- 81 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:17:11.42 ID:aYFp660U0
- 登場人物一覧
――― チーム・ディレイク ―――
( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、本名不明。年齢20歳。戦闘員。
セカンドに対する強い免疫を持つ強化人間「システム・ディレイク」。
クォッチとの戦いで右腕を失う他、身体機能を低下させる。
現在、「ニョロニョロちゃん」なる蚯蚓の大型セカンドと戦闘中。
ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
ブーンを強化人間に改造した弱冠19歳の天才科学者少女。
貧乳。嫌煙家。
モララーの「白い兵隊」と共に、自らブーン達の回収へ向かう。
('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
ツンをからかうお調子者の変態。空気を読まない。
ツンと共にブーン達の回収へ向かう。
- 82 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:18:32.38 ID:aYFp660U0
- ――― チーム・アルドリッチ ―――
从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
ツンと並ぶ天才科学者なのだが、プライドの高い両者は犬猿のライバル。
衛星「アルドボール」で、ブーンとガイルをナビゲートする。
( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
深紅のバトルスーツを操るバトルスーツ部隊隊長。
ブーン、ガイルと共に「セントラル」への帰還を目指すが、
途中セカンドに襲われ、セカンドウィルスに感染する。
ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
バトルスーツ部隊副隊長としてジョルジュをサポート。
クォッチとの戦闘により、機体を失う。
ブーンと共にセカンドと交戦中。
- 83 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:20:13.85 ID:aYFp660U0
- ――― その他 ―――
/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
現議会長、元アメリカ空軍大佐。
任務と「セントラル」の為には非情になる男。
( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
自身の研究成果である「Hollow Soldier」を従える。
( 〓 )Hollow Soldier(虚ろな兵士):年齢不明
モララーにより生み出された超人。
クローンテクノロジーにより量産され、部隊として編成された。
ツン達の護衛として、ブーン達の回収へ向かう。
- 84 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:22:23.40 ID:aYFp660U0
-
第10話「脱出 クイーンズ区」
“ニョロニョロちゃん”と名付けられた蚯蚓の怪物が、躍動した。
新鮮な血肉に飢えた蚯蚓は興奮しているのか、体を激しく左右させている。
そこは車道の多い道なのだが、蛇行しなければならない体の為に収まり切っておらず、
前進する度に通りの両側のコンクリのビルに衝突してしまっている。
見るからに厚く頑丈そうな皮膚で叩きつけられたビルは、音を立てて外壁を破壊されている。
太く長い胴体であるにも拘らず、動きが速い。
しかし、ブーンは避けきれない速度ではないと、情報処理システムの下した判断を認知する。
ただし、ガイルという人間の存在を除いての、話である。
(;^ω^)「ガイルさん!」
到底、人間には追いつく事の出来ない速度だ。
それに、ガイルは恐怖して足を動かそうとはしていなかった。
まるで地面に根を下ろしたかのように、その場に立ち竦んでいた。
蚯蚓が2人を喰らおうとした瞬間、ブーンは体当たりしてガイルを遠くに押し飛ばした。
ブーンの怪力で吹き飛ばされたガイルは、元居たビルの中へ吹っ飛ばされた。
ガイルを吹き飛ばしたブーン自身も、攻撃を回避しようと咄嗟に飛ぶ。
だが、一瞬であるが回避行動が遅れた為、敵の追撃を避ける余裕は無かった。
- 85 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:25:01.83 ID:aYFp660U0
- 獲物を喰らい損ねた蚯蚓は連続的に動く。
口のある部分を頭部とするならば、蚯蚓は首に当る部分をくねらせ、
鋼鉄のようなその皮膚をブーンに叩き付けた。
攻撃をまともに受けてしまったブーンは、血を吐き散らしながらビルの壁へ激突した。
そのまま地面に仰向けに倒れ込み、びくびくと体を痙攣させている。
アスファルトの黒い地面が、ブーンの血液で赤く染まる。
从;゚∀从「ブーン!!」
アルドボールの中継を見ていたハインリッヒが叫んだ。
それと同時に、ブーンの左目を介して送信されたデータや映像を見ていたオペレータ達が、慌しく動き始める。
「こ、呼吸停止! 生命維持装置が作動!!
システム1番から5番までシャットダウン!」
「胸部プレートに大きな損傷あり! 出血が酷い……」
「博士! ツン博士!! 応答願いますか!?」
司令席の荒巻・スカルチノフも席を立ち、口元のマイクフォンに向けて大声を出す。
/;,' 3「ツン・ディレイク! まだ到着せんのか!?
B00N-D1は戦闘不能となった!」
- 86 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:27:30.43 ID:aYFp660U0
- ※
ツンとドクオ、H-Soldierを乗せたヘリは、クイーンズ区上空へ近づいていた。
しかしながら、回収ポイントまではまだ数分かかる距離である。
だが、遠方の空からでも、暴れ狂う巨大なセカンドの姿は確認出来ていた。
ξ;゚听)ξ「状況は確認しています、荒巻司令官!
ヘリは残り5分程でジョルジュ隊長のいる地点へ到着できます!」
携帯端末に入信された情報に、ツンとドクオが驚愕していた。
オペレータ達は随時ブーンの情報を送っていたので、状況の深刻さも十分に把握しているのだ。
(;'A`)「システム復旧まで何秒かかる!?」
『残り70秒で回復します! しかし、身体機能に異常多数……。
戦闘は極めて困難かと……意識が戻るのかどうかも分かりません……』
(;'A`)「何てこった…クソッ!!」
ドクオは両手を思い切り壁に殴りつけ、悪態を付く。
( 〓 )「ご心配無く」
初めて、白い兵士が自分から話しかけた。
(;'A`)「アンタら! あいつを倒せる実力があるのか!?」
( 〓 )「はい。ですから、ツン・ディレイク博士。
まずは、このままジョルジュ・ジグラードの位置へ向かって頂きたい。
彼を救出した後、我々はそのまま敵の排除に向かいます」
- 89 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:30:30.44 ID:aYFp660U0
-
ξ;゚听)ξ「つまり、敵の位置までヘリで運ぶ必要が無い、って事かしら?」
( 〓 )「はい。ヘリよりも我々の足の方が速いかと」
自信、ではなく、確信を感じさせる口調だ。
――あの大型セカンドは倒せるのが当然である、と。
抑揚の無い無機質な喋り方が、ツンとドクオにそう感じさせた。
ξ;゚听)ξ「任せたわ。もう、あなた達以外に頼る人がいないのよ!」
ツンは、考えようともせず判断を下した。
ドクオもツンの判断に口を挟もうとはせず、じっと白い兵士達の顔を見ていた。
すると突然、ドクオはヘリの底へ膝を付き、彼女達に請うのだった。
('A`)「頼む! ブーン達を救ってくれ!」
( 〓 )「ご心配無く。それが我々に課された任務の一つであります」
白い女兵士達は、腰にぶら下げた銃をホルダーから外し、手に持った。
重量感のある黒色の銃が、ヘリ機内の電気に照らされて、鈍く光った。
- 90 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:33:00.71 ID:aYFp660U0
- ※
ブーンが吹っ飛ばされる一部始終を見ていたガイルは、
暗いビルのエントランスの前で、全身を恐怖で震わせていた。
ガイルの存在に気づいたセカンドが、ゆっくりと頭をガイルへ近づけてゆく。
目の前に近づけば近づく程分かる、その圧倒的な大きさ。
巨大な口から吐き出された吐息の風圧で、ガイルは後に吹き飛ばされた。
ガイル(に、逃げろ……逃げろよ俺……何突っ立ってるんだよ……)
ガイルは逃げようとしないのではなく、逃げる事が出来なかったのである。
頭と首から下が完全に切り離されたような、そんな感覚に陥っていた。
必死に「足が動け」と念じようとも、全く言う事を聞いてくれないのだ。
逃げようともしない獲物を見たセカンドが、舌なめずりする。
長い舌から零れ落ちた大量の唾液が、ビルの前の地面をドロドロに溶かした。
ガイル(ぶ、ブーン、助けてくれ……)
ブーンが本来の状態であったら、このような事態にはならなかっただろう。
しかし、今の状態でガイルを抱えながら動けば、敵の速度に追い着かれてしまっていた。
ブーンは、先にガイルを助ける必要があったのだ。
- 91 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:34:13.14 ID:aYFp660U0
-
从;゚∀从「ガイル! 逃げろ! 逃げろって!!」
聞こえるはずもないが、モニターの中のガイルに向かって懸命にハインリッヒが呼びかける。
だが、ハインリッヒの呼びかけも虚しく、ガイルは決して逃げようとしなかった。
ガイル「ぶ、ブーン……助けてくれよおおおおおおお!!!」
ガイルはマスクの中で、涙を流して叫んだ。
しかし、その悲痛な叫び声はブーンには届かなかった。
ブーンを活動させるシステムは回復しつつあり、残り十数秒でシステムは再起動する。
だが、システムが起動しても意識が回復する保証は無い。
ガイル「ブーン!! ブゥー――――――ン!!!」
ブーンに、ガイルの声が聞こえるはずが無かった。
蚯蚓の大きな頭がビルのエントランスに支え、ガイルを捕食する事が出来ない。
蚯蚓は、自身の持つ長い舌を伸ばし、その先端をガイルの右足に巻きつけようとした。
ガイル「うわああああああああああああああ!!」
無我夢中で、機関銃のトリガーを引いた。
断続的に発射された弾丸が、大きく開かれたセカンドの口内へ消えてゆく。
弾丸は口内の至る所を突き破り、体の内部へと突き刺さった。
ガイルを引っ張り出そうとしていた舌も銃撃を受け、その矛先を宙へと変えた。
- 101 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:46:55.84 ID:aYFp660U0
- 小さいが、しかし、着実に増えてゆく口内の傷口から、多量の血液が吹き出て来た。
やがてセカンドは痛みを堪え切れずにエントランスを離れた。
千切れた舌が、地面へドサリと落ちた。
偶然、銃の乱射を根元から受けてしまった為、千切れてしまったようだ。
蚯蚓は赤い血をそこら中に吐いて、痛みに悶える。
苦痛を訴える叫び声は凄まじく、ガイルは体の芯からビリビリと震わされた。
しかし、ガイルは怯まなかった。
エントランスから出ずに、離れたセカンドを狙い撃ちにする。
ガイル「うわああああああああああああああああッ!!」
徹底的に頭部を狙って撃つが、頑丈な皮膚に弾丸は弾き返された。
どうやら、脆いのは体内に限るらしい。
ガイルは引き金を引きながら、照準をしっかり口内へ定める。
再び、無数の弾丸が口内へ突き刺さり、多量の血液を口内に溜めさせた。
《あああああアアアアアああアアアアアアアアアアアああアアあああア》
金切り声を上げた蚯蚓は、血を吐き散らしながら体を大きく仰け反らして弾丸を受け流す。
傷付いた頭部を上空へ持ち上げて、体勢を立て直した。
しかし、冷静さは微塵も感じさせない。
痛みで怒り狂っているのか、体を激しく動き回している。
辺りの高層ビルに体を打ちかまし、倒壊させる。
- 103 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:49:55.11 ID:aYFp660U0
- ガイルは、攻撃の手を一度休めた。
口内に命中しなければ、玉を無駄にするだけだからだ。
ガイル「ど、どうせ死ぬんなら、最後まで足掻いてやる!!
ブッ倒せたら御の字ってやつだ! きやがれ化け物!!」
ガイルは、ビルの奥へ身を隠した。
蚯蚓は、ガイルの挑発に呼応するかのように、弓なりに体を曲げた。
そして、投げ込むようにして頭部をエントランスに向かわせ、ガイルを喰らいにかかる。
ビルのエントランスが、蚯蚓の胴体に沿った丸い大きな穴と化した。
ビルに侵入した蚯蚓が、奥へ逃げ込んだガイルを追う。
ガイル「かかったな、ニョロニョロ野朗!」
ガイルは、口を開けて自分を飲み込もうと追うセカンドに向って、「黒い何か」を投げ込んだ。
蚯蚓の牙がガイルの頭に刺さろうとした瞬間、蚯蚓の口内で爆音と共に何かが爆ぜた。
ガイル「ざ、ざまあみろ! グレネードでも喰らってやがれ!」
口から炎が上がり、見る見る内に頭部が焼け爛れてゆく。
皮膚や肉が焼け、屋内は急速に煙が充満し始めた。
ガイルは、追い込まれたのではなく、呼び込んだのだ。
正確に口内を攻撃するには、左右上下に体を動かされぬよう、一直線に襲われる必要があった。
頭部からゆっくり焼けてゆく蚯蚓を横目に、ガイルは急いでビルを脱出した。
そして、持っていた最後のグレネードのピンを抜き、ビルの外から中へ投げ入れた。
投げてから4秒後にそれは爆発し、脆くなっていたビル一階の天井の大部分が、崩れ落ちる。
- 107 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:52:58.18 ID:aYFp660U0
- ※
从;゚∀从「ガイル! 良かった!!」
無事ビルの中から生還したガイルの姿を見て、ハインリッヒは思わず拳を握り込んで叫んだ。
その場に居る多くの人間が割れんばかりの声を上げ、司令部は大歓声に包まれた。
「1番から3番のシステム再起動!
情報処理システム、神経系統の一部が回復しました!」
「心肺機能回復! なんとか正常値まで持っていけそうです!」
「あ! い、意識が戻りました!」
そんな中、ブーンの意識回復という朗報も行き交う。
チーム・ディレイクはもちろん、チーム・アルドリッチの面々も顔を緩ませている。
犬猿のライバルチームによる共同ミッションであったが、気がつけば互いを抱き合って
喜びを分かち合うようになっていた。
(;・∀・)「ただの人間が…あれを倒すとは…信じられんな……」
科学者、モララー・スタンレーが目を見開いていた。
セカンドの質量、速度、生体的特徴。
あらゆる要素から鑑みて、人間如きが敵う相手ではなかったはずだった。
/ ,' 3(よくやってくれた、ガイル!)
『セントラル』を統べる者として、そしてガイルと同じ元軍人として、
荒巻・スカルチノフはガイルを誇らしく思った。
- 110 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:54:45.26 ID:aYFp660U0
-
ガイル「や……やったのか!?」
セカンドに喰われそうになった時、ガイルの脳裏に横切ったのは、
ジョルジュ・ジグラードの言葉だった。
「勝利の可能性を見出せたなら、それを命を捨てる覚悟ででやるべきだ」。
ガイルが、ハインリッヒを説得するのに使った言葉でもある。
気づけば機関銃のトリガーを無我夢中で引いていた。
半ば自暴自棄な攻撃であったが、それが思わぬ勝機を生み出したのだ。
蚯蚓のセカンドはしばらく胴や尾を痙攣させていたが、
やがて動かなくなったのをガイルは確認すると、近くで倒れているブーンの元へ急いで駆け寄った。
ガイル「ブーン! しっかりしろ! ブーン!!」
全身の殆どが機械である重たいブーンを抱きかかえ、何度も呼び掛ける。
ブーンの顔は血だらけだが、血筋から覗く肌は真っ青である。
( ゜ω゜)「うう……おーん…………」
目は開いているが焦点は合っていない。
意識が混濁しているのか、はっきりとした言葉を喋ろうとはしない。
- 111 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:57:07.62 ID:aYFp660U0
- 口の周りやジャケットも血に塗れており、多量の吐血をしていた事が分かる。
自分と同じような内臓を持っているのかガイルは知らないが、内部も相当に
傷めているのは確かである。
よく見れば、腹部からも出血していた。
ガイルは、外傷の程度を確認するべきと思い、ブーンのシャツを捲った。
ガイル「う……ひでえ……」
腹部の皮膚が破られ、そこから見える血塗れの金属プレートや機械に大きな亀裂が走っており、
そこからは充血したピンク色の肉が覗いている。
ブーンの腹部に包帯を巻きながら、ガイルは思う。
――俺は、ブーンの事をスーパーマンか何かだと勘違いしていたのだと。
確かに彼は、機械仕掛けの強化人間だ。
しかし、中を見てみれば俺と同じ人間と差ほど変わらない。
自分のと同じ形と色をした内臓と血を持っている、人間の青年だ。
ガイル「すまなかった……ブーン」
セカンドに喰われそうになった時、ブーンに助けを求めてばかりいた事が情けない。
そんな俺の弱さが、ブーンを今の窮地に追い詰めてしまったのだろう。
いや、きっとそうだ。
思えば、クイーンズ区の街を歩き始めてからは、ずっとブーンに頼りっぱなしだった。
バトルスーツも無く、どうすればいいのか不安だった。
でも、ブーンと一緒なら、どうにか生きて戻る事が出来るんじゃないかって。
- 112 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 16:58:43.69 ID:aYFp660U0
- 俺は間違っていた。
生き残るという事は、強者の後ろに隠れたり、戦闘機に乗る事ではないんだ。
どんな僅かな可能性であっても、死に物狂いでそれに向かう事なんだ。
ジョルジュ隊長の言っていた通り、きっと、そうだ―――。
ガイル「行くぞ、ブーン!」
ガイルは、一本だけ残っているブーンの左腕を自分の肩にまわして担いだ。
ただでさえ重たいスーツを着ているというのに、その上ブーンを担いでいるのだから、
ガイルにかかる負担は大きかった。
一歩、また一歩と、ガイルはゆっくり足を交互させる。
ブーンを担いで歩き始めてすぐに、ガイルの全身は拭うのも面倒になる量の汗に覆われた。
だが、ガイルは根を上げずに、まだ遠くの回収ポイントを目指した。
蚯蚓の突っ込んだビルの前を通り過ぎると、赤く太い胴体がダラリと横たわる大通りに入った。
絶命した今もなお、胴体から拭き出している酸がアスファルトをじっくり溶かしている。
ガイルは酸を踏んだり、また、酸が降りかからないように、なるべく道の端へ寄った。
蚯蚓の胴体が終わる辺りは、交差点になっている。
2人が目指す回収ポイントはその近辺であり、ジョルジュが身を隠している路地も、そこにある。
たかが50メートル程の距離が、今のガイルには気の遠くなるような長い道に思えた。
- 115 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:01:54.04 ID:aYFp660U0
- 何事も無ければ10分程度で到着出来た距離。
ガイルの気力は満ちているとはいえ、疲弊し切った体で傷ついたブーンを担いで歩くとなると、
10分では到着する事は出来ない距離である。
その長い道程の少しを行った頃――時間にして5分程――ガイルの耳に、
ブーンのか細い声が入って来た。
(;^ω^)「が、ガイルさん……助かり…ましたお……」
ガイル「ブーン!? 意識が戻ったのか!」
ブーンの蒼白な顔には、いつものにこやかな笑顔が浮かんでいた。
誰の目にも、気を張って振舞っているのが明白であろう。
(;^ω^)「もう少しで…回収地点ですお……ツン達がもうすぐ来てくれますお……
だから、頑張りましょうお……」
ガイル「……ああ、頑張ろう、ブーン」
励ます立場が逆だろう、とガイルは心の中で呟いた。
『ナイトウ! 気がついたのね!?』
ブーンのヘッドフォンのような右耳に、ツンの緊迫した声が入る。
オペレータの誰かが、ブーンが喋れるまで回復した事をツンに伝えたのだろう。
- 116 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:04:20.70 ID:aYFp660U0
-
(;^ω^)「ツン……もう…着てるのかお?」
ξ;゚听)ξ『もう着いたわ! ジョルジュ隊長は回収して、今抗体を打ち始めたわ!
すぐに応援がそっちに駆けつけると思う!』
(;^ω^)「だ……そうですおガイルさん。
僕達…助かるみたいですお……ジョルジュ隊長も…無事だそうですお…」
喋るのが少し辛かったブーンは、右耳に備えてある外部スピーカーから音声を流した。
ジョルジュが無事に助けられた事を知り、ガイルは安堵の溜息を付く。
从;゚∀从『ブーン、ガイル…お前らにジョルジュの救助を頼んで…その……』
申し訳なさそうに呟くハインリッヒの声が耳をくすぐる。
結果的にジョルジュは救助されたが、ブーンとガイルが絶体絶命の危機に立たされた事を、
ハインリッヒは後悔するのだった。
(;^ω^)「いえ…結局、アイツは倒さなくちゃ…ならなかったと思いますお…。
あんなの…予想不可能ですお…」
まだ口絶え絶えになりながら、ブーンがハインリッヒを励ます。
从;゚∀从『すまん…アルドボールの欠点は、地中にいるセカンドの索敵が出来ない事だったんだ。
この危機を招いたのはアタシのミスだ。もっと注意していれば……』
(;^ω^)「い、いいんですお…誰のせいでも無いですお……」
- 119 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:06:46.49 ID:aYFp660U0
-
ガイル「ブーン、あんまり喋るんじゃない…まだ随分辛そうじゃないか」
(;^ω^)「す、ごほっ…すみませんお……」
咳と出たのは少し黒味を帯びた血。
喋るなと言ったのに喋るブーンを、ガイルは「少し融通の利かない奴だ」と改めた。
ふと、ガイルが目を通りの奥へ向けると、
暗視の中、遠くの方で複数の白い何かが動いているのが見えた。
それも、かなりの速度で近づいてきている。
ガイル「クソッ! セカンドか!?」
ブーンをその場に降ろし、機関銃を構えるガイル。
トリガーに引っ掛けた指に力を入れようとした時、
ブーンのスピーカーからハインリッヒの声が喧しく流れた。
从;゚∀从『そいつらは味方だ! セカンドは後ろから来るぞ!』
ガイル「何!?」
ハインリッヒの声に促され、パッと後ろを振り返る。
その視線の先には、何もいない。
だがしかし、次第にざわめきのような物音が聞こえ始めてきた。
- 121 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:08:36.09 ID:aYFp660U0
- ブーンの右耳には、はっきりとセカンド達の血肉に飢えた叫び声が聞こえていた。
今すぐにでも血を飲み、肉を喰らわなければ死んでしまいそうな、
そんな強烈な飢餓を感じさせる耳障りな声だ。
(;^ω^)「さっきの大型…を倒したから……」
从;゚∀从『大方、邪魔なライバルがおっ死んで自由に
狩りが出来るようになった、ってとこだろうな!』
ハインリッヒの推測は、ブーンの考えと概ね同じだった。
ここいらを縄張りにした厄介な猛獣がいなくなり、狙っていた獲物を
今度こそ捕えられると、奴らセカンドは考えたのだろう。
ξ;゚听)ξ『アタシ達も今すぐそっちに向かうわ!』
ツンの通信が切れると同時に、遠方からヘリのプロペラが空気を切っている音が、
深々と広がる闇の空で鳴り響く。
本当に近くにいる事が分かると、ブーンは少し力が沸いたような気がした。
ガイル「ほら、俺の肩に掴まれ! 走れるか!?」
(;^ω^)「は、はいです…お…」
ガイルの肩へダラリと腕を伸ばし、弱弱しくブーンが言った。
- 125 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:11:57.20 ID:aYFp660U0
- ブーンも目覚め、2人が前進する速度は少しばかりだが速まった。
とはいえ、前方を除くあらゆる方向から押し寄せて来るセカンド達と比べれば、雲泥の差。
そう、セカンドが数を増しているのだ。
聞きつけたのはヘリの音なのか、はたまた他のセカンドの声を聞いてなのか。
それは定かではないが、ともかく、ブーン達を取り囲むようにして大勢が迫って来ている。
(;^ω^)(ダメだお! 追いつかれるお!)
遠くで聞こえていたざわめきも、既に荒ぶる波の音のように大きくなっている。
幾重にも重なり合うセカンドの叫喚は、このマンハッタンの広大なクイーンズ区を埋め尽くした。
急速的に異常さを増す街の様子に、ブーンとガイル、そしてアルドボールでクイーンズ区を
見ている者全員が、戦慄した。
まるで昔の――5年程前の街のようだと、刷り込まれた恐怖をぶり返す。
ガイル「ブーン! もう少しだ!」
セカンドは、もはや目と鼻の先にまで迫っていた。
あと数秒、という差で捕らわれてしまう距離である。
それと同じくらいの距離で、白い女兵士――Hollow Soldier――が、
ブーン達の前方で黒い巨大な銃を手に、待ち構えていた。
( 〓 )「私達の後ろへ飛べ。早く」
- 126 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:13:57.49 ID:aYFp660U0
- 言われるがままに、ブーンとガイルは身を投げるような勢いで地を蹴る。
2人は彼女達の間を縫って飛んで行き、そして地面へ激突した。
( 〓 )「構えろ!」
6人の女兵士が、一斉に手に持った銃のトリガーを引く。
すると、元々大人の腕一本程はある銃が変形し、2、3倍程の大きさとなった。
変わったのは銃身と銃口で、まるで電波を受信するアンテナのような広い円を成している。
大掛かりな機構を持つ銃と思われるが、変形に要した時間はほんの僅か数秒だ。
( 〓 )「撃て!」
その声と共に、兵士達は再び一斉に銃のトリガーを引いた。
銃口からは、ブーンの操る兵器にそっくりの蒼い光が放たれた。
( ^ω^)(これは…ブルーエネルギーなのかお…?)
帯状に真っ直ぐ放出された蒼い光がセカンドを焼き尽くす。
光に当たったセカンドは、砂で建てた城を崩すかのように朽ち果ててゆく。
銃が放出したエネルギー量から、兵士達の身体能力は自分と比べても
かなり強靭なものであると、ブーンは察する。
強力な兵器ではあるが、放出する範囲はそれ程広くはない。
この場にいるセカンドを全て殺そうとすれば、逆にブーン達がやられてしまうだろう。
多勢に無勢だ。
( 〓 )「掴まれ」
だが、白い兵士達による攻撃により、セカンド達が怯んでいる。
その隙に彼女達はブーンとガイルを抱え、来た道を戻り始めた。
- 128 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:16:16.75 ID:aYFp660U0
- 重たいブーンを背負っているにも関わらず、その足はセカンドを凌駕している。
セカンド達と少しずつ距離を離しながら、「蚯蚓」の胴体の終わり目にある
交差点で待機しているツン達のヘリを目指した。
ガイル「見えた! ヘリだ!」
ガイルの目にもヘリを目視できる位置までやって来た。
スクランブルの交差点の中心に着陸しており、搭乗口を開けて待機している。
その両脇には、銃を構えた白い兵士が膝立ちで敵に備えていた。
ξ;゚听)ξ「ナイトウ!」
(;'A`)「ブーン!」
(;^ω^)「ツン! ドクオ!」
搭乗口から、ツンとドクオの姿が見えた。
2人も、威力は微々たる物だが抗体を撃つ事が出来る銃を構えている。
从;゚∀从『ツンちゃん! 後ろ後ろー!!』
ヘリを中心に中継しているアルドボールから送られた映像では、
四方八方からセカンドが「食料」を求め迫っていた。
ハインリッヒの通信を受け、ツンはヘリを護衛している兵士達に、
ヘリ後方のセカンドを攻撃するように檄を飛ばす。
指示を受けた兵士達は機械のごとく精密な動きで目標を捉え、撃つ。
しかし、セカンド達はもはや歯止めが効かない様子で、全く攻撃に怯む素振りを見せない。
ひたすら獰猛に、そして貪欲に、街に存在する人間達を喰らおうとする。
- 129 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:17:56.18 ID:aYFp660U0
- それは、ブーン達を追うセカンドも同様であった。
セカンドがセカンドを押し合い、押し退け、我が我がと食料を追い求める。
立ち止まりさえすれば、たちまち貪欲な渦の中に淘汰されてしまうだろう。
「蚯蚓」の長い胴体が“終わり”、一向はヘリがある交差点に出た。
数秒の差でセカンドも交差点へ流れ込み始める。
(;'A`)「早く乗れ!!」
ブーン、ガイルを背負った兵士が、搭乗口からヘリに乗り込んだ。
そして彼等を護衛して来た兵士達もヘリに乗り、ヘリ両脇で攻撃していた
兵士達も攻撃を継続しながら中へと戻った。
同時に、プロペラが動き出す。
女兵士達はヘリの搭乗口や窓から、セカンドをヘリに近づけないように攻撃する。
セカンドの中にはヘリに向かって飛び込んで来る者もいるが、
女兵士の正確な攻撃によりあえなく撃墜されている。
ヘリが、地を発った。
それでも、セカンド達の多くが跳躍してヘリを追う。
(;'A`)「…や、やっぱ、こええ……」
元が同じ人間だとは到底思えないと、ドクオは恐怖した。
言語を持たないただの甲高い叫喚であるが、ドクオにはそれが、
「お前らの肉を喰わせろ。お前らの血を飲ませろ」と言っているように聞こえた。
- 132 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:20:33.32 ID:aYFp660U0
- ヘリは無事、クイーンズ上空へと出た。
その空の下、クイーンズの街では無数のセカンドが蠢いていた。
もはや手に届かない空にヘリがあろうとも、多くのセカンドが跳び、手を伸ばしている。
(;^ω^)(凄い量だお…前に調査しに来たよりも、ずっと多い気がするお…)
やがて、その「食料」が手に入らないと理解すると、泣き叫び始めた。
もう少しで手に入れられた食料を逃してしまったのが、悔しいのかもしれない。
腹が減り、喉が乾いているだけなのかもしれない。
新鮮で美味いらしい人間の血肉を逃したセカンド達は、蚯蚓を喰らい始めた。
無我夢中で肉に噛み付き、当面の飢えを満たそうとしている。
彼等は、食えれば何でもいいと考えている訳ではない。
我々人間と同じくして、美味い物を食いたいと思っているだけなのである。
人間の脳を喰らって知恵を身に着けようとするのは、目的としては第二に位置するだろう。
しかしながら、彼等の世界には既に人間はおろか、動植物も満足に存在していない。
もう、彼等にとって「食べる」という事は、単に生き延びる手段としてなりつつあった。
('A`)「ちくしょう」
ドクオは煙草の煙と共に言葉を吐き捨てた。
眼下のセカンドを見て、ドクオは同情めいた悲しい気分を感じるのだった。
セカンドも必死に生きようとしているのだな、と。
- 134 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:23:47.15 ID:aYFp660U0
- ※
ヘリ機内は、ジョルジュを乗せた診療台を中心に、
壁に沿ってベンチを設置した作りとなっている。
ブーンにガイル、ツンとドクオ、ジョルジュ、それから白い女兵士7人の
計12人で乗っていても、まだスペースが残っている大きなヘリだ。
ジョルジュは、背の低い診療台で仰向けになって寝ていた。
透明のカバーの中に入れられて隔離されており、誰の手にも触れないようにしてある。
言うまでも無く、ジョルジュが誰かに触るという危険も考慮しての、隔離だ。
(;^ω^)「じょ、ジョルジュ隊長は? ごほっごほっ!」
ベンチに寝そべったブーンは血反吐を吐きつつも、ジョルジュの容態をツンに尋ねた。
するとツンは、眉間に皺を寄せた複雑な表情を浮かべながら、ブーンのシャツを捲った。
ξ゚听)ξ「喋らないで。
アンタは自分の体を心配した方がいいわ」
ツンは傷口を見て、溜息を付く。
ξ゚听)ξ「内臓を保護しているプレートが割れちゃってるもの。
当り所が悪かったら、死んでたわよ?」
- 136 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:25:37.02 ID:aYFp660U0
-
(;^ω^)「さ、サーセン……」
ξ#゚听)ξ「喋るな」
言う事を聞かないブーンにツンは少しイラっとした。
ガイル「それで…隊長はどうなった?」
ガイルは、ジョルジュを覆う透明のカバー
に手を当てて聞いた。
ツンは、ブーンの腹部を診ながらガイルの問いに答える。
ξ゚听)ξ「彼を発見した時、既に少し危険な状態に陥っていたわ。
その時、目は殆ど見えていなかったみたいだし、動悸が凄く激しかった。
何よりも、体温が上昇しつつあったの」
ガイル「それって……まさか……」
ガイルが視線と言葉を床に落とし、落胆する。
ξ;゚听)ξ「あ、いや、セカンド化してる訳じゃないわよ!
抗体を打ってからは、大分落ち着いてきてるし」
ガイル「そ、そうなのか……」
ガイルは、ほっと溜息を付いて安堵する。
- 137 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:27:31.97 ID:aYFp660U0
-
('A`)「ただ、抗体が完全にセカンド化を防いだのかも、分からないんだ…」
ドクオが声を落として補足し、その場はしんと静まった。
一同は、静かに寝息を立てているジョルジュへと、視線を注ぐ。
蒼白な顔色で静かに寝ているジョルジュ。
普段の高慢で高飛車なヘつら笑いも無く、常にギラギラとした鋭い目も、今はその瞼を閉じていた。
肩の傷には包帯が何重にも巻かれているが、赤い色が滲んでいた。
从 ゚∀从『でも、コイツがセカンドになるなんて、アタシは思えないんだ』
ブーンの右耳から、ハインリッヒの声が漏れる。
ガイル「俺だってそう思う」
('A`)「俺もハインリッヒと同感だよ。
ジョルジュがセカンドウィルスに屈服するなんて、思えないぜ」
誰しもがそう思っていた。
あのジョルジュ・ジグラードがセカンドになるなんて、何の冗談だと。
いや、ただ単にそう信じたいだけなのかもしれない。
これ以上、人間があの恐ろしい化け物に変わるなんて、それよりも恐ろしい悪夢は無いのだから。
- 141 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:36:29.69 ID:aYFp660U0
-
( ^ω^)「きっと、ジョルジュ隊長は治せますお。ごほっ」
相変わらず血を吐きながらブーンが言う。
ξ゚听)ξ「喋るな」
( ^ω^)「サーセン」
ツンは硬質なその義手でブーンの頭をぶん殴り、システムを停止させた。
携帯端末にオペレータの喚き声が入信されているが、ツンはお構いなしという様子だ。
ξ゚听)ξ「まぁ…前向きに考えましょう?
治る可能性はあるんだから、きっと何とかなるはずよ!」
从 ゚∀从「違うわい! “何とかなる”んじゃなくって“何とかする”んだってば!
アタシ、今回はお前らに色々教わっちゃったよ……サンキューな!!」
('∀`)b「こちらこそだ!」
ξ゚听)b「授業料はココア1年分でいいわよ!
…と、言いたいところだけど、アンタ達のおかげでブーンが助かったわ。
サンキュー、“ハイン”! ココアはいいわ!!」
- 143 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:39:45.24 ID:aYFp660U0
- ※
一向を乗せたヘリが暗闇の空を駆けて行く。
やがて、光を失った超高層の摩天楼の姿が見え始めた。
ヘリはいくつもの高層ビルの間を通り、NYの地に根を張る広大な森を目指した。
('A`)「ブーン! 起きろ! 帰ってきたぜ!」
( ^ω^)「ぐああツン…もうやめておー…巻きぐそドリルは反則おー…」
何が巻きぐそドリルだ! 市ね!! ξ#゚听)三○)ω^) ぎゃあああああああああああああああ!!!
( ^ω^)「お、着いたのかお?」
ξ゚听)ξ「もう『セントラル』上空よ」
ツンは窓を開け、眼下に広がる森を指差す。
確かに『セントラル』の森である事を確認すると、ブーンは「帰ってきたんだ」と実感する。
上空からでも、その森の景観は何処か見慣れたものであるし、
夜であってもセカンドの呻き声一つ無いのは、NYの『セントラル』だけである。
- 146 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 17:45:14.47 ID:aYFp660U0
-
('A`)「帰ったらやる事が沢山あるなぁ」
ドクオは背伸びをし、目を細めて遠くを眺めた。
( ^ω^)「ドクオ! ショボンの所に飲みに行くお!」
ξ゚听)ξ「ったく、傷を直してからにしてね」
ツンは、ブーンの腹部を見つめて溜息を付いた。
殆ど呆れながらも、ツンはブーンの楽しみを大事にしているつもりである。
酒、煙草、物書き。いずれもブーンの心を癒す物なのであれば、管理者として良しとする他無いのだから。
( ^ω^)「はいおはいお。ちゃちゃっと治してくれお」
ξ#゚听)ξ「何よそれ! 直してやんだから、もっと有り難くお願いしなさいよ!」
( ^ω^)「だって、僕を直すのがツンの仕事だおっおーん」
ジッポライターで煙草に火をつけながら、ブーンがあっけらかんに言った。
その紫煙の向こう側に見えるクイーンズ区を見て、ブーンは思う。
――余りにも長い一日だった。余りにも多くの事があった。
傷付き、泣き、失い、学んだ今日という日を、多くの者が戒めるだろう。
昨年の年末に、ハインリッヒはこう宣言していたのを思い出した。
「その日が、『セントラル』にとって新たな一歩となるように」、と――。
今日はまさしくその一歩を踏み出せた日だと、ツンやドクオ、そしてガイルを見て思うのだった。
第10話「脱出 クイーンズ区」終