内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第6話「生きる者、死に逝く者」
2 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 21:44:48.86 ID:/zNGDKtg0
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、本名不明。年齢20歳。戦闘員。
      ウィルスに対する強い免疫を持つ数少ない人間の一人である彼は、
      自ら強化人間「システム・ディレイク」となってセカンドを狩る。
      その目的は、両親を殺害したセカンドを探し出して復讐する事である。
BBGun

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
      弱冠19歳の天才科学者少女。その頭脳でブーンを強化・修復などのサポートする。
      システム・ディレイク理論の提唱者である両親の命と自分の両腕をセカンドに奪われ、
      ブーンと共に復讐を誓う。嫌煙家。貧乳。ガキンチョ。
ツン・ディレイク

('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   油っこい長髪、病人のような顔色と不健康な外見の彼だが、それは「研究のし過ぎ」の為らしい。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ツンをからかうお調子者の変態。時には論理に囚われない人間性を見せることも。

4 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 21:45:54.22 ID:/zNGDKtg0
――― チーム・アルドリッチ ―――

从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
    対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
    ツンと並ぶ天才科学者なのだが、プライドの高い両者は犬猿のライバル。
    任務中に出現した巨大セカンドが、実の兄の「ミルナ」であるという。

( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
    プライド高き元アメリカ陸軍中尉。「命知らず」の勇敢な戦士である。
    現在は深紅のバトルスーツを操るバトルスーツ部隊隊長として活躍。
    だが、敵セカンドの圧倒的パワーにより機体が損傷してしまう。

ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
    バトルスーツ部隊副隊長としてジョルジュをサポート。
    髪形は変だが、話の分かる人間の出来た元空軍出の兵士。
    敵セカンドの攻撃を受け、機体と共に行方が不明。

ザンギエフ、バイソン、ベガ、ホンダ:バトルスーツパイロット。特に見せ場も無く、即死。

7 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 21:48:37.93 ID:/zNGDKtg0
――― その他 ―――

(´・ω・`)ショボン・トットマン:年齢25歳。バーテンダー。
      「ショボンのバーボンハウス」のガチムチダンディ店長。
      暗い世の中で生きる人々の憂い飛ばしたいと言う彼は1から酒作りを始めるも、
      彼の出す酒はどれも不味い。ブーン達の良き理解者でもある。

/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
   現議会長、元アメリカ空軍大佐。
   アルドリッチ&ディレイクによる衛星打ち上げミッションの総司令官を務める。
   任務中では、空軍大佐時代の豪快な一面も見せた。

( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
     セントラルの実力者であり、科学者でもある。

9 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 21:51:28.36 ID:/zNGDKtg0
LOG 1
数年前、北アメリカ南部のとある場所にて――


異形の大軍が行進していた。

恐怖に駆られた者達は形振り構わず、ただ生き延びる為にひたすら逃げた。
幼い少年少女や病人、非力な年寄りを突き飛ばし、押し倒し、犠牲にした。
人から投げ込まれた「餌」に異形が喰らいついている間に、街を脱出した人々は少しでも遠くへと逃げようとした。

街を出る事が叶わず荒波に飲み込まれた多くの人間は、異形に四肢や臓物を喰われ、異形の怪物と化す。
そして、まるで自分を地獄へ突き落とした人間を喰いに行くかのように、彼等の行進に加わるのだ。

生き延びた人々は、まだ感染の無いと言われていた北を目指した。
ただひたすら、北へ、北へと、走った。

その中にいた、とある兄妹も、生き延びる為に北を目指した。

北東岸の大都市、NY、マンハッタンへ。


異形達も、多くの人間の臭いを嗅ぎつけるように、北に向かっていった。

10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 21:54:25.72 ID:/zNGDKtg0
 第6話「生きる者、死に逝く者」

それまで騒然していた場が一気に静まり返った。
その場にいた者達は言葉を失い、ただ口を開けて呆然とするのであった。
静寂に包まれた本部には、ハインリッヒの嗚咽だけが響き渡っていた。

(;'A`)「う……嘘……だろ…?」

痺れを切らしたように、ドクオが全員に代わってその言葉を口に出した。
誰もがハインリッヒの述べた事を信じられず、否定したかったのを耐えていたのだ。
何故なら、それが事実であるのなら、あまりにも悲惨であるからだ。

皆、その現実を受け止められる自信が無かった。だから、信じようとしなかった。

从;∀从「こんな時に誰が嘘を言うんだ! 誰も信じていないのかよ!?
        アタシだって信じたくない! でも、“アレ”はアタシの兄さんなんだよ!」

泣き崩れた顔をもっとクシャクシャにして、自身の怒りと悲しみを訴えるハインリッヒ。
ドクオの胸倉を掴む手には力が無く、足取りもふら付いている。
ほんの少し手で押してやるだけで倒れてしまいそうだ。

(;'A`)「うっ……その……すまなかった……すまなかったよ……」

彼女の気も考えずに否定してしまった事をドクオは後悔し、何度も謝罪の言葉を述べる。
再び座り込んだ彼女は、ドクオの言葉など聞かずに、ただ泣きじゃくるばかりであった。
ドクオもまた、こんな言葉がハインリッヒにとって何の意味を持つのだと、虚しく思う。

12 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 21:56:41.76 ID:/zNGDKtg0

ξ゚听)ξ「そん……な……」

モニターの前で殺意を振りまいていたツンが、その場に崩れ落ちた。
討つべきセカンドが自身のライバルの肉親であるという残酷な現実。
気づけば涙が頬を濡らし、身体を震わせていた。

ξ;凵G)ξ「いや、いやよそんなの……残酷すぎるわよ……」

その涙は彼女への同情を示しているのか、
それとも、これから自分がやるべき事に対しての恐怖と罪悪感によるものなのか、
ツン自身にも分からなかった。ただ、涙が止まらなかったのだ。

( A )「どうすりゃいいんだよ、クソッタレ!」

ハインリッヒの兄はあの姿から戻る事は出来ない。
一度セカンドになった者を人間に戻す研究は、これまで一度も成功していなかった。
その事から導き出される結論はただ一つ、「殺す」という事だけだ。

自分達の非力さに、ドクオは涙を流した。

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 21:59:56.84 ID:/zNGDKtg0


名を名乗って“参る”などと宣言する、あまりにも人間的なセカンド。
“クォッチ”は、左右に生やしたハサミを開閉させて、ガチガチと硬質な音を鳴らしていた。

開かれた鮫の頭部は両肩を守るように乗っている。
剣山のような無数の牙がある事から、足の「足具」も相俟って「甲冑」のように見える。
甲殻類のハサミや、鯨や鮫の「甲冑」と「青い肌」を持っていなければ、外形は人間そのものである。

だが、あれ―“クォッチ”―は、歴然としたセカンドだ。
人間のように思考して話そうが、殺さなければ逆にやられてしまう。

しかし、バトルスーツ隊もほぼ壊滅し、残ったのは自分ただ一人という戦況に、
ブーンは絶望感を感じずにいられなかった。

(;^ω^)(アイツを倒すにはどうしたらいいのかお……)

ブーンは現存の戦力で如何に敵を倒すかを考える。
まず、残っている武器を整理した。

右太股のホルダーに備え付けてある“45mmBlueBulletGun”。
左太股のホルダーには5.7mmの光弾を広範囲に断続して発射する“5.7mmBlueMachingun”がある。
どちらもエネルギー残量に心配は無いが、敵の皮膚を破るには火力が足りない。

16 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:02:12.52 ID:/zNGDKtg0
ブーンは太股のホルダーから柄を一つ取り外し、それを握った。
グリップを握り込むと、柄に埋め込まれたシリンダー内のエネルギーが棒状に伸び、刃を形成した。
ブーンは蒼い刃を軽く振り、手応えを確認する。

(;^ω^)(自殺行為かもしれないけど、コレしかないお)

ドクオが言っていた事を、ブーンは思い出した。
剣は銃と違い、己の力加減で威力が変わるのだと。
最大の力を持ってすれば、恐らくは敵の頑丈な皮膚を切れるはずだ。

問題なのは、計6本の腕とハサミによる高速の攻撃を掻い潜り、攻撃できるかどうか。
“Sniper"があれば幾らか楽になったのだろうが、もはやエネルギーは切れてしまっている。
BLACK DOGの武器庫にも“Sniper”は一丁しか用意していない。

まずは“BBBlade”で直接抗体を流し込み、動きを止める。
抗体で弱体化したその時に“BlueLazerCanon”を使い、一撃で勝負を決める。

これが現状で考えられる最良の戦め方だ。
クォッチの素早い動きを止めない限り、いくら巨砲と言えども撃った所で命中はしないだろう。

しかし、これが無謀である事は、データ的にも、体感的にも理解している。
背中や額を流れる嫌な汗が止まらない。
機械で覆われているはずの心臓が、五月蝿い程に鼓動するのをブーンは感じていた。

20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:06:32.34 ID:/zNGDKtg0
クォッチがゆっくりと歩き始めた。
一歩足を出す度に地が揺れ、その振動で建物の残骸が音を立てて崩れてゆく。
通り道を防ぐように立っているビルを、クォッチは腕とハサミで払いのけて崩し、道を開いている。

( ゚д゚ )《いい眼をしている……この状況でも決して絶望していない…》

遠くにいるクォッチが言う。
この距離で自分の目を見ているのかとブーンは驚くが、
それ以上に『いい眼をしている』と言われたのは、ブーンにとって心外であった。

(;^ω^)「ちょっとだけ倒せる材料があるだけで、
      本当は絶望しまくりなんだお? おっおっおっ…」

クォッチにはそのつもりは無いんだろうが、セカンドに皮肉を言われてブーンは苦笑した。

ブーンはBBBladeの刃を収めてバイクに乗り込むと、ビルの屋上から飛び降りた。
水没した都市の水面をぎりぎりに走行する。
車体の下や後ろに付いているブースターが激しい水飛沫を上げている。

( ^ω^)(まずは一太刀入れてみせるお!)

あの皮膚に対してBBBladeが有効ならば活用するべきだ。
例えば、足を切り刻めば敵の厄介な走行速度は落ちるはずだ。
腕の間接部分を損傷させれば攻撃のキレも落ちるだろう。

23 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:09:30.96 ID:/zNGDKtg0
敵が真正面に向かってくる。
この大通りをこのまま突っ走れば真正面での激突となる。

しかし、ブーンはハンドルを切ろうとはしなかった。
別のルートから敵に向かおうとしても、「あの目」からは逃げられないだろう。
どちらにしろ、自分の数十倍大きいクォッチに接近する事そのものが恐怖であるのだが、

( ^ω^)「ここは真っ向から戦ってやるおッ!」

ブーンは真正面から戦う事に、覚悟を決める。

アクセルを限界まで捻り込み、全速でバイクを走らせる。
端から見れば、砲台で発射された弾のように見えるかもしれない。

( ^ω^)「お? あれは何だお??」

大通りの遠くの水面で、何かがいる。
水中で何かが激しく動いているようで、飛沫を上げている。

左目のレーダーやセンサーが反応すると同時に、セカンドが水面から現れた。
まるでクォッチの元へ続く道を守る兵士のように、大型セカンドが大通りに立ち塞がった。
もっとも、久方ぶりに見つけた人間を喰らいたい為に現れたのであろう。

25 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:12:21.21 ID:/zNGDKtg0
全身は、タコなどに見られる特有のヌメリがある皮に覆われている。
ヘドロを思わせる腐った灰色が、生物としての生気を感じさせなかった。

人間のように頭部があるが、“クォッチ”とは違い、人の「それ」から大きくかけ離れた顔面だ。
隻眼であり、鼻も無かった。
間抜けに開けている口には歯が見当たらず、能面な顔を持ったセカンドである。

本来腕があるべき部分には、無数の長い触手が生えていた。
威嚇なのだろうか、黒色のそれを宙にうねうねと動かしている。
下半身は水面下に隠れているので、どんな構造になっているのか分からないが、興味は沸かなかった。

《エ……エ゙…ゴエ゙…イ゙…ガア゙ァ……》

“クォッチ”のように、知能や理性を持って自分の意思を伝えているとは思えない。
成熟していない言語器官を使って、無意識に出している奇声だ。

( ^ω^)「割と大きいヤツだお……でも、構ってられないお!」

ブーンはまず、右太股のホルダーからBlueBulletGunを取り出して構えた。
片手でバイクのパネルを操作しながら、もう片手で発砲とリロードを繰り返す。
パネル操作が終わると、ブーンはバイクの座席に両足で立ち、セカンドに向かって力強く跳躍した。

先に10発ほど放たれたBlueBulletGunの光弾が、
セカンドの腹――人間で言う腹の位置――を突き破り、空洞にした。

27 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:14:31.66 ID:/zNGDKtg0
腹の肉を抉られた痛みと、全身を焼き尽くすような抗体の痛みに、セカンドが喚き叫んでいる。
それでも弱体化し切れていないようで、ウィルス特有の凶暴な攻撃性をもって反撃に出た。
跳躍して迫るブーンに対して、あらゆる方向に触手を伸ばしたのだ。

前後左右から取り囲もうとして来る触手を、ブーンは右手に持ったBBBladeを振るって切り進む。
切り口から侵入した抗体が触手を犯してゆくのを、サーモグラフィで一目瞭然に分かる。
ウィルスを失って弱体化したセカンドは、それまで素早く正確だった触手の動きを鈍らせていた。

ブーンは長い触手を細々に切り刻んで行き、セカンドとの去り際に首を切り落とした。

( ^ω^)「トドメだお!」

ブーンの跳躍はまだ続く。
そのまま左手を後ろに返し、BlueBulletGunの銃口を敵に向ける。
左目のレーダーの敵位置を頼りに、光弾を数発撃った。
放たれた光弾はセカンドの身体の随所に着弾し、抉り取った肉と共に消滅する。

断末魔を上げる間も無くセカンドが息絶えた。
切られた首と、弾丸で出来た体中の穴から黒い血液が噴出し、辺りの海水を汚している。

( ^ω^)「BLACK DOG、ナイスタイミングだお!」

先ほどのパネル操作で自動操縦となったBLACK DOGが絶妙なタイミングでセカンドの開いた腹を通過し、
重力に引っ張られて落下していくブーンを拾ったのだ。
バイクが血まみれになってしまったので、水に潜らせて血を落としてやり、
まるで何事も無かったかのように大通りを進めるのであった。

30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:16:46.85 ID:/zNGDKtg0
( ^ω^)「やれば出来るもんだお」

これでセカンドの熱源反応は前方にいるクォッチのみとなった。
この、一条に伸びる大通りの中央で、両者は合い間見える事になるだろう。

『ブーン。ちょっといいかしら』

いきなり右耳に入ってきたのは、ツンの声だった。
いつもと変わらない棘のあるトーンだが、どことなく暗いように思える。

( ^ω^)「ツンかお。
      ハインリッヒの様子がおかしいって、何があったお?」

『実は……」

32 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:18:45.56 ID:/zNGDKtg0


深紅のバトルスーツが緩やかな速度で空を飛んでいた。
速度を出さないのは、足を一本失った事で出力と機体バランスを失った事も原因であるが、
地上を隈なく見るのが目的であった。

元から複雑な街だというのに、セカンドに破壊された挙句、
津波に襲われたのだから余計に入り組んだ街になってしまっている。

いくらバトルスーツが大きいとはいえ、ガイルの捜索は困難であった。

クイーンズ区は、アメリカの中で最も多くの人種が集まっている都市であった。
人種別に地区が隔たれている為、地区ごとにそれぞれの特性が色濃く出ているのもクイーンズ区の特徴である。
こういう事もあって、迷路のような構造の街であるのだ。

( ゚∀゚)「オペレータ、ガイル機の位置は分かったか?」

レーダーが故障してしまった為、ジョルジュはメインカメラでガイル機を発見しなければならなかった。
カメラをズームさせる事は出来るが、殆ど肉眼で探すのと変わりは無かった。

34 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:20:26.23 ID:/zNGDKtg0
――煙を噴出させながら墜落していったのは覚えている。
しかし、煙を出しているのはガイルのバトルスーツだけでなく、クイーンズ区の至る所でもそうだった。
煙や炎が立ち昇っている建物も多く、はっきりと街が見えない。
肉眼でガイル機を探すのは殆ど不可能に近いのかもしれない。

『あちらの通信系統が故障しているのか、こちらのレーダーは検知しませんでした。
 現在、衛星を利用して捜索を続けております』

(;゚∀゚)「仕方ねえ……捜索をしながらガイル機に交信も続けろ。
     何かあったらすぐに連絡してくれ。俺は戦いに戻る」

『その機体で敵と戦うのは無謀です!』

( ゚∀゚)「機動力は30%減だが、戦えない事はない。
     それに、気にいらねーがB00N-D1には敵の動きを止める事が出来るみてーじゃねえか。
     何とかしてあの野朗をぶっ殺さねーと、俺の気が済まないんだよ」

『……ならば、ジョルジュ隊長。少しお伝えしておきたい事がありまして…』

( ゚∀゚)「あ? 何だよ改まって?」

『敵セカンドのことなのですが……』

36 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:22:41.96 ID:/zNGDKtg0


時間が前後して、数分前の本部。
閑静した空間の中で、ハインリッヒが己の過去を語っていた。

从 ∀从「8年前、アタシとミルナ兄さんはバージニアビーチの街に住んでいた」

ハインリッヒはいつもの調子で話していた。
ただ、声は泣き叫んでいたせいで潰れてしまい、しわがれている。
それにまだ顔を俯かせ、前髪を垂らして顔を見せようとはしなかった。

(;'A`)「バージニア……アンタ、南にいたのか…」

フロリダ、ミシシッピ、テキサス、カリフォルニア、ルイジアナ、アラバマ、バージニア。
これらはNASAのフィールドセンターを有する、アメリカ南に位置する州だ。
フィールドセンターとは、宇宙船や人口衛星の開発や打ち上げ、管制などを行う宇宙センターの事だ。

从 ∀从「そうだ。噂に聞いていたかもしれないが、多量のセカンドが南に発生したんだ。
      当時はウィルスも発症したばかりで、セカンドの数も少ないと言われていたんだが、
      どこからとも無く現れた奴らに、バージニアの多くの都市が壊滅させられた」

38 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:25:05.90 ID:/zNGDKtg0
2040年代、宇宙開発の発展により、フィールドセンターの数は12から30まで増加したが、
“主要”と言われたフィールドセンターは、以前より存在していたセンターであった。

セカンド感染者を乗せた宇宙船が到着したというのも、
その主要センター ――南に位置する「フロリダ」の――だったらしい。

从 ∀从「軍や警察も勇敢に戦っていたが、数が余りに多すぎたんだ。
      あっという間に防衛網を突破した奴らが、街を出たアタシ達を追いかけてきた」

ハインリッヒが淡々と過去を話してゆく。

从 ∀从「死に物狂いでセカンドを振り切り、アタシ達はバージニア州を抜けられたが、
      辿り着いた街は、アタシ達を、入れてくれようとは、しなかった……!」

そこでハインリッヒは話を切った。
声を震わせているのは彼女の憤りがそうさせているのだと、誰の目にも分かった。

42 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:27:21.98 ID:/zNGDKtg0
ξ゚听)ξ「セカンドと、セカンド感染者を侵入させない為の“封鎖”ね……?」

“封鎖”とは、政府によるウィルス感染防止案だった。
警察と軍による、街の出入りの管理、道路などの交通機関の封鎖が、主な内容である。

从 ∀从「…その通りだ。感染源に近い全ての街は“封鎖”を始めた。
      後ろに戻ればセカンドがいるかもしれないというのに、
      アタシ達バージニアの生き残りは、軍と警察に銃を突き付けられて、追い返された…」

('A`)「ひでえ……」

改めてドクオは旧政府のやり方に憤慨した。
そして同時に、改めて人間の悍ましい一面を思い知るのだった。

再び、ハインリッヒが淡々とした声で続けた。

从 ∀从「アタシ達は、それでも諦めなかった。まだ感染が無いと言われた北、ニューヨークをひたすら目指した。
      でも……その北上の途中、他の地域から漏れ出したセカンドに襲われてしまった。
      混乱と恐怖の中で、大勢の人間がアタシの目の前で喰われていった……」

44 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:29:34.95 ID:/zNGDKtg0
从 ∀从「……怖くなったアタシは無我夢中で逃げた……
      ……気づけばミルナ兄さんが隣にいなかった……混乱の中ではぐれたんだろうな…。
      あの時、アタシは生き別れになっちまったんだと思っていたが……」

ハインリッヒは一度声をつぐみ、零れ出る涙を手で拭い、話を続けた。

从;∀从「……やっぱり、ニューヨークにも、兄さんは…いなかった。
      時間が立てば、すっぱり諦められるもんでな……
      アタシは、兄さんが、死んだとばかり…思ってた」

「死んだとばかりに……それなのに……何で…あんな姿になっちまってんだよ……」

――死んでいた方が良かったのに、と彼女は言いたいのだろう。
そんな事を思うのは勝手な事なのかもしれないが、ドクオはハインリッヒに同意せざるを得なかった。
自分の両親を撃てと言われたら、撃てる訳が無い。

('A`)「どうにかなんねーのかな……? これじゃ余りにも残酷過ぎる……」

「そうね…」とツンが同意する。
しばらくの間彼女は、下唇を強く噛み、眉間に指をあて、目を瞑っていた。
解決の難しい問題を考える時の、ツンの癖である。

ツンはゆっくりと目を見開き、モニターに映るセカンドの顔を眺めながら言った。

ξ;゚听)ξ「……彼に、人間の時の記憶と理性が残っているのなら……もしかしたら…」

46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:31:24.02 ID:/zNGDKtg0



『……という事なのです、ジョルジュ隊長』

敵セカンドの正体が、チームリーダーの実兄であるという事を、オペレータの一人が伝えていた。

偶然にしても残酷過ぎるとジョルジュは思うが、同情する気にはなれなかった。

( ゚∀゚)「そうか」

『…そうかって、それだけですか!?』

オペレータが聞き返す。
「そうか」という短い返答の中に、ジョルジュが伝えたい事は無い。
ジョルジュにとっては、ただの返事だった。
納得のいっていないオペレータに、ジョルジュは自分の考えを話してやった。

( ゚∀゚)「討つべきセカンドが誰かの肉親だとしても、殺らなければならん。
     恐らく、B00N-D1もそうするだろう」

50 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:34:30.37 ID:/zNGDKtg0
『な……本気で言ってるんですか!?
 何故そんな事を平然と言ってのけるのです!?』

オペレータが怒りと失望の念を抱いた事が、荒々しい口調から分かる。
そんなオペレータに、ジョルジュは溜息をついて返答する。

( ゚∀゚)「お前な、『セントラル』にどれだけ親を失った子供がいると思う?
     どれだけ子を失った親がいると思う?
     兄弟を、恋人を、友人を失った者がどれ程いると?」

『え……?』

オペレータにとって、それは意外な言葉だった。
オペレータはジョルジュが何を言いたいのか分からず、次の言葉を無言で待った。

( ゚∀゚)「『セントラル』の多くの人間が、ハインみたいな境遇で生きてんだよ」

52 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:35:57.25 ID:/zNGDKtg0


( ^ω^)「……それで、僕にどうしろと?」

ハインリッヒの兄が目の前のセカンドであるという可能性は非常に高い。
だがしかし、セカンドになった者を人間に戻す術など有りもしないのに、殺す事以外に何をしようというのか。
ブーンは少し強い口調で、ツンに聞く。

『彼に記憶と理性が残っていれば、戦わずに済むかもしれないわ!』

――そういうことか。とブーンは納得する。
同時に、何を馬鹿な事を言っているのだと、ブーンは呆れていた。
ブーンは、ツンの言葉を否定的に返す。

( ^ω^)「本当にそう思ってるのかお?」

『な…何よその言い方! えぇ、思ってるわ!
 アルドリッチのお兄さんの顔や声がそのままなのよ!?
 知能だって彼の物かもしれない! そうだったら理性も記憶もあるかもしれないじゃない!』

『ブーン、どういうつもりだ?』

恐らく、ツンとドクオは自分の態度や返答に対して怒りを感じているだろうと、
ブーンは遠く離れた本部にいる2人の表情を思い浮かべた。
しかし、そんな彼らを無視して、ブーンが淡々と続けた。

55 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:38:26.06 ID:/zNGDKtg0
( ^ω^)「何か手段があるなら、やってみればいいお。
      でも、僕はこのまま戦わせてもらうお」

『何故そこまで………』

前方のクォッチを見据えて、ブーンが続ける。

( ^ω^)「あれはセカンド“クォッチ”だお。
      ハインリッヒの“ミルナお兄さん”ではないんだお。
      攻撃的なのも凶暴なのもセカンドらしいじゃないかお」

あのセカンドの進化の過程は予想がつかないが、結局の所、
アレは、ミルナ・アルドリッチの顔と声を持っただけのセカンドなのだ。
セカンド感染者に見られる凶暴な攻撃性が強く出ているのも、彼がセカンドであると物語っている。

理性で制御された欲求で人間を喰らうのを我慢し、今まで機を狙って潜んでいたのかもしれない。
そのように仮定するならば、奇襲と予想するのも的外れではない。

58 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:40:46.52 ID:/zNGDKtg0
『何で…何でアンタ、そんなに割り切れるのよ?
 ハインリッヒの兄なのよ!?』

ツンが、まるで見損なったような言い方をした。
そんなツンに対し、ブーンは怒り、呆れ、見損う。

( ^ω^)「誰の兄だろうと関係ないお。
      “僕達”は『セントラル』を守る為にも戦うんだお」

『それ……は……でも…』

ドクオの声が詰まっている。
否定する事が出来ないのだろうと、ブーンは思う。

( ^ω^)「セカンドの多くは、元々が人間だお。今更セカンドを“人”として見るなお。
      今回はたまたま限りなく人に近い外見なだけで、あれはセカンドなんだお。
      感染したらお終い。それがセカンドウィルスだお」

そう言い切って、ブーンは通信回線を切った。

63 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:43:05.08 ID:/zNGDKtg0
――今更何を言うのだ。
そんな事を言うのなら、君やドクオは殺人兵器を作っているし、僕は殺人者だ。

セカンドは殺してやらなければならないのだと、
ブーンは数年に及ぶ戦いの中で、そう理解したのだ。

セカンドは本能と欲求による生存行動により、何かを食って生き延びようとする。
その事から、外見こそ違うが本質的には人間と同じであるのだ。

しかし、人を喰らい、腐った動物の死骸や虫を喰う彼らの、何処が人間的であるというのか。
ひたすら血肉への貪欲な渇望を満たそうとする、ただの化け物だ。

( ^ω^)(勝手なことかもしれないお。でも、殺さなければならないお)

セカンドとしては人間に限りなく近い顔を持つ“クォッチ”も、他の化け物と同じだ。
殺さなければ、彼は化け物として生き続ける事になる。
彼を人間として見るなら、なおさら殺さなくてはいけないのだ。

64 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:44:44.31 ID:/zNGDKtg0
一時の感情に振り回されてはこの世界で生きていく事など出来やしない。
そのように、ブーンは戦いの中で学んでいた。

ブーンは、脳やコンピュータの記憶素子が記録しているセカンドとの戦いの日々を思い出す。
大勢のセカンドを撃ち殺してきた、血腥い記憶を。

『セントラル』にはセカンドの襲撃を受けて、両親を無くした孤児が数え切れない程にいる。
ブーンが撃ったセカンドの中には、孤児達の両親がいたのかもしれない。
それでもセカンド達を撃ったのは、全ては「セントラル」を守る為なのである。

何が残酷なのか、そうでないのか。
そういう事ではない。生きる為にはセカンドは殺すしかない。

( ^ω^)「殺すお。殺さなきゃいけないんだお……!」

ハインリッヒ・アルドリッチに限った事ではない。
誰もが大切な人を失い、もしくは見捨て、犠牲にして、そうやって生き伸びている。
そう、今生きている人間は、誰もが罪人なのだ。

67 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:47:02.18 ID:/zNGDKtg0
BBBladeを握り、そしてBLACK DOGをクォッチに向けて翔らせる。
狙いは何処でも良い、とにかく一撃を与えたいと、ブーンは柄を強く握る。

クォッチが雄叫びを上げながらハサミを振るう。
それをブーンは、バイクのブースターの調節やハンドル捌きでスレスレに避ける。
クォッチの胴体が近いが、BBBladeで攻撃するには、まだまだ遠い。

瞬時に迎撃が繰り出された。
ブーンを叩き潰すように、真上から拳を落とすクォッチ。
ブーンはバイクを下降させ、拳をぎりぎりまで地面に引き付け、避けた。

クォッチの右手は地面を貫き、手首の辺りまで埋もれてしまった。
すぐに手を引き抜くが、それが僅かなタイムロスとなっていた。
ブーンはその隙をついて、体勢が低くなったクォッチの股を潜り抜けようとする。
巨大な右足に近づきながら、BBBladeを振りかぶった。

(#^ω^)「オオオオオオオオッ!!」

渾身の力とバイクの慣性で振られた蒼い刃は、頑丈な皮膚を切り裂き、肉を抉り切った。
傷口から吹き出る黒い血液を浴びながら、クォッチの股を潜り抜ける。
クォッチの背後に回り込めたブーンは、バイクを上昇させる。

(;^ω^)「BBBladeで切れたお…でも…これは……」

――疲れる。
攻撃を仕掛けるプレッシャー、そして一太刀で消費する体力。
敵に一撃を与えれば、こちらも心身が擦り減らされるような思いに、ブーンは「諸刃」という言葉がふと頭に浮かんだ。
――しかし、やらねばならない。

70 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:48:29.90 ID:/zNGDKtg0
バイクの向う先は、右足の間接部分――膝の裏だ。
ここを破壊すれば、抗体の効きに関わらず敵は素早く動けなくなる。

しかし、先ほどの斬撃に痛む様子も無く、クォッチが背後を取らせんと旋回する。
足を軸に体を勢い良く回し、その遠心力でハサミを振るった。
――ダメだ、避けきれない。

(;^ω^)「いや、避けるお!」

ブーンは、自分に迫るハサミに向ってバイクを走らせる。
自ら攻撃にぶつかりに行くという愚行にクォッチは一瞬戸惑うが、ブーンの意図に気づき、
ハサミを閉じようとした。

しかし、間一髪の所で、ブーンはハサミの開かれていた部分をすり抜けたのだ。
そのままクォッチの背後を取ったブーンが、再び巨大な両足が成す大きなトンネルを潜ろうとする。
今度は左足の間接を斬り付けながら、右足の傷口を狙ってBlueMachingunで攻撃する。

( ゚д゚ )《……鬱陶しい蝿だ……》

股のトンネルを潜った瞬間、行く手を塞ぐように腕とハサミが落とされていった。
1つずつ確実に避けるが、攻撃が途切れる事が無い。
計6本の腕とハサミを、時には振るい、または落とし、ブーンを仕留めようとする。

74 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:49:55.62 ID:/zNGDKtg0
(;^ω^)(一旦離れるお!)

体を曲げて自分を見下ろしているクォッチの顔面に向けて、ブーンはBlueMachingunを乱射する。
目暗ましの為の弾幕だ。

( ゚д゚ )《…ムウウッ…!》

目暗まし程度で放ったそれを、クォッチが2本のハサミを「盾」のように使って防いだ。
あの程度の火力を何故そのように防いだのか、違和感を感じる。

( ^ω^)(顔面……目は常に皮膚に守られている訳じゃないお)

露出している器官や臓器ならば、火力を問わずブルーエネルギーを注入する事が出来る。
試してみる価値があるとブーンは判断した。

ブーンはクォッチの顔面に向って弾幕を張りながら、上昇する。
同時にサーモグラフィで攻撃した箇所を観察すると、赤紫色を示していた。

(;^ω^)(抗体の量が少なすぎるんだお)

BBBladeは有効だが、毛筋程の切り傷を付けたところで
あの巨体の動きを止めるのは無理だという事だ。
ブーンの頭を重くする絶望感が、一層に重みを増した。

78 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:51:48.26 ID:/zNGDKtg0
《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ》

突然、クォッチが咆哮した。
夥しい量の血液を噴出しながら、両足が裂け始めた。
現れたのは、蟹などの甲殻類や節足動物に似た鋭い足。それも数が多い。

( ゚д゚ )《……力が溢れるようだ…これで貴様の速度を完全に凌駕出来る……》

新たな足は分厚い骨が割れて形を成したようだ。
足に肉片や血がこびり付いているおり、白い骨の足に赤黒い液体が流れていた。

(;^ω^)「なっ!? まさか、ここに来て進化したってのかおッ!?」

ブーンはクォッチの体内をスキャンする。
変わったのは脚部だけでなく、腰周りの間接部分の構造が人間のそれとは異なっている。
甲殻類や節足動物に見られる無数の足を持つ下半身と、上半身が独立しているような構造だ。
一本の太い骨を軸に、上半身を360度回転できる、そんな構造だ。

(;^ω^)「まずい!」

クォッチがその身体的特徴を利用し、背後に回り込んでいたブーンを見つける。
ブーンはバイクの進路を切り替え、一度離脱する事を試みたが、間に合わなかった。

「がフッ!」

ξ;゚听)ξ「ナイトウッ!!」

82 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:54:48.33 ID:/zNGDKtg0
真横からハサミを叩き付けられたブーンが、瓦礫を突き抜けながら何処かへ吹っ飛んでゆく。
BLACK DOGも動力部をやられ、木っ端微塵に爆発した。
今、クォッチの目の前にあるのは、その爆発で発生した黒煙だけである。

「3番から7番までのシステムシャットダウン!
 B00N-D1、完全に気を失っています!」

(;'A`)「クソッ! やべーぞ!」

ξ;゚听)ξ「生命維持装置は!?」

「作動しています! システム復旧まで10分掛かります!」

ξ;゚听)ξ「まずいわね……何とか時間を稼がないと……」


クォッチはブーンが墜落した地点を凝視していた。
だいぶ距離があり、瓦礫に埋もれたのだが、クォッチの目には見えているようだ。

84 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:56:14.87 ID:/zNGDKtg0
( ゚д゚ )《…まだ生きているな……ならば喰い殺してやる……
     久しぶりの人間の血肉…存分に堪能させてもr―――ッ!?

遠くから空気を切り裂くような音が近づいてきている。
クォッチはその方向に上半身を回し、数多の爆発物が飛来してくる事を確認する。
それは多量のミサイル群だった。

( ゚д゚ )《…赤の機体か……いない……どこだ……?》

ミサイルの軌道上に機体の姿はない。
クォッチは4本のハサミを駆使し、全てのミサイルを両断する。
ミサイルは命中する前に爆発してしまい、辺りの空に爆炎が巻き起こった。

敵を発見しようとクォッチが上体を回転させようとした刹那、赤い機体がクォッチの顔面の前を通った。
クォッチは両目から多量の血を噴出させ、顔面を手で覆って痛みに悶えている。
そして目を襲った敵を落とそうと、4本のハサミを我武者羅に振り回している。

(#゚∀゚)「さっきの見てたぜ! そういや、ガイルの攻撃は瞼を閉じて防御してたな?
     皮膚以外は随分と脆いじゃねーか!」

ジョルジュの攻撃であった。
既にジョルジュ機はクォッチとの距離を取っている。
見えない敵と戦っているように見えるクォッチの滑稽な姿に、ジョルジュが嘲笑う。
もちろん、ハインリッヒに聞かせないように、こちらの通信を切って。

91 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 22:59:28.05 ID:/zNGDKtg0
最初のミサイル攻撃はデコイ。
長距離から発射したミサイルを遠隔操作する事で発射地点を誤魔化したのだ。
同時に、遠隔操作により最適なタイミングで敵に被弾させる事が出来た。

機動力が損なわれたジョルジュ機では、真っ向に敵と戦えば一瞬で落とされてしまう。
そこで、ミサイルを大回りに飛来させるようにコントロールしながら、
今の機体状態で攻撃するのに的確な位置まで静かに移動していたのだ。

そしてミサイルの爆発で注意を引くと共に敵の目と耳を欺く事で、機体による直接攻撃を可能にした。
ブレードで確実に目を潰し、機能を奪ったのだ。

( ゚∀゚)「戦場に『絶対は無い』んだよ蟹野郎!
     B00N-D1を殺って完全に油断していたテメーの負けだ!」

隻脚の機体が右手に握る砲に、異様な光と音が集約する。
ジョルジュはアルドリッチ砲の装填を始めていたのだ。

装填には残り3分掛かるが、こうなってしまえば3分など短い物。
目を突かれ、ただ苦しみ悶えている盲目の敵など、相手になるはずがない。

93 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:02:21.44 ID:/zNGDKtg0
《ヲオオオオオオオオオオオオオオ!!》

クォッチが上半身を仰け反らせ、悶えている。
体や首を動かす度に、手で覆った目から血液が溢れ出ている。
その多くの足で地団駄を踏みながら叫んでいるのは、悔しがっているようにも見えるが
恐らくは激しい痛みに苦しんでいるのだろう。

ジョルジュは口の端を吊り上げてその様を眺めていた。

( ゚∀゚)(やはり『勝つ』のは俺だ、B00N-D1)

鳴動するアルドリッチ砲の銃口を敵に向けながら、ジョルジュはそう思った。
勝利の悦に浸っていると、不意に通信が入った――ツン・ディレイクだ。

ξ;゚听)ξ『待ってください、ジョルジュ隊長!
       試したい事があります!』

( ゚∀゚)「何だ? 言ってみろ」

99 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:13:03.31 ID:/zNGDKtg0
ツンの騒然とした声とは対照的に、淡々と落ち着いたジョルジュの声。
さっきのブーンと同様の態度にツンは腹を立てたが、そのまま続けた。

ξ;゚听)ξ『こちらが通信する音声を機体の外部スピーカーで流してください!
       ハインリッヒ・アルドリッチとセカンドの対話を試みたいのです!』

少しの沈黙の後、ジョルジュが口を開いた。

( ゚∀゚)「……可能性があるんならやるべきだ。
     だが、アルドリッチ砲はこのまま準備させてもらう」

『ありがとうございます! さあ、アルドリッチ……』

ツンがマイクを受け渡しているのだろう。
ジョルジュは外部スピーカーを開くように操作パネルをタッチする。

少しの間の後、ハインリッヒの震えた声が外へ漏れ出していった。

102 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:15:26.83 ID:/zNGDKtg0
『に、兄さん…ミルナ兄さん……ミルナ兄さん! 聞こえるか!?
 ハインリッヒだよ! 分かるかミルナ兄さん!?』

从;゚∀从「アタシだよ! ハインだよ!
      聞こえてるなら返事をしてくれよ!!」

ハインリッヒの懸命な兄への呼びかけ。
数年ぶりの兄との対話であったが、ハインの期待は虚しく終わろうとしていた。

《ウウウグウアアウウ……殺す…殺す…殺す、殺す、殺す殺すッ!!!
 喰ってやる…貴様等喰い殺してやるぞ! 喰ってやる! 喰ってやるぞ!!》

クォッチは怒りに狂っていた。
持ち合わせているはずの理性や知能を捨て、本能と感情に思考を委ねていた。

105 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:17:30.51 ID:/zNGDKtg0
変わり果てた兄の姿に、ハインリッヒが涙を流しながら叫び続ける。

从;∀从「ミルナ兄さん! 分からないのかよ!? ハインだよ!
        頼むから返事をしてくれ! このままじゃ殺されちゃうよおおおおお!!」

《ハイン!? ミルナ兄サン!?》

ハインとミルナという言葉を反芻しているという事は、記憶があるのかもしれない。
「もしかしたら!」と、ツンが期待感を膨らませる。
このまま呼びかけを続ければ理性を取り戻すかもしれない。

从;∀从「そ、そうだよミルナ兄さん……は、ハインだ! ハインリッヒだよ!」

ハインリッヒが涙ながらも明るい表情を浮かべる。
だが、異形の兄は彼女の期待を裏切るのだった。

《ハインッ! ミルナ兄サンッ! 喰ウ! ワタシハ全部喰ラウゾ!!
 全部喰ッテヤル!! 喰ラッテヤル!! 喰ライ尽クス!! 殺ス!!》

機体のマイクが拾う音声が、本部に流れ続ける。
壊れたレコーダーの如く、怒りに狂ったクォッチは「喰う」と「殺す」の2つの言葉だけを発していった。
セカンドとはいえ人間的であったクォッチの変わり様に、全員が戦慄を覚える。

109 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:19:38.21 ID:/zNGDKtg0
从;∀从「ミルナ……兄…さん……?」

ハインリッヒの顔に、引きつった笑顔が張り付いていた。
実の兄のこの姿を信じられない、いや、信じたくないのだろう。

「……そんな…………」

その場に力無くへたり込んだツンの目には、光が無かった。

( A )「……ブーンの言う通り、か……」

「ミルナ・アルドリッチに」成す術は無い。
「クォッチとして」殺すしかないという現実に、2人は力無く項垂れた。

再び静寂した本部に、ジョルジュの声が響き渡る。

『ハイン、分かったろ? ありゃもう、お前の知るミルナ兄さんじゃねえ。
 “クォッチ”って名前の恐ろしいセカンドだ』

『辛いかもしれんがな、セカンドになった時点で人は死んだも同然だと俺は思う。
 あれを兄貴っつーんなら、天国へ送ってやるのが道理ってもんだ』

111 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:21:37.93 ID:/zNGDKtg0
一息付いて、ジョルジュが続けた。

( ゚∀゚)「そうさ。お前の兄貴を天国へ送ってやるんだよ」

从;∀从『………天…国……へ……?』

( ゚∀゚)「あぁ、そうだ。てんごk《目ガ見エナクテモ喰エルゾ!!》


(;゚∀゚)「なッ――――!?」


会話に割り込んだのは、突然喚くのを止めたクォッチだった。
再び冷静に思考し、攻撃を開始しようとしているようだ。

クォッチは節足を素早く動かし、ジョルジュ機に急速接近する。
しかし、乱雑な足取りだ。

(;゚∀゚)「何で位置がわかる!?」

目は見えていないはずだ。
何故ここまで正確に位置を特定出来るのか、ジョルジュの頭に疑問が沸く。
――いや、1つだけあった。アルドリッチ砲のエネルギー装填音だ。

116 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:23:40.33 ID:/zNGDKtg0
《頭ヲ戻スニハ時間がカカル! ダガ耳ガアレバ大体ノ位置ガワカル!
 ソコニイルナ!? 今スグ喰イ殺シテヤル!!》

足場を無視して忙しく足を動かす。
目が見えていないので、ハサミを振り回して前方の障害物を切り崩している。
アルドリッチ砲の鳴動音のみを当てに接近しているようだ。

(;゚∀゚)「チクショウ!!」

ハサミと腕を高速で振り回しているが、狙いなど定まっていない。
当てずっぽうというやつだ。
しかし、このままでは撃墜されてしまう。アルドリッチ砲のエネルギーを捨てなければ。

ジョルジュは操作パネルを高速でタッチし、様々なレバーを操作する。
すぐにアルドリッチ砲の装填を止め、機体の出力を戻したが、遅かった。
ジョルジュが機体を動かした時には、既に敵の攻撃射程内に捕えられていたようだ。
余りにも敵の動きが速すぎるのだ。

(;゚∀゚)「うおおおおおおおッ!?」

適当に振り回されたハサミに、機体の右腕と左足が切られ、胴体を抉られた。
右腕はアルドリッチ砲ごと切られてしまい、アルドリッチ砲の動力部にまだ残っていたエネルギーが
行き場を無くし、空中に放電して千切れた右腕を爆発させた。

117 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:25:07.63 ID:/zNGDKtg0
軽くなった機体が爆風に吹き飛ばされる。
機体はビルの側面に叩き付けられた後、力を無くしたように地に落ちていった。
津波で浸水していた街の水は大分引いていたが、まだ人が泳げるくらいの水は十分に溜まっていた。
幸いにも胴体の損傷は深くなく、コクピットに浸水するような事は無かった。

从;∀从『ジョルジュ……? ジョルジュ!? ジョルジュ!!』

(;゚∀゚)「だ…大丈夫だ。だけどヤバイな…。
     あるのは左腕だけ……しかもアルドリッチ砲も無くなっちまった」

《落チタノハそこカ……》

鋭い節足を一本一本ゆっくりと運び、クォッチがジョルジュ機に近づいた。
クォッチは耳をそば立てて、機体のバチバチと電気が弾ける音を聞くと、
巨大なハサミを使ってジョルジュ機を掴み上げ、もはや見えていない眼で機体をまじまじと見始めた。

《ヨクモ、ワタシノ目ヲ傷ツケタナ!? 見ロ! コノ瞳ヲ!!
 貴様ニモもはや光ハ見サセマイ! 地獄ヲ見サセテヤロウ!!
 喰ウノハその後ダ!!》

クォッチは機体をハサミから両手に持ち変える。
そして掌を使って左右から押し潰そうとするのだ。
宣言通りに地獄を見せようとする為に、じわじわと力を込めている。

120 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:28:25.18 ID:/zNGDKtg0
次第に強まる圧迫に耐え切れなくなる機体は、至る箇所で小さな爆発を起こしてゆく。
すぐに殺さない事が、逆にジョルジュを恐怖させるのだ。

(;゚∀゚)「く、クソッ! クソッ! 動けねええええッ!!」

ジョルジュはレバーやパネルを激しく動かして脱出を試みるも、
残っているのは左腕一本、有効な武器も無く、抗いようが無かった。
機体背後のブースターを点火しても敵の圧倒的な力に機体はビクと動かない。
ジョルジュの頭には、このまま押し潰されて殺される事しか浮かばなかった。

(  ∀ )「チッ……終わりか……」

目を瞑り、死を覚悟した。
機体の軋む音や爆発音、電気系統が破損して起こる電流の音が、暗闇の中で鳴り続ける。

その時、一際大きな音が轟き渡った。
それはジョルジュ機の爆発音などではなく、他の何かの轟音だ。

(;゚∀゚)「何だ!?」

122 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:32:05.20 ID:/zNGDKtg0
目を開けて見ると、世界が縦に回っていた。
どうやら機体を握り締めたまま後ろに倒れているようだ。
そして、メインカメラの前を通過した赤色の巨大なレーザービームが、天を貫くように空へと伸びて消えていった。

(;'A`)「す、すげえ!!」

衛星「アルドボール」が送る映像に、本部の人間は鳥肌を立てた。

レーザーが射出されてから数秒経つが、震動が治まる事は無かった。
まるでその破壊力を物語るように、大気が慄いている。
こんな物が地上に向けて発射されれば、街の一つや二つが軽々吹き飛ぶだろう。

『すまん隊長! 遅れちまった!』

(;゚∀゚)「ガイル! てめー生きてたのか!」

ガイル機によるアルドリッチ砲を使った遠距離狙撃だった。

ドシン、と大地を揺るがす音と共にクォッチは地に倒れ、ようやくジョルジュ機を手放した。
ジョルジュは頭部と左腕しか残っていない機体をフラフラと宙に浮かせる。

ガイル『通信機器がヤラレちまって、こちらから交信出来なかったんだ。
    今まで姿を潜ませて機を窺っていたんだが、間一髪だったな!
    しかしまぁ、ボロボロの状態で撃っちまったから機体が動かなくなっちまったぜ!』

外部スピーカーから出ているガイルの声を辿ると、そう遠くない場所に一機のバトルスーツを発見した。
どうやら水中に機体を隠していたらしい。

125 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:34:36.80 ID:/zNGDKtg0
倒れたクォッチにメインカメラを向けると、両肩と頭部を丸々失った有様が映し出された。
ピクリとも動かずに沈黙している様子から、絶命している事が分かる。

( ゚∀゚)「てっきりやられちまってたのかと思ってたぜ、ガイル。
     助かった。良くやってくれた」

ガイル『ヘッ! やられっ放しじゃ『ソニックブームのガイル』の名が廃る!
     それに、ザンギやバイソン、ベガの仇を討つまで死ぬ訳にはいかん!』

天国の本田「わ、わしは……?」

天国のザンギ&ベガ&バイソン「…………」

ジョルジュも外部スピーカーを使って答え、溜息をついた。
仲間が生きていた事、そして死から免れた事。
その勝利の喜びを噛み締めるような、安堵の溜息だ。

从;∀从『兄さんは…ミルナ兄さんは天国に行ったのか……』

コクピットに鳴り響くのは、ハインリッヒの暗い声だ。
「満足感」を感じさせる彼女の言い方に、ジョルジュは安堵すると同時に罪悪感を感じたのだ。

( ゚∀゚)「あぁ…そうだ。お前の兄貴は天国に行ったんだ……。
     お前には辛かったな……ハイン」

128 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:37:16.43 ID:/zNGDKtg0
ξ゚听)ξ「天国……か……」

('A`)「……くそったれ……」

天国に送るという言い回しは、ジョルジュが「殺し」を正当化させようとしているだけだ。
例えるなら、葬式も遺人達が「納得」や「満足」をする為に行う儀式と言える。

ツンとドクオは思う。
結局の所、今まで自分達は殺人を正当化するか、
もしくは気づかない振りをしていただけだと。

「セントラル」を感染者から守るために戦うというのは、裏を返せば人を殺しているという事だ。
セカンドとはいえ、元は彼等も人間だ。

ツンとドクオの胸には強い罪悪の念が溢れていた。
もちろん、ジョルジュも、ハインリッヒも。

131 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:39:41.21 ID:/zNGDKtg0
/ ,' 3『戦争とはそういう物だ。
    誰かが死に、その代わりに誰かが生きる。
    我々人間の歴史は、全て血腥い犠牲で積み上げられて来たのだ』

( ゚∀゚)「荒巻空軍大佐……その通りだ…」

/ ,' 3『我々は彼等を殺し、彼等に生かされているとも言える……。
    我々は皆、生ける罪人である事を決して忘れてはならない』

荒巻の言葉に全員が俯き、黙り、各々が思う。
自分の開発した兵器で何をしているのかと、改めるのだ。

从;∀从「……兄…さん……うう、うあああ………」

ξ゚听)ξ(心を強く持たなきゃ…もっと強く……)

135 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:42:01.86 ID:/zNGDKtg0


( ゚∀゚)「これにてミッション完遂だ。帰還する!」

ガイル『おーいジョルジュ隊長。俺のバトルスーツ完全にダメだ、乗せてってくれ。
    それとB00N-D1も拾ってやれよ。あんだけ必死に戦ってたんだ』

( ゚∀゚)「フン、まぁいいだろう。
     アイツのおかげで多くのチャンスが出来たのも事実だ」

ジョルジュは機体背後のブースターの出力を少し上げて空を飛ぶ。
上空からメインカメラが捉える映像は、変わり果てたクイーンズ区の光景だ。

前方には、本来長い大通りが続く街並みがあったはずだが、
その通りを覆うように、巨大な異形が後ろ倒れになっている。
更に、倒れた際に横に突き出していた腕やハサミが多くの建物を潰している。

( ゚∀゚)(わずか一体のセカンドでこんなンになっちまうとはな)

クォッチが起こした津波、そして戦闘で街が受けた被害は多大であった。
多くの建物やビルが倒壊したせいで、宙には粉塵が絶えなかった。
至る所で火や煙が発生していたが、それでも火災が少ないのは街が水没していたおかげであろう。

137 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:43:35.79 ID:/zNGDKtg0
ジョルジュはこの光景に、思わず息を呑んだ。
そして、命辛々にクォッチを倒せたという現実に、何か歯痒い気分を感じるのだった。

( ゚∀゚)「クソッ………」



『ジョルジュ隊長! そいつから離れるお!!』

ガイル『た、隊長ッ! 上に上がれー―――ッ!!』

『まだそいつは生きてるおッ!!』


( ゚∀゚)「何だと――――


眼下で倒れているクォッチにメインカメラを向けた瞬間、
モニター一面に赤黒い何かが駆け巡った。
クォッチの胸部から腹にかけて突出した肋骨が、幾重にも割れて鋭い刃を形成しようとしているのだ。
骨の刃はまるでジョルジュを取り込むかのように伸びてゆく。

141 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:45:56.98 ID:/zNGDKtg0
(;゚∀゚)「うおおおおおおおおッ!?」

ジョルジュはブースターの出力を最大限まで上げ、機体を上昇させた。
間一髪、ジョルジュ機が上空に逃れる事が出来たが、今ので機体が限界を迎えてしまった。
機体から煙が上がり、コクピット内ではアラーム音と共に赤い光が点滅している。

(;゚∀゚)「オーバーヒートだと!? まずい!!」

飛び上がった時の惰力を利用してクォッチから遠ざかる事は出来た。
コントロールが上手く取れない機体は、ブーンとガイルとは離れた地点へと落ちてゆく。
しかし、脚部を失った機体では安全に着陸する事が出来ず、地を滑るようにビルの壁へと激突した。

(;゚∀゚)「う……が………」

从;゚∀从「ジョルジュ!…そんな……」

从;∀从「何で……兄さんは…アルドリッチ砲で死んだんじゃなかったのか……?」

フラフラとした足取りでモニターから後退するハインリッヒ。
後方に体が倒れる寸での所で、チーム・アルドリッチのオペレータの何人かが、
彼女の体を支えてやった。

(;'A`)「ブーン! 気づいたのか!?」

/;,' 3「どうなってる!?」

ξ;゚听)ξ「ブーン! 気がついたのね!?
       何が起きてるっていうのよ!?」

144 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:49:14.49 ID:/zNGDKtg0


クォッチの一撃に吹き飛ばされたブーンは、低いビルの屋上にいた。
膝を着いているブーンの様態は、芳しくなかった。
右腕の間接が逆の方向を向いており、頭部は裂傷していた。
生命維持装置のおかげで流血する事は無いが、強化人間とはいえ痛みは感じるのだった。

(;^ω^)「わ、訳が分からないお……」

サーモグラフィ、そして熱量を測る他の機能が、著しい体温の上昇を示す。
ウィルスが生きていようが、頭部や心臓を失えば生体活動は止まるはず。
だが、現に動いたのだ。

(;^ω^)「何だお!?」

ズーム越しに観察しているクォッチの様子がおかしい。
体表が沸騰するようにボコボコと隆起し、爆ぜる。
割れた肉から膿のような物がドロドロと流れ出ている。
やがてそこから血が吹き出し、肉の一部が溶けてゆく。

147 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:53:02.75 ID:/zNGDKtg0
クォッチが立ち上がった。
その姿は、人間「ミルナ・アルドリッチ」の原型を完全に失っていた。
骨の刃を体中から突き出した、首無しの化け物だ。

(;'A`)「頭がぶっ飛んだってのに、何で動いてるんだよ!?」


( ・∀・)『……細胞が肉体の限界を超えたのだ』


ξ;゚听)ξ「へ?」

寡黙なモララー・スタンレーがマイクを使って喋っている。
その事に全員が驚き、一斉に彼の方に顔を向けた。

( ・∀・)『私はラウンジ社のバイオ技師だったものでね。
      過度に活性化した細胞が死んだ肉体を動かしたという動物実験の事例を思い出した。
      最終的に肉体はドロドロの液状になって消えたがね。
      恐らくだが、クォッチの体にも同様の現象が起きているのかもしれん』

151 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:55:03.32 ID:/zNGDKtg0
('A`)「ラウンジって確か、バイオテクノロジーだとかで一世を風した企業だよな。
    ヒトクローン技術で内臓や皮膚を売りまくったっていう」

ξ゚听)ξ「倫理も糞も無い最低な企業よ。
      最も、キリスト教国家であるこの国も、『延命』って魅力に屈した訳だけど」

「それより」と話題を切り替え、ツンが続ける。

ξ;゚听)ξ「モララーの話が本当なら、クォッチの今の現象も有り得るわね。、
       元々、感染の初期段階として活性したウィルス細胞による外形変化がそうだし。
       多分、それに近い現象が起こってるのかも……」

(;'A`)「現に体温も上昇を続けているし、その線が有力か……。
      このまま行くとクォッチは自滅するって事でいいのか?」

( ・∀・)『恐らく……それにしても、最低な企業とはトンだ言いがかりだね』

ドクオの結論に対し、ディレイク陣営とは遠く離れた位置にいるモララーが答えた。

(;'A`)(耳良いな、オイ)

154 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/04(火) 23:59:31.15 ID:/zNGDKtg0


(;^ω^)「自滅するって言っても、やばいお!」

クォッチが体を動かす度に、体から噴き出た血肉が辺りに飛び散る。、
それが付着した周辺の建物がドロドロに溶けてしまっているのだ。
同様に、クォッチの体から突き出た「骨の手足」にも沸騰した血肉が付着し、ゆっくりと溶け始めていた。

しかし、気が狂ったように激しく体を暴れさせながら、クォッチは動いていた。
確実にブーンのいる方向に歩んでいるのだ。

(;^ω^)「何でこっち来るんだお!」

瞳を失っている為、ブーンに向って歩く事は全くの偶然である。
クォッチの死骸から突出した骨刃がジョルジュ機を串刺しにしようとしたのも、偶然の事であった。

まるで噴火した火山が歩いているかのような、非現実的な光景だ。
灼熱の溶岩を四方に撒き散らし、辺りをドロドロの火の海に化そうとしている。

沸騰する血肉の多くは、ブーンの方に集中して飛び散っている。
クォッチの進行方向上にブーンがいるからだ。

160 名前:今更だけどCannonだった ◆jVEgVW6U6s :2008/03/05(水) 00:02:20.43 ID:b4p+qOnH0
ガイル『クソオオオオオッ! バトルスーツが動かねえッ!!』

(;゚∀゚)『万事休すか……クソッタレ!』

ジョルジュ機はクォッチとは遠く離れているので、まず助かる。
しかし、ガイル機はブーンとは差ほど離れた位置にいなかった。

もはやクォッチの肉体は朽ちて崩れようとしていた。
BLACK DOGも無い、バトルスーツも動かない。
このままではブーンとガイルは崩れ落ちるクォッチの体に巻き込まれ、死んでしまうだろう。

逃げる術も無い今、やるべき事はただ一つ。
暴走したクォッチの進行を止めるのだ。

(;^ω^)「うおおおおおおおおおッ!!」

折れた右腕を無理やり動かし、背中に背負った巨大な「砲」を取り出し、構えた。
長い円筒状の砲は、両手全体を覆える幅広いトリガー部と太い銃口があるだけで、至ってシンプルな外見だ。
銃身の横に“BLUE LAZER CANNON”と大きく青文字で書かれている以外に、特別に装飾なども無い。

(;'A`)『そんな状態で撃ったら死ぬぞッ!!』

(;^ω^)「撃たないでもこのままじゃ死ぬお!」

164 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/05(水) 00:04:06.59 ID:b4p+qOnH0
ξ;゚听)ξ『たとえ運が良くても右腕が吹き飛ぶわよ!?』

ブーンは左手でトリガー部の「凹み」になっている部分を押し込むように触れた。
すると、その部分が「砲」から剥がれるように開き、液晶モニターが展開した。
更にそれを左手でタッチして操作を続けてゆく。

(;^ω^)「うるさいお!
      壊れて帰ってきた僕を直すのがツンとドクオの仕事だお!
      必ず生きて帰るから文句言うなお!」

ξ#゚听)ξ『ああああー――もうッ! わーったわよッ!
       今度こそアルドリッチのお兄さんを天国に送ってやンなさい!!』

操作に合わせてBlue Lazer Canonの随所が開いていった。
まずトリガー部分が更に割れ、中から太いコードが伸びる。
そのコードをブーンは左手で取って伸ばし、その端を後頭部にある端子に差し込んだ。

167 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/05(水) 00:05:51.21 ID:b4p+qOnH0
(;^ω^)「あれ? いつの間にそんな事考えるようになったんだお?」

ξ#;凵G)ξ『うるさいわね! 気づいたわよ!
        アタシ達が誰かを殺して生きてるんだって事!
        勝手に正当化して殺しているんだって事を……!』

そして銃身の上部が開き、新たに2つの銃身が両左右に展開された。
計3つの極大銃身によるブルーエネルギーの大量放出、それがBlue Lazer Canonだ。
3つの砲をコントロールするには、ブーンの多重情報処理システムに直接接続させなければならいのだ。

(;^ω^)「それでも、僕達は戦いを止める訳にはいかないんだお!
      残された人達の為に、生き残る為に!』

ブーンは右腕を体の正面に突き出し、3つの銃口をクォッチに向けた。
操作は全て脳に積載されたシステムが担うので、自由になった左手もトリガーを握らせる。

170 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/05(水) 00:07:42.05 ID:b4p+qOnH0
(;^ω^)「最大出力だお……!」

3つ銃口の中から蒼い光が漏れ出し、次第に大きくなった光がブーンの体全体を包み込む。
動力部が鳴動し、体中をブルブルと震わせる。
トリガーと表記したが、そこは銃を持つ為の取っ手だ。

射出コントロールはブーン自身の脳だ。
彼の意思によって引かれる引き金なのだ。

『B00N-D1』

( ^ω^)「ハインリッヒさん」

『……今度こそ、兄さんを天国に……それに、“アレ”は皆の仇だ。
 仇を…“クォッチ”を……討ってくれ……』


( ^ω^)「了解ですおッ――――――」

171 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/05(水) 00:08:39.79 ID:b4p+qOnH0
ハインリッヒの言葉をきっかけに、ブーンは引き金を引いた。

蒼く巨大な3つの帯が一気に放出され、その衝撃で折れていた右腕が千切れ、
Blue Lazer Canonと共に後方へ吹き飛んでしまった。

「がフッ!!」

ξ;゚听)ξ『ナイトウ!」 (;'A`)『ブーン!!』

ブーンは口や鼻から夥しい血液を吐き出していた。
元々脆くなっていた体も、衝撃に耐え切れなかったらしい。

(; ω )「く、クォッチは………」

ガタガタになっている体を懸命に動かし、前方のクォッチに目を向けた。
渾身の力で撃ったBlue Lazer Canonのエネルギーは、クォッチの腹や胸部を貫いていた。
そして、エネルギーがクォッチの体内に置いて行った抗体が、独特の蒼い光を燦々と輝やかせていた。

(;゚∀゚)(す、凄い光だ……)

(;^ω^)「ウィルスが死んで行くお……」

サーモグラフィで確認すると、被弾箇所を中心に体温が急激に下がっているのが分かる。
赤黒いクォッチの体が、次第に色を失ってゆく。
抗体が体内外のセカンドウィルスを浄化しているのだ。

174 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/05(水) 00:10:33.93 ID:b4p+qOnH0
こうなってしまえば自己進化も暴走もしないだろう。
心肺機能も停止していたクォッチが、これ以上動く事は無くなった。

/ ,' 3『……やったのか?』

(;^ω^)「ゴホッゴホッ……はいですお。
       セカンド“クォッチ”は完全に活動を停止しましたお……」

ξ;゚听)ξ「……終わったのね……」

(;'A`)「あぁ……」



从;∀从「う、うあああ……兄さん………兄さん………!!
     うわあああああああああああああああああー――――ッ!!!!!!」


ξ;凵G)ξ「あ、アルドリッチ……」

そこにいる誰もが「勝利の喜び」を感じる事は無かった。
大切な人達を失った深い悲しみと消失感が、本部とクイーンズ区を取り巻いていた。
そして、ハインリッヒの悲壮な叫び声が、皆の耳にいつまでも響くのであった。

176 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/05(水) 00:13:00.75 ID:b4p+qOnH0

( ゚∀゚)『皆死んじまった…バトルスーツも全部ぶっ壊れちまった……』

( ^ω^)「ジョルジュ隊長…」

( ゚∀゚)『勝利したっつーのに、この虚無感は何なんだろうな。
     10年以上も前から俺は戦争してるが、これだけは馴れないもんだ』

( ゚∀゚)(だから俺は、アルドリッチ砲のような圧倒的な力が欲しかった……。
      ……やはり、戦場において『絶対』となる力は存在しないのか……?)

ザンギエフ、バイソン、ベガ達バトルスーツ部隊員。
皆、あっけなく死んでしまった。信じられないほど、あっけなく。
それでも、胸の中がすっぽりと空洞になったような虚無感が、彼等の死を確かな現実だと認識させるのだ。

178 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/03/05(水) 00:14:17.83 ID:b4p+qOnH0

( ^ω^)「人が死んでも平然としてられるんじゃ、終わりですお」

( ゚∀゚)『……あぁ。そうだな』

( ^ω^)「“天国に送ってあげる”……
      そんな事でも思わなきゃ、悲しくてやってられないですお……」

( ゚∀゚)(……ハイン………)


しかし、いつまでも悲しみに暮れている場合ではない。

太陽が地平線に沈み、冬の長い夜が訪れようとしていた。
日の光を恐れる低脳なセカンド達が、食料を求めて暗闇の街を徘徊する時間が
すぐそこまで迫っていた―――。

                              第6話「生きる者、死に逝く者」終

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