内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第12話「ジョルジュの羨望」
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 11:31:51.46 ID:CZ2h8Zdd0
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、本名不明。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つ強化人間「システム・ディレイク」。
      人間の生き残りが発見されたボストンへ向かう為、現在ドクオと共に
      肉体や兵器を修繕している。新たな武器を右腕に搭載した。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
       ブーンを強化人間に改造した弱冠19歳の天才科学者少女。
       過去セカンドに襲われ両腕を失い、義手を着用。貧乳。嫌煙家。
      ジョルジュのセカンド化を食い止める為、看護や研究に集中する。

('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ツンをからかうお調子者の変態。空気を読まない。
   現在、ブーンの肉体と武器の調整中。また、議会長らに探りを入れようとしている。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 11:34:04.63 ID:CZ2h8Zdd0
――― チーム・アルドリッチ ―――

从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
     対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
     資源と資金不足の為、現在はバトルスーツの開発を中断。
     ツンと共に、ジョルジュの看護と研究に精を出す。

( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
    深紅の機体を操るバトルスーツ部隊隊長。
    ミッション中、セカンドウィルスに感染してしまった。
    ツンに抗体を打たれるが、セカンド化の恐れがあるとのこと。

ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
     バトルスーツ部隊副隊長としてジョルジュをサポート。
     ミッション中に遭遇した大型セカンドを、生身で倒した男。
     現在、ツンと共にジョルジュを看護する。

4 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:36:03.76 ID:CZ2h8Zdd0
――― その他 ―――

/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
   現議会長、元アメリカ空軍大佐。
   任務と「セントラル」の為には非情になる男。

( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
    バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
    自身の研究成果である「Hollow Soldier」を従える。

(  〓 )Hollow Soldier(虚ろな兵士):年齢不明
     モララーにより生み出された超人。
     クローンテクノロジーにより量産され、部隊として編成された。
     ツン達の護衛として、ブーン達の回収を補助した。

6 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:37:35.51 ID:CZ2h8Zdd0
第12話「ジョルジュの羨望」


( ^ω^)「良いよドックン…とっても良かったよ…」

('A`)「ほ、本当かいブーン……? そんなに良かったのかい…?」

( ^ω^)「ああ…最高に良いお……興奮して仕方ないおっ……!」

('A`)「はあああああん!! はあああああああんっ!!!」

( ^ω^)「ああ!! 早く“コイツ”をぶち込みたいおおおお!!
       か、からだが疼くのおおおおおおおおおおお!!!
       熱いのおおおおおおおおおおおおおおお!!1」


   −=======ξ#゚听)ξ    ( ^ω^)('A`)


    しね!!!! ξ#゚听)ξ三○)ω^))A`) うぎゅおおおおおおおおおおおん


( ^ω^)「やっぱり殴りに来ると思ったお!」

('A`)「ツンちゃんたら、変態チックな発言にますます敏感になっていくわね!」

ξ#゚听)ξ(コイツら…ゴキブリ並にタフになってきたわ…)

7 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:38:11.20 ID:CZ2h8Zdd0
ξ#゚听)ξ「一体何なのよアンタ達は! この始まり方は!
      こっちは真面目に忙しいの!
      部屋に入るや否や、気持ち悪い声出すのやめてくれないかしら?」

ツンの言う通り、実験室は慌しい雰囲気に包まれていた。

从;゚∀从「ああージョルジュッ! また発作起こしたかあああっ!」

慌しさを煽るようなハインリッヒの緊迫した声が、部屋全体に響き渡る。

ジョルジュの身体機能(セカンドとしての)を低下させ、また、
体内のセカンドウィルスを外部へ漏らさないようにする為のスーツ開発。
そして、繰り返し起きるジョルジュの「発作」の看護。
この2つを統括するリーダーのツンは、息をつく暇も無かったのだ。
そんな状況の中で邪魔をされたのだから、ツンの怒りは頂点に達しようとしていた。

ξ;゚听)ξ「ハイン。1本目はとにかく早く打って!
       2本目は様子を見ながら、ゆっくり注入すればいいから!」

発作とは、ジョルジュの体温の上昇に伴う身体異常の事。
即ちセカンドウィルスの活動の活発化を、ツン達は指している。
不定期に訪れる発作の対処方は、抗体を打つ事が唯一の方法である。
しかしながら適切な分量の抗体を素早く打つのは、それこそ針の穴に糸を通すような
集中力と精密さを要する作業である。

現に、その繊細な作業を何度かしくじり、ジョルジュの身体に変化が現れていた。
まず、ミッション中に負った傷がすっかり完治してしまった事。
それから、骨格や筋肉にプラスの変化が現れてしまった事。
ミスを犯してしまったせいか、研究員達の表情はどことなく暗い。

10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:41:18.47 ID:CZ2h8Zdd0
ξ#゚听)ξ「見ての通り、ジョルジュさんの看護と拘束衣の開発で凄く忙しいの!
      邪魔しに来たんなら、さっさと出てって!」

ツンは、実験室の入り口で立っている2人の方へ振り返り、思い切り怒鳴りつけた。
ツンが振り返ってブーンとドクオに見せた顔は、怒りそのもの、である。

(;^ω^)「いやその、殺伐としてたから、リラックスでもと…ねえドクオさん?」

(;'A`)「そ、そうなんですよねブーンさん! 少しばかりホットなトークでね!
     決してその、おちょくりに来たとかじゃないんですよ!!」

ξ#゚∀゚)ξ「アンタ達、今日からラボの便所掃除一ヶ月……分かったわね。
      ブーンはボストンから帰ってきてからよ。いいわね!?」

( ;ω;)「うわあああああん!! あんまりだあああああああああああ!!」(;A;)

ブーンとドクオは、泣きじゃくって実験室を駆けて出て行った。
彼等の泣き声は、重厚な扉越しでも突き抜けて聞こえてくる。

ξ#゚听)ξ「この程度で済ませてやったってのに、酷い言われ様だわ!!」

从;゚∀从(うおお、おっかねえ……)

この一部始終を見ていたハインリッヒは、
今までツンをからかっていた事をほんの少し後悔するのだった。

12 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:43:19.11 ID:CZ2h8Zdd0


( ^ω^)「新しい右腕の話をするつもりだったのに、悪ふざけが過ぎちゃったお」

実験室の外――ラボ主要室に通ずる長い通路――に逃げ込んだ2人は、
視線を足元へと落とし、重い足取りで歩いていた。

('A`)「だな。はあ、便所掃除か…サボろうかなぁ」

( ^ω^)「とはいえ、サボったら鉄拳制裁される訳でして」

('A`)「ですよねー」

ブーンは「それにしても」と呟き、話題を改める。

( ^ω^)「この右腕の機能、なかなか使えそうだお。
       ちょっと不気味になっちゃったけど」

ブーンは黒いジャケットの袖を捲くり、新たな右腕を露出する。
腕に張り付いていた肌色の強化皮膚が無く、今の右腕は複雑な機構が丸見えになっている。
指を一本動かすと、それに合わせて骨組みが動いている様子も分かる。
ブーンの言う通り、人の腕として見るには些か不気味である。

('A`)「皮膚を取っ払っちまったのは仕方が無かったんだ。
    皮膚があると、ギミックが作動する度に皮膚が破けちまうから…。
    威力は抜群だけどな」

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:45:35.79 ID:CZ2h8Zdd0
申し訳無さそうな表情を浮かべるドクオに対し、ブーンは笑顔を持って言葉を返す。

( ^ω^)「セカンドと戦う為には仕方の無い事だお。
       少しでも強くなれるなら…僕は構わないお!
       人間らしい部分が無くなってゆくのも、正直慣れちゃったお」

('A`)「そうか……。まぁ、でも……」

最後まで言い切らず、ドクオは口を噤む。

( ^ω^)「何だお?」

(;'A`)「あ、いや、何でもねぇ」

――でも、お前は人間じゃないか!
なんて台詞を言うのは、少しクサかったようだ。

体の至る箇所が機械と化してゆく友を見て、ふとドクオは思う。
ジョルジュは、果たして人間のままでいられるのだろうか?と。
身体の作り云々もそうだが、特に精神における話だ。

ドクオは、クイーンズ区で見たセカンド達の恐怖が頭から離れなかった。
理性を失い、本能と欲求のままに生きる凶暴な怪物の事が、恐ろしくてたまらない。

限度があるとはいえ、ジョルジュが抗体で人間の肉体を保つ事が可能なのは明らかになった。
しかし、人間本来が持つ理性を保てなければ、
他のセカンドと同様の怪物と言えるのではないだろうか。

('A`)(嫌な奴だが、どうか救われて欲しいもんだ)

18 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:49:04.43 ID:CZ2h8Zdd0
( ^ω^)「これから僕は本を書くお!
       ドクオはまだ仕事があるのかお?」

ドクオが考えを巡らせていると、不意にブーンから声を掛けられて体をビクつかせた。

('A`)「あっ、研究室着いてたのか! ボーっとしてたわ!
    決してエッチな妄想なんかじゃないんだからね!」

多くの研究員が拘束衣開発に回っている為、部屋はいつもよりずっと静かだ。
主と住民を失ったラボは、どこか寂れているように見える。

('A`)「えーと仕事はそうだな……武器の点検と改善、ブルーエネルギーの生産だ。
    明後日からミッションだし…今日明日は飲めねえや。悪いな」

( ^ω^)「そうかお。飲みに行きたかったけど、仕方ないお」

('A`)「1人で行って来いよ。店にはショボンいるんだし」

( ^ω^)「そうするかお…じゃ、また後でだお」

ドクオは、ブーンが出て行ったのを見届けると、自分のデスクに腰を下ろした。
そして、左腕に巻きつけている携帯端末を操作し、メールを作成した。

“突然なんだが、近々『仕事』を請け負って欲しい。
 詳細は添付した文書ファイルを見てくれ。必要な物があればこっちで用意する”

送り先は、ショボン・トットマン。
ブーンとドクオの友人でもある、不味いバーの店主だ。

20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:52:14.56 ID:CZ2h8Zdd0

从 ゚∀从「ツンちゃん、スーツの出来はどうだ?」

この質問は今日で5度目だった。
スーツの出来が気になって仕方ない様子で、いつもに増してハインリッヒは落ち着きが無い。

ハインリッヒは、強化ガラスで仕切られている別室をよく眺めていた。
ジョルジュのいる実験室と拘束衣の開発室は、強化ガラスを開閉する事で行き来が可能となる。

ξ゚听)ξ「あらかた出来上がったわ! 早速着衣させてみましょう!
      調整もしなきゃいけないし!」

よく通る声でツンが答えた。

ツンは、壁に埋め込まれている制御盤を操作し、強化ガラスを上げた。
拘束衣は、特別な金属で作られたスタンドに掛けられている。
ツンは更に制御盤を叩き、開発室の中央で構えているスタンドを、ジョルジュの横までスライドさせた。

从 ゚∀从「やっと出来たな、スーツ!」

ガイル「拘束衣っていうよりは、やっぱりスーツだよなぁ。
    モララーの所の兵士みたいで、カッコいいじゃないか」

ガイルが、スタンドに掛けられた拘束衣を摘んだり、軽く引っ張ったりしている。
とても丈夫な素材で作られている事が、手触りだけでも何となく分かるようだ。

拘束衣は、透明のフェイスカバーを除いて、全身が黒尽くめだ。
所々に大小様々なメカニックが設けられており、時折ランプを点灯させていたりする。
後頭部から腰に掛けては、背骨や脊髄に沿ってプレートが着けられている。

21 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:54:39.37 ID:CZ2h8Zdd0
左腕にはジョルジュの携帯端末が着けられている。
対して右腕には、手首から二の腕までと幅広い敷居を持っているメカニックが施されている。
蒼色のモニターとパネル、腕の外側に着けられている蒼い筒状のポッドが目立っている。

从 ゚∀从「これ、ジョルジュが着て起きたらビビるだろうな」

ξ゚听)ξ「想像以上にカッコ良すぎる出来になってしまったもんね」

黒地の上を走っている、何本もの赤色の装飾線に目をやり、ツンが微笑む。
黒と赤の攻撃的なデザインはハインリッヒのアイディアだ。
それからツンとハインが気に入っているのは、右側頭部に着けられた灰色のプレート。
プレートには、拘束衣のネーム、ナンバー、そしてジョルジュの名が彫られている。

ガイル「いやしかし……このプレート、外さないか?」

ガイルが何とも嫌そうな顔をして、プレートを指差した。

从 ゚∀从「ガイルwwww何言ってんだよwwww馬鹿じゃねーのwwwwww」

ξ゚听)ξ「冗談じゃないわ! このプレートがカッコ良いんじゃないの!」

从 ゚∀从「だよなー! ガイルは本当にセンスねーなぁwwwwww」

ガイル「ちょ……マジで言ってるのか……。
    なぁ、皆も何とか言ってやってくれよ! コレはねーよ!」

ガイルは大声で周りの同意を得ようとしたが、
チーム・ディレイクの面々は押し黙り、見てみぬ振りをしている。

24 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 11:57:12.51 ID:CZ2h8Zdd0
ξ*゚听)b「スーパーツンちゃん!」

从*゚∀从b「ハインちゃんの!」


从*゚∀从ξ*゚听)ξ「メガ! ゴッドスゥゥゥー――ツッ!!」


从*゚∀从ξ*゚听)ξ「カッコいいいいいっ!! きゃああああああああっ!!!
          スーパーツンちゃんハインちゃんのメガゴッドスーツカッコいいいいっ!!」

そう、それが彼女らが名付けたスーツの名だ。

2人はキャーキャー声を上げて、スタンドの周りをグルグルと走り回る。
ガイル及び他の研究員は、白い目で彼女等の様子を眺めていた。

ξ*゚听)ξ「さあハインッ!
      今すぐSTH-MGS(スーツの頭文字)を装着しましょうッ!」

从*゚∀从「おうッ! 早くこのカッコいい名前のスーツを着たジョルジュが見たいぜッ!!」

ツンとハインリッヒは、長い研究開発の人生において、
自分らの好きなようにネーミングが出来たのは、実は数える程しかなかった。

ガイル(隊長すまん。これもアンタが生きる為なんだ)

そしてガイルは諦めた。
厄介な2人がタッグを組んでしまったものだと、溜息をついて。

27 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:00:09.36 ID:CZ2h8Zdd0
ガイル「盛り上がってる所悪いが、さっさと着衣させよう。
    時間が掛かるんだろ?」

ガイルはマスクの上から頭を掻いて、再び溜息をつく。

ξ゚听)ξ「チッ…分かってますよ」

从 ゚∀从「ちょーっと喜びに浸ってただけだってのに、ツンツンするなよガイル!」

ガイル「……悪かった悪かった」

ガイルは、たじろいで謝るものの「どこが、ちょーっと」だと内心毒づく。
しかし、これ以上口答えしないほうが無難だと、言ってやりたい言葉を胃に収めておく事にした。

ξ゚听)ξ「さ、やりますか。その前に、もう一度システムのチェックをするわ。
      ハイン、手伝ってくれる?」

从 ゚∀从「ほいきた!」

白衣の袖を捲くって気合を入れ直すツン。
早速スーツを前に、慌しくパネルを操作し始めた。
モニターの画面には複雑な数式や多量のコードが映し出されている。

从 ゚∀从「特に問題無い。優秀だな、お前んとこのスタッフは」

同様のモニターを眺めているハインリッヒが、どうって事無い様子で言う。
横で見ているガイルには、10時間モニターと睨めっこしていても到底理解出来ない内容だ。

31 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:03:09.27 ID:CZ2h8Zdd0

ξ゚听)ξ「そう言うアンタも、流石にやるじゃない。
      よくもまぁ、これだけ複雑なコードの羅列を一瞬で理解出来るわね」

从 ゚∀从「馬鹿にしてんのかぁ?
     これでも18歳でバトルスーツ作った天才科学者なんだぜ?」

ξ゚听)ξ「ふふ、流石はアタシが認めたライバルってとこね。
      ちょっと悔しいけど、頭の出来はトントンなのかもね」

从 ゚∀从「「ま、美貌はアタシの方が上なんだけどね!」」ξ(゚听ξ

2人は一字一句同じフレーズを、同時に叫んだ。
すると、別に久しくもない御馴染みの口喧嘩をおっ始めるのだった。

ξ#゚听)ξ「へ? 何言ってるの? どう見ても可愛いのはアタシじゃないのよ」

从#゚∀从「子供っぽいからねーツンちゃんは!
     女として魅力的なのは、明らかにアタシよねー!」

ξ#゚听)ξ「そうかしら? アタシだって胸以外は女らしいのよ?
      お尻とか足とか、これ絶対に男がソソるわね」

ツンはスカートの裾を少し捲り、太股を晒した。

从#゚∀从「ソソる体ってのは、こういうのを言うのよねー。
     ほれほれ、どうこの胸! 足! 自分で見てもエロいと思うわ!」

ハインリッヒは、スーツ越しでもハッキリ浮き出ている2つの隆起を手で持ち上げた。

34 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:05:35.33 ID:CZ2h8Zdd0

ξ#゚听)ξ「ふーん。メタボってるだけじゃないの?
       ソックスから肉がはみ出てるわ」

从#゚∀从「負け惜しみ乙。棒っ切れみたいな体が貧相ね、ツンちゃん」

ξ#゚听)ξ「ハイン……やっぱりアンタとはライバルのようね……」

从#゚∀从「そうみたいだな……いつか決着を着けないといけないらしい。
      でも今は作業に集中するとしようか」

ξ#゚听)ξ「そうね。システムや神経系統に不具合は無いわ。
       早くスーツを着衣させましょう」

ガイル(け、ケンカしてたのに、チェックを終えてやがる)

両者のやり取りを見て、すっかり呆れていたガイルが驚いて目を見開いた。
口喧嘩にヒートアップしているかと思えば、どうやら作業は完璧にこなしていたらしい。
未だ不安定な仲であるが、やはりツンとハインリッヒのタッグは強力だと、ガイルは改めて思った。

ξ゚听)ξ「さ、スーツを開けて、ジョルジュさんに着せましょうか」

ツンはパネルを素早くタッチし、彼女のみが知っているパスワードを入力する。
すると、本を捲るような動きで、スーツが開いた。
露になったスーツの中は、外見よりもずっと複雑な構造をしている。
特にガイルの目を惹いたのは、全身に張り巡らされている突起物だ。
どう見ても、体に直接突き刺す為の物である。

37 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:08:47.77 ID:CZ2h8Zdd0
後頭部の部位には、平たいチップのような物が設置されている。
手の平程のサイズだが、中央からは他と同等の突起物が伸びている。

ガイル「なんとも痛々しいスーツだな…。
    中世の拷問器具、IRON MAIDEN(アイアンメイデン)を思い出した」

ξ゚听)ξ「……あいあんめいでん……」从 ゚∀从

ガイルがそう声を漏らすと、ツンとハインリッヒがまじまじとガイルの目を見る。
何か言いたそうな表情だ。

ガイル「な、何だよ…?」

从 ゚∀从「IRON MAIDENって名前、カッコいいな。
     拷問器具を作った訳じゃないけど、拷問器具って背景がクールだ」

ξ゚听)ξ「悪くないわね。スーツの名前、そっちにしようかしら。
      スーパーツンちゃんハインちゃんメガゴッドスーツは長ったらしいとも思ってたのよね」

ガイル「じゃあIRON MAIDENにしよう! そうしよう!」

ξ゚听)ξ「そうね! 何よガイルさん! 実はセンス良いじゃないのよ!」

ガイル(今更だけどコイツらメチャクチャだなぁ)

39 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:11:13.51 ID:CZ2h8Zdd0

ξ゚听)ξ「さ、gdgdしてないで、IRON MAIDENを着せましょう。
       その前に一応、痛み止めを打っておこうかしら。
       まだ麻酔が効いてると思うけど、体質が変わってるから一応、ね」

ツンはパネルを叩きながら、近くに居た研究員に指示をする。
指示を受けた研究員は、ジョルジュを覆うカバーを開け、腕に痛み止めの注射器を当てた。

パネル操作により、スタンドの角度がゆっくりと傾いてゆく。
隣の診療台に寝ているジョルジュと対して平行になったところで、スタンドの動きが止まった。

ξ゚听)ξ「よっしゃー!!
       4人でジョルジュさんを持ち上げて、スーツの中にぶち込むわよ!!」

ガイル「え、ちょ、そんな適当で大丈夫なのかよ!?」

ツンの乱暴な発言にゾっとした。
例え痛み止めを打ったとしても、このトゲだらけのスーツの中に
自分が投げ入れられるのを想像すると、思わず身震いしてしまう。

从 ゚∀从「ガイル、冗談だって。ちゃんと外科手術を施して着衣するんだよ。
      その過程でコンピュータが制御して神経接続すっから。
      んで、その後に、ツンちゃんとアタシで調整を加えて終了だ」

ξ゚听)ξ「実践しながらの調整だから時間が掛かるのよ。
       さっきも言ったと思うけど、2時間程度要するわね。もっとかかるかも。わかんね」

ガイル「そうか…なら、いいんだが。
     ついでに、プレートも変えてくれよな」

43 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:14:30.43 ID:CZ2h8Zdd0


独特で香ばしい匂いが充満する、カレー屋「クソミソカレー阿部」の店内。
お昼時を迎えた店は、常連客がカチャカチャと鳴らすスプーンの音で賑わっていた。

口元にピンと生やした髭がダンディな男が1人、カウンター席に座っている。
テーブルの前にはまだ注文の料理は来ていない。
実はこのダンディな男――ショボン・トットマンは、食事が目的でこの店に来たのではなかった。

(´・ω・`)「……ウホッ、いい男!」

ショボンが店主に向かって、そう呟いた。
誰が聞いてもただのガチムチ発言であるが、これは実は注文なのだ。
とはいえ料理の注文ではなく、暗号といった類の物である。

阿部さん「お前が顔を見せる時は、仕事の話が多いな」

2人に共通の暗号を聞いた阿部は、客に振舞うにこやかな料理人の顔ではなく、
鋭く厳格な顔へと表情を変えた。特別な注文を聞く時だけの、表情だ。

(´・ω・`)「いやいや、気のせいですって。それで、肝心の仕事内容なのですが、
      モララー・スタンレーのラボに侵入し、彼のクローン兵士について調査する事。
      それから、現在クローンとして量産されている人物について調べる事」

(´・ω・`)「どうやってクローン兵士を生産しているのか、
      それはラボのコンピュータを閲覧しなければならないでしょう。もしくはハッキングするか…。
      僕1人じゃ難しいので手伝って頂きたいのですが、お願いできますか? 阿部さん」

46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:19:01.66 ID:CZ2h8Zdd0
「とりあえずカレーでも食ってくれ」

阿部は黙りこくって鍋を振るう。
鍋から程よく焼け焦げるルーのスパイシーな香りが、ショボンの鼻を擽った。

阿部さん「報酬は50万セントラ。それから……分かってるよな?」

皿に盛っておいたライスの上にルーを流し、完成品をショボンに手渡した。

(´・ω・`)b「クライアントはチーム・ディレイクの研究員で、僕の友人でもあるドクオ・アーランドソンです。
       見た目は理系のオタクっぽい感じだけど、結構可愛い顔してますよ……」

ショボンは携帯端末のメモリーからドクオの画像を再生し、阿部に見せる。
阿部は何やら興奮した様子で、それをじっくりと見ている。

阿部さん「や ら な い か ?」

(´・ω・`)「交渉成立ですね。ありがとうございます、阿部さん」

阿部さん「モララーの研究員に賄賂でも流して情報引き出すってのは無理なのか?」

(´・ω・`)「依頼主のドクオによると、モララーは一切の研究員を従えていないようです。
      理由は分かりませんけどね。厳しい仕事ですがドクオとは旧知の仲なので、引き受けちゃいました」

阿部さん「そんなお友達を、俺に捧げちゃっていいのかい?」

(´・ω・`)「僕はあんまりタイプじゃないんで……。
      それに僕、阿部さんみたいな人が好きですから……」

阿部さん「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」

50 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:22:09.25 ID:CZ2h8Zdd0
(´;ω;`)「それにしても50万セントラって、高すぎじゃありません?」

阿部さん「下手糞な演技してもダメなもんはダメだ」

ショボンは熱々のカレーを口に掻っ込んだせいで舌に火傷を負い、涙が薄らと目に浮かばせていた。
阿部の言うとおり、たまたま涙が出たのを演技として利用しただけだ。

(´・ω・`)「チッ。バレバレかよ。
      ま、彼から80万セントラ貰うから別にいいんですけどね」

(´・ω・`)「それにしても美味いなぁ、阿部さんのカレー」

ここで食事をする予定ではなかったが、一度口にすると後を引く味だ。
サービスで貰ったカレーであるが、こんなに美味いカレーを残すのは損のような気がしてならない。

ショボンが皿の内容物を全て平らげる頃、出入り口に着けられたベルが乾いた音を奏で、来客を告げた。
木造の扉を開けて店内に入ってきたのは、『セントラル』の皆が良く知る男。
ショボンの友人でもあるブーンだ。

( ^ω^)「おっ? ショボンだお」

ブーンは自伝である「セカンド闘争記」の執筆と、昼食にやって来たのだ。
店内に入ってすぐに目に付いたのは、カウンター席でカレーを貪っているショボンだった。
ショボンと目が合ったブーンは、彼の隣の席に着席する。

(´・ω・`)「ありゃ、ブーンじゃないか! もう体は大丈夫なのかい?」

心配そうな顔を浮かべるショボンに、ブーンは笑顔で腕を振って快調である事を表した。

53 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:24:54.10 ID:CZ2h8Zdd0

( ^ω^)「また来ましたおー阿部さんwwwwwww
       今日はksmsカレーってやつを頼んでみるおwwwwwwwwwww」

阿部さん「ブーン君、中々度胸があるね。
      ksmsカレーはウチのメニューの中でも、結構ヤバいぜ?」

(´・ω・`)「阿部さん、ブーンを知っているんですか」

阿部さん「ああ、もちろん知っているとも。
      『セントラル』の若き勇者B00N-D1を知らないはずがないだろう?
      その英雄が、最近ウチの店に来てくれたのさ!」

(;^ω^)「で、ですお。ショボンもよく来るのかお?」

勇者だの英雄だのと呼称されたブーンは、少しばかり恥かしい気分になった。
自分がそんな勇者だの大それた存在であるとは、微塵も思った事は無い。

(´・ω・`)「たまに来る程度かなぁ。
      美味いんだけど、僕には少し辛いんだよね。
      さて……食べたし、僕は出るよ。ぼちぼちバーの仕事をしなくっちゃ」

( ^ω^)「あ、そうだショボン。今晩、飲みに行くお」

(´・ω・`)「小娘がいなければ大歓迎だ」

( ^ω^)「もう二度と連れて来ないお」

56 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:28:01.99 ID:CZ2h8Zdd0
(´゚ω゚`)「ぜってぇーに連れて来るんじゃねーぞ!?
      またゲロまみれにされたら困るからな! じゃあな!」

(;^ω^)(そんなに嫌いなのかお……)

ショボンは散々怒鳴りつけると、店を出て行った。
本気でツンを嫌がっているのだろう。
前の悲惨たる店の変貌を思い出せば、それも当然かもしれない。
確かにあの閑静なバーには、居酒屋のようなノリで飲むツンは似つかわしくないかも、とブーンは思った。

阿部さん「ksmsカレー、お待ちどう様」

阿部さんは唐突にカレーを渡した。
ブーンの前に置かれたのは、見事と言わんばかりの巨大なトグロ。
高度な技術が駆使された圧巻の一品に、ブーンは思わず声を上げて感嘆する。

( ^ω^)「テラウンコwwwwwwwwwパネエwwwwwwwwwwwwwwwww」

阿部さん「ほかほかの内に召し上がれ」

( ^ω^)「ちょwwwwwwwwwwwwww
       これ死ぬほど食い辛れえwwwwwwww」

阿部さん「味は保障するよ。どいつもこいつもビビッて頼みもしねえんだがな。
     男は度胸。何でも試してみるのさ」

( ^ω^)「ウンコうめえwwwwwwwwwwwwwwww」

59 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:30:27.15 ID:CZ2h8Zdd0


太陽は外部カメラを利用しなければ拝めないが、時刻的には昼下がり。
ブーンが呑気に昼食を取っているのに対し、ツンのラボはやっと作業が落ち着いてきたところだった。

ξ゚听)ξ「ふえー…後はジョルジュさんが起きるのを待ちましょう。しばらく休憩ね」

常時、スーツがジョルジュの身体を管理するには、どうしても神経と接続する必要がある。
脳の信号や筋肉の数値、そしてセカンドウィルスの活性率を監視し、
適切な抗体を血液中に流し込むには、オートマティックのシステムが的確であると、ツンは考えたのだ。

理由として、ジョルジュが精神異常をきたらした場合を想定している。
ジョルジュ自身でウィルスを管理出来るのが最も理想的であるが、ウィルスによって
自我を保てなくなった時の事を考えれば、オートマティックが必然である。

从 ゚∀从「シャワー浴びてきなよツンちゃん。ジョルジュはアタシが見てるからさ」

ξ゚听)ξ「お言葉に甘えさせて貰うわ…もうそろそろ自分の臭いが限界…」

2人は、血塗れの白衣と手袋を取り、椅子で一息付いていた。
スーツとの神経接続の際、外科手術を行う必要が分かった為、予定終了時間よりも少しばかり遅れてしまった。

スーツとジョルジュの身体を繋げる「突起物」は、サイズこそ小さいものの、鋭利だ。
しかし、セカンド化が進み硬質化したジョルジュの体を突き刺すには、鋭さが足りなかったのだ。
とはいえ、システム・ディレイクを完成させたツンにとって、差ほど大掛かりな手術ではなかった。

そんなツンは、シャワーを浴びる為にフラついた足取りで実験室を出て行った。

62 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:32:13.56 ID:CZ2h8Zdd0

ガイル「とりあえず、一段落ついたな」

ガイルはフェイスカバーを下げ、煙草を口に咥える。
この場で一服するつもりは無いのだろうが、口元が寂しいのかもしれない。

从 ゚∀从「ああ。スーツも今の所正常に動いてるみたいだしな」

ガイル「ところで、博士」

从 ゚∀从「ああん?」

ガイルは、一瞬黒尽くめの拘束衣に身を包んだジョルジュに目を向ける。
釣られ、ハインリッヒも同様にジョルジュを見る。

ガイル「隊長は、今後もバトルスーツパイロットとして戦う事は出来るのだろうか」

重々しい口調でハインリッヒに問う。
ハインリッヒはすぐに答えを言おうとはせず、視線を落として思考した。

从 ゚∀从「……正直に言うと、難しいかも」

从 ゚∀从「抗体を流し込まれた時の激痛が、ジョルジュを苦しめるだろう。
     例えばだ、モノの数十秒だが、その間に感じる激痛を我慢して、
     バトルスーツの複雑な操作が出来るとは、アタシは思えない」

从 ゚∀从「あのジョルジュでも、だ」

ガイルは口を結び、無言になる。
そんな予感こそ感じていたが、天才的な科学者にそう言われると、確信せざるを得なくなった。

65 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:34:39.87 ID:CZ2h8Zdd0
ガイル「初期のバトルスーツ隊員で未だ現役なのは、遂に俺だけになっちまうのかなぁ」

消えそうなくらい弱弱しい声で呟くガイル。

セカンド“クォッチ”に殺されたザンギエフ、バイソン、ベガ、本田。
皆、ガイルと同じ軍隊出の、数々の死線を乗り越えてきた仲間であった。
ガイルは生前の彼等を思い出し、寂しげに微笑する。

ガイル「奴らが死んだなんて、俺には信じられん。
     今もどっかで生きてるような気がしてならない……。
     隊長だって、『実は今までのは全部演技、悪ふざけだ』なんて、今にも言うんじゃないかって、な」

ハインリッヒは俯き、床に向けて声を発する。

从 ゚∀从「すまん……アタシのせいだ。
      アタシの力が及ばなかったから…皆やられちまったんだ」

ガイル「博士、そいつは」

考えすぎだ、と言おうとしたが、ハインリッヒに言葉を遮られた。

从 ゚∀从「さっきだって天才だなんて見栄を張ったけど、実はアタシはそんな器じゃない。
      結果が出なけりゃ、天才だなんて名乗る資格は無いんだ。自惚れてたのさ」

ガイル「違う。バトルスーツのポテンシャルを引き出せなかった俺達の責任だ」

从 ゚∀从「いや、ブーンを見てみろ。アイツは元はただの人間だが、
      あの戦闘力を得られたのはツンのおかげじゃないか」

68 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:37:17.46 ID:CZ2h8Zdd0

ガイル「しかし、ブーンは膨大な訓練や経験を得ているだろう?
    我々バトルスーツパイロットは、機体に過信しすぎていたのだ。
    隊長だってそうさ。皆、少し甘んじていた所がある」

从 ゚∀从「……だったら、やっぱりお前らの期待に応えられていない、
     アタシに責任があると思うんだ」

ガイル「いや、だから、バトルスーツのポテンシャルを引き出せなかった俺達の……
    ああ、ダメだ博士。こりゃ、きっとケリがつかねーよ」

从 ゚∀从「とにかく!!」

突然、ハインリッヒは両膝を手の平で叩き、大声を出して立ち上がった。

从 ゚∀从「いずれ最高のバトルスーツを作ってやる。
     どんなセカンドにも負けないような…最高の兵器をな!」

ガイル「あんまり気負いしすぎんなよ」

从 ゚∀从「気負いするわい。
     ……機体作りでしか、アタシは誰かを守れないんだから」

ガイル「ん? 何て言ったんだ? 聞き取れなかったんだが」

从;゚∀从「な、何でもねえよDJテーブル頭が!!」

71 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:39:59.24 ID:CZ2h8Zdd0


( ^ω^)「…………」

ブーンは自伝「セカンド闘争記」を、クソミソカレー阿部の店内で書き連ねていた。
今度の内容はもちろん、セカンド観測用人工衛星アルドボール打ち上げミッションの出来事だ。

脳に積載されているコンピュータのメモリーから、記憶を鮮明に掘り起こし、描写してゆく。
ミッション中に出会ったセカンドの特徴、バトルスーツの形状や様々な噴射音。

それから、強敵“クォッチ”の事を思い出した。
こればかりは、メモリーなど無くても鮮明に、ありのままに思い出せる。

余りにも巨大で、人並みの知能と言葉さえも有していた新種のセカンド、クォッチ。
いや、そんな特徴よりも、クォッチの存在は筆舌しがたい程に悲しいものだった。
自分も良く知るハインリッヒ・アルドリッチの実の兄――ミルナ・アルドリッチこそが、
クォッチの正体だったのだ。誰にとってもショックは大きかった。

( ^ω^)(本当に彼を殺して良かったのかお……?)

ブーンは、筆を進めている内に、セカンドに対する気の持ち方について迷いが生じていた。

ツンやドクオは、最後はクォッチを殺す事を是正していたが、当初は反対していた。
――クォッチ、いや、ミルナ・アルドリッチを救う事が出来るかもしれない。
可能性の程は分からないが、彼等は何とかミルナ・アルドリッチを救おうとしていた。

72 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:41:26.68 ID:CZ2h8Zdd0

( ^ω^)(分からないお)

――「可能性」。最近よく耳にした言葉だ。
ジョルジュ・ジグラードがガイルに向けて言った、

「ただ我武者羅に戦う事は間違っている。冷静にチャンスを伺うのだ。
 そして僅かな可能性であっても勝機を見出せたのなら、死に物狂いでそれに向かうのだ」

という言葉を今、ブーンは頭の中で反芻させている。

( ^ω^)(我武者羅に、僕はセカンドを殺しているばかりだお)

ブーンはシステム・ディレイクとなってから、ひたすらセカンドを抹殺してきた。
「殺してやるのが正しく、それが彼等にとっても救いである」と決め付けて。

ブーンは一度キーボードから手を離し、煙草を咥える。
大量の煙を吸おうが、何とも言えない心のモヤモヤを掻き消す事は出来ないようだ。

( ^ω^)(他に彼等を救う手立ては無いのかお……?)

――それは、恐らく無いだろう。

唯一、セカンドウィルスに対して有効である「免疫」をセカンドに打とうとも、
ただ叫喚して苦しむだけであるのは、実戦を通して十分に知った事である。

74 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:43:27.10 ID:CZ2h8Zdd0

( ^ω^)(ジョルジュ隊長は、人間のままでいられる可能性が高いお。
       でも、既にセカンド化した人達や動物は、やっぱり無理なのかお?)

今現在、セカンドを人間に戻す治療法は見つかっていない。
ツン曰く、十数年経っても治療法は確立されないらしい。

つまりジョルジュの言う、すがるべき可能性は無いのだ。

( ^ω^)(彼等を救うには殺すしか無いのかお……?)

そもそも、セカンドにとっての“救い”とは、何なのだろうか。
人間や動物と同じように、食って生き長らえ、そして性交して子を残す事だろうか。

元々は地球上の生物としてそのように生きてきた。
そしてウィルス感染し化け物となった今も尚、その生き方に差ほど変わりは無い。
セカンドが日々繁殖している事は、調査によって明らかになっている。

( ^ω^)(僕の考えている事は、人間が天国を求める事と同じような事かお)

聖書に記載されているだけの、存在そのものが不確かな救いの手や、天国と呼ばれる世界。
どれもこれも、何処の誰かが勝手に決め付けた概念である。

ブーンは思う。
殺す事が、セカンドと化した生物にとっての救いであるというのは、
どこぞの聖書と変わらない、余りにも勝手すぎる“決め付け”であると。

76 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:45:54.95 ID:CZ2h8Zdd0
だが、セカンドを殺さなければ『セントラル』の人間達に危険が及ぶのは確かだ。
今生きている人間の為にセカンドは殺さなければならない。
そのようにツンに言ったのは、他の誰でもない自分自身である。

5年間、「彼等を天国に送っている」と自分なりに納得していたのが、
今になって迷いが生じるのは思ってもいなかった事だ。

ミルナ・アルドリッチが、そのきっかけである。
友人の肉親を撃ったのは、ブーンにとって初めてであった。

如何に冷徹に振舞おうが、どうしようもない罪悪感を感じずにはいられない。

BBBladeで切った時の手応えが、手にこびり付いて離れない。
ミルナ・アルドリッチの血の臭いが忘れられない。苦しみを訴えるクォッチの叫び声が、耳から離れない。
ハインリッヒの嗚咽が、今になって自分を迷わせている。

再度、ブーンは疑問する。
自分の所業について今更、何故迷い始めたのだ、と。

( ^ω^)(トーチャン、カーチャン、ツン、ドクオ)

唐突にブーンの頭に浮かんだのは、セカンドと化してしまった両親だった。
ブーンの両親は、今にもツンとドクオを喰おうと牙や爪をぎらつかせている。
そんな両親に対して、ブーンは銃の引き金を引く事を躊躇っていた。

ああ、なるほど、とブーンは息をつく。
最後の最後でハインリッヒは、あんな兄の姿を見ていられなくなったのかもしれない。

78 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 12:48:13.13 ID:CZ2h8Zdd0

( ^ω^)「結局どうすりゃいいんだお」

今生きる者が「納得や満足をする為に」セカンドを殺しているとするのなら、
それが人間として正しい行為であるのかどうか、ブーンには分からなかった。
少なくとも、こんな気持ちではセカンドを撃てる自信が無い。

阿部「何がだい?」

( ^ω^)「お?」

阿部「いや、『結局どうすりゃいいんだお』って、何の話かなって」

ブーンは慌てふためく。
気づかなかったが、声に出していたようだ。
こんなにも暗く、終わりの見えない思考なんて、人にそう話せない。

(;^ω^)「……何でもありませんお。
      あんまり長居するのもアレなんで、そろそろ出ますお」

ブーンはノートパソコンを閉じ、席を立つ。

阿部「そうか。別に何時間居てもいいんだけどな。
   本の続き、楽しみにしてるよ。頑張れよ」

( ^ω^)「カレーご馳走様でしたお。また来ますお」

結局、本は最後まで書いたが、当時の自分が思った事を有りのままに綴った内容だ。
自分は何とも冷酷で、残酷な人間であるのか、よく分かる内容だ。
ブーンは俯いて店を後にし、チーム・ディレイクのラボに向かった。

87 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:00:41.43 ID:CZ2h8Zdd0
チーム・ディレイクのラボ、実験室内。
そこには、シャワーを浴びて本来の美しさを取り戻したツンが戻っていた。

ξ゚听)ξ「遅くなってごめんなさい。
      髪巻くのに時間がかかっちゃうのよねー」

('A`)「毎度、なげーウンコだよな! うまい事言った俺!」

ξ#゚听)ξ「今度アンタが寝ている間にアタシと同じ髪形にしてあげるわ!」

ドクオが涙を流して「ごめんなさいごめんなさい」と呟く。

从 ゚∀从「それじゃ自虐になってるじゃねーか。
     それより、そろそろジョルジュが目を覚ますんじゃないか?」

ハインリッヒが、“IRON MAIDEN”を着衣したジョルジュの方へ目をやる。
数名のスタッフ、そして何枚ものモニター・パネルが、ジョルジュを囲っている。

ξ゚听)ξ「そうね。麻酔が切れる頃だわ」

ツンが、ジョルジュの体内をモニタリングしているモニターを見て言った。
体温、心拍数、血圧、脳波、筋肉、神経……。
その様々な数値を、スーツが常時計測している。

('A`)「抗体も順調に流れてるみたいだな。
    後は、ジョルジュが自我を保っているかどうか、か。
    言葉も認識出来ない様じゃセントラルはおろか、ここにも居させられないかもしれんが…」

唯一、測定不可能である「精神」について、ドクオが杞憂を漏らす。
ドクオの言う事が気に喰わなかったのか、ガイルはドクオを睨みつけた。

91 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:03:21.27 ID:CZ2h8Zdd0
ガイル「お前らや『セントラル』が何を言おうと、俺は諦めないぞ」

从 ゚∀从「ああ。アタシもガイルと同じ気持ちだ。
     最後まで諦めないぜ。必ず救ってみせる」

ガイルとハインリッヒの口調は力強さに溢れており、何か覚悟めいたものを周囲の者に思わせた。
迫力に気圧されしたドクオは思わず喉を鳴らし、黙り込む。
同様に、チーム・ディレイクの面々も沈黙してしまった。

重苦しい空気が実験室を包み込んだ頃、出入り口の自動ドアが開き、沈黙を破った。
入ってきたのはブーンである。
ツンやドクオが声を掛けようとする前に、ブーンは話し始めた。

( ^ω^)「だお。ガイルさんとハインリッヒさんと同感だお。
       諦めたらダメなんだお」

右耳の集音機能を使っている為、ツン達の会話の内容を一部であるが聞いていた。
そしてドクオの目を見て、ブーンは穏やかに話す。

( ^ω^)「ドクオ。あまり悲観的になるなお。
       …ジョルジュさんは、まだセカンドになったんじゃないお」

ξ゚听)ξ「……そうね。アタシ達、ちょっとネガティブに考えすぎてたかも。
      最後まで諦めないで、ジョルジュさんを守りましょう」

ドクオのフォローも兼ね、ツンが言った。

92 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:04:44.54 ID:CZ2h8Zdd0

('A`)「わ、わかってるよ!
    ただ心配事を言っただけだってのに、酷い言われ様だぜ…」

( ^ω^)「………」

しかし、ドクオの言った事は一理ある。
このままセカンド化が進むか、あるいは自我を保てなければ、相応の処分が下されるのは明白だ。

そうなった場合、ジョルジュを守るべきなのだろうか?
「天国に送る」、「セントラルの人間を守る」という理由でジョルジュが殺されるのが、
果たして正しい選択であるのかどうか、ブーンはやはり決められなかった。

ただ、ジョルジュのセカンド化を食い止めようとするのは正しい事である。
最後まで諦めずに、何らかの可能性がある事を信じて。
それだけは確かに正しい事であると、無意識にブーンは拳を握り込む。

「博士、ジョルジュ・ジグラードが目覚めました!」

研究員の1人が緊迫した面立ちで伝えた。
ブーン達が目を向けた先には、診療台で上半身を起こしたジョルジュがいる。
フェイスカヴァー越しに見える表情は、どこか困惑しているように見える。

从 ゚∀从「ジョルジュ!」

ガイル「隊長!」

95 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:06:47.83 ID:CZ2h8Zdd0

( ゚∀゚)「は、ハイン…ガイル…? ここは…『セントラル』……か?」

ハインリッヒとガイルの声に反応し、以前と変わらない様子で会話するジョルジュ。
首を左右に動かし、今自分の置かれている状況を確認しようともしている。
とても自我を失っているようには見えない。

ξ゚听)ξ「ジョルジュさん、ここはチーム・ディレイクのラボです。
      良かった…自我は保っているようですね」

ツンがほっと溜息を付く。
実の所、ジョルジュに自我が無ければ即刻射殺をしようとも、ツンは考えていた。

( ゚∀゚)「ツン・ディレイク……ああ、そうみたいだな。
     しかし、俺には免疫が無いはずなのに、どうして俺はセカンド化していない?」

ジョルジュは、自分自身の体の変化に気づく。
自分を覆う、一面が真っ黒の見慣れないスーツの存在だ。
ますます困惑するジョルジュの為に、ハインリッヒが説明する。

从 ゚∀从「そのスーツと、ブーンの免疫のおかげだ。
     脳にも直結したスーツで、お前の体に潜んでいるウィルスを監視している。
     ウィルスの活動が活発になった時、自動的に抗体を注入してセカンド化を抑える代物だ」

ガイル「ツン博士とブーンがいなかったら、今頃セカンド化してたぜ?」

97 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:08:46.13 ID:CZ2h8Zdd0
ジョルジュは首や頭を触ったりして、スーツの様子を確かめる。
やがて腕にモニターが埋め込まれているのに気づき、それを弄る。

蒼色の、手首から肘に掛けて埋め込まれたモニターには、
ウィルスの活動の程度をグラフに簡易表示した物や、
ジョルジュの身体に関するあらゆるデータが掲載されている。

中でもジョルジュが気になったのは、抗体注入までの予測時間だ。
こうしてモニターを眺めている今も、刻々と予測時間まで時が進んでいるのが分かる。
それを見て、ジョルジュは特に焦燥感を感じたり、恐怖する事は無かった。

( ゚∀゚)「……やはり、俺の体内には、ウィルスが巣食っているのか。
     道理でおかしいはずだ。やけに視界がクリアだし、以前より力がありそうだ」

ジョルジュは確かめるように両拳をぐっと握り締めている。
そして、診療台をゆっくりと降りた。

( ゚∀゚)「セカンドウィルスの力か……。
     スーツで抑止されているみたいだが、妙な力は実感は出来る」

ξ゚听)ξ「でしょうね。貴方は、実質的にはセカンドと言えるもの。
      それを無理矢理そのスーツ、IRON MAIDENで抑止しています」

( ゚∀゚)「ハッ! 拷問器具ってのは、中々良いセンスじゃねーか、ツン・ディレイク。
     ところで、このスーツを脱いだら、俺はセカンド同等の力を振るえるって訳か。
     ウィルス活動が活発になりゃ、あっという間に化け物になるんだろうが」

99 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:10:35.87 ID:CZ2h8Zdd0

('A`)「言っておくが、スーツはパスワードが無ければ脱衣は不可能だ」

ジョルジュは、ドクオを鋭く睨みつける。

( ゚∀゚)「別に脱ごうとは思わん。感染も未然に防げるのだろう?
     ただ確認したかっただけさ。自らセカンド化したいなどと、微塵にも思わん」

(;'A`)「そ、そりゃそうだろうな! 俺もそういうつもりで聞いたんじゃないぞ!」

ドクオは慌てふためいて弁解する。
ハインリッヒやガイルは勿論だが、ツンでさえ冷やかな視線をドクオに注いだ。

ξ゚听)ξ「……治療法が見つからない限り、そのスーツの中で過ごしてもらいます。
      勿論、食事や睡眠の時も脱衣は認めません。
      今後の貴方の生活について詳しい事は、後で個人的に説明しましょう」

( ゚∀゚)「…まぁ、何となく、そんな想像は付いていた。
     そんな事よりも、俺はどうなる? 議会から何か通達は?」

从 ゚∀从「まだ無い。これから報告書を提出して、それからだな」

ガイル「安心しろ隊長!
    隊長はウィルスに屈服するような男じゃねーって議会に言ってやらア!」

102 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:12:45.84 ID:CZ2h8Zdd0

( ゚∀゚)(屈服…どうだかな…)

――俺は夢の中で何度もウィルスに屈服しかけた。
何度も体を食いちぎられ、最後は立つ事すらままならなかった。
あの蒼い光、クイーンズ区で見た物に良く似た光が、何度も俺を救ってくれたが。

( ゚∀゚)(恐らく、抗体を何度も注入されたんだろう)

蒼い光は、暗闇から生まれた無数のセカンド達を悉く消滅させていった。
抗体が無ければ、間違いなく俺はセカンドと化していた。
夢で見たような、あの醜悪で薄汚い化け物に。

( ^ω^)「ジョルジュ隊長…申し訳ありませんお。
       あの時、もっと駆けつけるのが速かったら、こんな事には…」

( ゚∀゚)「B00N-D1……」

そうだ。この男の持つ免疫こそが、俺を救っているのだ。
最大のライバルである、B00N-D1の血が――。

( ゚∀゚)「いや、お前を責める理由は無い。良くやってくれたみたいだな。
     証拠に、ガイルはこんなスーツを着ていない。感謝する」

( ^ω^)「ジョルジュ隊長……」

思いも寄らない言葉と表情に、ブーンは一瞬頭が真っ白になる。
プライドの高いジョルジュの口から、まさか感謝の言葉が出るとは思っていなかった。
脇のドクオとツンも、目を合わせて驚いている。

103 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:14:25.92 ID:CZ2h8Zdd0

( ゚∀゚)「ハイン、ガイル。俺は先に帰る…しばらく横になりたい。
     そんな狭っ苦しい診療台じゃなくて、自分のベッドでな」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと! まだ調整とかあるのよ!」

( ゚∀゚)「ああ? そんなもん焦ってやらんでいい。大丈夫だ。
     自分の体の事だから、よく分かる。何かありゃ、すぐに飛んでくるさ」

ジョルジュは、そう言ってツカツカと出入り口に向かう。
そのままツン達に背を向けたまま、いつものぶっきら棒な調子で話す。

( ゚∀゚)「感謝しているぜ、チーム・ディレイク。
     俺がまだ人間でいられるのは、お前らのおかげだ」

ジョルジュは手を振って自動ドアを抜け、実験室を後にした。
ブーン達は自動ドアを無言で見つめ、呆けている。

('A`)「本当に大丈夫なのかねぇ……」

ξ゚听)ξ「まぁ…彼の状況はラボでもリアルタイムで把握出来るし。
      ああやって振舞っているけど、きっとショックだと思うわ」

ガイル「そうは見えなかったが……」

从 ゚∀从「身体に大した変化が無いとはいえ、ウィルスは確実に潜んでるし、
     これから窮屈なスーツで生活しなきゃなんねーんだ。
     どんな人間でもショックだろう…ジョルジュだって人間なんだ」

106 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:16:37.35 ID:CZ2h8Zdd0


カランカラン。

乾いた音が、店主に客が来た事を告げる。
せっかく着けられたベルなのに、これが仕事をするのは一日の内たった数回。

何故なら、この不味いバーにやってくるのは、限られた客だけであるから。
今宵もベルが店主に案内するのは、いつもの常連客であった。

( ^ω^)「ショボンおいすー」

(´・ω・`)「あれ、ドクオは? 小娘は、いない?」

( ^ω^)「ドクオは徹夜で仕事。ツンは部屋に帰って寝てるみたいだお。
       ツンは寝ないで作業ぶっ続けてたから、今頃ゴミのように寝てるお」

(´^ω^`)「そうか! ゴミのようになってくれてるのは安心だな!」

( ^ω^)「ちょwwwその顔やめろwwwwwwww」

会話をしながら、ブーンはいつものカウンター席に座る。
カウンター中央の席だ。

(´・ω・`)「ブーンも疲れてるだろ?
      ほら、コイツはサービスだ。ミッションお疲れ様」

ショボンは、いつものようにグラスに酒を注ぐ。
しかし今日はサービスの酒が違う。
いつもの透明色のバーボンではなく薄茶色の酒で、ブーンの覚えている限りでは見るのが初めてだ。

108 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:18:58.68 ID:CZ2h8Zdd0

( ^ω^)「それ何だお?」

(´・ω・`)「ふっ…新作のテキーラだ。最近作ってみてさ…試しに飲んでみてよ。
      とりあえずロックがいいかな」

そう言って大きな氷をトングで掴み、ちゃぽんと酒の中に落とすショボン。
少し不安そうな顔でグラスを手渡し、見守るようにブーンが口を着けるのを待った。

(;^ω^)「……いただきまんこ」

熱い視線を感じながらも、酒を口に含み始める。
よっぽど、評価が気になるらしい。

( ^ω^)「おお、すっきりした辛口だお。これは飲みやすいお」

(´・ω・`)「美味い?」

( ^ω^)「美味いお」

(´・ω・`)「ちんちん舐めてあげる」

( ^ω^)「え、いや、ちょwwwwww何のつもりだおwwwwwwwwww」

(´・ω・`)「僕なりの嬉しさの表現と、お礼」

110 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:20:36.09 ID:CZ2h8Zdd0

( ^ω^)「お礼?」

何に対しての礼なのか思い当たらず、ブーンは聞き返す。

(´・ω・`)「そ。毎回テイスティングしてくれてるのは君とドクオさ。
      君達の評価を元に、客に出す酒を決めてるんだからねぇ」

( ^ω^)「じゃあショボン、今度からサービス酒はテキーラにするお!
       しばらく美味い酒でサービスするんだお!
       そうすればバーボンハウスに来る客が増えるかもしれないお!」

人差し指を立てて熱弁するブーン。
対し、ふむふむと頭を上下させてショボンは真剣に話を聞いている。

(´・ω・`)「なるほど…お前天才だな。やっぱり、ちんちん舐めさせてくれ」

( ^ω^)「いっそのことゲイバーでも開けお」

(´・ω・`)「それいいかもしれん」

ショボンは、まんざらでも無い様子でポンと手を叩く。

( ^ω^)「急性アルコール中毒になって氏んじゃえよ」

111 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:23:26.27 ID:CZ2h8Zdd0

(´・ω・`)「冗談だ…ところでブーン、しばらく休みなのかい?」

( ^ω^)「いや、明日から新しいミッションで、ボストンに行くお」

(´・ω・`)「ボストン…また遠いなぁ」

( ^ω^)「何でも、生き残っている人達がいるらしいお。
       僕は現地のセカンド掃討と、彼等との接触だお」

(´・ω・`)「へえ…そいつは驚いた。
      一体、どのくらいの人の生存が確認されているんだい?」

( ^ω^)「正確には把握してないみたいだお。
       何でも、地下から数人が出て来たのを偶然衛星が捉えたらしいお。
       場所はボストンのハーバート大学だお!」

(´・ω・`)「名門じゃん。名門ゆえに、独自のセカンド防護対策が完成されていたとか?
      ボストンの学校の事なんて、サッパリ分からんけどさ」

( ^ω^)「だお。今回の任務は楽しみだお。
       ボストンでは、人々がどういう暮らしをしているのか…。
       何だか日本からアメリカに越した頃を思い出すおっおっ」

112 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:25:25.59 ID:CZ2h8Zdd0

(´・ω・`)「それだけ人がいればいいんだけどねぇ……」

ショボンの何気ない一言が、嫌な想像をブーンの頭に過ぎらせた。
もし、現地の人々の多くがセカンド化していたら、どうすべきなのだろうか。
セカンドの中に、生き残りの人間達の恋人や両親がいたらと思うと、気分が滅入る。

ブーンは、グラス半分程残っていたテキーラを、喉を大きく鳴らして飲み干した。
熱い物が食道を伝わり、胃に落ちるのが良く分かる。
胃の熱を冷ますように溜息をついたが、ショボンには不振な動作に見えたようだ。

(´・ω・`)「悩みでもあるの?」

心の内を見透かしたかのように、ショボンは尋ねた。
ブーンは観念し、まだ本にも綴っていない悩みを打ち明けた。

( ^ω^)「…セカンド化した人を撃つべきなのかって、今更ながら考えてるんだお。
       『セントラル』にも、大切な人がセカンドになってしまった、っていう
       人達がたくさんいると思うんだお。
       でも、それを見境無く僕が撃ち殺していいものかどうかって、悩むお」

グラスの中の氷をカラカラと鳴らしながら言っている最中、
ショボンは勝手にワインを注ぐ。
ワインを氷で飲ませる辺り、やはりショボンはバーテンダーに向いていないのかもしれない。

114 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:30:08.09 ID:CZ2h8Zdd0

(´・ω・`)「僕なら撃って欲しいと思う」

返ってきたのは、ブーンにとって意外な言葉だった。
ショボンは続ける。

(´・ω・`)「“止めて欲しい、あんな姿の母親は見たくない”。
      そう思っても止める術が無いし、それに僕には殺す勇気が無い。
      僕の代わりに君が撃ってくれるのなら、撃って欲しいと思う」

( ^ω^)「そうなのかお……?」

(´・ω・`)「まぁ、あくまで僕の場合だけどね。
      セカンドについてどう思うか、人それぞれ見解は違うだろう」

( ^ω^)「……でも、僕もセカンド化した両親は見たくないお。
       ツンだって、ドクオだって、ショボンだって、セカンド化してたら嫌だお。
       死んだ方がマシと思うくらいに、きっと嫌になるお」

ブーンはワインを一口飲む。香りこそ芳醇であるが、味はイマイチだ。
それでもブーンは、とにかく酔ってしまいたい気分だった。

117 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:32:12.30 ID:CZ2h8Zdd0

(´・ω・`)「そんな僕やツン、ドクオを、君は殺せるかい?」

( ^ω^)「無理だお」

まるで答えを用意していたかのように、ブーンは即答した。

(´・ω・`)「誰かに殺してもらえるとしたら?」

しかし、この質問に対する答えは用意していないようだ。
ブーンはワインを一口、二口とゆっくり飲んだ。
グラスを半分以上開けると、グラスをテーブルに置いた。

( ^ω^)「……分からないけど、決心には時間がかかりそうだお。
       でも、きっと殺してもらうんだと思うお」

(´・ω・`)「そうして貰った方がいいさ」

(´・ω・`)「セカンドなんて、いつまでも放っておけないかないからね。
      いずれ人を襲って喰い、新しいセカンドが増えるんだから。
      そんな連鎖は、誰かが断ち切るべきだ」

( ^ω^)「誰かが、かお」

(´・ω・`)「……君は、たまたま生まれながらにして抗体を持っている。
      だから君には、セカンドと戦う使命があると僕は思うよ…。
      他人頼りの、勝手な言い分だけどさ……」

( ^ω^)(何で…僕なんだお……)

118 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:34:20.97 ID:CZ2h8Zdd0


ブーンがボストンへ向けて、『セントラル』を発つ時刻となった。

BLACK DOGに跨って、地上へ出るエレベータを過ごす。
バイクのシートの乗り心地はすっかり慣れているが、
バイク無しで夜の街を駆けた事を思い出すと、これほど安心感のある乗り物は他に無い。

( ^ω^)「少し長旅になるお、BLACK DOG。
       とはいっても、300キロでぶっ飛ばせばすぐ着くお」

火をつけていた煙草が終わる頃、エレベータが地上に出た。

ブーンは上を見上げる。
『セントラル』地上を覆う木々の枝の隙間から、眩い朝日が零れている。
ラボで外部カメラから見た空は、今日も相変わらず雲一つ無い晴天だったが、
実際に外で浴びる日光はとても気持ちが良いものである。
それに、冬晴れの乾いた空気を浴びながらバイクを転がすのは、ブーンにとって楽しみの一つだ。

視線を上から下へ戻す。
すると、不意に左目が何かを捉えた。

森の奥の方から、セカンドに酷似した熱量反応だ。
しかし、どういう訳か反応が曖昧で、身体の所々で熱量を感知しない部分がある。

( ^ω^)「?」

暗視で森の奥を見てると、視界に映ったのは、
黒いスーツ「IRON MAIDEN」に身を包んだジョルジュであった。

119 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:35:49.09 ID:CZ2h8Zdd0
ジョルジュはゆっくりと、ブーンの方へ歩み寄る。
足取りはおぼつかず、体を左右に振るわせている。
ズームで見たジョルジュの顔は、苦しそうに歪んでいた。

(;゚∀゚)「よう…まいったぜ、こりゃ」

ドシャリ、と勢い良く地に膝を付くジョルジュ。
肩を激しく上下させており、低い唸り声を上げている。

(;^ω^)「ジョルジュ隊長!」

ブーンはバイクから飛び降り、ジョルジュの方へ走る。
近くで見るジョルジュは、体をぶるぶると震わせており、呼吸も荒い。

(;゚∀゚)「大丈夫だ。この腕のポッドから、抗体が体に流れたんだ。
     しかしまぁ、IRON MAIDENとはよく言ったもんだ。
     マジでこりゃ、拷問を受けているような激痛だ」

(;^ω^)「……こんな所で何をしていたんですかお?」

ブーンが恐る恐るジョルジュに尋ねると、ジョルジュは顔を上げた。

( ゚∀゚)「貴様に言っておきたい事があってな」

抗体がウィルスを抑えるのに伴う激痛のせいもあり、顔は普段よりも厳つく見える。
目の前の高慢なライバルが、わざわざ自分に何を言うのか考えると、
ブーンは緊張して喉の渇きを感じるのだった。

120 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:37:36.80 ID:CZ2h8Zdd0
それまで苦しみに歪んでいたジョルジュの顔が、見慣れた顔付きになった。
まるで銃でも突きつけているかのような、攻撃的な目付きだ。
それまで発していた熱量も、すっかりと落ち着いている。

改めて感じるジョルジュの迫力に、ブーンは無意識に押し黙ってしまった。

( ゚∀゚)「俺がセカンドになった時は、容赦なく殺せ」

(;^ω^)「えっ?」

( ゚∀゚)「そう易々とセカンドになるつもりはねえ。
     だが、何となく分かっちまうんだ…いずれ、セカンド化しちまうってな」

( ゚∀゚)「半年後か一年後か、あるいは一ヵ月後かもしれねえ。
     とにかく、俺がセカンドになった時は、俺を撃ってくれ」

2人は互いに目を見据えながら、沈黙した。
ただ、ブーンだけは口を開け、戸惑いをジョルジュに見せている。

(;^ω^)「どうして僕が……何で僕なんだお?」

やっと口から出たのは、疑問だった。

( ゚∀゚)「お前だからこそ、こうして頼んでいるんだ。
     セカンドを殺す事にゃ人一倍理解がある、お前にな」

(;^ω^)「理解……なんか……」

一言、呟く。

123 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:39:24.19 ID:CZ2h8Zdd0

( ゚∀゚)「ん? 何だ?」

ぼそぼそとか細い声で呟くので、ジョルジュは聞き返した。

(;^ω^)「セカンドを殺す事に理解なんか無いお!!」

深々とした森に、ブーンの叫び声が染み渡ってゆく。
一瞬にして何処までも声が遠のいてゆく感覚を得た後、木々のざわめきだけが場を包んだのであった。

(;^ω^)「どんなセカンドであろうと、殺すなんて、正しい事じゃないお…!
       『天国に送る』? ジョルジュ隊長、僕達は愚かだったお……。
       彼等だって元は人間、罪の無い人達なんだお!」

( ゚∀゚)「チッ。急にどういった心変わりだよ……。
     じゃあ聞くがよ、そりゃ罪人であれば殺して良いって事なのか?」

(;^ω^)「それは……違うお……」

( ゚∀゚)「何で人間が生きようとするのか、分かるか?」

唐突に振られた、ジョルジュらしからぬ哲学的な問いに、ブーンは困惑する。
頭を捻られるような思いにイライラしながら少し考えた後、自分なりの結論を述べ始めた。

( ^ω^)「……そんなの、誰だってそう思っている事だお。
       理由なんかあるはずがないお」

126 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:42:44.53 ID:CZ2h8Zdd0

( ゚∀゚)「その通り。人は本能で生きようとする…その本能ってのは愛さ、愛。
     誰かを愛したく、そして誰かに愛されたいが為に、人は生きるもんだ」

(;^ω^)「は?」

ブーンの反応は、疑問符をそのまま口から出してしまったかのようだ。
ジョルジュ・ジグラードの口から、「愛」という言葉が出るとは、ブーンは夢にも見なかった。
間抜けに口を半開きにしているブーンなど構う素振りを見せず、ジョルジュは続ける。

( ゚∀゚)「例え話になっちまうが、ツン・ディレイクがセカンドに殺されようとしたら、
     そのセカンドを撃つだろ?」

( ^ω^)「……撃ちますお」

殆ど即答でブーンは返した。例えの質問だとしても、当たり前すぎる。

( ゚∀゚)「それが愛だ。愛し愛されたいんだよ、お前も。
     …俺がセカンドになっちまったら、ハインリッヒやガイルと一緒にいられねえ。
     だから、お前が殺してくれ。俺は人じゃなくなるんだ。
     理性を失って本能のままに、凶暴に生きるセカンドになるんだ……殺されるのが一番良い」

( ^ω^)「……やっぱり、よく分かりませんお」

ブーンはバイクの元へ戻ろうと踵を返し、ジョルジュに背を向けて呟いた。

( ゚∀゚)「誰かを守りたいと思うのなら、セカンドを撃つ事を躊躇うな」

( ゚∀゚)「そうでもしないと、大切な人を失っちまう事になるぞ。
     親父さんや、おふくろさんみたいに、また大切な人を失いたくないだろう?」

129 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:45:21.80 ID:CZ2h8Zdd0

(;^ω^)「な、何でその事を貴方が?」

長い金色の髪を勢い良く旋回させて、顔をジョルジュに向け直す。
ブーンが振り返ると、ジョルジュは口を釣り上げた意地悪い顔を浮かべた。

( ゚∀゚)「お前の本に書いてあった」

予想外の言葉の連発に、ブーンはますます戸惑う。
ジョルジュが、こんなにも自分の事を知っているとは思いもしなかった。

( ^ω^)「何で僕の本なんか読んだんですお?」

( ゚∀゚)「……ライバルの事を知ろうと思っただけだ。
     そういや最近の本までは、俺の言っているような事をそのまま書いてるじゃねーか」

( ゚∀゚)「“セントラルの人間を守る為だ。容赦するな。殺す、奴等を撃つ。
      撃たなければならないのだ。例え、奴等が人間だったとしても。
      今を生きる人間の為に、未来の為に――”みたいな、厨くさい文章」

(;^ω^)「ちょ・・・・」

( ゚∀゚)「愛ってのは人間だけが持つ、尊い物だと俺は思う。
     決して動物には無い、人間だけの特別な物だ」

( ゚∀゚)「俺にも妻がいた」

(;^ω^)「奥さんが?」

131 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:46:41.07 ID:CZ2h8Zdd0

( ゚∀゚)「セカンドに喰われちまったがな。『セントラル』に行く前の話さ。
     俺に力さえあれば、アイツは今も生きていたかもしれねえ」

ジョルジュは顔を上げ、木々の隙間から空を眺める。
木漏れ日に照っているジョルジュの顔は、すっかり和らいでいた。
しかし、どこか寂しげで、懐かしんでいるように見える。

( ゚∀゚)「俺はずっと力が欲しかった。何者にも負けない絶対的な力が。
     バトルスーツに乗ろうと思ったのは、そんな理由だった」

ブーンは黙ってジョルジュの話を聞く。
ジョルジュは、そのまま続けた。

( ゚∀゚)「俺は、お前が羨ましいんだ……お前のその力が。
     俺のセカンドのパワーじゃ、誰かを守る事は出来やしねえ。
     それにもう、もはやバトルスーツに乗る事もままなら無いだろう…」

腰に着けてあるガンホルダーから、
サッと取出した拳銃の銃口をブーンに向け、ジョルジュは言った。

( ゚∀゚)「いいか。セカンドってのは人を不幸にする存在でしかない。
     ハインリッヒは兄を失った。俺は、俺自身がセカンドになっちまった。
     これ以上“セカンドの蔓延”を防ぐのは、お前の使命だ」

(;^ω^)「僕の…使命…ですかお…」

133 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:49:13.56 ID:CZ2h8Zdd0

( ゚∀゚)「そうだ。偶然、免疫を生まれ持ってしまった、お前の宿命だ。
     やれるのはお前しかいねーんだからよ……ヒーローってのは皆そんなモンだろ?
     かのスパイダーマンだって偶然たまたま、ああなっちまったんだしな」

( ^ω^)「………」

そこまで言うと、ジョルジュは銃をしまい、
別のホルダーから何かを取り出して、それをブーンに投げつけた。
煙草の箱だ。

( ゚∀゚)「俺はいらねえ。体質が変わったせいか、ニコチンを欲しないようだ。
     長旅なんだろ? 餞別にくれてやるよ」

( ^ω^)「ラッキーストライク、ですかお」

( ゚∀゚)「戦場に行く前、敵地に潜伏している時、よく吸ったもんだ。
     俺はもう下に戻るぜ…さっきから携帯端末がピーピーうるせえ。
     スーツの調整を抜け出したからな、ツン・ディレイクがご立腹だ」

( ^ω^)「……ジョルジュさん、生きてくださいお」

135 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:51:20.76 ID:CZ2h8Zdd0

( ゚∀゚)「ああ。お前に殺されるなんて、実はまっぴらだからな。
     俺はまだ生きるぜ…人間としてな。治療だって諦めた訳じゃねえ」

( ゚∀゚)「お前もせいぜい、死ぬんじゃねーぞ」

( ^ω^)「ええ。少なくとも、ジョルジュ隊長より早く死にませんお」

( ゚∀゚)「その意気だ。こっちはガイルもいる。心配すんな」


( ^ω^)「じゃあ、行って来ますお」

再びBLACK DOGに跨り、動力を作動させる。
エンジンの炸裂音が辺りに鳴り響いたと思えば、既にそこにブーンの姿はいなかった。
森の奥へと続いているタイヤ跡だけが残っている。


( ゚∀゚)「チッ。案外、脆い奴だったんだな。
     まだ20のガキだしな」

( ゚∀゚)「もうパイロットは無理かもしれねえが、俺は俺なりにアイツらを守っていくつもりだ。
     俺の追い求めていた絶対的な力が、ブーン、お前だって信じてな」

137 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:53:27.90 ID:CZ2h8Zdd0


( ^ω^)「行くおBLACK DOG! 目指すはボストンだお!」

高く聳える瓦礫の摩天楼の林の中を、黒いバイクが音を伴って走り抜ける。

感覚を感じる肌に当る風は、高速で走っているせいもあって、
まるで針を刺されているような痛みのある冷たさがある。
しかし、何とも心地良くもある冷たさだ。

広大なマンハッタン、いや、ニューヨーク州を抜けるのは時間が掛かってしまう。
ボストンまでは、まだまだ遠い。
長い道のりを想像したら、やけに煙草が欲しくなってきた。

ブーンは胸ポケットから一本の煙草を手に取る。
太股のホルダーからBBBladeを取り出すと、出力を最小にしてエネルギーの刃を放出させる。
それを煙草の先に持って行き、火を点けてやった。

( ^ω^)「ラッキーストライクは、ずーんと喉に来るお……」

喉に纏わりつく煙草の手応えと一緒に、ジョルジュの言葉は頭から離れようとしない。
まるで壊れたテープレコーダーのように、頭の中で延々とループしている。

139 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/10/04(土) 13:54:28.53 ID:CZ2h8Zdd0
後悔と、自分に対する羨望の念。
それをまさか、プライドの塊のようなジョルジュから感じるとは、ブーンは夢にも思わなかった。


( ^ω^)(容赦無く、撃つんだお…いや、殺すんだお……!)


ブーンは決意する。
セカンドを殺すのが正しいとか、間違っているとか、もはや決めかねる事は出来ないだろう。
人が納得や満足をしてセカンドを殺すのは、きっと「後悔をしたくないから」かもしれない。

それでもブーンは、もうクォッチやジョルジュのような
犠牲者を出したくないと、ただそう切に思ったのだ。

今のブーンには、「使命」という言葉だけが、重く心に圧し掛かっていた。

唯一抗体を持つ強化人間の自分に課せられた使命であるが、
その使命感に追われた今の気分は不思議と清々しく、心地良くもある。


ブーンは躊躇い無くバイクのハンドルを限界まで捻って、バイクを加速させた。
目指す先はセカンド発生後、未だ誰も訪れていない都市、ボストンである。


                        第12話「ジョルジュの羨望」終

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