- 2 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:21:12.03 ID:qURC1N8w0
- 登場人物一覧
――― チーム・ディレイク ―――
( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、本名不明。年齢20歳。戦闘員。
セカンドに対する強い免疫を持つ強化人間「システム・ディレイク」。
人類の生き残りが発見されたボストンへ向かう。
セカンドに対する認識に迷っていたが、ジョルジュの言葉でその迷いを断ち切る。
ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
ブーンを強化人間に改造した弱冠19歳の天才科学者少女。
過去セカンドに襲われ両腕を失い、義手を着用。貧乳。嫌煙家。
ジョルジュのセカンド化を食い止める為のスーツ開発に成功する。
('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
ツンをからかうお調子者の変態。空気を読まない。
議会やモララーの研究に探りを入れようと、ショボンに『仕事』を依頼する。
- 3 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:23:07.31 ID:qURC1N8w0
- ――― チーム・アルドリッチ ―――
从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
資源と資金不足の為、現在はバトルスーツの開発を中断。
( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
深紅の機体を操るバトルスーツ部隊隊長だが、セカンドウィルスに感染してしまった。
ツン達が開発したスーツ「IRON MAIDEN」と抗体により、セカンド化を抑える。
しかしパイロットを続ける事は難しく、自分の代わりに人々を守って欲しいとブーンに伝える。
ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
バトルスーツ部隊副隊長としてジョルジュをサポート。
ミッション中に遭遇した大型セカンドを、生身で倒した男。
DJテーブル頭と罵られている。
- 5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:25:13.25 ID:qURC1N8w0
- ――― その他 ―――
/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
現議会長、元アメリカ空軍大佐。
任務と「セントラル」の為には非情になる男。
( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
自身の研究成果である「Hollow Soldier」を従える。
( 〓 )Hollow Soldier(虚ろな兵士):年齢不明
モララーにより生み出された超人。
クローンテクノロジーにより量産され、部隊として編成された。
ツン達の護衛として、ブーン達の回収を補助した。
(´・ω・`)ショボン・トットマン:25歳。バーテンダー。
不味いと不評のバー、バーボンハウスの店主であるダンディな男。
その実態はガチホモであるが、精を出しているのは酒造りである。
ドクオに仕事を依頼するが、困難であると判断し、阿部さんに助力を頼む。
阿部さん 阿部高和:28歳。カレー屋の店長。
ksmsカレー阿部というカレー屋を営むイイ男。
その実態はガチホモであるが、精を出しているのはカレー作り…だけでは無い様子。
経歴は、ショボン同様に不明である。
- 6 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:26:56.89 ID:qURC1N8w0
- LOG ― Gネズミ ―
3年ほど前の事である。
ブーンは、『セントラル』の保安維持の為に、
ニューヨークのセカンドを探索・駆逐するミッションに就いていた。
ブーンはどんなミッション内容であっても引き受けていた。
ミッションがあれば外に、街に行ける。
つまりは、セカンドどもの巣を探索出来るという事である。
両親を失って2年は経っていたが、両親を殺害したセカンドを探すのに、
ブーンは躍起になっていた。
※
ξ゚听)ξ「ナイトウ! 無茶すんじゃないわよ!」
( ^ω^)「おっおっ、心配するなおツン。
心配するなら、その小さな胸の事を心配するお!」
ξ゚听)ξ「なるべく無傷で帰ってきなさいよ!
アタシがボコボコにする分が無くなっちゃうのは困るわ!」
(;^ω^)「じょ、冗談だお! ごめんお! じゃあ行ってくるお!」
ξ^ー^)ξ「分かってるわよ! それじゃ、頑張ってね!
アタシはアンタが帰ってくるまで、胸の心配をしてるから!」
(;^ω^)「あ、あの、すんませんでした。勘弁してください」
- 8 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:29:33.72 ID:qURC1N8w0
- ※
BLACK DOGで街に出たが、ブーンは速度は出さなかった。
じっくりと、街の様子を見たかったからだ。
あらかたニューヨークの調査は終えていたが、それ故に探索は慎重でなければならない。
探索済みの箇所に、僅かでも変化があれば調査する価値があるのだ。
注目すべき変化、それは生物の気配である。
例えば足跡だったり、排泄物であったり。
注意深く街を見ていると、そのようなヒントが転がっているものなのだ。
( ^ω^)「あれは……」
このミッションでブーンが最初に見つけたヒントは、歩道に横倒れになっている植木であった。
いくつかの植木の皮や幹が毟り取られており、また、その近辺には雑草の1つも生えてやしない。
食料不足に悩んだセカンドによる行動であろう。
植木に付けられた歯型や爪跡は、ここ2,3日の内の物であると思われた。
( ^ω^)「それにしても、変な跡だお」
木の幹に、無数の小さな穴が空いている。
嘴で突いたとも思われるが、何にしろ、これまで見た事の無い形跡である。
- 10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:32:38.71 ID:qURC1N8w0
- その場から離れ、探索を続けると、
道中、同じような形跡を持つ植木を多く発見する事が出来た。
ただ、発見する度に歯型は新しい物になっていったため、
( ^ω^)「このまま辿れば、巣を見つけられるかもしれないお」
つまり、齧られた植木は巣への道しるべとなっていたのだ。
( ^ω^)「ぺろっ・・・これはウンコ!!!」
道しるべに従い進んでゆくと、ブーンは植木の付近に糞を見つけた。
これも新しい物、正確には、数時間以内に排泄した物と思われる。
更に、その近くには微弱であるが足跡の熱が残っているのも発見した。
この辺りに間違いなくセカンドが潜んでいる。
そう思うと、ブーンは急に緊張の高まりを感じた。
強化された骨格やプレートに覆われているはずの心臓が、バクバクとうるさい。
ブーンは、騒音を出さないようにする為、バイクを降りた。
音で勘付かれてしまえば、これまでの追跡が水の泡となってしまう。
- 12 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:34:18.06 ID:qURC1N8w0
- 植木や糞、足跡を頼りに、セカンドを追跡してゆく。
やがて、まだ色鮮やかな血糊がこびり付いている道路を発見する。
血痕は大きく、大型セカンドでない限り、複数のセカンドが流した血液と思われる。
( ^ω^)「ここで獲物を捕えたかお。
そしてコイツ、獲物を巣に持ち帰っているお」
獲物を引き摺ったのだろうか、血痕は何処かに伸びている。
血痕を辿れば、追跡しているセカンドの巣へ到着するだろう。
願わくば、ツンと自分の両親の仇であって欲しい。
赤黒い道を行くブーンは、無意識に早く足を進めた。
( ^ω^)(ここかお……随分、日当たりの悪いアパートだお)
血痕は、5階建てのアパートの中へと続いている。
自動ドアが破られている以外、目立った外傷の無い建物だ。
その為日当たりは悪く、セカンドが棲むには絶好の住居であると言える。
ブーンは暗視に切り替え、入り口から中の様子を見る。
血痕は奥へと続き、ブーンのいる位置から僅かに見えている階段を上っていったようである。
1階にはセカンドの気配は無い。
ブーンはホルダーからBlueBulletGunを抜き、アパート内部へ静かに入っていった。
- 13 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:36:35.57 ID:qURC1N8w0
- ※
ξ゚听)ξ「で、一匹も殺さずに逃げ出して来たと…あーもう! なっさけない!!」
(;^ω^)「いや、マジで無理だったんだお、ツン。
だってGだお? ゴキだお? しかもネズミを喰って変身したゴキだお?」
ξ゚听)ξ「ネズミがゴキ食ったのかもわからんけどね。
アンタ、そんなにゴキブリだめなの?」
(;^ω^)「ダメなんだお。このセカンド、とにかく見た目がヤバすぎだお。
こんなのに弾丸ぶち込んだら一体どうなる事やら……」
ξ゚听)ξ「でもさー、他にもグロテスクなセカンドなんて沢山いるじゃないの」
(;^ω^)「グロいのは平気なんだお。でも、ゴキとネズミは昔から本当にダメなんだお。
本当にこのセカンドだけは無理だお……」
ξ゚听)ξ「仕方ないわね……このセカンドに関しては議会に駆除を頼むわ。
でも、ナイトウ。攻撃しないとアンタがやられる危険だってあるんだから、
苦手な相手でも戦わなくっちゃならないわ」
(;^ω^)「まぁ、死ぬ気になれば…何とかやれると思うお」
ξ゚听)ξ「その意気で、もう1回このアパート行って来いや」
( ^ω^)「ど、どひー! あんた鬼やーっ!」
- 17 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:38:07.42 ID:qURC1N8w0
- 第13話「悪鬼」
見上げれば一面に、青が広がっている。
そこに何筋かの細い雲や、膨らみに膨らんだ大規模な雲の塊、
それから人間の目では直視し続けるのは敵わない、眩い光が浮かんでいた。
他には鳥が飛んでいる訳でもなく、ジェット機や車といった類の機械も見当たらない。
青色のキャンバスに存在するのは、今では幾つかの雲と太陽だけである。
しかし、シンプルな青色の爽快さは、今も昔も変わる事の無い唯一無二のものだ。
目線を下げれば、目の前に広がるのは荒廃した街並みである。
かつては世界の都市であると謳われたニューヨーク・シティ。
今では見る影も無い所か、人影すら見当たらなくなってしまったのは、既に6年目を迎えた。
6年という長い年月があれば、本来ならば途方も無い程に世の中は変わってしまうだろう。
しかしながら、それを生む事の出来る人がいないのなら、世界はいつまでも変わらずに在り続ける。
とはいえ、街並みは全く変わっていなくもない。
一つずつ挙げるとしたら、まずコンクリートを突き破って顔を出した雑草や根。
コンクリートが怪物どもに破壊されてしまった所為もあるだろうが、
驚くべきは自然の持つ力強さであろう。
現に、これまで長い年月に渡って人間達に散々汚されていった地球環境は、回復しつつある。
ブーンの持つ左目が収集するデータと、脳に積載するコンピュータが記憶しているデータを
統合して判断すれば、徐々に気温が適正値に近づこうとしている事が判る。
根や葉だけでなく、木々がぼうぼうと伸び放題であるのも、街の景観を変えた物の一つだ。
取り憑くようにして、辺りのけったいな家々、偉そうな建造物や銅像などの
オブジェクトに木々が絡みついているのは、別にブーンを嫌な気分にはさせなかった。
- 18 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:40:09.40 ID:qURC1N8w0
- コンピュータが指し示すルート通りに、ブーンはバイクを全速力で飛ばす。
時折、割れたコンクリートがジャンプ台となり、派手で危険な運転をブーンは楽しんでいる。
BLACK DOGは2040年代からの技術を転用した「可変型バイク」であるが、
空中走行と地上走行とでは燃料の消費量が大きく異なる為、ブーンは出来るだけ空中走行は避けている。
全て空中走行をしたとしても、少なくとも1週間は持つだろうが、いつ帰って来れるのか判らないので、
無駄に燃料を浪費してしまうのは愚な行為である。
( ^ω^)「マルボロうめえええ」
空を飛ぶのは最高に気持ちが良いのだが、
燃料を浪費して帰りの足を無くすのは、ブーンにとって恐ろしい状況だ。
走行中のブーンの楽しみは、コンピュータに搭載した音楽プレイヤーで気分に合った曲を流し、
そして煙草を吸いながら景観を眺める事くらいだ。
ドクオから初めて貰った兵器が、実はこのBLACK DOGだった。
それまで体感した事の無いスピードと空中走行に、ブーンは虜になってしまったのだ。
夢中になったブーンは、フルスロットルの空中走行で目的地まで向かい、帰りも同様にバイクを運転したのだが、
目的地の街から脱出する手前には、既に燃料メーターはエンプティを指そうとしていたのだ。
うじゃうじゃとセカンドが潜む街中、バイクを手で押して帰るなんて、
手を込ませた自殺をするのには良いアイディアかもしれない。
そんな一件もあり、ブーンは特にバイクの燃料については慎重だった。
- 19 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:43:04.39 ID:qURC1N8w0
- たとえ『セントラル』を有するニューヨークであっても、いつでも空中走行が可能なくらいの燃料は残しておくべきだ。
ブーンはもちろん、他のチームもニューヨークでのセカンド調査はしているのだが、
調査の度に少数であるがセカンドが発見されている。
まるでネズミや害虫の王たるゴキブリの如く、
セカンドは何処からとも無く沸いてくるのだから、気を許してはならないのだ。
もっとも、ネズミやゴキブリが姿を変えたセカンドも存在するが。
その両方が組み合わさった種にブーンが遭遇した時は、
流石のブーンも裸足で逃げ出してしまった程にグロテスクな容姿を持っていたそうだ。
ところで、そのセカンド――Gネズミがどうなったのかというと、
初めてブーンが発見した3年前から、駆除されたという報告は未だ挙がっていない。
食料を求めてニューヨークを離れたか、あるいはこの広大なニューヨークの何処かに潜んでいるかもしれない。
ゴキブリやネズミには、一匹見れば10匹、10匹見れば100匹いるという説がある。
セカンドが蔓延する前の、ニューヨークの都市調査においても、
実際にそのような調査結果をテレビで報道していたのを、ブーンは鮮明に覚えていた。
( ^ω^)(Gネズミ……そういえば何処行ったんだお?
やっぱり、あの時撃退しておくべきだったかお…)
- 20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:45:14.98 ID:qURC1N8w0
-
( ^ω^)「ああ、やっぱ無理だおコレ」
メモリーからGネズミの映像を引っ張り出して思い出すが、震え上がってしまった。
どうにも、Gネズミだけは直視し難いらしい。
そういう事があり、ニューヨークの街は出来るだけ早く抜けたいというのが、ブーンの素直な気持ちであった。
ブーンは、ニューヨーク以外でGネズミを見た事は無い。
ゴキブリもネズミも、ニューヨーク特有の生物でないのは勿論である。
ただ、ニューヨークこそ最も大きく人も多かった都市だっただけに、街の汚染状況は酷いものだ。
煌びやかな大都市の持つ裏の顔、または影とも言えようか。
その魔力めいた一面が、Gネズミという悪鬼を生み出したと、ブーンは結論付けていた。
今の所、レーダーに反応は無い。
このままニューヨークを抜けたい所だが、まだまだ出口までは長い。
朝方に出発したので、当分は街も日に照っている。
多くのセカンドは夜行性であるので、日中は差ほど危険は少ない。
しかし、それはあくまで人間や動物がベースのセカンドに限る話だ。
昆虫は季節――厳密に言うと気温――によって活動期が異なる。
寒い冬場は昆虫の活動も大人しいものだが、ゴキブリとなるとどうだろうか。
- 21 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:47:45.16 ID:qURC1N8w0
- 古来より地球の随所に棲息する、神出鬼没の悪鬼、ゴキブリ。
雑食のその昆虫は、人間の髪の毛一本もあれば一週間生き延びる剛健な生命力を持つ。
その生命力こそが奴等の最大の特徴だとするならば、セカンド化してもそのタフさは受け継ぐのかもしれない。
しかしながら、セカンド化したゴキブリの発見は少なかった。
理由は定かではない。
やはり食料を求め、あらゆる地域、建物を奔走しているのかもしれない。
ニューヨークで生まれたGネズミ――何度も言うが、ブーンがNY特産と決め付けただけ――も、
他の州へと旅出たのかもしれない。
そんな身の毛のよだつ恐ろしい想像をしていると、
突然左目の視界に複数のモニターが展開する。
タイムズスクウェアの方から、複数の熱源が確認された。
距離はブーンのいる位置から3キロメートルほど先だ。
それほど数は多くないようなので、戦闘は苦にならないとブーンは判断する。
( ^ω^)「『セントラル』近辺に出現するのは、久しぶりだお…。
出かける前に、しっかり駆除するお……!」
防衛機能を完備しているとはいえ、『セントラル』に危険を及ぼす可能性が無いとは、言い切れない。
今は些細な脅威であろうとも、後々、繁殖して厄介な敵になりかねない。
- 23 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:51:44.44 ID:qURC1N8w0
- ブーンはルートを変更し、タイムズスクウェアへ向けてバイクを進める。
BLACK DOGの速度計は140kmを示しており、3キロメートル程度の道程なら瞬く間に到着できる。
瓦礫と化したブロードウェイ劇場が乱立するストリートを抜け、広い交差点に出る。
塔のように聳え立つタイムズスクウェアの象徴の前で、ブーンはバイクを止めた。
BlueBulletGunを構えて備える。
ブーンは首を振り、左目の機能を駆使しながら索敵する。
しかし、セカンドの姿は見当たらない。
( ^ω^)(どこだお……?)
確かに熱源反応は、この近辺で検知されている。
ステルス機能でも持っているのでは?と、非現実的な発想が頭に浮かんでしまう程、
ブーンは見えない敵に焦りを感じていた。
急に、蚊や蝿などに似た羽音が近づいて来た。
不穏な音を右耳が拾うと同時に、ブーンは強烈な一撃を腹に貰うのだった。
バイクの座席から吹っ飛び、コンクリートの地面に尻餅を着く。
ブーンは咄嗟に立ち上がり、銃を構えるが、
(;^ω^)「クソ、姿が無いお……」
銃口を向けた先にセカンドはいなかった。
本当に透明の敵と戦っている、そんな恐怖と焦燥がブーンを襲う。
だが、透明であっても「熱」を隠す事は出来ないはず。
現に先ほどから左目は、この近辺からセカンドの熱量を感知しているのだ。
しかし、近辺にセカンドがいるのが分かる程度であり、
正確な位置はレーダー上には映し出されていない。
- 26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:54:12.46 ID:qURC1N8w0
-
( ^ω^)「サーモグラフィを使ってみるお!」
左目の視界が緑色になり、熱を発している箇所は温度によって赤色を放っている。
冷たい風に晒されている地面は真っ青、エンジンで温まっているバイクは赤。
そして、ブーンの周りを取り囲む複数の塊が、炎のように赤く燃え上がっている。
サーモグラフィで露になったセカンドは、意外に大きい。
先ほどの攻撃は、2本胴体からぶら下げている前足で殴られたもののようだ。
(;^ω^)「こ、こいつは……」
頭部にちんまりと生やした両耳、尖った口先。
獲物を挑発するようにクネクネ動いている、細く長い尻尾。
そして、背から大きく広げている分厚い2枚の羽。
シルエットは、ブーンのメモリーが記憶している「Gネズミ」と酷似した物だった。
( ^ω^)「どう見てもGネズミです。本当にありがとうございました。
これまでの流れ的に、早かれ遅かれ遭遇していたのは間違いないお。
おや、わたしは何を口走っているのだろうか?」
だが以前に見たGネズミは、透明になるような能力など持ち得てなかった。
恐らくは、何らかの生物を捕食し、進化した種なのだろう。
- 28 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:57:11.89 ID:qURC1N8w0
- 3匹の巨大なGネズミの内の1匹が、宙を舞った。
その一匹にブーンが見取れている隙に、残りの2匹が体当たりするように地を駆ける。
足を動かす間も与えられなかったブーンは、2匹の図体に思い切り挟まれてしまった。
ブーンよりも1メートルは大きい胴体であるが、意外にも動きは速く、
ツンに鍛え上げられた機械の身体を持っても、ブーンは対応出来なかった。
痛みは感じなかったものの、ブーンは「UZEEEEEEE!!」と思い切り悪態をつく。
ブーンを挟み込んだ2匹のGネズミは、前足を器用に使い、ブーンの体を押さえつけた。
そして、丸々太った腹が縦に割れ、腹の中から黒い血液と共に無数の足を出現させた。
細い毛を生やしたそれは、ゴキブリの足である。
足は刃物のように鋭利で硬質で、動かす度にブーンの黒いジャケットとズボンを引き裂いてゆく。
(;^ω^)「この足、気持ち悪すぎるんだおおおおっ!!」
無理やり体を動かして足を振りほどき、右手に持った銃を撃つ。
バン、という巨大な発砲音の後、宙から噴水のような勢いで血が飛び出た。
どうやら横っ腹を抉られたらしく、撃たれたGネズミは金切り声を上げてブーンから離れた。
自由に身動きが取れるようになったブーンは、すぐに地を蹴って敵から遠ざかろうとしたが、
先ほどから宙を飛んでいたGネズミに、強烈な頭突きをぶちかまされる。
頭部に打撃を受け、ブーンは地に伏してしまった。
同時に、銃を手放してしまう。
地を滑って遠ざるBlueBulletGunを拾おうと、ブーンは急いで立ち上がろうとした。
しかし、まだ滞空していたGネズミに圧し掛かられて、再び地に伏してしまう。
Gネズミは、ブーンの腹から爪先に圧し掛かり、ブーンを仰向けに押さえ込んだ。
プロレスで言う所の、マウントポジションだ。
- 30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 17:59:11.70 ID:qURC1N8w0
- 更に前足で両腕を掴み、完全にブーンの身動きを封じる。
腹を破って伸ばした無数の足をシャカシャカと忙しなく動かし、
今にもブーンの顔を八つ裂きにしようと威嚇している。
残りの2匹も近寄り、重たげな頭をブーンの顔に近づけた。
サーモグラフィで表示されたシルエットから予想するに、どうやら口を開けているらしい。
可視化された唾液は滝のように流れ落ち、同時に失神してしまいそうな悪臭が口の奥から漂ってくる。
喉の奥から伸びてきたのは、爬虫類系の生物が持つ長い舌だ。
(;^ω^)「もしかしてコイツら、カメレオンでも喰ったのかお!」
それならば、このステルス擬態も納得がゆく。
しかし何処でカメレオンなどを捕食したのだろうか?
大よそ、ステルスの特徴を持つセカンドを喰ったのだろう。
だが今は、そんな疑問の為にコンピュータを稼動させている場合ではなかった。
すぐさま、コンピュータに「右腕の機能を起動するように」と、司令を出した。
( ^ω^)(“Booster”だお!)
モーター音のような甲高く分厚い音が右腕の中から鳴り響き、右袖が燃えてゆく。
サーモグラフィを通して見た右腕は、セカンドよりも真っ赤に燃えていた。
だが実際には、BBBladeなどのエネルギーと同じ色、蒼色の光が燦々と輝いているのだ。
- 33 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:03:35.90 ID:qURC1N8w0
- それまでピクリとも動かす事の出来なかったブーンの右腕が、光のような速さで振られた。
圧倒的な速度に翻弄されたGネズミの前足は、付け根から胴体を離れていった。
蒼く光るブーンの右腕は、そのままGネズミの体内へと侵入してゆく。
(#^ω^)「こうなりゃヤケクソだお! 死ぬ気でやってやるお!!」
そのまま、縦横に腕を動かす。
好きなように体内を掻き回されたGネズミは、叫び声を挙げる事も無く、力無く項垂れた。
ブーンは腕を手前に引き、足ごと腹をぶち抜いた。
バラバラになった足が血と共に顔にこびり付いてしまったが、気にしている場合ではなかった。
(;^ω^)「い、いい加減にするおっ!!」
残った2匹の片方が、既にブーンの頭部を口に咥えていたのだ。
自分の体にかかっている力から察するに、どうやら首を胴体から分離させたいらしい。
幸いな事に、牙は強化皮膚を突き破れるほど鋭利ではないし、骨格を切り離す力も無いようだ。
しかし、髪の毛をこれ以上引き千切られるのは我慢ならないと、ブーンは狂ったように叫び声を上げた。
下半身に圧し掛かっているGネズミをどかそうともせず、
ブーンは自分の頭にしゃぶりついているGネズミの頭部に、目に止まらぬ動作で右腕を突き刺した。
突き刺した時のショックのせいか、頭にかかる力が強くなったのをブーンは感じた。
顎にコテのような万力を入れたまま、Gネズミは絶命してしまったようだ。
ブーンが右腕で口を思い切り押し上げると、ネズミの尖った口先の上顎部分が宙に飛んだ。
ブーンは手を休めず、頭を吹っ飛ばしたGネズミの首に腕を突き刺し、すぐに引き抜いた。
真っ二つになった頭部と、首にぽっかりと空いている穴から、おびただしい量の血液が噴出す。
- 35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:07:18.85 ID:qURC1N8w0
- 下半身に圧し掛かっているGネズミを、足で跳ね除ける。
ようやく自由になったと、ブーンは溜息を付きながら顔に張り付いている気色の悪い足の欠片を払う。
(;゚ω゚)「おぼうおえっ!!!」
絶命した2匹のステルスが解けており、本来のグロテスクな姿が露になっていた。
別に見たくなかったのだが、たまたま目に入ってしまい、その凄惨なる光景に耐え切れずブーンは嘔吐した。
体内を掻き回して殺したGネズミの傷口から、奇怪に変色変形した巨大な内臓や腸が流れて出ている。
その中に、元の形のまま人間の頭部(正確にはセカンドであるが)が
何個も紛れているのを見てしまい、ブーンは吐き気を催してしまったのだ。
胃の中の物はもうとっくに吐き尽してしまったが、
吐き気が込み上げて胃液が止まろうとしない。
プレートで身体を強化されていても、ブーンは体を痙攣させて吐いていた。
そんなブーンなど構いもせず、最後のGネズミは無情に襲い掛かろうとしていた。
情などあるはずもないと、ブーンは思う。
セカンドにあるのは、異常な食欲だけなのだ。
断続的に耳障りな羽の音を鳴り散らして、Gネズミは宙に舞っている。
BLACK DOGよりも速い速度で辺りを飛び回り、機を伺っているようだ。
- 37 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:10:03.89 ID:qURC1N8w0
- ブーンがBlueBulletGunを拾う為に走し出すと、Gネズミはミサイルのような勢いでブーンを追う。
ブーンは間一髪でBlueBulletGunを拾い上げ、体を地面にベタりと伏せて体当たりをやり過ごす。
しかし、敵は攻撃を仕掛けた訳ではなかったようだ。
(;^ω^)(しまったお……!)
Gネズミは、僅かであるが硬直していたブーンに対し、長い尻尾を体中に巻きつけたのだ。
ブーンが思っていたよりも尻尾は力強く、両腕に力を入れても解く事が出来ない。
「右腕」のモーター音は既に止まっており、元の静かな状態に戻っている。
エネルギー切れだ。
尻尾はそのままに、Gネズミはブーンの正面に降り立つと、透明の擬態を解いて醜い外見を曝け出した。
ゴキブリのような油っこい甲殻に包まれた頭部は形こそネズミのように見えるが、
殆ど側頭部に付いている瞳はカメレオンのものだ。
大きく開いた口の中には、鋭利な牙がびっしりと口内に生えている。
ブーンは体をぶるりと震わした。
人口の強化皮膚肌であるが、肌が粟立つような寒気を背筋に感じたようだ。
(;^ω^)「や、やめ……てく…れお……」
我ながら情け無い声を出していると、ブーンは思った。
Gネズミの腹から突き出ている無数の足、その足先を全て、ブーンの胴体に突きつけられている。
- 40 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:14:45.64 ID:qURC1N8w0
- ( ^ω^)「なん……ちゃ、っ…てだお!」
ニヤリと、口の端を釣り上げる。
突然、近くに停まっていたBLACK DOGが、猛スピードでGネズミに突進を仕掛けた。
犬の口先のように尖ったボディの先端がGネズミの背に突き刺さると、
ボディ中に収納されているマシンガンが炸裂音を発した。
刹那、体を締め上げている尻尾の力が弱まり、ブーンは尻尾を振り解いた。
左腿のホルダーからBBBladeの柄を引き出し、グリップを握り込んで蒼い刃を放出させる。
BLACK DOGに突き刺された痛みで悶え叫んでいるGネズミの口に、刃を突っ込んだ。
刃はGネズミの頭をぶち抜き、脳漿混じりの汚い血液の飛沫を後頭部から飛び散らせた。
当然、口からも血が噴出し、ブーンは顔や髪に赤黒く生臭いシャワーを浴びる。
ブーンは血を浴びながらも、突っ込んだ刃を上下左右に動かし、完全にGネズミの脳を破壊した。
しかし生命力の強いGネズミなので、体も同様に刃で掻き回し、その機能を徹底して破壊する。
堅い殻がバリバリと音を立てて割れ、肉はバターのように滑らかに切れてゆく。
どす黒い血液と共に白い体液、はらわた等が流れ、コンクリの地面に惨いグラデーションが描かれた。
サーモグラフィで見るGネズミは、次第に赤色を失っていった。
だが、ブーンは警戒を解かなかった。
もしかしたら近くの建物に潜んでるのかもしれない、そう考えたのだ。
( ^ω^)(3年前に忽然といなくなったのに…戻ってきたのかお…?
見るのも嫌なセカンドだけど、そうも言ってられないんだお、僕は)
赤と青と緑で彩られた淡い視界に、注目する。
青色の冷たいコンクリートが何処までも続いているが、とあるビル付近に、
若干であるが赤みのある青色が、斑状になって残っている。
- 41 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:17:10.45 ID:qURC1N8w0
-
( ^ω^)「ネズミの足跡だお……あそこが奴等の巣かお」
ブーンは血塗れのBLACK DOGに跨り、巣と思わしきビルへ向かう。
バイクもだが、ブーン自身も頭から爪先までGネズミの血を浴びているし、ジャケットはすっかりボロキレに成り果ててしまった。
代えの服はBLACK DOGに収納してあるので、それほどブーンは気にしていない。
それよりも、胸ポケットに入れておいたマルボロが心配であった。
ちなみにジョルジュから貰ったラッキーストライクは、腰に掛けてあるケースにしまってある。
( ^ω^)「さて、どうするかお」
ビルの前に到着し、バイクを降りる。
胸ポケットに手を突っ込んで取り出したのは、戦闘でぐしゃぐしゃになった煙草の箱だ。
箱を開けてみると、まだ吸えそうな煙草が一本残っていたので、ブーンはそれを咥えた。
ブーンは火を点け、胸いっぱいに煙を吸った。
口に広がる苦み、重い吸い応えが、戦闘時の嫌な緊張感を安らげてくれる。
ましてや苦手なGネズミ、少々ボロボロになった煙草であっても、吸わなければやっていられない。
(;^ω^)(熱源は感知できないけど、ビル屋内からカサカサ嫌な足音は聞こえるお。
数も分からないし、このまま中に突入するのも危険だお)
そう思ったブーンは、脳のコンピュータからBLACK DOGに「武器庫を開け」と指示した。
ドクオに脳とバイクをリンクして貰ったおかげで、遠隔操作が可能となったのだ。
まるで自分の体の一部のようだと、ブーンはニヤけ顔を浮かべて、愛器の進化を喜んだ。
- 42 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:19:56.48 ID:qURC1N8w0
- バイクのハンドル部に埋め込まれている薄緑色のタッチパネルが、蒼色に輝いた。
すると、フロントタイヤの辺りのボディが羽のように大きく開き、武器庫を形成した。
BLACK DOGのボディは太く長いが、武器庫もまた巨大である。
余りにも武器庫が大きい為、状況に応じて“羽”の開きを調節出来る。
戦闘中に武器を取り出す際も、邪魔にならない設計となっている。
( ^ω^)「ドクオの奴、大量に予備を入れて置いてくれてるお」
最大まで開いた“羽”に、ずらりと並べられた数々の武器を眺め、ブーンは呟いた。
3つに折り畳まれた細身の狙撃ライフルSniperは3丁もあるし、
装備するには背負わなければならないBlueLazerCannonも1丁余分に備えてある。
武器の損失を危惧する必要は無いだろう。
それぞれの武器の数だけ揃えられている円筒状の蒼い容器は、エネルギーカートリッジだ。
予備のエネルギーも豊富だ。
また、メンテナンス用の作業器具などもある。
こうして武器庫を開くだけでもドクオの気遣いが十分に伝わり、ブーンは嬉しく思う。
( ^ω^)「BlueMachinGun、Sniperと、それから……」
取り出した武器をそれぞれ足や腰のホルダーに装着すると、
武器庫から手の平サイズの小さな蒼色のボールを2つ、左手で取った。
ブーンが念じるようにして右腕に意識すると、掌がパカッと音を立てて開いた。
その中にボールを1つずつ落とし入れる。
右腕のエネルギーカートリッジ補給だ。
- 44 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:22:50.37 ID:qURC1N8w0
-
(;^ω^)「さ……頑張るお! 根こそぎ退治してやるお!!」
ブーンの声と共に、BLACK DOGが武器庫を閉じた。
組み立てたSniperをバイクに立て掛け、腰のホルダーからBlueMachinGunを抜く。
準備が整ったところで、ブーンはビルを見据えた。
ビルから遠ざかった場所に立ち、ブーンはビルの全貌を確かめる。
5階建ての低いビルだが、横幅がある。
この建物の中に、どれだけのGネズミが詰っているのか分からないが、少なくとも
右耳の集音状況においては、敵の数は中々に多いようだ。
( ^ω^)「グレネードだお!」
ブーンは、光の無い真っ暗な入り口に向けて、右腕をかざす。
すると手首が折れ、腕の中に秘めていた無骨な発射口が外を覗く。
耳を劈く甲高いモーター音が腕から奏でられたと思うと、発射口から爆発音が生じた。
発射時の反動で、ブーンの右腕が派手に跳ね上がった。
飛び出たのは、先ほど補給した球状のエネルギーカートリッジだ。
蒼い弾丸は、なだらかな弧を描いてビル内に突入し、推進力を失って床に深々と突き刺さった。
瞬間、ビルのガラスは割れ、脆くなっていた屋上がぶっ飛び、蒼い光と爆炎が盛大に吹き出る。
- 46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:24:31.87 ID:qURC1N8w0
- 抗体交じりの爆炎から辛うじて生き延びたGネズミ達が、窓から外に逃げ出している。
残党はどれも火を体に纏っており、苦しそうな金切り声を上げている。
それにしても、凄い数であるとブーンは思う。
大群。目の前に広がる光景を表現するならば、その言葉が最も相応しい。
(;^ω^)「ウオアアアアアああああッ!!」
多くのGネズミが飛び交う空に、マシンガンを打ち鳴らす。
コンピュータに制御されたブーンは、的確に敵を打ち落としてゆく。
敵自慢の甲冑も、抗体と高熱で焼け爛れてしまえば脆い物であり、
まるで殺虫剤で害虫駆除をしているかのように、醜いセカンド達はバタバタと地に落ちていった。
とはいえ数は多く、仲間の陰になって攻撃を免れている者もいるようだ。
この近辺から遠ざかろうと飛んで行くGネズミに対し、ブーンはマシンガンで攻撃をしようとはしなかった。
既に射程距離圏外なのだ。
そこでブーンはBlueMachinGunをホルダーに戻し、立て掛けておいたSniperを手に取る。
スコープを覗き込むと同時に、自動的に銃と脳のコンピュータが敵をロックオンした。
引き金を引き、すぐに別の獲物に照準を切り替える。
この動作を2回も繰り返すと、青空には似つかわしくない赤黒い血花が咲き乱れた。
しかし、青をバックにした赤と黒は、色合い的に映えている。
(;^ω^)「お、ええっ・・・」
ただし、スコープ内で見た風景は、血花などという決して美しい表現は到底出来ない。
ゴキブリとネズミの複合体は強烈な弾丸を受けて弾け、
裂けた腹からは細切れになった腸や臓器が零れ落ち、頭からは脳漿や歯、目玉が飛び散ったのだ。
タチが悪かったのは、奴等が喰った内容物に「肉」が多かった事だ。
- 47 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:27:29.48 ID:qURC1N8w0
- 炎上している小さなビルからは、しばらく化物の叫喚が聞こえていたが、
やがて炎が轟々と燃える音しか聞こえなくなった。
しかし、焼け焦げたセカンドの臭いは消える事無く、強烈な刺激臭に耐えなければならなかった。
臭いを紛らわそうと、ケースから香りの強い煙草を一本取り出し、ライターで火を付ける。
ブーンは苦々しい表情を浮かべ、煙を吐いた。
凄惨な光景を眺めながら吸う煙草は、ブーンには美味いとは感じられないようだ。
燃え盛るビルの中から数匹のGネズミが這い出て来た。
Gネズミは、甲冑が真っ黒に焦げており、多量の抗体を浴びて体の機能を破壊され、
血の混じった嘔吐物を多量に吐き出していると思えば、目玉の片方を地に落としている。
(;^ω^)「……お、おえ……って言ってる場合じゃないお!」
このまま放って置いても勝手に絶命するだろうが、ブーンは銃を構えた。
すると、大きなGネズミが、小柄なGネズミを庇うように、覆い被さった。
覆い被さっている方のネズミが、まだ頭部に残っている目を見開き、ブーンを睨んでいる。
――何と恐ろしい目をしているのだろうか。
見開いたカメレオンの目が更に一回り大きく、血走っている。
恐怖に駆られたブーンは引き金を引く事が出来ず、立ち尽くしていた。
やがて、サーモグラフィに映った2匹のセカンドから熱量は消え去り、
右耳に聞こえていたか細い呼吸音も消えてしまった。
- 48 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:32:49.33 ID:qURC1N8w0
-
( ^ω^)「親子かお……」
他の死骸もよく見てみると、Gネズミ達は大小サイズが異なる事に気づいた。
( ^ω^)「……恐らく他の何処かにも巣は存在するお。
これ以上、ニューヨークにコイツらの巣が無い事を祈るお」
親を残しておけば、また子を生む。子が生きていれば、やがて新たな子が生まれる。
生物としての基本的な繁殖はセカンドにも当然あるのだ。
誰かが駆除しなければ、セカンドは永久に増え続けてしまう。
まるでゴキブリやネズミの如く。
しかし、ブーンは引き金を引けなかった。
親が子を護っていたように見えただけかもしれないが、もしそうならば
彼等には紛れも無い意志と愛情が存在するのだと、ブーンは思ってしまったのだ。
( ^ω^)(それでも僕は、殺さなければいけないんだお……心を鬼にしてでも。
それが僕に課せられた使命だお)
武器を武器庫に戻し終えると、ブーンはバイクに跨った。
跨ると同時に、BLACK DOGが咆哮する。
数多の親子が流した血の海を、血塗れの男が血塗れの狂犬に乗って走り抜けていった。
死骸の瞳が、遠ざかってゆくブーンの背を睨み続けている。
第13話「悪鬼」
- 51 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:35:00.67 ID:qURC1N8w0
- 「テラフォーミング」と呼ばれる移住環境化が、火星にて行われた後の事。
人類は更なる宇宙開拓に勤しみ、やがて太陽系外にとある惑星を発見した。
その惑星には、微量ながら水分もあれば酸素もあり、更には微小であるが生命体も存在した。
火星よりもテラフォーミングに適した惑星であるという事は、早期に明白となったのだ。
人類はその惑星を「セカンドアース」と名付けた。
セカンドアースのテラフォーミング計画中、惑星調査隊の隊員の一人が、
蚯蚓に似た小さな生物に噛みつかれてしまった。
その生物の持つウィルスこそ、あの恐ろしいセカンドウィルスなのである。
ウィルス感染した調査隊員を乗せた宇宙船は、瞬く間に船内でウィルスが蔓延してしまった。
ウィルスを乗せた――正確にはセカンドという化け物を乗せた――宇宙船は、
セカンドアースと地球との中間地点でもある火星に着地した。
そしてウィルスは、未曾有の生物危機を火星にて巻き起こしたのだ。
- 52 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:36:26.19 ID:qURC1N8w0
- LOG とある兄弟の登校
謎のウィルスが火星に蔓延しようとしていた頃、それに関する情報は地球まで届いていた。
ホワイトハウス、首相官邸、果てには何の変哲も無い一家の情報端末にまで。
ボストンの郊外に立派な家を構えていた「流石一家」も、
火星で起こっていた生物危機を朝食時のテレビで知ったのである。
流石一家は、日本人の父親を大黒柱とする6人の家族だ。
父方は一流大学出のエリートマンで、生物工学で家族に飯を食わせていた。
母方はボストン生まれのアメリカ人で、元は女子プロレスラーだ。
そんな両親から生まれたのは、仲の良い兄弟、美しい姉妹の4人。
そのニュースが流れた日は、次男のオットーが名門ハーバードの門を潜る日であった。
「弟者。お前の晴れの日だってのに、火星じゃ恐ろしい事になってるみたいだな」
大きな機械のテーブルに、兄弟が向かい合って座っている。
兄弟は、少し遅めの朝食を摂っていた。
「みたいだな。でも兄者、内心このニュースが興味深くで仕方ないんじゃないのか?」
弟者と呼ばれた背の高い青年、オットーが、パンを頬張りながら返事をした。
「そういうお前もだろ?」
兄が、オットーにフォークを向けて言った。
- 56 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:39:09.17 ID:qURC1N8w0
- 「当たり前だ。このウィルス、マジで興味が引かれるぜ
こんなヤバいウィルスだってのに、流石だよな俺ら」
兄弟は揃って親指を立て、ニヤリと口の端を釣り上げた。
「おい弟者! 絶対に首席で卒業しろよ!
お前ならイケる。俺が言うんだから間違いない」
「いきなりなんだよ。というか兄者、今日入学だってのに、首席で卒業だなんて気が早すぎる。
それに俺は、兄者ほど頭は良くないんだ。自信は持てないよ」
そこまで喋ると、オットーは一度コーヒーカップに口を付ける。
「そう言う兄者は勿論、今年もダントツのトップを狙うんだろ?」
兄は苦笑いを浮かべて、パンの端を噛む。
「周りが大した事無いんだ。
ハイスクールの時もそうだった。張り合いある相手はお前くらいなもんだ。
クラスメイトは話も合わんし、退屈だったよ! 大学もそうさ!」
「まぁ、ギャグで気が合うのは兄者だけだったと思うが。
どうせ今年も、毎日のように女の子のケツを追っかけ回すだけなんだろ?」
「流石だな弟者。分かってるじゃないか」
「だって兄者、ハイスクールで毎日女の子追っかけまわしてたじゃないか」
- 57 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:41:36.43 ID:qURC1N8w0
- 一流のベースボールプレイヤー同士によるキャッチボールはこのような感じなのだろうか。
2人が繰り出す会話は途切れる事が無く、そして速い。
いつもそれを止めるのは父親ではなく、少しおっかない母親の方だ。
「ほらっ! いつまでそうやって喋ってんだい!
飯食ってさっさと学校お行き!!」
案の定、母親の怒号が台所から響くのだった。
「「は、はい! 行って参ります母上!!」
2人は逃げ出すようにして、玄関を飛び出ていった。
「全く、いっつもあの調子だい。困ったもんだね!」
蛇口から出る水の音よりも大きな声で、母親はぼやいた。
「いいじゃないか。それに、あの子達の話題の大半は勉強の事だぞ。
この前なんかバルキスの定理について話してたんだぞ。大したもんだー」
禿げ散らかした頭を掻きながら、スーツ姿の父親が興奮気味に喋る。
「そういう事じゃないんだよ! ルーズすぎんだい!
時間もそうだし、学校の規則も守ってないじゃないの!!
学校に怒られるのは、いっつも私だい! 筋肉ドライバーかますわよ!?」
「あ、ちょ、やめ、なんで俺に、すみまs―――
ひギャアアアアアアアアアああああああああああああ!!!!!」
- 58 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:44:07.54 ID:qURC1N8w0
-
「間一髪だったな、兄者」
家を出た2人は、のんびりと学校へ向っていた。
2人は瓜二つの兄弟。顔の作りから、背の高さまで殆ど同じだ。
ただ性格は多少異なっている。
弟のオットーは少しばかり無茶が耐えないというか、いささか好戦的とも言える。
兄は物静かであるが、次元を問わずとにかく女が好きだ。ただし、モテはしない。
今日も、道行く女学生やOLの顔や体を見落とさずにチェックをしている。
「ああ、あと一歩出るのが遅かったら、地獄の断頭台を喰らっていたかもしれん。
家から出ればこっちのモンだ。ノンビリ行こうじぇふうあ゙ああー」
兄が、語末に欠伸を付けて言った。
2人はハイスクール時代からの遅刻常習犯である。
彼等が主張するには、真面目に時間通り授業に出る意味が分からない、らしい。
母親は彼等がルーズだと言うが、彼等にはクソ真面目に授業に参加する必要が無いだけなのだ。
「そういえば、今日は確か筋肉ドライバーじゃなかったか?
断頭台は昨日、兄者が喰らっていたじゃないか」
「そういえばそうだったか」
「なぁ、ところで兄者よ」
女の子の尻に夢中になっている兄は、上の空で返事をした。
- 60 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:46:42.61 ID:qURC1N8w0
-
「例の宇宙産のウィルスだが、マジで研究したいと思ってるんだ。
人間を化け物に変えちまうだなんて、アニメだけの話だと思ってた。
でも、現実に存在するんだ。これほどエキサイティングなモンは他に無い」
「待て弟者よ。ミュータントタートルズは間違いなく存在する。
NYの下水に行ってみろ。絶対にいるから。きっとエイプリルもいるから。
そうだ今度、ミケランジェロに握手して貰いに行かないか?」
「1人で勝手に行ってくれ。X-MENなら行ってやらんでもないが。
とにかくだ。例のウィルスは、生物の歴史そのものを変える気がするんだ。
ありゃあ、マジで重要な存在だ。俺はあの未知のウィルスに迫りたいんだ」
兄者は女の子から目を離し、オットーの目を見る。
「悪い。今朝言った事は忘れてくれ。ありゃあ人間の手に負えないと、俺は見る。
だってさ、火星の人間が悉く化け物になってるんだぞ? やばすぎるだろ常考」
「そこなんだよ兄者! つまり、俺達人間がコントロール出来ればいいだけの話さ!
始めの人類は火すらまともに扱えなかったんだぜ? それが今じゃどうだ!
こりゃ、人類の新たな進化に発展するに違いないよ」
両手を広げ、まるで唄うような言い口である。
それほどまでにオットーは、今朝のニュースで知ったウィルスに心頭してしまっているらしい。
「まぁ、良い方向に進むかどうか分からんがね」
情熱的に語るオットーだったが、それでも兄は否定的であった。
- 61 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/07(火) 18:49:34.30 ID:qURC1N8w0
-
「ってか、どうした? 兄者も興味があるんじゃなかったのか?」
「興味はある。だけどな、予想不可能な事象ってのは恐ろしいモンだぞ。
人類史上、最大の生物危機を引き起こすくらいなんだ。
現代の科学力を持っても被害を食い止められないから、今の火星の状況がある」
「まぁ、そうだな……」
渋々、オットーは同意する。
兄はそのまま続けた。
「万が一、あのウィルスが地球に来るような事になったら、俺は地下にでも隠れるぞ。
大量の食料と水を持ってな。もしくは厳重なセキュリティがある場所だ。
もう超全力で逃げる。形振り構わずに超ダッシュして逃げる」
「そんなに危惧すべき事とは思えないが……。
それに、火星もヤバくなりゃ核でも何でも使って対処するだろうに」
「火星で核なんか使わないさ。なんせ、地球がこんなに薄汚れちまってるんだからな。
わざわざテラフォーミングしたクリーンな惑星を汚染するはずがない」
「兄者のその言い方だと、地球じゃ使ってもおかしくないって事になるが?」
「まぁ、少し大げさ過ぎたかな……でもだ、弟者よ。
結局の所、人間てのは我が身が一番カワイイもんだ。今クローンとか流行ってるし。
地球環境もキリストも、今じゃすっかり無きものだからな」