- 3 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:20:02.17 ID:aYFp660U0
- 登場人物一覧
――― チーム・ディレイク ―――
( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、本名不明。年齢20歳。戦闘員。
セカンドに対する強い免疫を持つ強化人間「システム・ディレイク」。
クォッチとの戦いで右腕を失う他、身体機能を低下させる。
現在、ガイルと共にジョルジュの元へ向かう。
ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
ブーンを強化人間に改造した弱冠19歳の天才科学者少女。
貧乳。嫌煙家。
モララーの「白い兵隊」と共に自らブーン達の回収へ向かうことに。
('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
ツンをからかうお調子者の変態。空気を読まない。
ツンと共にブーン達の回収へ向かう。
- 5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:21:56.47 ID:aYFp660U0
- ――― チーム・アルドリッチ ―――
从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
ツンと並ぶ天才科学者なのだが、プライドの高い両者は犬猿のライバル。
衛星「アルドボール」で、ブーンとガイルをナビゲートする。
( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
深紅のバトルスーツを操るバトルスーツ部隊隊長。
ブーン、ガイルと共に「セントラル」への帰還を目指すが、
途中セカンドに襲われ、セカンドウィルスに感染する。
ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
バトルスーツ部隊副隊長としてジョルジュをサポート。
クォッチとの戦闘により、機体を失う。
ブーンと共に行動中。
- 6 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:23:24.09 ID:aYFp660U0
- ――― その他 ―――
/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
現議会長、元アメリカ空軍大佐。
任務と「セントラル」の為には非情になる男。
( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
自身の研究成果であるという「白い女兵隊」を従える。
( 〓 )白い女兵隊:白で統一したスーツに身を包んだ、モララーが有する謎の戦闘部隊。
顔はマスクで隠されており、年齢なども一切不明。
体型から、女である事だけ唯一分かる。
- 9 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:26:14.82 ID:aYFp660U0
-
第9話「Hollow Soldier」
(;^ω^)「ジョルジュ隊長が…セカンドに咬まれた!?」
ガイル「な、なんだって……!?」
今現在、ジョルジュの元へ向かっているブーンとガイルは、
通信でハインリッヒが述べた事に、耳を疑わざるを得なかった。
セカンド観測用衛星「アルドボール」が作戦本部に送る映像の一つに、
ジョルジュ・ジグラードがセカンドウィルスに感染した瞬間を捉えた物があったのだ。
(;^ω^)「それで、ジョルジュ隊長は?」
敵地にいるにも関わらず、ブーンは声を大にしてハインリッヒに問う。
『傷は差ほど深くないみたいだが……。
今、ダストボックスに身を隠している』
弱弱しく、涙ながらにハインリッヒが告げた。
例えようの無い絶望感を感じさせるその声は、先の「クォッチ」の時と同様の物だ。
- 11 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:28:33.93 ID:aYFp660U0
-
(;^ω^)「ハインリッヒさん、諦めないでくだ――」
从#゚∀从『諦めるなだと!? バカ言え、B00N-D1!
一度ウィルスに感染すればセカンドと化すのは、
お前も十分知ってる事だろう!」
(;^ω^)「それは……」
声を荒げたハインリッヒの激しい呼吸音が、通信される。
ブーンは彼女に対して何と言えばいいのか分からず、うろたえた。
( ^ω^)「…………」
やがてブーンは、心の底からふつふつと湧き上がる罪悪感に支配され始めた。
セカンドであったとはいえ、ブーンはハインリッヒの兄を殺したのだ。
どんなに心を鬼にしようとも、「天国へ送る」つもりであっても、
誰かの肉親を殺すというのは、ブーンにとっても身が捩れるような思いなのである。
――僕は、自分ややツン、ドクオの両親を撃てるのだろうか?
そう簡単に引き金を引けるはずがない。
状況が状況なだけに動転していたが、
改めてブーンは、自分の所業に気づくのだった。
- 14 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:31:47.88 ID:aYFp660U0
-
『アルドリッチ。落ち着きなさい。
まだジョルジュ隊長は間に合うかもしれないわ』
(;^ω^)「お、ツン」
ブーンを深く暗い思考から呼び覚ましたのは、ツンからの通信だった。
ツンは、ブーンやハインリッヒとは対照的に、あくまで毅然とした調子で話し始める。
ξ゚听)ξ『感染して間も無いのなら、セカンド化を防げるかもしれないわ』
从;゚∀从『う、嘘だろ?』
ξ゚听)ξ『本当よ。出来る限り早く“抗体”を注入すれば…可能性はある…』
从;゚∀从『抗体……本当にそんな物が?』
とても信じられないのか、ハインリッヒが聞き返す。
一度ウィルスに感染した生物が、セカンド化を免れたという前例は無いのだから、
疑うのも致し方ない事である。
- 17 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:33:51.68 ID:aYFp660U0
-
(;^ω^)「すぐに注射できる物を、僕が携帯していますお」
ブーンが煙草を入れてあるのと同じバックパックから、それを取り出した。
BlueBulletGunなどの兵器と同じ蒼色が輝くそれは、
針が無い円筒状の小さな注射器であった。
ξ゚听)ξ『厳密に言うと、ウチの兵器エネルギーでも使ってるブーンの免疫細胞の複製なのよ。
ただし、人体実験はおろか、動物実験もしてないけどね』
「へ?」と、ハインリッヒが間抜けた声を出したが、
気にせずツンは続けた。
ξ゚听)ξ『いくらブーンが外を調査しても、実験可能なサンプルが見つからないのよ…。
だから、これは本当に可能性の話なのよ。アルドリッチ。
抗体を注入した後の反応は、正確には分かっていないわ』
(;^ω^)「もしかしたら、ウィルスが死滅する時に激痛を伴ったり」
ツンが、ブーンの後に物々しく続ける。
ξ;゚听)ξ『……あるいは、死ぬかも』
- 19 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:36:48.90 ID:aYFp660U0
- ハインリッヒは、沈黙した。
目はどこを見ているのか分からず、薄く口を開けた虚ろな表情を浮かべている。
恐らく、頭が真っ白になっているのだろう。
そんな彼女の様子を見かね、ツンが説明を補って取り繕う。
ξ;゚听)ξ「で、でも、理論上はセカンド化を防げるはずなの!」
从#゚∀从「り、理論上って……理論なんかどうでもいいんだよ!
データが無いのに可能性だなんて、笑わせるな!」
沈黙を続けていたハインリッヒが、喉が切れんばかりの大声を出した。
ハインリッヒは、チーム・ディレイク陣営の方へと足早に歩き、
ツンの目の前まで行くと、彼女の胸倉を掴んだ。
从#゚∀从「机上の空論って言うんだよ、そういうのは!」
ξ;゚听)ξ「アタシ達科学者にとって…いや、人間にとって大切なのは、未知の可能性に賭ける事だわ!
アタシ達が今も生きていられるのは、色んな可能性に向かって努力して来たからじゃないの!
アンタが今までやって来た研究だって、そうなんじゃないのかしら!?」
ツンは怯まず、胸倉を掴まれたままハインリッヒの問いに即答した。
ツンの迫力に圧倒され、ハインリッヒが胸倉を掴んでいる手の力を緩める。
从;゚∀从「他に…手段は……」
ξ;゚听)ξ「残念だけど、無いわね」
- 22 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:39:03.46 ID:aYFp660U0
-
( ^ω^)「ハインリッヒさん。
ガイルさんが、言いたい事があるらしいお」
不意にブーンが、彼女達の白熱した言い合いに割り込んで通信する。
从;゚∀从『ガイルが…?』
( ^ω^)「代わりに、僕が話しますお」
ガイル「ハインリッヒ博士よ…こりゃ、隊長の言ってた事なんだけどよ、
――“勝利の可能性を見出せたなら、
それを命を捨てる覚悟ででやるべき”――…なんだよな」
ブーンは、ガイルの言葉をそのままハインリッヒに伝えていった。
2人は走りながら喋っているので、ガイルは一度呼吸を整えてから再び話を続けた。
ガイル「隊長は、可能性があると知ったら絶対に諦めたりしないはずさ。
だからハインリッヒ博士。最初から絶望しないでくれ。
俺は、その可能性ってヤツに賭けてみたいと思ってる……」
ガイル「言いたい事は、それだけだ。
ありがとう、ブーン」
ガイルは、マスクの中で息を弾ませ、汗だくになっている。
鍛え上げられた軍人でも、重い装備を身につけて長時間走るのは辛いのだろう。
- 24 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:41:44.76 ID:aYFp660U0
-
ξ゚听)ξ「アルドリッチ、ガイルさんの言う通りだと思うわ。
最後まで諦めないで……希望は決して捨ててはならないわ」
从 ゚∀从「……くそ……」
从#゚∀从「……ああああああああアタシらしくもねえ!!!
ツンちゃんなんかに悟されるとはチクショー――ッ!!!」
从#゚∀从「ブーンとガイル!!
もっと全力で走りやがれ! ちんたら走ってんじゃねー!!」
ξ゚ー゚)ξ「その意気よアルドリッチ! ちょっとムカつくけど」
( ^ω^)「そうだ、ツン。ちょっと聞いてくれお」
唐突にブーンが切り出した。
「何よ」と、いつもの調子でぶっきら棒にツンが尋ねる。
(;^ω^)「回収ポイントを変えて欲しいんだお……。
今の状態で、ジョルジュ隊長を抱えながら空港まで行くのは、正直無理だお」
今の装備や身体能力、それと先ほどのセカンドとの戦闘結果を踏まえた、
ブーンの直感的な意見であった。
- 26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:44:43.45 ID:aYFp660U0
-
ξ゚听)ξ『そうね……。今のアンタ達の移動速度だと、
ジョルジュ隊長の所まで何分かかりそう?』
( ^ω^)「このまま何事も無ければ、15分と49秒で行けるお」
半自動的に制御されているブーンの情報システムが、
現在の状況をインプットしたシミュレート結果を瞬時に打ち出した。
ξ゚听)ξ『じゃあ、その場所にヘリから直接降下してアンタ達を回収するわ』
从 ゚∀从『しかし、何事も無く行けるとは思えないぜ?
アルドボールでセカンドの位置を把握できても、奴らの動きまで把握することは無理だからな。
多少の回り道や戦闘は避けられないかもしれない』
ξ--)ξ「確かにそうね……でも……」
ツンは目を瞑って眉間に指を当て、「集中して考える時のポーズ」を取った。
ものの2、3秒後に目を開け、自分のデスクに勢い良く走りこんで座ると、
空中に浮かぶパネルを高速で操作し始めた。
ξ゚听)ξ「ブーン、そのままジョルジュ隊長の所へ向かって! そこで回収するわ!
ドクオ! 回収ポイントを変更したわ! 位置はアンタの携帯端末に送った!
現在のヘリの整備状況、それからヘリのスペックと照らし合わせて、
何分で回収ポイントに到着するのか、今すぐ計算しろ!」
- 27 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:46:37.35 ID:aYFp660U0
- ※
ドクオは、ヘリや装甲車などの乗り物の格納庫で、
モララーが有する「白い女兵隊」と共に、使用するヘリの整備を行っている最中だった。
('A`)『ヘリの整備が終わるまで、あと10分はかかるなぁ。
こっから回収ポイントまでは12分ありゃー着くぜ』
ドクオは、左腕に巻き付けてある腕時計に似た少し大きめの機械を弄り、
それから宙に投影されているモニター内のツンに向かって、計算結果を告げた。
この機械が『セントラル』の携帯端末だ。
ξ#゚听)ξ「5分で終わらせろ!」
モニターに映る、締りの無いドクオの顔に、ツンはイラつく。
近くにドクオが居れば殴っているのだが、その代わりにツンは
声にたっぷりとドスを効かせて喝を入れたつもりだ。
ツンがドクオへの指示を終えると、再び通信回線をブーンに繋いだ。
ξ゚听)ξ「ブーン。アタシ達は残り5分でヘリを出せるわ。
アンタ達がジョルジュ隊長と合流すると同時に、アンタ達を回収できるようにヘリで移動するわ!」
ブーン達3名を同時に回収するのは、理由があった。
ツン達回収チームが先にジョルジュを回収しても良いのだが、
ヘリコプターのプロペラ音などがセカンドを集めてしまう危険性がある。
そうなってしまえば、後で到着するブーンとガイルを回収するのが難しくなってしまうからだ。
つまり、ブーン達がジョルジュと合流するのと同じタイミングで
ツン達回収チームがポイントに到着するのが、最も安全な策であると、ツンは考えたのだ。
- 29 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:48:44.21 ID:aYFp660U0
-
('A`)「だ、そーだ。白い姉ちゃん達。
さっさと発進準備終わらせねーと、貧乳の化け物に怒られちまうぞー」
ドクオが積み込んだ装備の点検をしながら言う。
('A`)「アイツは巨乳の女の子が基本的に嫌いだからな。
アンタら、ねちねち五月蝿く言われるかもなぁ」
ドクオの声は、静寂の中に虚しく消えていった。
白い女兵士達は、みな返事をしようとはせず、ただ黙々と各々の作業を続けるだけであった。
作業を始めてからドクオはいくつか話題を振っているのだが、
一度も彼女達から返事が返って来ることは無かった。
ゴウンゴウンと、『セントラル』の機構が元気に動く音ばかりが、格納庫に響いているのであった。
('A`)「なぁ…アンタらは、モララーに作られた誰かのクローンなのか?」
もちろん、彼女達から返事は返ってこない。
思わずドクオは、「コイツらには喋る器官が無いんじゃないのか?」と、
人間的な構造から疑ってしまった。
- 31 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:50:42.23 ID:aYFp660U0
- しかし、口や目はおろか、髪の一筋すら見えない。
体のラインだけ見れば人間の女性に見えるが、本当はその白いスーツの中に、
人間とは異なる生物が入っているのではないだろうか。
( 〓 )「…………」
白い女兵士達は、ドクオの顔を見る素振りすら見せようともしていない。
言語器官だったり聴力などが無いのではなく、まるでドクオそのものに興味が無い様子だ。
まるで作業用の機械の如く、ヘリの点検に集中するのであった。
('A`)(そうだ! おっぱいを触ってみよう!
そうしたら無口なこの連中も……)
(*'A`)(ひゃあんっ! ら、らめえぇ……)
('A`)(とか言うんじゃねーのかなあああああああああああフヒヒヒヒヒッ!!)
ドクオが一人で盛り上がっていると、格納庫の出入り口のドアが開く音が聞こえてきた。
そのドア独特の、タイヤから空気が抜けるような音と共に登場したのは、
分厚いスーツに身を包んだツンであった。
('A`)「チッ」
ぶるああああああ!! ξ#゚听)三○)A`) ひゃああああああんっ!!
- 33 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:53:09.84 ID:aYFp660U0
-
(#)A`)「いきなり何て事をするんだ」
ξ゚听)ξ「・アタシに舌打ちしたでしょ?
・胸を見て貧相だと思ったんでしょ?
・頭を見て巻きぐそと思ったんでしょ?」
(#)A`)「舌打ちはともかく、他2つは被害妄想ってレベルじゃねーぞ!」
ξ゚听)ξ「で、ヘリの整備は終わったのかしら?」
('A`)「まぁ、あらかた終わったと思うが……。
おい! どうなんだよ姉ちゃん達! いい加減、何か言ってくれ!」
少し棘のある声色で、ドクオが言う。
あの温厚なドクオが珍しく苛立っている事に、ツンは少し驚いた。
( 〓 )「いつでも発進可能です。ディレイク博士」
('A`)「喋れるじゃねええええかあああああああああああああ!!!!
ってか俺は!? 俺は無視なの!? 完全に空気扱いされてるのおおおおおお!?」
うるせえええええええええ!!! ξ#゚听)三○)A`) だってさああああああああ!!!
- 35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:55:57.72 ID:aYFp660U0
-
('A`)「クラスの好きな女の子がさ、
俺とは喋ってくれないのにアイツとは喋るみたいな?
そんな歯がゆくて少しイライラしちゃう甘酸っぱい気持ち、分からない?」
ξ;゚听)ξ「ええい、訳の分からん事を!
いいかしら!? もう数分したら出発するわよ!
それまで各自装備の確認を怠らないこと!」
(;'A`)「も、もう出発の時間か……緊張してきたなぁ……」
それまで活き活きとしていたドクオだったが、急に意気を沈めるのだった。
ヘリで行くとはいえ行き先は「夜の街」なのだから、
誰だって怖気づくのは至極普通の事ではある。
ξ゚听)ξ「ほらドクオ、アンタもさっさと着替えて。
それから、これ。一応念の為に持って行くわよ」
ツンは手に持っていた頑丈そうな黒いケースを、ドクオに投げ渡した。
ドクオがそのケースを開けると、中には蒼色の小型の拳銃が2丁と、
その拳銃と同色の注射器が2本が収められていた。
('A`)「実戦経験なんてねーよ、俺……」
拳銃を手に取って、ドクオが呟く。
ξ゚听)ξ「銃なんか使わない事を祈りなさい」
- 37 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 14:58:20.40 ID:aYFp660U0
-
『ツンちゃん! もう出発してもいいぜ!』
少し高い天井に付けられたスピーカーから、ハインリッヒの声が放送された。
元々中性的な声をスピーカーに通しているせいか、やたら男っぽくなっている。
ξ゚听)ξ「分かったわ! じゃあ、そっちの事は頼んだわよ!
何かあったらアタシの携帯端末に連絡して頂戴!」
顔を上げ、スピーカーに向かってツンが大声で言った。
『了解! 任せときな!』
('A`)「エレベータ、上げるぞー!」
いつの間にかスーツに身を纏ったドクオが、格納庫の隅に設置された制御盤を操作した。
すると、床が轟音と共に動き出し、天井に向かってせり上がり始めた。
回収部隊は、次々にヘリに乗り込んでいった。
ヘリの操縦席には、白い女兵士の1人が座った。
彼女の的確で素早い操作により、ヘリがいつでも飛べる状態まで起動する。
- 39 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:00:02.03 ID:aYFp660U0
-
( 〓 )「我々は戦闘員ですので、どうぞお先にお乗りください」
ヘリの後方――搭乗口の横で、兵士の一人が案内する。
兵士達が銃を使って搭乗口から攻撃出来るようにする為の配慮であろう。
('A`)「………」
ツン、ドクオの順にヘリに乗り込み、他5名の兵士がヘリに入った。
パイロットを省く計7人が搭乗しているが、それでも座席にはまだ余裕がある。
このヘリは人命救助を目的とされた輸送用ヘリなのだ。
その為、機関銃などの兵器はあまり積載されておらず、戦闘には向いていない。
エレベータが上がるに連れ、天井が開いてゆく。
この天井は『セントラル』を5つの階層を隔てている、分厚い層の一部だ。
層を成しているプレートが1枚1枚ゆっくりと左右に開いてゆき、エレベータは上の階層へと昇ってゆく。
('A`)「なぁ、ツンよ」
ξ゚听)ξ「何よ?」
耳を近づけなければ聞こえないくらいの小声で、ドクオが話しかけた。
('A`)「あいつら…モララーの兵士達なんだが……連中の声、どっかで聞いた事ない?」
- 41 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:02:10.93 ID:aYFp660U0
- 突然のドクオの質問に対し、ツンは腕を組んで少し考え込んだ。
何かを探すように目を忙しなく動かし、「うーん」と唸った。
ξ゚听)ξ「さあ……アタシは知らないわ。
心当たりがあるの?」
('A`)「いや、どっかで聞いた気がするだけなんだが……まあ、いいや」
ドクオも少し考え込む素振りを見せるが、結局何も思い浮かばなかった様子だ。
ξ゚听)ξ「それより、もう少しで外に出るわよ。
ヘリの中とはいえ、アンタはマスクを着けておくべきだわ。
免疫が殆ど無いんだからね……」
ツンは、ガスマスクのような物をドクオに手渡した。
黒色で無骨な外見が、如何にも頑丈なマスクであると思わせる。
ξ゚听)ξ「……ドクオ。今更だけど、アンタは別に来なくてもいいのよ?
アンタには免疫が無いわ。ましてや向う先は夜の街…危険なのよ?」
('A`)「バカヤロウ。そんな事、百も承知だ」
- 43 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:04:52.86 ID:aYFp660U0
-
ξ゚听)ξ「怖くないの?」
('A`)「お前だって怖いだろ……放っておけるか」
ξ゚听)ξ「……そう。感謝するわ」
('A`)「素直にありがとうって言えんのか。
厨2病みたいなセリフ吐きやがってからに!」
ξ#゚听)ξ「だ、誰が厨2病よ!! ぶん殴るわよ!?」
ξ;゚听)ξ(ふ、不覚にもドクオがカッコいいと思ってしまったわ……!)
※
('A`)「そろそろ、『セントラル』の外に出るな」
まだ光のある第1階層から地上に近づくに連れ、次第に作動する暗視機能が視界の色を淡い緑色へと変えてゆく。
一向を乗せたヘリは、『セントラル』の地上を覆う暗い森の中に出た。
森の中とはいっても、そこはヘリなどの発着点なので周囲に木々は無いが。
- 44 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:07:09.25 ID:aYFp660U0
- 久方ぶりに地上に出た2人は、ヘリの窓から外の様子を伺った。
とはいっても、2人の目には木ばかりが映っており、特に目新しい物は無い。
しかし、冬の季節であるというのに未だ青々とした葉があるのは、少し奇妙な光景であった。
2000年代の前後より世界的に環境問題を懸念していたが、
科学の爆発的な発展を契機に、自然破壊はその歯止めを無くしたのだった。
このような背景があり、アメリカを始めとする多くの国の気候は乱れきってしまったのである。
もっとも、人間がいない今の地球において、暑さと寒さに困るのはセカンドという化け物であるが。
ξ゚听)ξ「さあ、行きましょう!」
( 〓 )「了解。離陸します」
パイロットを務める兵士が、機械のアナウンスの如く無機質に返す。
ヘリのプロペラ音が『セントラル』の森の静寂を掻き消す。
高速で回転するプロペラの風力により、周囲の木々の葉を悉く撒き散らし、
そして浮力を持ったヘリが、ゆっくりと『セントラル』上空へと飛び立った。
('A`)「こんなに暗いんだなぁ…外」
実際に見る夜の世界は、『セントラル』でカメラを使ってみる景色よりも
ずっと暗いように見える。
唯一の明かりである月も雲に隠され、眼下の街を一切明かりは無く、
いくら見渡しても暗闇が広がるばかりだ。
マスクを外してしまえば、どちらが上で下なのか分からなくなるかもしれない。
そんな想像に、ドクオは身震いした。
- 46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:09:18.91 ID:aYFp660U0
- 上空から見るNYの街並みは、大昔の「それ」とは全く異なるものであった。
――忙しく行き交う人々の雑踏、自動車のクラクション、
街頭テレビから流れ出る音楽、パトカーのサイレン、24時間輝き続ける摩天楼。
NYの街を語るには外せない物の殆どが、今は存在しない。
アメリカ合衆国の象徴である「自由の女神」も首を失い、
背徳感極まる不気味な石像と化していた。
世界一と言わしめた大都市も、今では見る影も無い。
ξ゚听)ξ「ブーン、アタシ達は後10分程度で到着するわ!
そっちの状況は!?」
手の平ほどの大きさの携帯端末に向かって、ツンが話している。
彼女の携帯端末のスピーカーから、ブーンの声が返って来た。
『僕達も後10分くらいで到着できると思うお!
このまま何も無ければ、の話だけど』
ξ゚听)ξ「了解。気をつけて!」
『把握したお!』
- 48 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:11:26.82 ID:aYFp660U0
- ※
気づけば、不自然な通りが続いていた。
アスファルトで出来た地面の至る所。それから、周辺の多くのビルの壁に、巨大な穴が開いている。
何か「型」でも使ったかのようで、殆どの穴が全て均一な大きさである。
穴だらけの街並み。これは異常だ。
ガイル「ぶ…ブーン…この穴は…?」
激しく呼吸しながら、ガイルが尋ねる。
違和感のある景色が発する、不穏な雰囲気を感じ取ったのだろう。
(;^ω^)「……この辺り、それから合流地点の辺りは、危険なのかもしれませんお」
ガイル「危険…と、言うと?」
ブーンは、ガイルにも状況が分かるように、左目から宙に映像を投影した。
青で点滅している箇所が、ジョルジュのいる合流地点。
その周囲の赤い点は、セカンドを表している。
(;^ω^)「合流地点の近辺から…結構な数のセカンドが
こっちの方に流れて来てるんですお」
- 50 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:14:11.07 ID:aYFp660U0
-
ガイル「こ、こんなに沢山のセカンドが……!?」
ブーンの言う通り、多数の赤い点がブーン達のいる方角に向かって来ているのが分かる。
それ以外にも、2人の周辺で多くのセカンドが動いている様子だ。
真っ赤な点で埋め尽くされんとするレーダーを見て、ガイルは戸惑った。
(;^ω^)「まぁ、これも不安なんですけど――」
ブーンの言葉を遮って通信が入った。
ハインリッヒからである。
从 ゚∀从『今、そっちに向かって来ているのは、ジョルジュが追っ払った連中だな。
閃光弾で何とかなるんじゃねーのかな?」
( ^ω^)「なるほど…そうですかお。
ガイルさん、このセカンドは閃光弾でどうにかなりそうですお」
ブーンは、宙の映像内で動く赤い点を指差す。
しかし、マスクの越しに見えるガイルの表情は、何故か暗い。
ガイル「閃光弾、あと一発しか残ってねえんだ」
項垂れてガイルが述べる。
それを聞いたブーンとハインリッヒの脳裏に、悪い予感が過ぎった。
- 51 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:15:37.05 ID:aYFp660U0
- ――果たして、これだけの数のセカンドを相手に、
たった一発の閃光弾で凌ぎ切れるのだろうか?
ブーンが満足に戦えない今、頼りになるのはガイルの持つ閃光弾だけだ。
敵はジョルジュが追い払ったのとは別に、他にも大勢いるのだ。
危険は一回限りではない。絶え間無く奴らが襲ってくる状況にある。
それに加え、ブーンにはもう一つの不安があった。
――この辺りに、大型セカンドがいるのではないか、と。
从;゚∀从『どうする……あと数十秒で鉢合わせちまうぞ!?』
焦燥に駆られたハインリッヒが叫ぶ。
ブーンとガイルは一度走るのを止め、武器を構えた。
(;^ω^)「回収ポイントに行かないと! ここは、やるしかないお!」
左手に掴んでいるBlueBulletGunを振り、リロードする。
長いロングストリートの奥の方へ銃口を向け、敵の襲来に備えた。
ガイルも、いざという時でセカンドを追い払えるように、最後の閃光弾を右手に持った。
从;゚∀从『あ、いや、ちょ、ちょっと待ってくれ!
これは……辺りのセカンドが急に慌しくなってる…何かおかしいぞ!?』
- 53 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:17:28.91 ID:aYFp660U0
-
(;^ω^)「何だこれ…そこら中でセカンドが沸いて来てるお!?」
土石流の如く、大量のセカンドがブーン達の方へと流れ込もうとしている様子が、レーダーに表示されている。
何処に潜んでいたのか、合流地点の近辺からセカンドが溢れ出し、
ブーン達のいる方角に向かって進行しているようだ。
ガイル「う、わ、冗談だろ……!?」
遠くの暗がりから、予想通り大量のセカンドが一斉にやって来たのが見えた。
だが、それは当初の予想を遥かに上回る量となっていた。
数千はいると思われるセカンドが、雪崩のような質量と迫力で押し寄せてくる。
(;^ω^)「ががががガイルさん! 逃げるお!!」
ガイル「え、あ、ど、何処にいいい!?」
(;^ω^)「早く逃げるお!!」
ただ泣き叫ぶガイルの手を引き、ブーンは近くのビルの中へと入って行った。
ビルの何処かにセカンドが潜んでいるのは、自身のレーダーを見ても分かる。
危険な「巣」の中にいるのも落ち着けないが、
あのままストリートにいては無事に済まなかっただろう。
- 56 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:19:22.06 ID:aYFp660U0
- ブーンはビル内部のセカンドにも留意し、すぐにビルを脱出できるよう、
エントランス近くにある管理室から外の様子を伺う事にした。
外からは見え難いが、内部のセカンドには発見されやすい場所だ。
外は、怒濤の勢いで流れて行くセカンド以外に、見える物は無い。
ビル内に逃げ込んでから数分経つが、一向にセカンドの流れが途切れる気配が無い。
あの獰猛な性質を持つセカンド達が、血相を変えて逃げ惑っているのだ。
ガイル「あ、あの量は何だってんだよ!?」
(;^ω^)「いや…多分ですけど…その…。
ってか、静かにしてくださいお、ガイルさん」
訳の分からぬ状況に、ガイルが取り乱している。
長年に渡って様々な街を調査していたブーンには、
ある程度の予想が付いている事なのだが、出来れば口にはしたくはなかったのだが、
从;゚∀从『ブーン! 近くに大型セカンドが現れやがった!!
クソ! こんなの、全然作戦と違うじゃねーか!!』
衛星で状況を把握しているハインリッヒが、代弁してくれた。
\ガイル/「大型ァああああ―――――ッ!?」
「もうお手上げ」のポーズを取りながらガイルが叫んだ。
外の喧噪とは対照的に、不気味な静けさが漂うビルの中でガイルの声が響き渡る。
(;^ω^)「しー! ビル内のセカンドに気づかれるお!」
ガイルは、口の形だけで「OK」とブーンに言った。
- 59 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:23:41.54 ID:aYFp660U0
-
(;^ω^)(やっぱり大型がいたかお!)
ブーンが予想した通りであった。
セカンドにおける「群れの中には必ずボス(強者)がいる」という説に科学的解明は無いのだが、
ブーンの長年の経験から、それなりに信頼性が高いと説だと言える。
シマウマなどの草食動物が、ライオンやチーターなどの強者から逃げるのを想像してもらいたい。
それと同じで、弱いセカンドが群れを成して逃げる場合は、
大型セカンドが近辺に現れる事が多いのである。
そのブーンの経験に加え、街の不自然な破壊状況が予想を裏付けていた。
十メートル程の巨大な大穴を開けられる存在は、この世で大型セカンドだけであるからだ。
ガイル「た、倒すのか? ブーン」
(;^ω^)「どうするかお……」
ブーンは下唇をぎりりと噛み締める。
普段のブーンならば大型セカンドの一匹くらい問題無く倒せるのだが、今は満身創痍で装備も不十分だ。
どんな性質を持つセカンドなのかは不明だが、ともかく撃破は難しいだろうとブーンは考える。
- 61 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:25:55.66 ID:aYFp660U0
-
(;^ω^)「ちょうど回収地点の近くに敵がいるのが、厄介だお!」
機械仕掛けの左目の網膜内に映し出したモニターを見て、悪態をつく。
現れた大型セカンドは1体のみ。
しかし、熱反応で検知するレーダーの反応から見て、かなり巨大なセカンドである事が断定できる。
从;゚∀从『現れたのは、全長50メートル程のミミズみたいなセカンドだ。
とりあえず、こいつを“ニョロニョロちゃん”と名付けよう」
(;^ω^)「にょ…ろ…にょ…ろ…ちゃん…?」
从;゚∀从『突然地中から現れた“ニョロニョロちゃん”は、
小型セカンドを丸呑みにしながら回収ポイントの近くの通りを進行している』
(;^ω^)「ジョルジュ隊長は無事ですかお?」
从;゚∀从『ああ。ジョルジュは心配無いと思う。
どうする? このままだとお前らの側を通るぞ」
ガイル「や、やり過ごすしかねーだろ!
今の俺達じゃ、大型セカンド相手じゃとても勝ち目が無いだろう!?」
ガイルの言う通りであると、ブーンは心中で同意する。
立ち向かっても、セカンドの好きなように蹂躙されるのがオチだ。
だが、やり過ごそうにも、それが出来ない状況にある事を、ガイルはまだ理解していなかった。
- 65 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:28:29.12 ID:aYFp660U0
-
从;゚∀从『いや、そうじゃなくって、ガイル。
近くに“ニョロニョロちゃん”が通るって事は――」
突如ビル内に鳴り響いた獣の喚き声に、通信音声が掻き消された。
ガイル「せ、セカンド!?」
(;^ω^)「下に降りて来るのかお!?」
その叫び声の主は、ブーンが懸念していたセカンド達であった。
上階から聞こえる怯えた叫び声と共に無数の足音が、段々と近づいて来る。
从;゚∀从『外へ逃げろ!!』
ハインリッヒが叫ぶと同時に、階段や廊下から多量のセカンドの姿が見えた。
狭い通路内で揉みくちゃになりながら、エントランスへ向かって来ている。
ブーンとガイルは飛び出すようにしてビルの外へ逃れると、
2人はすぐにエントランスに向けて銃口を構えた。
しかしながら、外へ飛び出して来たセカンド達は、
一人としてブーン達には目もくれずに、何処かへ走り去ってしまった。
逃げ惑うセカンド達で喧騒していたストリートも、今ではブーンとガイルが突っ立っているだけだ。
- 66 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:29:52.15 ID:aYFp660U0
-
ガイル「何だ…?てっきり襲われると思ったんだが…」
セカンドにとっては新鮮な肉だろうに、何故襲わなかったのだろう?
と、ガイルは首を傾げて銃口を下ろした
(;^ω^)「あいつら、僕達を喰ってる場合じゃなかったんだお。迂闊だったお…」
ボソリ、とブーンが呟く。
ガイル「ブーン、何を言って……?」
(;^ω^)σ「……ガイルさん……あっち見るお」
ガイルは、ブーンが銃口で示した方に、そっと顔を向けた。
その先には、自分達の数十倍以上ある巨大な何かが蠢いていたのだ。
漆黒の空に突き刺さる赤い柱のような、現実離れした何かが、目の前に存在している。
ガイルは、その柱を根元からゆっくりと見上げていった。
ガイル「―――――ッ」
ガイルは口をパクつかせて声にならない叫びを上げる。
恐怖で脳が麻痺し、目の前の状況を理解しようとしないのか、
ガイルはそんな感覚を感じていた。
- 69 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:32:14.46 ID:aYFp660U0
- それは、人間の物と似た形をした口を広げていた。
構造は人間と同じではあるが、やはり異形の物である
セカンドの黒い血が通った長い舌は赤く、舌から零れ落ちた唾液がアスファルトの地面を溶かしている。
唇の裏から覗かしている歯は先が鋭利であり、舌と同様の色がこびり付いている。
縦に皺の入った赤黒い肌には、ヌメヌメした黄色の液体が纏わり付いている。
垂れ落ちた液体が地面に煙を立たせている事から、唾液同様に強烈な酸か何かを思わせる。
ぼうっと吹いた風が、化け物の体から噴出している臭いをブーンの鼻先まで運ぶ。
下水道の汚水で作ったゆで卵を腐らせたような、そんな激臭にブーンは目を潤ませた。
顔面と思わしき箇所には、その醜悪な口の他に器官は見当たらない。
手足も無く、人間の口だけの顔面を持った「蚯蚓(ミミズ)の化け物」なんて、少なくとも
ブーンが今まで見てきたセカンドの中にも、ましてや悪夢の中にも、登場した事は無い。
それほど奇怪で、グロテスク極まりないセカンドであった。
/(^ω^)\「ニョロニョロちゃんってレベルじゃねーぞ!!」
/ガイル\「俺、この戦いが終わったら結婚したい気分だ」
从;゚∀从『早く逃げてえええええええええ!!!』
- 70 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:34:35.57 ID:aYFp660U0
- ※
/;,' 3「化け物どもめ!」
「前作戦の総司令官」である荒巻・スカルチノフにとって、現在行われている救出作戦は
管轄外となっていたが、今まで静かに傍観を続けていた。
冷静沈着のはずの元空軍大佐、荒巻・スカルチノフも、
流石にこの光景には毒づき、拳を机に殴りつけた。
/;,' 3「モララー、君の研究…“Hollow Soldier(虚ろな兵士)"と言ったか…。
彼女達でアレを倒す事は可能なのだろうな?」
荒巻はモララー・スタンレーを鋭く睨み付けた。
しかしモララーは、元米軍大佐の荒巻に怯む様子は一切見せず、
いつも通りの紳士的な物腰でゆるりと返した。
( ・∀・)「議会長、ご心配無く」
/;,' 3「自信があるのか?」
( ・∀・)「セントラルの危機となるセカンドは、必ず始末しなければなりませんからな。
敵は未知数の怪物ではありますが、私もそれなりに強力な兵を
仕立てたつもりでございます」
- 73 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/07/20(日) 15:36:22.38 ID:aYFp660U0
-
( ・∀・)「無限に進化を続けるセカンドに対抗する為にはこちらも限り無く強くなる必要がございます。
人間を遥かに超えた筋力。そしてそれを操る強力な肉体、神経、頭脳の構築!
“超人を作る”というのは中々に苦労をしましたがね…しかし、その甲斐はありました」
呼吸する事すら忘れているのか、モララーは一気に話し続ける。
( ・∀・)「原型さえ構築出来れば後はクローンで簡単に量産出来るのですからな。
H-Soldierは私めがラウンジ時代より培ってきたクローン技術の集大成と言えるでしょう」
そこでモララーは深く溜息を付く。
( ・∀・)「しかし残念な事に、研究開発の過程で多少ながら尊い命が犠牲となりましたが……」
/ ,' 3「……全ては、『セントラル』を護る為だ」
モニターに目を向け直し、重々しく荒巻が言った。
しかしモララーは、荒巻の言う事がまるで当然と言わんばかりの顔を浮かべるのであった。
そして、声をすぼめて悲愴感を装い、あくまで犠牲となった者達を
哀れむ素振りを続けるのだった。
( ・∀・)「セントラル議会長である貴方にそう言って頂けるのなら、
きっと犠牲となった彼等も救われる事でしょう、議会長」
第9話「Hollow Soldier」終