSの壁突破!!
      あ! ドクオの奴、ログインしてねーお!」

39 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:45:19.73 ID:/wDjUCk30


時を同じくして、バーボンハウス。
木造の扉には「本日深夜12時開店」という張り紙が張られている。
本来ならば既に営業時間であるのだが、店主は本日、“別の仕事”について時間を割かなければならなかった。

(´・ω・`)「遅いですね、彼」

ショボンがグラスに酒を注ぎ足し、落ち着いた調子で言う。
それに対し、阿部は少々興奮気味に返した。

阿部「ふふふ……焦らされるのも悪くないじゃないの。
   どんな子なのか、凄く楽しみだぜ……」

阿部「ところでこいつを見てくれ。どう思う?」

(´//ω//`)「凄く……大きいです……」

そこへ、乾いたベルの音が鳴り響く。
店に入ってきたのは、息を切らしたドクオだ。

(;'A`)「悪い悪い! ツンに追っかけ回されててよぉ。
     ったく、ちょっと胸突いたくらいでエライ目に……」

額を白衣の袖で拭い、息を弾ませてドクオが言った。

阿部「ウェルカム、ドクオ君」

阿部がくるりと椅子を回し、ドクオに言った。
ツナギのチャックから覗かせた凄く大きな「それ」は、曝け出したままである。

43 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:47:37.87 ID:/wDjUCk30

阿部「こいつを見てくれ。どう思う?」

(゚A゚)「」

ドクオは目を引ん剥かせて凍りついた。

――何故、カウンター席でチンコをいきり立たせているのだろうか。
ウェルカムという言葉には、どんな意味合いを込めているのだろう?
そんな事よりも、凄く……大きいです……。

(´・ω・`)「ドクオ……おい、ドクオ」

('A`)「ハッ!!」

(;'A`)「しょ、ショボン! そこのチンコ出してるオッサンは誰だ!?」

ドクオは、一物を曝け出しているイイ男に指差して言った。
オッサン呼ばわりされた阿部は、不機嫌そうに顔をしかめる。

(´・ω・`)「阿部さん。君の協力者だよ。
      どうだい? イイ男だろう?」

('A`)「協力者ぁ?」

(´・ω・`)「ふふ、そうだよ。僕1人では少々心細い仕事だと思ってね……。
      大丈夫。彼を信用してくれ。阿部さんは昔からの知り合いなんだ」

46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:50:14.89 ID:/wDjUCk30

(;'A`)「信用してくれって言われてもなぁ……」

阿部は一向に出したブツを仕舞おうとしない。
それどころか、おもむろに衣服を脱ぎ始めたではないか。
自分の身の危険すらあるというのに、信用しろと言われても無理な話である。

ドクオは店から逃げ出そうとドアノブに触れた時、阿部の呼び声に制された。

阿部「まぁ待て。別に何も取って喰おうとする訳じゃない。
    俺の体を見てくれ……そう、舐め回すようにな……」

ドクオは恐る恐る、阿部の方へ頭を向ける。
やはりヘソまで反り返ったソレばかりが目に付いてしまうが、
他の部位に注視してみると、常人とは異なる体付きをしている事に気づく。

('A`)「その体……アンタもサイボーグなのか」

胸や腹を覆う皮の下に、厚みのあるプレートのような物が浮き出ている他、
体の随所に小さな装置が埋め込まれているのだ。

(´・ω・`)「そ。僕と同じ、40年代末のサイボーグさ。
      阿部さんは高性能ガチホモ型インターフェースなんだ。
      阿部さんにはコンピュータへのアクセス等を担当してもらう予定だ」

阿部「腹の中パンパンに情報を詰め込めてやるよ。
    俺はデジタルでもかまわず喰っちまう男なんだぜ?」

51 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:53:08.65 ID:/wDjUCk30
阿部がツナギを着直し、手招きをしてドクオに座るようにと促す。
しかしドクオは、阿部とは一つ離れた席に腰を下ろした。
そんな態度を向けるドクオに対し、阿部は温和な微笑を見せてやった。

阿部「ふふふ……」

なるべく阿部の方を見ないようにし、ドクオは酒を一杯煽る。

(´・ω・`)「じゃあ、早速本題に入ろうか。開店準備もまだ残ってるからね。
      モララー・スタンレーのラボについて、ドクオから聞かせて貰おう」

('A`)「ああ。まず、ラボは異常な程セキュリティが厳重だって事を伝えておく。
    入り口を含め、全てのドアにロックが掛かってるみたいなんだが、
    これについては数分時間があれば解除出来るから、まぁ問題無いだろう」

(´・ω・`)「待ってくれ。という事は、君もラボに侵入すると?」

('A`)「まぁ、そうなるな……それについて2人に言っておきたい事があるけど、後にしよう」

ドクオは手に持ったグラスを置き、続ける。

('A`)「で、問題なのは、やはりメインコンピュータの閲覧だ。
    当然、厳重なセキュリティが施されていると思うが、
    俺にはそれを突破出来る自信があまり無いんだ……」

(;'A`)「えっと……その、阿部さん、大丈夫ですかね?」

阿部「程度にもよるが……任せな。バキュームカーに乗ったつもりで安心しろ」

54 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:55:11.00 ID:/wDjUCk30
('A`)「それから心配なのは妨害だ。
    俺が得た情報によれば、ラボには数人の兵士が待機しているらしい。
    実際に彼女達の戦闘を目にした事があるが、かなり手強そうだ。発見されると厄介だぞ」

('A`)「ショボン、万が一の対処は任せるけど、大丈夫だよな?」

(´・ω・`)「僕なら対抗出来ると思って頼んだんだろ?
      何とかするさ。それに、阿部さんもいるからね」

ショボンが阿部の方へ視線を流し、言った。

阿部「ところでドクオ君。何故、こんな事をショボンに依頼したんだい?
    万が一ヘタをすれば、君もセントラル警察に逮捕されてしまうぞ」

('A`)「……ターゲットのクローン兵士の声に、聞き覚えがあったんだ。
    偉くサドッ気のある女の声だ。俺は、そういう声なら忘れたりしない」

ドクオは煙草に火をつけながら言った。

('A`)「詳しく調べてみりゃ、モララーのラボから研究員が皆消えているんだ。
    ハッキングして議会の議事録を閲覧したところ、
    これに関する報告書、いや、死亡リストを見つけたんだ」

そこまで言うとドクオは煙を吸い、そして続けた。

('A`)「……おかしな事に、研究員が全員『事故死』扱いされていたんだ。
    しかもこの数年、不定期なペースで。全員が事故死なんだぜ? 妙だろ?
    んで、そのリストの中には“クー・ルーレイロ”っていう女の名前が記されていたんだ」

阿部「クー・ルーレイロ……確か、俺が審査員をやった時のミス・セントラル準優勝者か」

56 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:56:31.19 ID:/wDjUCk30

('A`)「ええ。クローン兵士の声こそ、クー・ルーレイロの声だったんです」

場が静まり、今の雰囲気とはミスマッチした軽快なジャズのみが店内に流れる。
ショボンと阿部は驚く素振りは見せないが、
思考に集中していると思わせる難しい顔付きである。

(´・ω・`)「それ、本当?」

少し間が開いてから、ショボンがドクオに返した。

('A`)「ああ。なんせ俺は、クー・ルーレイロに惚れていたんだからな。
    間違いない。間違えるはずがない……」

阿部「なるほどね。惚れた女が何故クローン兵になったのか、知りたいって事か」

阿部は、ドクオにバチリとウインクして言った。
ドクオは、阿部から顔を背けて相槌した後、話を続けた。

('A`)「彼女自身がクローン兵化を望んだのなら、彼女が事故死扱いされるのは不自然でしょ?
    『セントラル』の法律には、クローン人間について罰せられる法律は無いですから。
    つまり、モララーにとってクローン兵士クー・ルーレイロという存在自体が
    大っぴらには公表出来ない、何か後ろめたい事実なんでしょう」

(´・ω・`)「そこで事故死とし、偽装したって訳か」

ショボンが、ドクオに代わり結論を述べた。

57 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:57:39.60 ID:/wDjUCk30

('A`)「あくまで推測だけどな。
    しかしだ、それが事実であれば、俺は彼女を助けたいと思ってる」

(´・ω・`)「どうやって?」

すぐにショボンが切り返した。
声の調子に抑揚が無いが、逆にそれが鋭い声色となっている。

('A`)「そこまでは考えていない。
    だからこそ、俺は自分の目でデータを閲覧したいと思うんだ。
    そんでまぁ、何か彼女に対して俺が出来る事があるのなら、助けてやりたい」

阿部「心底、惚れてるって訳か……男らしくて良いじゃないの」

('A`)「いや、まあ、それは半分冗談なんですけどね。
    俺、こういうの放っておけないっていうか……見て見ぬフリ出来ないっていうか」

苦笑しながらドクオが言った。

(´・ω・`)「ま、それが君の良い所なんだよね。友人の為だ、助力は惜しまないよ。
      それに話を聞く限りじゃ、モララー・スタンレーはどうも臭いね……。
      こういう事に首突っ込むのは嫌いじゃない。不謹慎だが、楽しみだな」

ドクオは、ショボンの述べた“臭い”という言葉に対し、思案顔を浮かべた。

クローン兵士について、荒巻スカルチノフは何か知っている様子だったのを思い出す。
議会の上層部で何か企みがあるのだろうか。

('A`)(しかし、そうだとしたら、記録の改竄なんていくらでも……)

59 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 20:59:29.00 ID:/wDjUCk30


ニューヨークは夜明けを迎え、空が白みを帯び始めた。
一晩中、何処か遠くから聞こえてきたセカンド達の声も、
朝になってしまえば急にしんと静まってしまった。

朝らしく鳥の囀りでも聞こえてくれば良いのかもしれないが、この世界の朝は静寂を好まれる。
それも、ずっと静かな、生物の気配も感じさせないような静寂が。

機械の右耳に聞こえてくるのは、風が通り抜ける音くらいである。
雑踏どころか虫の息一つとて聞こえてこない住宅街の朝の中
ブーンは上機嫌で朝一番の煙草を楽しんでいた。

( ^ω^)「うーん、本当に静かな朝だお」

どうやら、ここらの住宅街を選んだのは正解だったようだ。
我ながら自分の経験と洞察力が頼もしいと、ブーンは得意顔を浮かべる。

煙草を灰皿に押し付け、テーブルの液体化食料を取る。「バナナ味」だ。
左手でパックを握り閉め、ノズルから内容物を吸い上げる。
芳醇な香りとバナナの甘みが口全体に広がり、ブーンはそれをゴクリと鳴らして飲み込んだ。

60 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:01:05.80 ID:/wDjUCk30
ゲル状の食物を一滴残らず吸い尽くした後、テーブルの水を手に取る。
開けたばかりのボトルの半分程を一気に飲み、ブーンは満足そうに溜息をついた。

( ^ω^)「朝はやっぱり“ゲロ”に限るお」

綻んだ顔でそう言い、本日2本目となる煙草を咥える。

次にブーンは、左腕に巻いてある携帯端末を弄り、モニターを一枚だけ宙に投影させた。
モニターにタッチし、端末のメール機能を起動する。
ツンからのメッセージが一件届いている他、残りはニュースなどの情報を綴った物がいくつか。

ブーンは、ツンの顔がモチーフになっているアイコンにタッチし、メールを開いた。

『ξ゚听)ξ 昨日はお疲れ様ナイトウ。レポート、議会に提出しておいたわ。
 NY近辺のセカンドが増えつつあるみたいね。実は昨日、アルドボールを所有する
 人類保護委員会のモナー氏と話したんだけど、既にこの事を議会に報告してたみたい。
 恐らくモララー・スタンレーの部隊が出動すると思うけど、アンタの仕事も残るんじゃないかしらね』

モニターの端で、デフォルメされた可愛らしいツンが、クルクル動いている。

『ξ゚听)b そういえば良い知らせがあるわ!
 モナー氏がウチにアルドボールを使わせてくれるそうよ。事情を話したらOKしてくれたわ。
 これで“奴ら”を探せるわね……そう遠くない所にいるといいけど』

( ^ω^)「……やったお。
       これで闇雲に街を探索する必要も無くなったお」

ブーンは無意識に拳が握り締める。
長年、夢にまで見た敵討ちが、いよいよ現実味を帯び始めてきたのだ。
そう思うとブーンは、どす黒い感情で体中が高揚するような感覚を覚えた。

64 名前:すみません訂正です ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:05:06.71 ID:/wDjUCk30

『ξ゚听)ξ あ、ジョルジュさんは凄く元気よ! セカンド化の兆候は全く無いけど、
 ジョルジュさんの『セントラル』居住許可については、今の所何も進展が無いわね。
 多分、これから何度も審査されるんだと思う』

( ^ω^)「ジョルジュ隊長……」

旅立つ前のジョルジュとの会話が反芻される。
一年、半年あるいは一ヶ月後かもしれないが、
セカンド化する事は間違いないと、ジョルジュ自身が述べていた。

このまま、セカンド化の兆候など見えなければいいのにと、ブーンは思う。

『ξ゚ー゚)ξ こっちはこんな感じ! ナイトウ、ミッション頑張ってね。
 作戦指示書に書いてあったけど、ボストンは危険みたいだから気をつけて。
 PS、教えてくれたカレー屋、今日ハインを誘って行ってみるわ」

(;^ω^)「ハインさんも……これは計算外だお」

そう言ってブーンはモニターを切り、腰を上げた。
煙草を灰皿に押し付けた後、テーブルのシャンプー等のアイテムを腕に抱え、
一日世話になった“ブラウン邸”を出た。

玄関を出た先には、BLACK DOGが眩い反射光を放って主人を待っていた。
ブーンが近づくと、バイクのモニターが青色に一瞬点滅した。
すると、ブーンが触れてもいないのにBLACK DOGはエンジン音を吹かせた。

66 名前:すみません訂正です ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:06:20.95 ID:/wDjUCk30


もう、かれこれ3時間は走っただろうか。

ブーンの携帯端末に収録されているロックミュージック集も、
その5分の一を再生し終えたところだ。

いくら海景色が綺麗であっても、30分も眺めていれば飽きてしまう。
頭の中で響いているメロディを鼻歌でなぞるくらいしか、ブーンは楽しみが無い。
それと、時折バイクを止めて煙草を吸う他にやる事がなかった。


しかし、そんな退屈な一人旅も、ようやく終わりに差しかかろうとしていた。

それまで霞のように浮かんでいた巨大なビルの数々が、その姿を着実に形と成してゆく。
ブーンは、ボストンに近づくにつれ、ボストン市の摩天楼の規模を実感し、感嘆の溜息をついた。

( ^ω^)「うはあ……でっかいお……」

遠目に見なければ、この巨大都市の圧倒感は感じる事が出来ないだろうなと、ブーンは思う。
同時に、あの街に入り込んでしまい、蟻のようにちっぽけになる自分の姿を想像した。

ニューヨークは街頭テレビや巨大看板、ネオンなどで埋め尽くされた「広告の街」、
もしくはブロードウェイ劇場や世界一有名なロック・フェラーのクリスマスツリーなどを有した、
「エンターテイメントの街」として発展を続けていた。

対しボストンの街は、「科学の都市」とでも言うべきだと、ブーンは思った。

72 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:15:20.60 ID:/wDjUCk30

( ^ω^)「凄いお……横にも上にもでっかいお……」

文字通り天に昇る巨塔の郡、立体的な建築様式を持った最新鋭の建造物。
それらを取り巻くように伸びた空中トンネルの数々。
『セントラル』が数十倍大きく、そして複雑になったような外観だ。

( ^ω^)「セカンドが存在しなかったら、楽しい観光旅行が出来ただろうに」

バイクがホイールを回すごとに、都市の美しさは次第に損なわれていった。

横倒れになりかけている塔もあれば、爆発でも起こしたのか、黒ずんだ頂を持つビルなども数多く見える。
空中トンネルや縦横無尽に宙を走る線路が折れているし、幾つかは建物に突き刺さってしまっている。
損害状況もニューヨークに引けを取らないだろう。

華やかだと思われた景観が、ガラリとイメージが変わってしまった。
遺物、過去の産物、存在理由を失った虚ろな瓦礫の塔。そんなイメージをブーンは抱いた。

途端、ブーンは寒気を感じた。
このような巨大都市がセカンドウィルスに屈服してしまうという事は、
余程の大型セカンドが存在するか、無数のセカンドが存在するか、どちらかであるからだ。

( ^ω^)「慎重に行くお、BLACK DOG!」

ブーンは、気を引き締める為に煙草を吸い始める。
今はセカンドらしき反応をあまり感知していないが、かえって不気味である。

75 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:17:53.83 ID:/wDjUCk30
そこでブーンは、進路方向を若干ずらす事にした。
このまま道なりに進んでしまっても良かったのだが、
なるべく日当たりの良さそうなルートを通るべきだと判断したのだ。

バイクの僅かなエンジン音でさえ、命取りになるだろう。
とはいえ、バイクを降りて未知の都市に足を踏み込むのも、不安で堪らなくなるはずだ。

( ^ω^)(でも、セカンドの討伐も任務の内なんだお。
       逃げてばっかりじゃダメなんだお)

口内が乾き、喉の奥がネバつく嫌な緊張の高まり。
ハンドルを握る力が増している事に、ブーンは気づかなかった。
気分を紛らわそうと、座席部に備えられたスタンドから水の入ったボトルを取り、
中身の殆どを一気に飲み干した。

機械仕掛けの巨大な塔の群が目前に迫る。
乱立した塔の間を突き抜ける細い道が幾つか伸びているが、それらを全て無視し、
迂回するように都市の外側をブーンは目指す。
ボストンの巨大建造物の多くは、都市の中心に集まっているらしい。

( ^ω^)(まずは安全なルートから目的地に向かうお)

頭にインストールしたボストンの立体地図(アルドボールで撮影した)を参照し、
なるべく背の低い建物が集中したルートから目的地のハーバードに向かうのが、
最も安全であると考えたのだ。それに、少なからずセカンドの様子も視認できるだろう。

76 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:20:23.25 ID:/wDjUCk30
しかし、立体地図と実際に見る風景は、だいぶブーンの想像と異なっていた。
小さいと思われた建物はどれも期待を裏切る大きさで、作る影も大きい。
所狭しと軒並みに建てられている為、殆ど日の光が射さないという状況である。

( ^ω^)「夜みたいな暗さだお……これはヤバそうだお」

まるで都市に蓋を閉めたかのような薄暗さだ。
よくよく通りを見れば、街灯らしき物が多い事にブーンは気づく。
つまり、この都市は太陽光を差ほど必要としていなかったのだろうと、推測される。

恐ろしい街、いや、恐ろしきは人間の好奇心か。
火星という“保険”を発見・創造してしまったが為に、
急速的な科学発達の実験場として地球を散々利用した成果として、この日が射さない街があると言えよう。

人類にとって、よほど住み心地の良かった街なのだろう。
今となっては、日の光を嫌うセカンドの格好の街でしかないが。
なんとも皮肉なものだと、ブーンは深く煙を吐いた。

( ^ω^)「でも熱源反応は少ないお……セカンドの活動期間は今じゃないのかお?
       入ってみるかお……やばくなったら一旦逃げればいいかお」

このまま外側を走り続けても、目的地とは離れた郊外に出てしまうだけだ。
ブーンは煙草を吐き捨て、機能を失った暗い都市の中へ入り込んだ。

80 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:22:35.56 ID:/wDjUCk30
都市に入り、最初にブーンが感じた事は、酷い閉塞感だった。
肉眼では天辺まで見渡せない、高い建造物の森の中を進むにつれ、
街に捉えられてしまったような感覚に襲われたのだ。
一度入れば脱出不可能な、コンクリートジャングル――。

( ^ω^)「…………」

小さいはずのバイクのエンジン音が五月蝿く聞こえてしまう程の静寂。
巨大都市には似つかないこの静寂が、ブーンに未曾有の焦燥感を与えている。

そして、想像以上に暗い。
利便性を富んでいるであろう空中トンネルや線路が、完全に日を遮っている。
朝や昼間という概念すら持たなくなってしまった街に、本当に人間が存命しているのか、
ブーンはそんな疑念すら覚えてしまった。

外観の損傷も大した物だったが、中に入ってみると内側も酷い物だ。
空中トンネルの巨大な破片が、しばしば道を塞いでいる。
ボストンの近未来的様式を特徴づける白塗りのオフィスビルは血塗れである。
ガラス張りになっているビルも多く、その殆どが派手に割れて地面に散らばっている。

損害は酷いが、ここが人類の科学技術の絶頂であったのは間違い無い。
ブーンの左右を挟む建物、そして足元の地面ですら、
何らかのオートメーション機能を備えているのが一見して分かる。

多くのコントロールを機械に譲渡し、ここの人々は快適な生活を享受していたのだろう。
今現在の『セントラル』も適用している技術が、所々に見受けられる。

82 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:24:03.12 ID:/wDjUCk30

( ^ω^)「ぶっ壊れ方もパネエお」

この街には何発ものミサイル弾頭が突っ込んできたのか?
そうだとしても不思議ではない路面や建物の破壊状況に、ブーンは不謹慎だと分かっていても笑ってしまう。
倒壊した建物同士が支え合い、巨大なトンネルを形成しているのは少し面白いとブーンは思う。

至る箇所が機械で構成された街だ。
一度破壊されてしまえば、連鎖的に不具合を起こす事も有り得るだろう。
現に、所々で見かける損害の多くは爆発による物と思われる。
セカンド騒動の際、自分達で作り上げた城塞のような街に殺されてしまった人々も、きっと多いだろう。

( ^ω^)(科学技術に殺された人類、かお……)

このボストン市のみならず、2030〜40年代の背景として、
先進国による過剰な技術発展と開発が、途上国や小国を滅ぼしてしまった事実がある。
テラフォーミングされた火星に行けるのも、宇宙開発が進んだ先進国のみ。
砂漠化が起因した貧困で労働力を失った国々は、地球での生活を余儀なくされ、
滅亡の末路を辿る他に無かったのである。

では何故、先進国の住民は温暖化や砂漠化が進んだ地球に在住し、生活を続けたのか?
それは、このボストンのように科学技術で作られた快適な環境が在った為である。

失ってしまった物を取り返そうとはせず、常に新品、代用品を使用。
AI技術も発達した世界では人的な労働力も必要とせず、
ただひたすら新しい技術開発に勤しむのだった。

85 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:25:47.04 ID:/wDjUCk30

( ^ω^)(その一種の完成形が、ここかお……いやはや、人間って凄いお。
       それもこれも、セカンドウィルスにやられたけど……)

感嘆と呆れ混じりの溜息ばかりが漏れてしまう。
自分もその科学技術によって生かされ、そして今の体があるのだと思うと、
気分はより一層複雑に絡み合ってゆく。

つい、煙草に手が伸びてしまう。
ブーンは、煙を深く吸った。


( ^ω^)「それにしても、綺麗な街だお」

海に面したボストン市は、総面積の約40%が水域である為、水上都市とも言えるだろう。
超高層のビル郡の足元で、大西洋から入り込んだ海水が水路を伝って流れている。
場所によっては橋が架けられていたり、エスカレータを配備した歩道橋などもよく見かける。

地の利を生かして貿易の都市としての成長していった歴史もある。
名門大学が集中する学術都市という先入観を持たれがちだが、2040年を過ぎても
貿易に注力していたのを、ブーンは都市外側の港を見て十分に理解出来ていた。


あれこれと考えを巡らせている内にブーンは、長い釣り橋に差し掛かった。
この橋を渡り終えた方に、目的地であるハーバードが位置しているようだ。

86 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:27:59.91 ID:/wDjUCk30
高層ビル郡の間に架けられた橋は、非常に重厚だ。
4車線有している為、幅が広い。
橋の終着は遠く、普通の人間の目ではハッキリと像を捉えられないだろう。

入り口を過ぎてすぐに、料金所に到達した。
どうやら、通行するには料金が必要だったらしい。
沈黙した料金所を無視し、ブーンは先を急いだ。

行けども行けども左右にビルが並び続けている。
全てが機能していれば、それは洗練された近未来的景観を楽しめるのだろうが、
今となっては明りの一つも漏れやしない。
虚ろで、不気味だ。

( ^ω^)「……橋が崩れてるお。どうするかお」

橋が大きく湾曲した所で、その先が崩れているのだ。
空中走行すれば済む問題なのだが、増大するエンジン音を考慮すると気が進まない。

ブーンは一度バイクから降り、崩れた先から目下の街を眺めた。
崩れた橋の瓦礫が下の建造物を崩壊させており、残骸ばかりが広がっている。

89 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:29:55.79 ID:/wDjUCk30
ブーンは頭を下から上に持ち上げ、上空を眺めた。
橋の遥か上の方に、空中に架けられた透明のトンネルが何本か伸びている。
トンネルというよりは、チューブのような外観である。
中に道路が無い事から、空中走行可能な自動車専用の道であるのが分かる。

( ^ω^)(空中走行で、このまま橋の向こうに行くかお)

バイクに戻り、エンジンを掛け直す。
タッチパネルでバイクを変形させようとした時、右耳に足音のような物音が入ってきた。
それとほぼ同じタイミングで、視界にモニターが開かれた。

セカンドの反応である。

コンクリートの地面に爪が叩きつけられる、犬のような足音が複数。
音の発生源は橋の後方、だいぶ離れた場所からである。
だが移動速度が速い。数分と経たずに追いつかれてしまうだろう。

しかし、逃げるべきなのか、迎撃すべきなのか判断しかねる。
ブーンは一瞬考えた末、バイクから降りた。
そして左腿に巻きつけたホルダーから、BBBladeの柄を引き出した。

93 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:32:07.71 ID:/wDjUCk30
銃を使わず静かにセカンドを殺害し、一度安全を確保する。
そうすべきだとブーンは判断し、自ら銃器の使用に制限を掛けたのだ。
しかしながら敵の特徴や規模などは未知であり、作戦通りに事が進む保障は無い。
なので、銃器は最悪、奥の手として使用する事とした。

霞がかかった橋の奥から、そいつ等は姿を現した。
犬のような姿をしていると思ったセカンドは、全く異なる姿の持ち主であった。

蜥蜴とも恐竜とも採れる容姿であり、全身は青みがかった皮膚に覆われている。
胴体から生やした長い首の先には重たげな頭部を持っており、
頭には嘴のように鋭利な口先を持つが、目が離れている為に表情は少し間抜けている。
胴体からは恐竜らしかぬ長い腕が生えており、手も中々に大きい。
腕と足の先端には、それぞれ切れ味の良さそうな爪が3本。

そのセカンドを特徴付けているのが、5つの長い尾だ。
尾には先端まで鋭い鱗が生え揃えられている。
あの尾に巻き付けられたら、全身がズタズタに切れてしまうだろう。

( ^ω^)「ここで待ってるお、BLACK DOG」

ブーンはバイクを停めたままにし、セカンドの方へ走り寄る。
断崖を背後に戦うのは、不利になる可能性がある。

ブーンは、現れた計7匹のセカンドと対峙する。
獰猛なセカンド達は、ブーンを取り囲むように足を動かした後、静止してブーンを見据えた。

96 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:33:29.40 ID:/wDjUCk30

「―――う!」

( ^ω^)「何だお? 今の声……?」

何処からか、人間の声が聞こえたような気がした。
機械の右耳と殆ど人間の耳の両方で聞いたのだ、間違いは無い。

 《――いう!!》

                     《――ていう!!》

        《でっていう!!》
                  《でっていう!!》

   《でっていう!!》

          /ニYニヽ
         /( ゚ )( ゚ )ヽ
        /::::⌒`´⌒::::\
        | ,-)___(-、|
        | l   |-┬-|  l |
         \   `ー'´   /

     《でっていうwwwwwwwwwwwww》

( ^ω^)「これは……ねーよ……」

人の声だと思った「それ」は、目の前のセカンドが発した鳴き声であった。
人間の言葉のような流暢な発音が、独特な不気味さを感じさせる。

103 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:35:11.96 ID:/wDjUCk30
セカンド達は鳴き続け、5本の尾をクルクル動かしてブーンを威嚇する。
時折、思い切り足を打ち鳴らしたりもしてくるが、中々襲って来る気配が無い。

《でっていう! でっていう!!》

ブーンは目の前のセカンドだけに注目し、残りはレーダーとマイクのみで動きを探る。
まずは、敵の程度を見るという目的も含め、一体片付ける。

( ^ω^)(先手必勝だお……!)

正面のセカンドの頭部に剣先を向けて、地面を思い切り蹴った。
コンクリの地面にヒビが生じる程の力量で放たれた、ブーンの突撃。
瞬く間も無く敵との距離を詰め、頭部を串刺しにしたかと思いきや、
BBBladeを持つ手には何の手応えも伝わって来ない。

( ^ω^)「なっ――――」

瞬間、ブーンの側面から一体のセカンドが体当たりした。
強い衝撃を受けたブーンは倒れ、そしてセカンドが一緒に倒れ込む。
その巨大な体と長い腕を駆使してブーンを地面に押さえつけ、
ブーンの肉を喰らおうと牙をガシガシと鳴らし始める。

セカンドは首を縦に振り、勢い良くブーンの頭に喰いかかる。
ブーンは首を捩り、間一髪で頭を咬み付かれるのを避けた。
しかし、攻撃はかわし切れず、左肩を咬まれてしまった。

頑丈な皮膚やプレートを、セカンドの牙が貫いた。
鎖骨から脇の辺りに掛けて、鋭い痛みが走る。

106 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:37:41.05 ID:/wDjUCk30
《でっていう!》
           《でっていう!!》
   《でっていう!!》

まさに一瞬の出来事だった。
そして、これを機に他のセカンドもブーンの肉を啄ばもうと集り始める。

(;^ω^)「くう……このやろっ!!」

ブーンはBBBladeを持つ左手首を返し、
自分に圧し掛かる蜥蜴の怪物の胴体に刃を突き刺そうと試みた。

意外に素早く振られた剣先がセカンドの鱗を破り、肉を切った。
セカンドは痛烈な悲鳴を上げると、ブーンの体から離れた。
ウィルスを含む血肉に、ブルーエネルギーの抗体が触れたのだ。
セカンドの体に刃が食い込んだのは一瞬とはいえ、セカンドは激痛を感じただろう。

ブーンは倒れたまま、右腿のホルダーからBBBladeをもう一本取り出す。
BBBladeを持った右手を何度も大きく振り回し、群がるセカンドどもを追い払う。

両者の形成は、再び振り出しに戻った。
ブーンを中心に、7匹の蜥蜴のセカンドが威嚇しながら円を描く状況だ。

(;^ω^)(コイツら、思ったよりも動きが速いお……!)

左目の視界に、損傷状況と回復状況を載せたモニターが写る。
生命維持システムの一部が働き、傷口の止血は済んでいるようだ。
神経や骨格の損傷は差ほど大きくなく、肩を動かすのは問題無いらしい。

110 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:40:02.56 ID:/wDjUCk30
ブーンは確かめるように、左肩を回した。
少し違和感を感じるが、剣を振るうのには差し支え無いようだ。

(;^ω^)「来るならいつでも来いお!!」

BBBladeを両手に持ったのは、敵の素早い動きに対応する為だ。
剣を二刀持つ事で守備の範囲を広げ、攻撃回数を増やせる。

だが、我武者羅に剣を振るっても、先程と同様に悉く避けられてしまうだろう。
BlueBulletGunやBlueMachingunなどの銃器も、敵の速度には通用しないはずだ。

あくまでブーンが狙うのは迎撃、カウンター。
問題なのは、素早いであろう敵の攻撃を見切れるかどうか、である。

《でっていう!!》

後方の一体が鳴き声と共に動いた。
しかし、セカンド自体が接近してくる気配は無い。

(;^ω^)「!?」

ブーンが気づいた時には、右足首から太股に掛けて下が巻かれていた。
足を振って解こうと試みたが、右足はビクとも動かない。
舌には酸性の強い液体が含まれているらしく、レザーパンツの一部が瞬間的に溶けてしまった。

強化皮膚までもが音を立てて溶けようとしているではないか。
煙が立ち上り、鼻につく嫌な臭いが場に立ち込める。

113 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:42:32.78 ID:/wDjUCk30
危険極まる強烈な酸である。
ブーンは慌ててBBBladeを振り、セカンドの舌を切り離した。
抗体による傷を負い、セカンドが喧しく叫喚する。

《でっていう! でっていう!》

その時、ブーンに生じた隙を狙い、2匹が頭から突っ込む。
ブーンは一文字に左腕を振るうが、刃は掠りもせず虚しく空を切った
2匹のセカンドは、体勢を低くして攻撃を避けたのだ。

その内1匹は、そのまま低い姿勢で突撃を継続し、ブーンの右足に喰らい付いた
強靭な牙が強化皮膚を突き破り、そしてプレートを破壊する。
全てが機械で組み立てられた足に、牙は侵入を続けてゆく。
機械がバキバキと音を立てて破壊されてゆくが、ブーンは決して怯まず、

(;゚ω゚)「うおおおおおおおおッ!!」

機械の足にしゃぶり付くセカンドの隙を狙い、首をBBBladeで切り落とした。
首から黒い血が噴出した後、抗体で柔くなった肉がどろりと流れ出る。

(;^ω^)「もう1匹の方は!?」

攻撃を仕掛けてきた、もう一匹の方が視界から消えている。
いや、その1匹のみならず、他の何匹かのセカンドもその場から姿を消していた。

119 名前:訂正です ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:45:57.54 ID:/wDjUCk30

《でっていうwwwwwよっしーwwwwwwwww》

憎たらしい鳴き声は上空から聞こえてきた。
見上げた空には、背から2枚の翼を生やした3匹のセカンド達が舞っていた。

(;^ω^)「飛べるのかお!」

3匹のセカンドは弾丸のような速度を伴い、ブーンに接近する。
昨日、遭遇した“蜂”には劣るが、このセカンドも厄介な飛行速度を持っている。
ブーンは機械仕掛けの両目で迫り来るセカンドを注視し、
自分とセカンドが交差しようとした瞬間、2本の剣を振るった。

が、蒼い刃が血飛沫を上げる事は無かった。
右足の損傷が酷く、素早く剣を振るえなかったのもあるが、
敵の動体視力、瞬発力がブーンを完全に上回っていたのだ。

体勢を崩したブーンに1匹が近づき、鉤爪を両肩に突き刺した。
グンと、ブーンの体が宙に浮く。
セカンドはブーンの両肩を掴んだまま、崩れ落ちた大橋の先へと飛んで行く。

(;^ω^)「BLACK DOG!!」

主人の下へ駆けつけるべく、黒い巨大なバイクが変形する。
けたたましいエンジン音がコンクリのジャングルの静寂を破り、バイクが飛翔した。

123 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:48:04.64 ID:/wDjUCk30
地上に残っていたセカンドも肉で翼を形成し、ブーンの方へ向かい始めた。
先程から飛行しているセカンド達は、宙吊りで身動きが取れないブーンに群がる。

1匹、目の前でぶらぶらと揺れているブーンの足を見据え、齧り付こうとした。
ブーンはセカンドの顎を蹴り上げようとしたが、ひょいと首を曲げて簡単に避けられてしまった。
足は咬み辛い事を理解したのか、セカンドはブーンの胴体に頭を近づける。

(;゚ω゚)(コイツらに、これ以上咬まれるのはマズイお!)

すぐに身動きを取らなければ。
瞬時にそう判断したブーンは、腕を無理矢理動かし、
自分を釣り上げているセカンドの両腕を、刃で切り落とした。

それまで重力に逆らっていた自分の体が、一気に引っ張られる。
いくら機械の体とはいえ、何百メートルという高さから落とされればタダでは済まない。

……ゥゥウウウウウン――――。
聞き覚えのあるエンジン音が接近している。BLACK DOGである。
ネットワークを介して操縦されたBLACK DOGが、最大速度を持ってブーンに近づく。

しかし、敵も黙っている訳にいかない様子だ。
ブーンが身動きの取れないのを良い事に、そのまま宙で喰らおうという魂胆なのか、
BLACK DOGに負けじと飛行速度を上げているではないか。

127 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:50:22.71 ID:/wDjUCk30
BLACK DOGが空中で旋回し、バック走する。
フロントボディに内臓している機関銃を、迫るセカンドに向けて放つ為だ。
ブーンもBBBladeをホルダーに収め、BlueMachinGunを両手に応戦した。
当然、弾丸は悉く回避される。

しかし、敵の接近を止めるのには十分な攻撃だった。
敵を振り切ったBLACK DOGはブーンを拾い上げ、そのままバックで空中走行を続ける。

(;^ω^)「Sniperなら!」

両肩に引っ掛かっているセカンドの腕を引き抜き、力強く呟いた。
タッチパネルで操作し、武器庫を開く。
小さく開かれた羽からSniperを取り、組み立て、そして構えた。

(;^ω^)「死ねお!」

銃口から一条の蒼い光が伸びてゆく。
弾丸は美しい軌跡を描いた後、蜥蜴の胴体に着弾し、黒い血花を咲かせた。
ブーンは続いて2匹目、3匹目と順調に打ち落とす。
抗体で脆くなった死骸が水路に落下し、肉体を液状に変化させた。
どろどろの肉が澄んだ川を濁らせ、そして水の流れ乗って何処かへ運ばれてゆく。

残るセカンドは、遅れて飛んで来ている3体。
すぐにブーンはSniperのエネルギーカットリッジの交換作業に移る。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/13(木) 21:52:30.10 ID:0VQg0w890
支援す

129 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/11/13(木) 21:52:49.82 ID:/wDjUCk30
――その時である。

人の声が、右耳に飛び込んできた。
今度は間違え様の無い、人の言葉――。

(;^ω^)「!?」

ブーンは、声の発生源の方を振り向いた。
すると、ビルの隙間から赤い物体が見え隠れしているのを見た。
それはBLACK DOGと同じ、2040年代の可変型の空飛ぶ大型バイクだ。
座席には、バイクと同色のスーツとフルフェイスヘルメットに身を包んだ乗り手の姿がある。

「ここは危険だ! こっちだ! 俺について来い!」

ブーンが振り向いた事を確認した男が、再び声を発した。
若い男の肉声である。
全身を隠している為、声の他に男を特徴付ける物は伺えない。

男は暗い路地の中へ入り、姿を隠した。
ブーンは、男の乗る熱源をレーダーで感知させ、
その進行方向を立体地図で参照し、行き先を推測する。
どうやら、当初の目的地であるハーバードへ向かっているようだ。

ブーンは後方のセカンドを見据えながら、BLACK DOGを男の方へと走らせた。


                       第15話「科学都市 ボストン」終

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