内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第8話「感染」
4 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 22:41:11.20 ID:0PpO3nfx0
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、本名不明。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つ強化人間「システム・ディレイク」。
      クォッチとの戦いで右腕を失う。
      現在ガイルと共に回収ポイント「JFK空港」をへ目指すが、途中セカンドの群れに襲われる。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
      ブーンを強化人間に改造した弱冠19歳の天才科学者少女。
      貧乳。嫌煙家。
      モララーの「白い女部隊」と共に自らブーン達の回収へ向かうことに。

('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ツンをからかうお調子者。そして変態。
   ツンと共にブーン達の回収へ向かう。
ドクオ・アーランドソン

7 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 22:43:10.66 ID:0PpO3nfx0
――― チーム・アルドリッチ ―――

从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
      対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
      ツンと並ぶ天才科学者なのだが、プライドの高い両者は犬猿のライバル。
      セカンドと化した実兄「ミルナ」を亡くす。

( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
    深紅のバトルスーツを操るバトルスーツ部隊隊長。
    クォッチとの戦闘により、機体を失う。
    ブーン、ガイルと共に「セントラル」への帰還を目指す。

ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
     バトルスーツ部隊副隊長としてジョルジュをサポート。
     クォッチとの戦闘により、機体を失う。
     ブーンと共に行動中。

11 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 22:47:00.16 ID:0PpO3nfx0
――― その他 ―――

(´・ω・`)ショボン・トットマン:年齢25歳。バーテンダー。
      「ショボンのバーボンハウス」のガチムチダンディ店長。
      暗い世の中で生きる人々の憂い飛ばしたいと言う彼は1から酒作りを始めるも、
      彼の出す酒はどれも不味い。ブーン達の良き理解者でもある。

/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
   現議会長、元アメリカ空軍大佐。
   任務と「セントラル」の為には非情になる男。

( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
     バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
     自身の研究成果であるという「白い女部隊」を従える。

(  〓 )白い女部隊:白で統一したスーツに身を包んだ、モララーが有する謎の戦闘部隊。
             顔はマスクで隠されており、年齢なども一切不明。
             体型から、女である事だけ唯一分かる。

13 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 22:50:18.77 ID:0PpO3nfx0

第8話「感染」




時間は、ブーン達がセカンドに襲われる少し前に遡る。

まだ空が暗くなり切っていない夕闇の時。
ジョルジュは大破した機体から降り、
不穏な空気が取り巻くクイーンズ区を1人進み始めていた。

半透明のフェイスカヴァーを上げ、マスクからは顔が露になっている。
それは、いつものように自信溢れる表情ではなく、眉間を寄せた険しい顔付きである。

(;゚∀゚)(単身で敵地に突っ込んだ気分だ……)

敵兵に見つからずにポイントまで移動するという点では、
従来の戦場においても同じなのかもしれない。
ただし、敵の数は未知で、ジョルジュは唯一人。
それだけは明白な事実だ。

それでも、ジョルジュは形振り構わずに走っていた。
足元で跳ねる水の音などを気にしていては、あっという間に日が沈んでしまう。
日当たりの良い内ならセカンドが出現する恐れも少ない。
とにかく、夜になる前に回収ポイントに到着しておきたいと、ジョルジュは考える。

16 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 22:54:03.65 ID:0PpO3nfx0
冷たい風が顔に当たり、思考をハッキリさせてくれる。
顔を針で突付かれているような、そんな鋭い感覚。

B00N-D1は「今の冬は暖かい」と言っていた。
確かに、以前のニューヨークの冬と比べれば段違いに暖かいと思える。
それでも、冬の風は冷たかった。

( ゚∀゚)「早いとこ空港に行かねーと……」

通りを吹き抜ける冷気に、ジョルジュは思わず体を振るわせる。
風の冷たさとは違う寒々しさは、言うなれば「死気」だ。
生気の無い街が醸し出している雰囲気は、屈強な軍人であってもゾッとするのだ。

ジョルジュは真っ直ぐに、右に、左にと、ひたすら走った。
入り組んだクイーンズ区の街を走ること、10数分。
街を照らす夕暮れの光が薄れてゆくと共に、彼の体力も段々と失われていった。

(;゚∀゚)(クソ、体が重てえ…)

懸命に足を動かすが、心臓と肺が耐え切れずに悲鳴を上げている。
感染を防ぐ為とはいえ、バトルスーツ隊員のサバイバル装備は少し重たいのだ。

19 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 22:56:54.98 ID:0PpO3nfx0
アスファルトの地面は所々で割れて隆起していたり、
倒壊した建物の瓦礫が道を塞いでしまっている箇所も多々あった。
クォッチとの戦闘で巻き添えになったのだろう。

時には全身を使って瓦礫をよじ登ったり、降りなければならなかった。
街の破壊は自分達でやってしまった事であるが、ジョルジュは通行の面倒さに杞憂する。

それに加え、押し迫る夜よりも速く走る必要があるので、
体力は急速に奪われてしまう。

やがて、ジョルジュは歩き始めた。
痛む脇腹を手で押さえ、激しく肩で呼吸をしている。
長かった戦闘の後という事もあって、彼は疲弊し切っていた。

(;゚∀゚)(これ以上は走れねえ……しばらく休憩だ)

それに、目的地にだいぶ近づいていたので、無理に走る必要はもう無かったのだ。

“ジョン・F・ケネディ空港⇒ 1.4キロメートル”

先に見える十字路の中心に深々と突き刺さっている道路標識には、そう表記されている。
空港はもはや目前だ。
体の奥底から広がる安堵感に、疲労で重くなった体も軽くなった気がした。

22 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:00:12.08 ID:0PpO3nfx0
「もう安全だ」と思うと、自然と笑みもこぼれてしまう。
ジョルジュは標識に従い、嬉々としながら十字路を右に曲がる。


( ゚∀゚)「…………」


彼は、顔に笑みを張り付かせたまま、呆然とその場に立ち尽くした。

ジョルジュが見たのは、空港に通ずる道を塞ぐ巨大な瓦礫であった。
横倒れに倒壊した高層ビルだ。
とてもよじ登って超えられる大きさではない。

笑顔は段々と引き攣り、強張った表情へと変わるのが自分でも分かる。
今まで費やした体力と時間が巨大な壁にぶち当たって粉々にされ、安堵は絶望へと塗り替えられてゆく。

(;゚∀゚)「チクショウ!」

迂回して違う道から空港を目指さなければ。
絶望感で脱力しようとするのを抑え、ジョルジュは来た道を急いで戻り始める。

軽くなったと思った体がずっしりと重くなる。
足に鉛でも詰められたかのようで走るのが辛い。
だが、それでも走らなければ。

夜はもう、すぐそこまで来ていた。

24 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:03:49.35 ID:0PpO3nfx0


重厚な白塗りの両壁に所々残された弾痕や爪痕が激戦を物語っているが、
それとは対照的に、両者の動きは今、とても静かだった。
暗い路地には異形達の不吉な笑い声だけが鳴り響いていた。

(;^ω^)「こいつら、少しは頭が回るのかお……」

2人は、背中合わせに異形達と対峙していた。
強力な兵器と身体能力を持つブーンが数の多い方を、ガイルが反対の異形を見据える。

セカンドは自慢のその長い指をちらつかせながら、じりじりと距離を詰めて来る。
銃口を突き付けているというのに、それが視界に入っていないかのようだ。

ビルの狭間に一陣の風が吹き抜ける。
異形達の臭気をそのまま運んできたような生々しい空気に、ブーンは身震いする。


(;^ω^)「うおっ!?」


不意に、一体が指を突き出してきた。
喉元を狙われたブーンは咄嗟に銃身で攻撃を受けたが、銃を弾き飛ばされてしまった。
それを皮切りに、全てのセカンドが走り出し、襲い掛かる。
ブーンですら何処に目を向ければいいのか分からない程、彼等は目まぐるしく飛び跳ねている。

27 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:06:14.56 ID:0PpO3nfx0
ガイル「ブーン! 右だ!」

異人の1人が、指という名の剣で頭を叩き切ろうとしてきた。
風を切り裂く鋭い音を立てて迫る凶刃。
目では追えているが、いかんせん体が追いついていかない――ダメだ、避けきれない。

「うあっ!!」

ブーンは辛うじて頭への直撃を避けたものの、かわしきれず右肩に受けてしまった。
ジャケットと皮膚が切り裂かれて露出した銀色のプレートが凹んでいる。
そして、気絶してしまいそうな鋭い痛みがすぐに襲ってくる。
満身創痍の体には、余りにも強烈な一撃である。

だが、痛みで怯んでいる場合ではなかった。
相手の腕は2本。すぐさま追撃が繰り出された。

2撃目は膝を曲げて姿勢を低くして避けたが、既に左右から2体のセカンドが迫っていた。
真正面に対峙していたセカンドも、再び腕を振り上げて攻撃を仕掛けようとしている。
ブーンは地面を蹴り、後転して攻撃を避けた。
後方にいたガイルが、すかさずマシンガンを乱射して敵を散開させた。

《あ゙あ゙アア―――――――ッ!!!》

喚き声と共に、上空から多くのセカンドが飛び込んで来る。
咄嗟に反応したガイルがマシンガンで迎撃するが、放たれた弾丸は硬質な音を鳴り散らすだけであった。
セカンドは指を閉じて弾丸を防御したのだ。

ガイル「な、何て硬さだ!」

31 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:09:16.18 ID:0PpO3nfx0
(;^ω^)「―――ガイルさん横に飛んで!」

ガイル「!?」

言われるままに、ガイルは身を投げ出すように飛んだ。
自分の立っていた場所に目を向けると、指を地面に突き刺したセカンドの姿があった。
一瞬でも反応が遅れていれば、脳天から股間まで串刺しにされていただろう。

狙いを外して生じた隙を見逃さず、ブーンがBBBladeで首を刎ね飛ばす。
頭を無くしたセカンドが、力無くその場に倒れた。
首から噴出す多量の血液で、足場の水や壁が一気に赤く染まってゆく。

そのまま他を追い払うように剣を振るうが、異形達は跳躍して回避し、
そして空中で壁を蹴って反撃を講じてきた。
宙からも、地からもセカンドが襲い掛かってくる。

(;^ω^)「キリが無いお!」

これでは「人海戦術」だ。
このままでは奴らの餌になってしまう。
しかし、どう突破すべきかも分からない。

34 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:12:44.54 ID:0PpO3nfx0
ガイル「ブーン! お前、眩しいの平気か!?」

ブーンが策を考えあぐねていると、ガイルが突然声を発した。

(;^ω^)「!? ええ、平気ですお!」

ガイル「っつっても、もう投げちまったがな!」

カラン、と乾いた音を立てて地面に転がったのは、黒い棒状の何か。


(;^ω^)「閃光弾ですかお!?」


目のフィルターを“遮光”に変えると同時に、眩い光とが辺りを包んだ。
淡い視界の中で、セカンド達が怯えた声を上げて逃げて行くのが見えた。
全身を強張らせていた緊張感がスッと抜けてゆく。

ガイル「太陽か何かだと勘違いしてくれたみたいだな……良かった……」

(;^ω^)「助かりましたお」

ガイル「とにかく、ここから離れよう!
    今の騒ぎを聞きつけて奴らがやってくるかもしれん!」

(;^ω^)「ええ。行きましょう!」

ブーンはBBBladeをホルダーに収め、落としたBlueBulletGunを拾い上げる。
2人はすぐに路地を離れた。

37 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:17:17.63 ID:0PpO3nfx0
道幅のある通りに出た。
光の差していた明るい所だったが、もうすっかり暗くなってしまっていた。

(;^ω^)「アイツらのせいで完全に夜になったお……」

ガイル「でも、お前のレーダーで安全なルートが分かるんだろ?」

並走しているガイルが聞いた。

(;^ω^)「いや、正確な索敵は出来ないんですお。
      何となくそこにセカンドがいるってくらいで、数なんかは特定できませんお。
      屋内にいる奴は探知しづらいですし」

機械仕掛けの左目と右耳が音や熱などを感知し、
それらを予めインストールされているマップに表示させるのが、ブーンのレーダーである。
情報が正確でなければ索敵されないのだ。

現に、街には戦火が少なからず広がっている。
これをセカンドと誤って感知するという可能性もあるのだ

『B00N-D1、聞こえるか!? もっと早く走れ!!』

( ^ω^)「え?」

突然聞こえてきたのは、ハインリッヒの緊迫した声だった。
ブーンは「もう大丈夫なのか?」と聞きたかったが、その隙は与えてくれなかった。

从;゚∀从『その通りを早く出るんだ!
       お前らの後ろから大量のセカンドが近づいているんだよ!』

41 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:22:04.04 ID:0PpO3nfx0
(;^ω^)「な、マジかお!?」

ブーンは後ろを振くが、通りには何も見えなかった。
まだレーダーにも反応は出ていない。

从;゚∀从『衛星使ってそっちの様子を見てんだよ!
       とにかく早く逃げろ! 見つかっちまうぞ!』

ガイル「おいブーン! どうしたってんだよ!?」

(;^ω^)「セカンドが近づいてきてるようですお!
      ここから急いで離れますお!」

ガイル「クソッ! さっきの戦闘で気づかれたのか!?」

すると、レーダーに赤い点の塊が映し出された。
後方数百メートル、さっきとは比べ物にならない数が、こちらに向かって来ている。
移動スピード、そして右耳が拾う唸り声。
これらは間違いなくセカンドの物だ。

(;^ω^)「こっちに近づいてきてるから、きっとそうなんだお!
      このままじゃ追いつかれますお!」

2人は駆ける足を速めた。
ガイルのマスクから激しい呼吸音が聞こえる。
それもそのはず、休み無く走り続けた上、戦闘もこなしているのだ。体は疲弊し切っているだろう。

レーダーで見る限り、先ほど襲われたセカンドより足は遅い。
しかし、いかんせん数が多く、10数体どころではない様子だ。
追いつかれれば今度こそ喰い殺されてしまう。

45 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:25:32.53 ID:0PpO3nfx0
(;^ω^)「もっと速く走りますお!」

後方のセカンドの足は遅いが、それでも人並み以上の速度だ。
それに、頭がイカれている奴らの体力は殆ど無尽蔵に近い。

ガイル「ゼェ…ハァ…ゼェ……」

半透明の面の奥に、ガイルの必死の形相が薄っすらと見える。
ガイルが走れなくなる前に、何とか姿を隠すなりして奴らを撒かねば。
このままでは通りを抜ける前に追いつかれてしまう。

なだらかな湾曲の道が続く。
建物は所狭しと並んでおり、この通りから出る路地なども無い。

(;^ω^)「そこの建物に隠れましょう!」

段々と失速し始めたガイルを見かね、ブーンが提案した。
指を刺したのは、「ガンショップ」の看板を掲げた小さな店だ。
派手に割れているがガラス窓の多い日差しの良さそうな建物だ。
巣ではない、安全な建物のはずだ。

50 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:31:56.28 ID:0PpO3nfx0
壊れて開きっぱなしのドアから、2人は店内へと逃げ込んだ。
やはり、ここにセカンドの反応は無い。

割れたショウ・ウィンドウの中には何も展示されていない。
店内には銃器や弾丸は残っていないようだ。
セカンドから身を護る為に、誰かがが持っていったのだろう。

ブーンとガイルは、レジカウンターの奥にしゃがみ込んだ。
店の外からは見えない死角となっている。
セカンドが中に入ってこない限り、見つかるはずはない。

ガイル「す、すまねえ……」

激しく肩を上下させて、ガイルが言う。

(;^ω^)(シッ! 静かに……)

少し離れた所から、水を掻く音、跳ねる音が聞こえてくる。
レーダーには赤い塊が通りを進んでいるのが表示されている。

重なり合った分厚く低い唸り声。
飢餓を訴える彼等の合唱が、徐々に大きく聞こえてきた。

52 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:35:22.17 ID:0PpO3nfx0
ブーンはカウンターから少し頭を出して、外の様子を伺った。
人に限りなく近い姿をした異形の大群が、走って来るのが見える。
数百はいるだろうと思われる大群が、獣じみた身ごなしと素早さでこちらに近づいて来ているのだ。

ブーンは咄嗟に頭を下げ、再びカウンター下に身を隠す。
片手にBlueBulletGunを構えて備えているが、襲われれば一溜まりも無い。
2人は気づかれないように息をも潜め、出来るだけ身を縮こまらせた。

「…………」

店の前を通過する雑踏。
このまま通り過ぎてくれとブーンは思う。
ガイルも祈るように両手を合わせ、身をガタガタと震わせている。

しかし、いくつかの赤い点が近辺をうろついている。
セカンド達が「獲物」を探しているのだろうか?

(;^ω^)(早く行ってくれお……!)

レーダーで見る限りでは、少数のセカンドが近くにいる。
それ以外の事は分からない。
どんな形状をしているのか、何体いるのかという情報は、外を見ない限り入手する事は出来ない。

54 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:37:44.04 ID:0PpO3nfx0
从;゚∀从『通り過ぎて行った奴らと比べると、見た目は少し強そうな感じだ。
      体のあちこちが剣みたいに鋭い…それから腕が沢山あるな』

欲しいと思っていた情報を、ハインリッヒが伝えてくれた。
ブーンは小声でハインリッヒに尋ねた。

(;^ω^)「数はどうですかお?」

从;゚∀从『えっと……ざっと10体は、いるな……』

ブーンは、じっと動かずにいた。
見つかってしまえば戦闘は避けられない。
戦闘になれば、再び騒ぎを聞きつけたセカンド達がやって来てしまう。
一瞬で10体ものセカンドを片付ける自信は、今は無い。

ちゃぷちゃぷという、セカンドの足音だけが外から聞こえる。
唸り声や叫び声を上げる様子も無く、黙々と自分達を探そうとしているらしい。
群れのセカンド達とは性質が異なる、冷静な“ハンター”のようである。

57 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:42:35.71 ID:0PpO3nfx0
“ハンター”の反応が1つ、また1つと消えてゆく。
どうやら、向いの建物の中に入っていったようだ。
近辺の建物を順に調べられてしまえば、終わりだ。

通りから聞こえて来る足音が消えた。
今の内にこの場を離れるべきか。

ガイル(ブーン、そこに裏口があるようだ)

ガイルが無言のまま指を指し、示す。
その先にはドアが見える。
気が動転していた為に気づかなかったが、カウンター側に裏口があったようだ。

从;゚∀从『裏口から出るんだ。
       大丈夫、そっちの方にセカンドはいない』

(;^ω^)(ガイルさん、行きましょう)

ブーンは裏口を指差しながら、ガイルの顔を見てコクリと頷いた。

62 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:45:24.40 ID:0PpO3nfx0
2人は、摺り足で音を立てずにドアへと近づく。
ドアノブが壊れて半開きになっている木製の扉を、ガイルが指でそっと押した。

キィ、という音を立てながらドアが開く。
余りにも大きな音に2人は呼吸する事をも止め、その場を動かなかった。

「…………………」

――今の音で気づかれたか?
悪い予感が頭を過り、不安と緊張が再び心臓を速く動かし始めた。

从;゚∀从『大丈夫だ。セカンドには気づかれてない』

(;^ω^)(マジで心臓に悪いお……)

水が排水溝に流れ落ちる音以外、何も聞こえない。
とりあえずセカンド達が戻ってくる様子は無いようだ。
込み上げる安堵感に、思わず溜息を零してしまった。

从 ゚∀从『空港までアタシがナビする。
       絶対にお前らを死なさずに、空港まで行かせるよ』

66 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:47:27.33 ID:0PpO3nfx0
静かな口調であるが、確かな力強さを感じた。
「絶対に死なさない」という言葉の裏に、どのような決意が秘められているのだろうか。

( ^ω^)(きっと、お兄さんみたいな犠牲者を出したくないんだお……)

2人は静かに裏口を通り、店を離れた。


从;゚∀从『ところで、アタシが連絡したのはお前らのアシストするって事ともう1つ。
      ジョルジュの進行ルートに多量のセカンドがいる、
      ってのを伝えておきたかったんだ』

ガイル「隊長の奴、まだポイントに到着してなかったのか…。
    まずいな……」

ブーンの右耳から漏れた音声に、ガイルが反応する。

具体的な用件ではないが、ハインリッヒが何を言わんとしているのかは分かる。
「ジョルジュが危険かもしれないので、今すぐ救助に向かってくれ」という事だろう。

(;^ω^)「ってか、バトルスーツ隊は連絡手段を持って無いんですかお?」

そういえば、と思ったブーンは質問した。
戦いでは無線でも持っているのが常であろう。

从;゚∀从『持たせてねえ。なんせ、バトルスーツの力を過信しすぎちまってたんだ。
      こんな状況になるなんて、誰も思ってなかったんだよ』

自信の感じられない上ずった声で、ハインリッヒが言った。

69 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:50:26.59 ID:0PpO3nfx0
从;゚∀从『お前らにとっては少し遠回りになっちまうが、頼む!
      ジョルジュを死なせたくないんだよ!』

( ^ω^)「分かってますお。安心してくださいお」

ブーンは即答した。
右耳に、ハインリッヒの安堵の溜息が入る。

( ^ω^)「しかし、ジョルジュ隊長までの道案内は貴方がする事ですお」

从;゚∀从『あぁ……分かってるさ。
      最短且つ安全なルートをナビゲーションするつもりだ』

ガイル「俺達の命もかかってるしな。
     頼むぜ! ハインリッヒ博士!」

从 ゚∀从『そうと決まれば早速移動するぞ!
       セカンドがその辺りに集まらない内にな』

72 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:53:12.11 ID:0PpO3nfx0


夜。
半月の頼りない明りだけが唯一の光である、暗闇の世界。
腹を空かせた獰猛な化物が巣から出で、食料を求めて街を徘徊する時間だ。

街の雰囲気は、昼間とも夕暮れとも違っていた。
太陽という暖かな輝きが失われ、立ち込めていた死臭がどんよりと周囲に漂う。
その不気味で生臭い冷気は、どういう訳か分厚い戦闘服をすり抜けて伝わってしまうのだ。

夜の街は死地そのものだ。
ましてやたった1人で進むなんて、自殺行為の他何でもない。

(;゚∀゚)(頼むから出て来るんじゃねーぞ……)

不安さを少しでも押し潰そうと、軽機関銃のグリップと銃身をぎゅっと握り締める。
軽機関銃を肩から襷に掛けているが、これはあまり使いたくなかった。
発射音を聞かれてしまう恐れがあるからだ。

マスクには暗視機能も備わっており、暗闇の中も不自由する事無く動けている。
この機能が無かったらと思うと、ゾっとしてしまう。
一寸先も見えない闇の異形の街を手探りで進むなんて、正気を保っていられないだろう。

76 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:55:46.75 ID:0PpO3nfx0
ジョルジュは慎重に歩いていた。
ほんの僅かな動作も見逃さないように周囲に目を配らせるながら、ゆっくりと。

流石に走って行く事は無理だった。
何処でセカンド達が耳を欹てているのか分からないのだから、
派手に水の音を立てて進むのは危険すぎる。

( ゚∀゚)(……なんだ……?)

道を流れる泥水の中に、異なる色が一筋通っているのが見える。
黒っぽい、泥よりも濃い色。
マスクを通した目では、それが本当は何色をしているのか分からない。
とはいえ、この暗さではマスクを取った所で何も見えないのだが。

不審な点ではあるが、ジョルジュはそのまま道を進むしかなかった。

黒色は歩を進める毎に幅を増してゆく。
やがて道をT字に分ける交差点に辿り着くと、黒い液体は一方から流れている事が分かった。
空港に通じるのは黒色の道だ。

( ゚∀゚)(ガソリンか何かか?)

79 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/13(日) 23:59:25.19 ID:0PpO3nfx0
建物の壁に背を付け、液体の流出している先をゆっくりと覗き見る。
通りの光景を一瞬見ると、ジョルジュはすぐに体を隠した。

この角を曲がった通りを少し先に行ったほう。
そこで、禿げたみすぼらしい異人が群れを成し、何か巨大な生物を貪り喰っていた。

(;゚∀゚)「う…あ………」

おぞましい光景を目の当たりにし、
ジョルジュは思わず声を出してしまった。

道を彩る液体は、ガソリンなどではなかった。
血―――それも、セカンドの血液。

ジョルジュは、無意識に来た道を戻り始めた。
今、彼の頭には「空港へ行く事」という事は微塵も無かった。

――見つかりたくない。
奴らに喰われたくない。
奴らの仲間入りなど、したくない。

深層心理に潜むセカンドへの恐怖が、彼の足を後ろへと動かしているのだ。

ジョルジュは勇敢且つ屈強な軍人だ。
しかし、それはあくまで敵が人間である事の話。
バトルスーツの無いジョルジュは、普通の人間と特に変わりはないのだ。

81 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/14(月) 00:02:04.41 ID:udcXbHTt0
気づかれないように、ゆっくりと足を動かしてゆく。

奴らとは大分離れた位置にいるし、「食料」を夢中で貪っているので
気づかれる可能性は低いはずだ。

かといって、走って足音を立てるのは危険だ。
極力、大きな音は出し無くない。

見つかれば終わりなのだ。
ましてや、あれほどの大群に気づかれてしまえば、
一瞬で骨の一片も髪の一つも残らずに喰われてしまう。

(;゚∀゚)(やべえ……やべえ………)

とにかく、一刻も早くここから離れたい。
それだけが、ジョルジュの頭を支配していた。

パニック状態に陥った彼に、もはや冷静さなどは完全に見る影も無くなっていた。
ただ、静かに歩を進めて、その場を離れようとするだけ。

彼の背後に何かが近づいているなど、気づく訳も無く。

85 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/14(月) 00:05:54.61 ID:udcXbHTt0
(;゚∀゚)「うがああっ!?」

彼が鈍くなった思考から目覚めた時には、手遅れであった。
醜悪なセカンドの牙が左肩を貫き、スーツごと肉を噛み千切っていた。

(;゚∀゚)「や、やめっ…ろっ……!」

背後から両腕で締め付けられている。
ジョルジュは体を振って離れようとするが、セカンドの圧倒的な力が
そうはさせてくれなかった。

一口。
そしてまた一口と、体を喰われてゆく。

(;゚∀゚)「くそったれ……!!」

銃を喰われている肩の辺りに突きつけ、発砲した。
大きな炸裂音が辺りに反響する。

頭を撃ち抜かれたセカンドは力無く倒れ、動かなくなった。
だが、その顔には笑みが浮かんでいる。
新鮮な血肉を喰らう事は、彼等にとって最上の至福なのかもしれない。

90 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/14(月) 00:11:01.12 ID:udcXbHTt0
(;゚∀゚)「…………」

セカンドウィルスに感染してしまった。

痛みや出血など、どうでもよかった。
感染してしまった事の絶望感が、ジョルジュの何もかもを麻痺させていた。

咬まれる、傷を付けられる、体液が体に入る。
これらは、主なセカンドウィルスの感染パターンである。
多少の免疫を持っていても、そうなってしまえば決定的に感染してしまうのだ。


《ア゙ア゙………ヴウウ……………》

銃声を聞き付けたセカンドの群れが、続々と目の前に現れてきた。
先ほど見た、大型セカンドの死骸を喰らっていたセカンド達だ。

(;゚∀゚)「う……畜生ッ!!」

閃光を発する装置を両手で取り出し、セカンドの方へ放る。
カラン、という金属音の後、大きな爆発音と共に閃光が生じた。
眩い白い光の中で、セカンド達が何処かへ消えてゆくのが見える。

やがて光が消えると、多量にいたセカンド達の姿は、1人残らず消えていた。

94 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/04/14(月) 00:14:41.99 ID:udcXbHTt0
ジョルジュはフラフラした足取りで、近くの路地に入っていった。
体を隠すのに調度良いゴミ箱があったので、その戸を開けて中に入った。

(;゚∀゚)「……クソ………」

ジョルジュは力無く座り込んだ。
そしてポケットからジッポを取り出して点火させ、それを足元に置いた。
僅かな光であるが、明かりの代わりだ。

顔を覆っている半透明の面を上げ、右肩の様子を見る。
思ったより傷は深くないようだが、傷口は痛々しくて直視し難かった。

( ゚∀゚)「助かったが……しかしな……」

ジョルジュは思う。

生き延びた所で結局セカンドと化すのだから、
俺はもう死んだも同然であると。


                             第8話「感染」終

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