- 2 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 14:36:27.70 ID:7Yx62bfu0
- 登場人物一覧
――― チーム・ディレイク ―――
( ^ω^)B00N-D1:年齢20歳。戦闘員。
ウィルスに対する強い免疫を持つ数少ない人間の一人である彼は、
自ら強化人間「システム・ディレイク」となってセカンドを狩る。
その目的は、両親を殺害したセカンドを探し出して復讐をする事である。
ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
弱冠19歳の天才科学者少女。その頭脳でブーンを強化・修復などのサポートする。
システム・ディレイク理論の提唱者である両親の命と自分の両腕をセカンドに奪われ、
ブーンと共に復讐を誓う。嫌煙家。貧乳。
('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
油っこい長髪、病人のような顔色と、彼の不健康な外見は「研究のし過ぎ」の為らしい。
豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
ツンをからかうお調子者。
- 4 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 14:39:25.87 ID:7Yx62bfu0
- ――― チーム・アルドリッチ ―――
从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
ツンと並ぶ天才科学者なのだが、プライドの高い両者は犬猿のライバル。
男勝りな性格に反して、体付きは女のそれそのもの。
( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
「命知らず」で有名な元アメリカ軍陸軍中尉。
現在は深紅の機体を操るバトルスーツ部隊隊長として活躍。
高いプライドを持つ彼は、任務中の上官命令さえ無視してしまう。
ガイル:年齢35歳。戦闘員パイロット。
バトルスーツ部隊副隊長としてジョルジュをサポート。
髪形は変だが、話の分かる人間の出来た元空軍出の兵士。
- 7 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 14:43:03.90 ID:7Yx62bfu0
- ――― その他 ―――
(´・ω・`)ショボン・トットマン:年齢25歳。バーテンダー。
「ショボンのバーボンハウス」のガチムチダンディ店長。
暗い世の中で生きる人々の憂い飛ばしたいと言う彼は1から酒作りを始めるも、
店の酒はどれも不味い。ブーン達の良き理解者でもある。
/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
元アメリカ空軍大佐。
アルドリッチ&ディレイクによる衛星打ち上げミッションの総司令官を務める。
( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
セントラルの実力者であり、科学者でもある。
※第4話で、荒巻を「陸軍」と表記していた箇所がありましたが、正しくは「空軍」です。
ジョルジュも「大尉」だったり「中尉」だったりしてましたが、「中尉」です。
BlueBulletGunの口径は45mmで、45cm大のエネルギー弾を発射するということで脳内修正お願いします。
細かいミスだけど、混乱させてしまっていたらゴメンなさい。
ということで第5話です。
- 9 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 14:46:50.56 ID:7Yx62bfu0
- 第5話「新種」
赤色がイメージさせる殺意や暴力といった威圧感を発しながら、その機体は新たな獲物の元へやって来た。
まるで返り血をたっぷりと浴びて来た獰猛な狂戦士が、更なる血を求めて来たかのようだ。
しかし、仲間からすればこれ以上無く頼れる味方が現れてくれたのだ。
ガイル達バトルスーツ部隊は隊長機の出現に嬉々とした声を挙げて、ジョルジュを迎えたのであった。
『ジョルジュ隊長! まったく、相変わらずメチャクチャやりますね!』
ガイル『ヘヘッ! だが無事で何よりだ! 隊長さんよ!』
( ゚∀゚)「チッ。無事どころか雑魚ばかりで退屈してたくらいさ」
从 ゚∀从「御あつらえ向きの獲物が登場してくれて良かったじゃねーか」
それまでモニターを恐怖で引き攣った顔で見ていたハインリッヒだったが、
ジョルジュが現れた事で自信に満ちた表情を取り戻していた。
( ゚∀゚)「デカさだけ見りゃゴジラ以上だな。少しは楽しくなりそうだ」
クイーンズ区に残っているどんな高層ビルよりも、敵セカンドは大きい。
ハインリッヒの言う通り、他のセカンドとは別格であることが一目瞭然だ。
思わずジョルジュは身体が震えてしまった。武者震いというやつだ。
- 10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 14:48:55.25 ID:7Yx62bfu0
- ジョルジュ機を含めたバトルスーツ機が武器を展開しながらセカンドを八方に囲んだ。
両腕のぶ厚い装甲が割れ、中に秘められていた兵器が鈍い輝きをギラリと放ちながら現れる。
ブーンも「BLACK DOG」のアクセルを捻り、セカンドの真正面へ回り込む。
BlueBulletGunの射程距離をギリギリに保ち、尖った頭部の先の辺りをロックオンして構える。
( ゚∀゚)『貴様はすっこんでろ! B00N-D1!』
(#^ω^)「黙ってすっこんでるワケにはいきませんお!」
バトルスーツの両腕の砲門に、光の粒子のような物が静かに音を立てながら集約されてゆく。
エネルギーが溜まるに連れて音が高まり、やがて耳鳴りのような甲高い音を奏でた。
ブーンとバトルスーツ部隊、両者ともに攻撃の準備は整った。
先ほどからセカンドが顔面の全ての目をギョロギョロと動かして周りを見回しているが、
まだこちらを襲ってくる気配は感じられない。
( ^ω^)「これはチャンスだおっ!」
ブーンは右手に持ったBlueBulletGunを両手持ちに構え直す。
いくら巨体でも、数発も打ち込めばウィルスが死んで弱体化するはず。
- 14 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 14:51:45.19 ID:7Yx62bfu0
- ( ゚∀゚)『すぐに死んでくれんなよ? 全機、攻撃開始だッ!」
ジョルジュの合図で全バトルスーツ、そしてブーンが各々の兵器を使用した。
バトルスーツの両腕から放たれたのは、レーザービームであった。
耳と視界を劈く白い閃光と蒼色の光弾が断続的に化け物を打つ様は、圧巻の光景である。
/ ,' 3「やったか!?」
从*゚∀从「ヒャー―ッ! さっすがアタシの作ったハインビームだぜ!
秘密兵器の出番は無いかなー?」
( ^ω^)ξ゚听)ξ「――ッ!? いや、これは………!?」('A`)
衛星が送る映像を見ている一部のメンバーが、勝利を予感した。
しかし、そんな彼等とは対象的に、チーム・ディレイクの面々は押し黙ってモニターを凝視していた。
ブーンの目がセカンドの身体全体を捉えて作り出したサーモグラフィに、違和感を感じたのだ。
- 17 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 14:55:16.65 ID:7Yx62bfu0
- (;'A`)「何だこれ? ブルーエネルギーが無効なのか?」
ξ;゚听)ξ「ありえないわ!
被弾した箇所の体温は絶対に低下するはずなのよ!」
免疫から作られたブルーエネルギーは、その抗体を持ってウィルスを死滅させる効果がある。
ウィルス細胞を失えばセカンド特有に見られる熱量反応が急速に低下し、
同時に外傷を得た事で脈拍や呼吸回数が上昇する変化が現れる。
それに、ブルーエネルギーでなくても通常のレーザー攻撃で外傷を負えば、それらの変化が著しく出るはず。
変化が現れないという事は、すなわち攻撃が効いていないという可能性があるのだ。
前線のブーンも、その不可解な状況が信じられなかった。
(;^ω^)(髪は焼けてるから攻撃は当ってるみたいだけど……)
BlueBulletGunで頭部を狙い撃ち続けるが、セカンドが苦しむ様子は無い。
確かに光弾は敵の頭部に直撃しているが、データの不可解な数値に変化は出ない。
実際にセカンドの損傷を肉眼で確認がしたいのだが、エネルギー攻撃で焼かれる髪が出す多量の煙が
頭部を包んでしまっている為に、様子が分からない。
- 20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 14:57:51.29 ID:7Yx62bfu0
- ブーンは照準を胸に切り替えて攻撃を試みようとした。
しかし、照準を切り替えようとした瞬間、地に伏すようにセカンドが身を低く構えたのだ。
突然の事だったので攻撃は失敗に終わったが、煙に包まれた頭部が明らかになり、
そこに一切の損傷が無い事が分かった。
セカンドはレーザーの弾幕を潜り抜け、自身の真正面に浮かんでいるブーンと2機のバトルスーツへ走り出した。
巨体なので一歩一歩が大きく、動きが速い。
数百メートルの距離を取っていたにも関わらず、一瞬で距離を詰められた。
セカンドはその巨大な口を開け、幾重にもビッシリと生えた牙を使ってブーン達を喰らおうとした。
そのグロテスクな口内を目の当りにした2機のバトルスーツのパイロットは、恐怖して思考を停止させ、
震えながらただ叫喚するばかりであった。
ガイル『ザンギエフ! バイソン! 回避しろオオー――ッ!!』
無情にも、大きく開いたセカンドの口が閉じられ、2機のバトルスーツが数千の牙で貫かれた。
「3番機、4番機大破! パイロット死亡です……クソッ!」
从 ゚∀从「なん……だと……?」
あの強固な機体が、いとも簡単に破壊された。
信じられない光景を目の当たりにし、ハインリッヒは唖然とする。
- 25 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:01:49.46 ID:7Yx62bfu0
- ブーンは回避プログラムもあって紙一重という所で回避できた。
だが、敵の攻撃は終わらなかった。
自分から遠く離れようとするブーンを、脇腹から生えた長いハサミを振り回して落とそうとしたきたのだ。
ブーンは体で車体に対して真横に体重を入れ、バイクを錐揉みさせながら地上に向かって降下する。
そのまま攻撃を回避しながら一時退却を試みるも、セカンドは自分の攻撃圏内から出させまいと足を動かした。
その巨躯が両足を動かす度に、まるで石コロでも蹴るかのように建物が吹っ飛ぶ。
(;^ω^)「は、速いおッ!!」
ビル街の間を縫うように飛ぶ黒い物体を対象に、計6本の手とハサミが次々と落とされてゆく。
勢い良く狙いを外したそれらは水没した街の大地に突き刺さり、深い穴を空けていた。
セカンドが攻撃の手を休める気配が無く、ブーンが反撃に転じる事は出来なかった。
いくら身体が装甲で強化されているとはいえ、コンクリートやアスファルトを貫く攻撃を受ければ一溜まりも無いはずだ。
今はとにかく攻撃を避ける為に、バイクを操縦するしかなかった。
- 26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:05:36.11 ID:7Yx62bfu0
- ※
(;゚∀゚)「クソッ……俺とした事が………ッ!」
セカンドの頭部には何の損傷も無く、全くダメージも感じていない様子だ。
それを見たジョルジュは、敵の度合いを見誤ってしまった事を、悔いていた。
確実に敵を倒せると根拠の無い確信をしてしまった事を。
そして、不安要素などを一切思わずに、攻撃を続けてしまった事を後悔し、震えた。
「戦場に“必ず”というものは存在しない」――ジョルジュが陸軍時代に学んだ事であった。
だが、バトルスーツという途方も無い戦闘力を持った事で、ジョルジュは完全に自惚れていた。
その自惚れが目を曇らせ、判断を誤り、そして仲間と機体を失ってしまったのだ。
ガイル「ザンギ……バイソン………仇は討つぞ!」
ブーンを追うセカンドの背後から、ガイル機がレーザー砲で光線を連射する。
レーザーはセカンドの背中や首に直撃しているが身体を貫く事は無く、その青々とした皮膚に弾き返されてしまう。
ガイルは頭部に広がる目を狙い撃つも、セカンドは瞼を閉じてレーザーを遮断された。
ガイル「ダメだ弾かれる! 敵は硬いのか!?
ならばこれで――『ガイル! 一旦奴から離れるぞ! 体勢を立て直す!』
- 30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:09:23.64 ID:7Yx62bfu0
- ガイル「な、……何を言ってやがるんだ!? ジョルジュ隊長!?」
ガイルは、ジョルジュの指示に納得できなかった。
仲間が殺されたのを目の前にして後退するなど、誇り高きバトルスーツ隊として許される行為ではない。
それに、これが命知らずと言われたジョルジュ隊長の指示とは、ガイルには決して思えなかった。
ガイル『何でここで命を張らねぇんだ!? ザンギとバイソンが殺られたんだぞ!!
仮にも命知らずと言われたアンタが、何故そんな弱気な事を言いやがる!?』
( ゚∀゚)「お前まで勘違いしてんのかよ……いいか、“命知らず”ってのはそういう事じゃねえ。
俺はな、お前みたいに自棄になって死地に突っ込むなんてマネは一度もした事ねえよ」
ガイル『!?』
( ゚∀゚)「我武者羅に攻めずに、常に冷静になってチャンスを伺うんだ。
そして勝利の可能性を見出せたら、それを命を捨てる覚悟でやるべきなのさ。
俺はそうやって多くの戦争を生き残ってきたんだ」
( ゚∀゚)「今お前がやろうとしてんのは、ただの自殺行為さ。
一矢報いるんじゃなく、仇を討ちたいんなら俺に従え」
ガイル『………ク…ソ…ッ! 分かったよッ!
確かにこのままじゃ勝ち目がない………一旦引くッ!』
それでもまだ渋々といった感じであるが、ガイルは機体を後退させた。
後部カメラがモニターに映す仇の姿に、唇を強く咬んで激しい怒りに耐えながら。
- 33 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:14:14.57 ID:7Yx62bfu0
- / ,' 3「フハハハハハハハッ!!」
突然、大声で笑い出した司令官に、視線が集まる。
ふんぞり返って何とも豪快に笑う姿を見て、誰もが“あのスカルチノフ議会長なのか?”と、信じられない様子である。
議会長補佐であるモララー・スタンレーですら、口をあんぐりと開けていた。
/ ,' 3「クックックッ! 結局の所、おめーは命知らずの小僧だぜ!
冷静にチャンスを見てカミカゼアタック……結構じゃねえか!」
( ゚∀゚)『分かってるじゃねーか空軍大佐さんよ!』
通信を聞いていた元空軍大佐の荒巻もまた、ジョルジュを勘違いしていた兵の一人であった。
ただ暴れ回る無茶な男とばかりに思っていたが、その実は勇敢で優れた上官の気質を持っていた事に、荒巻は驚く。
荒巻は再び司令官として振舞い、指揮を執る。
/ ,' 3「諸君、ジョルジュ隊長の言うように、奴に勝つ為の可能性を模索しようじゃないか!
両陣営、何か気づいた事があれば聞かせてもらおう!」
「「ハイッ!」」
手を挙げたのは両チームのアホの子――いや、天才リーダー2人だ。
同時に挙手してしまった犬猿の仲の二人は、「その手を下ろせ」と互いを激しく睨みつけているようである。
- 37 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:18:23.70 ID:7Yx62bfu0
- しかし、事もあろうか、あの負けず嫌いなツン・ディレイクがその手を下ろすのだった。
ξ゚听)ξ「お先にどうぞ、アルドリッチ」
その場の多くの者が目と耳を疑った。
いがみ合いになる事は避けられないと思ったのだが、良い意味で裏切られてしまった。
彼女の人間的な成長が嬉しく、思わず顔を緩ませてしまう人もいる程である。
('A`)「つ、ツンちゃん! 凄く大人だぞ! 体は子供だけど頭脳hぐヴァあああロオオオ
ξ゚∀゚)ξ「アタシは人に譲れないケチな大人になりたくないんだもーん」
血達磨となって倒れているドクオの頭に足を乗せて、ツンがあっけらかんに言った。
そして周囲の人間は一瞬でもツン・ディレイクに期待してしまった事に落胆したのだ。
从#゚∀从(こ、ここで対抗したら“負け”な気がする……耐えろハインちゃん!)
ハインリッヒは激情する気分を抑え込む。
場を弁えずに小競り合いを仕掛けるツン・ディレイクが子供なのだと自身を無理やり納得させ、
ハインリッヒはセカンドに対する対抗策を周囲に述べた。
- 40 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:22:31.19 ID:7Yx62bfu0
- 从 ゚∀从「先ほどのガイル機の攻撃でよく分かった通り、敵は恐ろしく頑丈な皮膚を持っているようです。
そこで、より火力のある兵器による攻撃を提案します。
我がチームの最新兵器“アルドリッチ砲”なら敵を殺れます!」
('A`)「ツン、ハインリッヒの方が大人じゃねえかあが! ああがあばばアあああ」
ツンに顔面を踏み込まれたドクオが奇声を上げた。
周囲はそれを無視し、話を進める。
/ ,' 3「しかし、敵のあの速度に通用するのかね?
撃つ前に潰されるのがオチのはずだ」
从;゚∀从「……エネルギーの装填時間も含め、アルドリッチ砲の使用は厳しいでしょう」
/ ,' 3「うむ。だがしかし、私もこう言っているが火力が欲しいのは事実だ。
チーム・ディレイク、何か策は無いか?」
ξ゚听)ξ「……お願いなのですが、B00N-D1に攻撃のチャンスを作って欲しいのです。
敵の動きを止められる事が出来るかもしれません」
(*'A`)「俺もツンちゃんにお願いなのおおおおっ!!
お願いいいいもっと踏んでくださああああッア、アァー――ッ!!!」
- 45 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:27:29.57 ID:7Yx62bfu0
- ※
セカンドの攻撃が始まって随分時間が経つが、ブーンは未だにセカンドを撒けずにいた。
いかに瓦礫の影へ身を隠しても、位置を特定されてしまうのだ。
それを成しているのは、恐らくあの無数の目。
目の一つ一つで、クイーンズ区内を逃げ回る自分を追い続けているのだと、ブーンは考える。
行く先々があの目に監視されているのなら、逃げ場は無い。
何とかあの目に捕まらず、背後などの死角に入り込まない限り攻撃は不可能だろう。
天から落とされる腕とハサミによる攻撃は、落雷のようである。
落雷が落とされた地面や建物は粉々に砕け散り、宙を舞う。
ブーンは、あたかも暴風雨の中を走っているような気分だった。
(;^ω^)(どうやってこの状況から切り抜ければいいんだお!?)
機械仕掛けの左目と右耳が周囲の情報を自動的に収集し、それを頭部に積み込んである
コンピュータの情報システムが処理してくれるおかげで、的確なバイク操作方法が瞬時に分かるは有難い。
しかし、それらにサポートされているとはいえ、攻撃と瓦礫の雨を掻い潜るのは自分自身だ。
セカンドの腕やハサミが落とされる度に、嫌な汗が全身から吹き出るのをブーンは感じていた。
- 48 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:32:24.73 ID:7Yx62bfu0
- 回避ルートは選定してくれているが、一向に敵との距離が開く事は無かった。
―――状況は絶望的だ。
そう思った矢先に、後方で巨大な爆発音が轟いた。
何事かと思って音が鳴った方向を振り向くと、驚くべき事にセカンドが動きを止めていた。
バトルスーツの強力な爆撃を後ろから受けて体勢を崩したようだ。
無我夢中でバイクを走らせ、セカンドから離れる。
ブーンを無意識から呼び戻したのは、荒巻から通信であった。
/ ,' 3『B00N-D1、バトルスーツが奴を引き付ける。
その隙に一度離脱し攻撃を。指示はツン・ディレイクが出す』
ξ゚听)ξ『いい? 突貫力のある“Sniper”を使って遠距離から攻撃してみて。
あの硬い皮膚は通常の攻撃じゃ歯が立たないわ!
まずは体内にブルーエネルギーを注入して弱体化させのよ!
んでもって……しゃーないけど、アルドリッチ砲でケリを着けるって作戦よ!』
( ^ω^)「なら、BlueLazerCannonで一気に――ξ゚听)ξ『それはダメ。あくまで奥の手よ』
提案を言い切る前にツンに制された。
ツンもドクオも言うように、BlueLazerCannonは多大な危険が伴う代物である。
あくまで最終手段として利用許可が下りるのなら、今は指示に従おう。
だが、いずれ使わざるを得ない状況が来ると、ブーンは嫌な予感を感じるのだった。
- 50 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:36:58.81 ID:7Yx62bfu0
- ( ゚∀゚)『って事らしい。
俺達が奴を引き付けている内に、とっとと撃ちやがれ。
分かったんなら返事をしろ、B00N-D1』
ぶっきら棒にジョルジュが言った。
不満さを感じさせる陰りのある声だ。
( ^ω^)「了解ですお」
バトルスーツ部隊はセカンドの背後を飛びながら、アルドリッチ砲以外の全ての砲門を展開させていた。
グレネードやミサイルを打ち出すランチャー、レーザー砲門、ありとあらゆる兵器で一斉に発射された物が群となり、
セカンドの後頭部から腰にかけて次々に巨大な爆発を起こしてゆく。
だが、ダメージは無いようだ。
あれだけの爆撃を受けようとも平然と立ち上がるセカンドの様子に、ジョルジュは舌打ちをした。
しかし、爆撃で発生した多量の黒煙のおかげで、ブーンはセカンドの目から逃れる事が出来た。
とにかくアクセルを捻り、射程距離ギリギリまでセカンドから遠ざかる。
( ^ω^)「とりあえず助かりましたお!
ありがとうございますお、ジョルジュ隊長」
( ゚∀゚)『勘違いするなよ、B00N-D1。
奴を倒すチャンスを作るのに貴様を利用してやるだけだ』
- 53 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:39:49.90 ID:7Yx62bfu0
- ※
ブーンは水没を免れている高層ビルを見つけると、その上層の方を見据え、バイクのエンジンを吹かせた。
ビルの壁に対して平行方向にバイクを走らせ、一気に駆け上がった。
セカンドの頭部には届かないが、最上階は十分な高さがある。
多くの窓の1つを無作為に選び、そこからバイクで突き破って中へ入った。
まだ綺麗に残って机椅子をバイクで吹き飛ばしてしまったが、利用者が戻って来ないオフィスを気にかける必要は無い。
ブーンはバイクから降り、バイクのパネルを操作して武器庫を開いた。
中から取り出したのは、折りたたまれた一丁の銃だ。
ブーンがそれを伸ばし、広げ、元の姿へと戻すと、それは現代で言う「狙撃銃」のような長い銃となった。
身を低くし、その太い銃口だけを窓から外に出す。
長く伸びた銃身を右肩に乗せ、両手で銃を構え、敵を狙う。
(;゚∀゚)『まだなのかB00N-D1!
コイツの動きを止めれるんなら早くやりやがれ!!』
ガイル『このままでは全機オーバーヒートする! もって後40秒が限界だ!』
セカンドの注意が完全にバトルスーツへ向けられ、叩き潰そうと追っている。
数多の兵器による壮絶な攻撃を全身で受けているというのに、決してセカンドは走る足を止めない。
たまに体をグラつかせるくらいで特に苦しむ様子も無い。
獰猛に追い続けるセカンドから、バトルスーツ隊は最大出力のブースターで遠ざかろうとしている。
速度を落とした瞬間にセカンドの攻撃射程内に入ってしまうだろう。
- 56 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:43:13.29 ID:7Yx62bfu0
- この“Sniper”によるブルーエネルギー弾の超高速射出ならば、あの強固な皮膚を貫けるはず。
キャパは3発と少ないが、それは高威力だからこその仕様だ。
あの巨体でも全弾撃ち込めば動きが止まるだろう。
コンピュータ制御されている左目と照準サイトがリンクし、正しい照準に合わせる。
距離2000メートルという極大射程狙撃であるが、ドクオの開発した武器だからこそ、
ブーンには絶対命中の自信があった。
( ^ω^)「―――喰らえッ!」
狙いは敵の背中、左胸の辺り。
右手人差し指でトリガーを引くと、銃身に埋め込まれたカートリッジ内のエネルギーが圧縮され、
長さにして大人の腕一本分程の蒼いレーザーが撃ち出された。
そのままサイト越しに弾道を追う―――命中し、肉が小さく爆ぜた。
1秒と少しの時間で着弾したレーザーは、期待通りにセカンドの硬い皮膚を貫いて体内に侵入し、そのまま胸を突き破った。
苦しんだり痛みを訴える様子は無い。ダメージとしては程遠いが、目的は抗体を打ち込む事にある。
身体の大きさから見ても、弱体化するまでは時間が掛かるのかもしれない。
- 58 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:47:34.06 ID:7Yx62bfu0
- (#)'A`)『あ゙った! も゙う2ばちゅヴぢゴんじぱぺ!』:やった! もう2発撃ち込んじまえ!
(;^ω^)「(ドクオ、あっちで何をしてるんだお……)」
すぐに左手で銃身の一部を動かしてエネルギーを装填し、放つ。
2発目のレーザーが命中した時、爆撃に抗うセカンドがその動きを止めた。
(;゚∀゚)「動きが止まった! 攻撃しながら離れるぞ!」
バトルスーツ隊は攻撃の手を少し休めつつ距離を取る。
セカンドはそれぞれ効き目に差があるのだが、思ったよりも抗体の効きが良いのは僥倖だ。
このまま抗体が全身に回って弱体化すれば、あの皮膚も脆くなるはずである。
( ^ω^)「もう一発お見舞いしてやるお……」
沈黙しているセカンドの頭部を狙い、指に力を込め、最後の3発目を射出する。
- 60 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:51:08.75 ID:7Yx62bfu0
- ―――しかし、それはセカンドの肉体を突き破らなかった。
光のような速さで撃たれたレーザーに対し、最も太く大きなハサミを超反応で振って閃光を叩き消したのだ。
その時に巻き添えになった周囲の高層ビルが、音を立てて崩れ落ちた。
(;^ω^)「なッ―――!?」('A`;)
ブルーエネルギーを撃たれたというのに、まだ俊敏に動けるセカンドを疑った。
それと同時に、敵の甲殻部分の強度にドクオが驚く。
あの甲殻が皮膚異常の強度を持っている事は何となく想像出来たが、“Sniper”の攻撃までも
弾き返す強度を持っているとは、ドクオには信じられない事であった。
疑問は残ったままであるが、セカンドが再び動きを止めている。
地に手を付き、頭を俯いている。そこから何かをする気配は感じられない。
完全に動きを止めているように見えるが、先ほどの行動も相俟って弱体化しているのか、判断が難しい。
ブーンは左の赤い目をズームモードにし、敵の表情を伺った。
2発の圧縮エネルギーを喰らっても尚、平然とした顔をしているのかどうか。
はたまた痛みに苦悶し顔を渋らせているのかどうかを、確認をしたかった。
( ^ω^)「――――」
顔面に埋め込まれている無数の人間の目、その全ての視線をコチラに向けていた。
血ばらせた目の一つ一つで、自身の凄まじい怒りと復讐の念を訴えているかのように見える。
恐怖に駆られたブーンは急いでバイクに乗り、ビルを脱出した。
- 63 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 15:56:20.02 ID:7Yx62bfu0
- ※
/ ,' 3「チーム・ディレイク! 状況の報告を!」
「被弾箇所を中心に、セカンドの体温が低下しました!
ウィルスが死滅した事で、左胸の強度が落ちた可能性が高いです!」
('A`)「さっきの防御が気に掛かるが……しかし、目標が沈黙した事から
完全に弱体化していると判断していいだろう! もし動けたとしても、動きは鈍いはずだ!」
/ ,' 3「よし!」
巨大モニターで見るセカンドは、ブーンの攻撃で動きを停止させているように見える。
好機到来に喜ぶ者はおらず、むしろ一層重みを増したプレッシャーに、全員が緊張した面持ちをしている。
あの怪物を倒すチャンスが漸く来たのだから、それもそのはずである。
ξ゚听)ξ「アルドリッチ!」
从#゚∀从「お前に言われんでもわーっとるわい!
ジョー――ルジュッ! 今こそアルドリッチ砲を使う時だぞおおおっ!!」
- 67 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:00:54.59 ID:7Yx62bfu0
- ※
コクピット内に浮かぶ小さなモニターの中で、ハインリッヒが叫んでいる。
既に自身の判断でその用意を始めていたにも関わらず、耳を塞ぎたくなるような声量で
指示をされたジョルジュは、声の主を少し厭わしく思った。
( ゚∀゚)『ハイン、言われなくとも既にやっている。
期待してモニターを眺めていろと言ったはずだぜ?』
そう言われたハインリッヒが慌てて陣営のモニターを確認する。
モニターに“アルドリッチ砲”の使用状況が映し出されている事に気づく。
6機中2機が既にアルドリッチ砲を起動させており、エネルギー装填率は70%を超え始めている。
発射可能まで残り1分と少しだ。
(( o从#'A`从o ))「お前に言われんでもわーっとるわい!」
キリッ ξ゚∀゚)ξ「ハイン、言われなくとも既にやっている」
ξ゚听)ξ「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
お前に言われんでもわーっとるわい!(笑)wwwwwww」
从# ∀从「うがあああああああああああああああああ!!!」
- 71 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:04:58.52 ID:7Yx62bfu0
- ※
遠方の空で鳴り響く轟音に、セカンドは顔を向けた。
轟音は、バトルスーツ部隊のアルドリッチ砲が出す物だ。
エネルギー装填には轟音を伴ってしまう為、気づかれてしまうのをジョルジュは覚悟していた。
セカンドがその方向に走り始めたが、その足取りは何かおかしく、
元々の走行速度と比べれば雲泥の差だ。
(;^ω^)(ホッ、ちゃんと弱体化したのかお)
セカンド背後から少し離れた瓦礫の影で様子を伺っていたブーンは、ホッと胸を撫で下ろした。
だが、無数の目が自分を見ていた光景が、頭から離れずにいた。
あの時の恐怖が脳に根を下ろしてこびり付いているのだろうか。
( ゚∀゚)「チッ、やはり大人しく死んでくれねーか」
弱体化しても尚、恐ろしい殺気を発しながら迫る敵の様子を、ジョルジュは半ば呆れた目で見ていた。
しかし、弱っているとはいえ敵が敵なので、緊張感は絶えない。
- 73 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:07:39.23 ID:7Yx62bfu0
- ガイル『だが敵の動きはだいぶ遅くなっている。
交戦も十分可能なはずだ! 皆、何とか時間を稼いでくれ!』
『『『了解』』』
ジョルジュ、ガイルの機体とセカンドを結んでいる一直線上に、黒の機体4機が割り込んで横一列に陣取る。
主力砲を潰しに迫り来るセカンドに対し、壁となったのだ。
「アルドリッチ砲エネルギー装填状況伝えます!
ジョルジュ機85%、ガイル機84%! 装填まで残り約50秒を切ります!」
「目標依然進行中! “護衛”との距離約1000!」
『まさに正念場だ。死ぬ気で奴を止めるぞ!』
『おう!』
4機はそれぞれ全砲門を展開して待ち構えた。
バトルスーツのその姿は、まるで東洋古来に伝わる「千手観音」のような風貌である。
- 75 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:10:18.04 ID:7Yx62bfu0
- 4機の護衛機が爆撃を開始する。
今ここで全弾撃ち尽くすかの如く、断続的に弾丸とレーザーが射出され続ける。
余りにも激しい爆撃で発生する煙と粉塵が、辺り一面を黒と灰色で覆う。
その為、敵の姿を目視する事は出来なくなったが、レーダーで位置を索敵するので攻撃に問題は無い。
とにかく撃つ、撃ち尽くす。
ダメージを与える事が目的ではない。あくまで敵の足を止め、時間を稼ぐ事だ。
「残り40秒! 両機、照準を目標の左胸、頭部にそれぞれロックオン!
目標と護衛の距離は現在800!」
ガイル(クソ……やたら時間が長く感じるぜ…頼むから持ちこたえてくれよ!)
アルドリッチ砲の発射まで残り約40秒を切るが、その一秒一秒が長く感じられる。
時間の経過と共に、焦燥と苛立ちが止め処無く溢れ出てくるようだ。
それを抑えるかのように、パイロット達はトリガーを力一杯に握るのだった。
- 77 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:13:45.43 ID:7Yx62bfu0
- 焦りを感じているのは前線の者だけでなく、遠くのオペレータ達も同様だった。
誰もが重いプレッシャーを振り払うように叫び声を上げて、自分を奮い立たせている。
「残り30秒! 護衛との距離650! 装填率93%に達しました!」
アルドリッチ陣営のオペレータが毅然とした声を発する。
極度のプレッシャーと緊張に駆られた者達が叫び声で応えた。
从;゚∀从「は、早く! 早くしてくれぇぇえ!」
('A`)「ひっひっふー! ひっひっふー! レーザービーム生まれそうなのおおおおおおお!」
いい加減に死んでろおおおおお!! ξ#゚听)三○)A`) ラマアアアアアアアアアズ!!
- 81 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:17:00.48 ID:7Yx62bfu0
- ( ゚∀゚)(戦場に絶対はねえが、このアルドリッチ砲の破壊力だけは『別』だ。
ぶっ放せば俺達の勝利だ。その勝利も、もはや目前だ……!)
ガイル『この魚野郎が! ザンギエフとバイソンの恨み! 今こそ思い知れ!』
バトルスーツの腕部1つ分の大きさに当る巨大な砲。
炎と煙の中にいる巨大な異形の生物に向けられたその銃口は、より上空で輝く太陽以上に眩い光を纏った。
大気を震わす轟音は、砲そのものが自身の破壊力を詠う声のようである。
その巨大な音と光に呼応して、セカンドが唸り声を響かせる。
危機を脱する事が出来ない焦りから出た声だろうと、誰もが思う。
巨大モニターの映し出す映像を見て、勝利を確信した皆には、セカンドが慈悲を乞っているように聞こえるのだ。
ベガ『ヘヘヘ、もしかして怖がってるのかコイツ?
もう少しであの世に送ってやるから、大人しく待ってろ!!』
本田『そのケツの穴にアルドリッチ砲を突っ込んでやるでごわす!!』
その声を聞くツン、ドクオが、ハインリッヒ、荒巻、オペレータである全ての者。
そして、バトルスーツ部隊のパイロットが、勝利を確信した。
- 85 名前:ちょっと修正です ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:22:54.26 ID:7Yx62bfu0
- しかし、ブーンだけは勝利を信じられなかった。
抵抗力を失ったセカンドに対し、最大の攻撃が繰り出される――これで終わりのはず。
その事を頭で理解しようとしても、何かが腑に落ちない、嫌な予感が消えなかった。
(;^ω^)「何で、胸騒ぎがするんだお………?」
( ^ω^)「あっ――――」
不意に、脳裏に根付いていたセカンドの目を思い出す。
怒りで血走った無数の目は、恐怖のほか何物でもなかった。
あんな目をした者が慈悲など乞うのだろうか?
しかし、それも断定できない。
(;^ω^)(抗体で苦しむ叫び声なのかもしれないお)
もしそうならば、抗体が身体を回りきって、体温がかなり低くなっている可能性が高い。
ブルーエネルギーの攻撃を受けたセカンドは、決まって断末魔を上げて死んでゆく。
攻撃そのものではなく、抗体がウィルスを殺す時に感じる痛みだ。
- 89 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:27:27.48 ID:7Yx62bfu0
- 今一度、左目の機能であるズーム、サーモグラフィ、スキャンを展開する。
治まりつつある爆撃の嵐の中に、セカンドの身体を捉えた。
目と脳でリンクされた情報システムがセカンドの内部状態を解析し、映像を提示した。
――体内温度が、上昇している。
さらに、心肺の辺りに内臓されている“何かの器官”が急速に変化している。
まるで、体内から何かを生み出すかのように蠢き、それが外部に出ようと動いている。
サーモグラフィとスキャンが捉えるシルエットから、それは形状として“人の頭”を思わせられる。
――嫌な胸騒ぎの原因は、これなのだろうか。
少なくともあの唸り声は、慈悲を乞うような声でも、断末魔でも無い。
「アルドリッチ砲、装填率98%! 発射まで残り10秒!」
从;゚∀从「い、行けえッ! 撃てえッ! 殺せええー――ッ!」
(;'A`)「や、やっちまえ! ぶっ殺しちまえ!!」
ξ;゚听)ξ「チクショオオオオッ! 今回ばかりは勝ちを譲ってやるわよっ!!」
(#゚∀゚)&ガイル『死ねえー――――――ッ!!!!』
- 91 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:29:51.30 ID:7Yx62bfu0
- アルドリッチ砲が放たれようとした瞬間。
コクピット、本部にいる全員の鼓膜に、ブーンの叫び声が突き刺さった。
(;゚ω゚)「回避しろおおおおおおおおー――――ッ!!」
爆炎を纏って出現した巨躯が巨大なハサミを振り回し、4機の護衛機を粉々に叩き切った。
そして長い右腕を振りかぶりながら、前方の2機に向って駆け、掌を叩き付ける。
直撃を免れなかった黒い機体は急速に地へ落ちてゆき、
赤の機体は瞬時に回避行動を取っていたが攻撃をかわし切れず、脚部を1つ失って後方へ吹き飛ばされた。
ガイル機は多量の煙を放出しながら水没した街の中へ墜落。
ジョルジュ機はビルに突っ込み、その瓦礫に機体が埋められてしまった。
( ∀ )「な……に……起……た………?」
- 95 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:33:05.34 ID:7Yx62bfu0
- 『ジョ――ュ―長! ―イルさ――応答し――ださ――お!!』
(;゚∀゚)「…あ……う……………」
『―――ッ! ――ルジュッ! 応答――!! ジョ――ッ
ジョル―! 応―しろ! 嫌――死な―い―れよ―!』
通信機器に異常があるのか、コクピット内の通信モニター画面の大部分がよく見えない。
通信は可能のようでだが画面と音声が不鮮明である。
(;゚∀゚)(い…や、こりゃ…俺の頭…が…イカ…れてる…のか)
機体の故障と思われたそれは、頭の中で響く耳鳴りと霞む視界が勘違いさせていた物であった。
ジョルジュはその揺ら揺らと安定しない世界で吐き気を催し、堪える事が出来ずに吐き出してしまった。
出撃前に摂ったのが液体化燃料だったので、ほぼ水同然の物が胃から流れ出る。
(;^ω^)『―――隊長! ――してくださいお!』
从;∀从『――ッ!――ルジュ! 嫌だ! お前まで死なないでくれよ!!』
段々耳がはっきりと聞こえ、物を考える意識も取り戻せた。
彼らの呼びかけに意識を取り戻したジョルジュは、まずハインリッヒに無事を伝えた。
- 97 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:37:24.69 ID:7Yx62bfu0
- (;゚∀゚)「俺が死ぬわけねーだろ、ハイン」
从;∀从『ジョルジュ! 良かった! 生きてたんだな!」
(;^ω^)『応答してくださいお! 応答してくださいお!!』
(;゚∀゚)「さっきからうるせーぞ! 俺はそんなにヤワじゃねえ!」
ジョルジュは何事も無かったかのような口調で返す。
本当はまだ頭痛が酷く、視界がぐら付き、体中がだるかった。
しかし、どんな状況であろうとも、ライバルに弱みを見せる事は彼のプライドが許さなかったのだ。
(;^ω^)『良かった! 機体は動かせそうですかお!?』
このお人好しめ、とジョルジュは舌打ちする。
ブーンの言う通り、まずは機体の損傷状況を確認するべきと思い、操作パネルを叩いた。
咄嗟の事だったのでよく覚えていないが、直撃は免れていたはず。
機体の状態をサブモニターに映し出す。
右足を一本失っただけで、他は正常に動いているようだ。
しかし、機動力や機体バランスが格段に落ちたのは事実。
これであの素早いセカンドと戦えるのだろうか。不安がジョルジュの胸中に渦巻く。
- 101 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:39:43.20 ID:7Yx62bfu0
- それと、セカンドの攻撃を回避する際にアルドリッチ砲のエネルギーを手放してしまったらしい。
ブースターを使って回避するには、アルドリッチ砲に回した出力を機体に戻さなければならない為だ。
それより腑に落ちないのは、何故自分が回避行動を取っていたのか、という事である。
( ゚∀゚)(戦争に『必ず』は無い。
だが、あれは間違い無く勝利を『確信出来る』攻撃だった)
――ならばあの瞬間、自分達は『死に直面していた』というのか。
――いや、ありえない。
自分自身の考えに、ジョルジュは自問自答する。
まだ少しフラつく頭でジョルジュが思考を巡らすと、ある声がハっと脳に響き渡った。
( ゚∀゚)「……B00N-D1」
攻撃の瞬間に聞こえたB00N-D1の叫び声だ。
全員がアルドリッチ砲が放たれる事に完全に気を取られていたが、
B00N-D1だけが異常を察知し、そして敵の攻撃動作を見ていたのかもしれない。
- 102 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:41:42.76 ID:7Yx62bfu0
- B00N-D1の叫び声の後、炎と煙の中から突然飛び出たセカンドの手腕が護衛機を襲った。
目の前で木っ端微塵にされた仲間達。
そして敵の掌が直撃し、炎上しながら墜落していったガイル機。
(;゚∀゚)「――ガイルは!? アイツまでやられちまったのか!?」
まるでフラッシュバックしたかのように、攻撃を受けた瞬間を鮮明に思い出したジョルジュは、
何か考える頭より先に動いた身体で機体を操作し、瓦礫の中から飛び立った。
(;゚∀゚)「ガイルッ! ガイルッ! 応答しろ! ガイルッ!!
クソッ、レーダーの調子が悪くなってやがる! 何処に落ちやがった!? 」
- 106 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:46:51.48 ID:7Yx62bfu0
- ※
ブルーエネルギーによる攻撃で皮膚を貫き、確かに体内に抗体が注入された。
それに、一部分であるがウィルスを死滅させている反応も確認した。
しかし、弱体化していたと思われたセカンドは復活し、最大限の動きで攻撃を繰り出したのだ。
これはブーンにもツンにも、解けないパズルであった。
セカンドを覆っていた煙が、段々と消えていく。
少しずつ薄れてゆく黒煙の奥に見えてきたのは、人の頭部であった。
鮫の頭部が左右に二つに割れ、その中央にあるのは首。
毛髪が無い頭皮を覆うのは、濁りのある青色の皮膚と、その下に浮き出ている黒ずんだ血管だ。
そして顔面には人間の物と同じ目や耳、鼻と口が付いているのであった。
ξ;゚听)ξ「な、何よアイツ……何なのよ……!」
(;'A`)「に、に、に、に、人間……人間の顔が出てきたぞ……!」
おぞましい映像に、本部の人間が思わず後退りしてモニターから離れようとする。
しかし、ハインリッヒ・アルドリッチだけは、身体を震わせながらモニターに向ってゆっくりと歩き出していた。
体の前に出された両手は、何か探し求めていた物に触れようとしているように見える。
从;゚∀从「そんな………嘘だ……こんなの嘘……嘘に決まってる……」
ξ;゚听)ξ「あ、アルドリッチ?」
- 108 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:50:35.20 ID:7Yx62bfu0
- 人間に酷似した――否、人間の顔を持っている“それ”が、首を回して周囲を見渡している。
その大きく見開いた眼で何かを見つけ出そうとしているようだ。
(;^ω^)(僕を探してるのかお?)
ものの数十分で瓦礫の街と化したクイーンズ区内の、原型を留めている数少ないビルの屋上で、
ブーンはセカンドの様子を眺めていた。
見れば見るほど、人間の顔そのものであると思わせられる。
多くのセカンドを見てきたが、人間の顔をそのまま持ったセカンドは見た事が無い。
ウィルスに感染した生物は原型を失い、そして獲物を捕食して進化すれば、
原型とかけ離れた外形を形成していくのが、今日までのセカンドの研究で明らかになっていた事であった。
しかしこれでは、研究内容と矛盾してしまっている。
ツンをはじめとする科学者達にとっては、まだ鮫の頭であった頃の方が自然な生物として見る事が出来た。
- 111 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:52:47.21 ID:7Yx62bfu0
- セカンドがブーンのいる方角に首を向けると、そのまま首を固定させた。
そして、遠くの方で豆粒よりも小さくなっている自分を、凝視し始めたのだ。
それ以外に何もせず、ただ、見つめ続けるのであった。
(;^ω^)「な、何て目をしてるんだお……」
声も発さず、瞬きすらせず、ただ見つめ続けられる恐怖。
だが、それ以上に目が放つのは、肌が粟立つまでに感じる凄まじいまでの殺気である。
(;^ω^)(圧倒されるなお……睨み返すんだお!)
すると突然、セカンドが動き出した。
ブーンに撃たれた辺りの胸を、そのハサミの先で指している。
サーモグラフィでその箇所を見ると、左胸の辺りが赤みのある紫色―すなわち、体温が若干低い事を示していた。
完全にウィルスが死滅している状態ならば青を示すはず。
- 114 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 16:58:16.50 ID:7Yx62bfu0
- 他の身体の部位はどこも真っ赤な色をしている。
これは体中の細胞にウィルスが健在している事を表しており、つまり、
全くと言って良いほど、抗体が効いていないという事である。
(;'A`)『でも、抗体を消したっつーんなら、一体どうやって?』
(;^ω^)「多分、抗体が逆に喰われたんだお。勝手な予想だけど。
ツンはどう思うお? 何か見当付くかお?」
( ^ω^)「……ツン? 聞いてないのかお?」
通信しても応答しない。
聞こえてきたのはツンの声ではなく、ドクオの慌しい声であった。
(;'A`)『―――すまん! 今ツンは席を外している!
何かアルドリッチの様子がおかしいんだ!』
- 117 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 17:00:09.87 ID:7Yx62bfu0
- ※
ハインリッヒは巨大モニターの目の前まで行くと、まるで糸を切られた操り人形のように
身体を崩してその場に座り込んだ。
首を小さく左右させて振りながら、何度も「有り得ない、嘘よ」と呟いている。
ξ;゚听)ξ「あ、アルドリッチ! アンタどうしたってn――」
ξ;゚听)ξ(アンタ、何でこんなに震えているのよ!?)
掴んだ肩から伝わる振動。
プライドが高く負けず嫌いで高慢な彼女が怯えているのだろうか。
从;∀从「信じられない……有り得ない……嘘、嘘、嘘に決まってるわ………」
止め処無く流れ出ている涙が、頬を濡らしている。
確かにハインリッヒの言う通り、あのセカンドの存在自体が信じられない事である。
しかし、それ以上にツンが信じられないのは、ライバルの有様であった。
- 122 名前:ちょい修正>< ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 17:05:24.35 ID:7Yx62bfu0
- ξ;゚听)ξ「あのセカンドが怖いっていうの? 確かに有り得ない存在よ!
でも、あれは現実なのよ! しっかりしなs――キャッ!?」
不意にハインリッヒが振り向き、ツンの両肩を掴む。
そして、ツンの体を揺さぶってハインリッヒが泣き叫んだ。
从;∀从「違う! あれはセカンドじゃないッ! セカンドなんかじゃないッ!」
ξ;゚听)ξ「じゃあ何だっていうのよ!? 私にはセカンドにしか見えないわね!」
肩を強く掴まれてイラっとしたツンは、ハインリッヒを両手で突き飛ばした。
地面に倒れこんだハインリッヒは赤子のように泣き叫ぶばかりで、ツンには訳が分からなかった。
ツンはハインリッヒに一瞥してモニターのセカンドを睨みつけると、ますます気持ちを苛立たせた。
ξ#゚听)ξ「こんなの、誰がどう見てもセカンドじゃないのよ……!
殺すのよ! 何であろうとセカンドは全部殺してやるのよ!」
ツンはセカンドを流す巨大モニターをバックにし、機械仕掛けの義腕を大きく広げて大仰に訴え始めた。
両親を殺され自身も両腕を失ったツン・ディレイクが、セカンドに対して深い恨みを持っているのは周知の事である。
- 124 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 17:09:01.90 ID:7Yx62bfu0
- そんなツンとハインリッヒを見かねたドクオは自分の席を立ち、ハインリッヒの元へ近づく。
地面に伏して泣き喚くハインリッヒを起こしてやり、肩を担いで近くの席まで彼女を連れて行った。
ディレイク陣営の空き席にハインリッヒを座らせてやると、ドクオがツンに話しかけた。
('A`)「ツン、ありゃ俺達も見た事が無い“生物”だ。
すぐにセカンドって断定するのは、なんつーか横暴なんじゃねーのかな」
ξ#゚听)ξ「何言ってるのよ!? サーモグラフィが示す熱量!
あれはセカンド特有のモンでしょーが! アンタも見たでしょ!?」
ドクオはディレイク陣営のモニターと、嗚咽を漏らしながら項垂れて椅子に座る
ハインリッヒを交互に目た後、落ち着いた口調で言葉を返した。
('A`)「データだけ見りゃそうだが、それ以上に何かあるとしか思えねーんだよ。
なぁ、ハインリッヒ。アイツが何なのか教えてくれないか?」
俯く彼女の顔を覗き込んで、ドクオは優しい口調でハインリッヒに話しかけた。
それまで泣き叫んでいたハインリッヒだったが、徐々に落ち着きを取り戻したようで、
嗚咽を混じらせながらも少しずつ言葉を発していった。
从;∀从「あの顔は……あの人は………」
- 128 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 17:12:26.39 ID:7Yx62bfu0
- ※
互いを見据えたまま、両者は膠着していた。
あまりにも巨大過ぎるセカンドの姿に、ブーンは改めて息を呑んだ。
ある程度の抗体を体内に打ち込めば、抗体が体内を回りウィルス細胞を減らしてゆく。
ウィルス細胞を失い弱体化したところを殺すのが、基本的なセカンド狩りのセオリーである。
最も、強化されていった兵器や身体のおかげで、今は一撃で葬ってしまう事が多いのだが。
( ^ω^)(やっぱり、もっと火力のある攻撃が必要だお)
しかし、今回は前例の無いケースであるので、倒し方も通常とは異なる。
多量のウィルスが存在している為に、逆に抗体が消滅しているのかもしれない。
ならば、一気に多量の抗体を打ち込まなければ、完全に倒す事は出来ないと、ブーンは判断する。
《………蒼い光の…射手よ………》
( ^ω^)「えッ――」
- 132 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 17:17:55.42 ID:7Yx62bfu0
- 突如、戦場に爆音が鳴り響く。
攻撃かと思ったブーン達は体をビクつかせるように身構えた。
(;^ω^)「――!?」
《……光が私の皮膚を突き破り…何かが我が体内を駆け巡った……》
《…それは我が身を焼き尽くし…体の自由を奪う……まるで炎に囚われたようだった……》
(;^ω^)「なん……だと……?」
攻撃かと思ったそれは、「声」であった。
口を動かし、人の声を発し、はっきりと英語を話している。
(;'A`)「しゃ、しゃべっ……」
ξ;゚听)ξ「喋れるまで成長するなんて……そんなこと、どうやって……?」
从;∀从(……あの声は……やっぱり…でも…そんな……)
『オリジナルが動物』のセカンドは、人間を捕食する事で知能を付けるが、
しかし、どう成長すればここまで知能や理性を身に付けることが出来ようか。
理論は無い。前例は無い。
ツンは思考をいくら巡らせようとも、その答えを導き出せなかった。
――しかし、セカンドウィルスは未だにその全貌が解明されていない
未知の存在であるという事を、今一度記述しておく――。
- 134 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/24(日) 17:20:36.48 ID:7Yx62bfu0
- 《…最後の攻撃は危なかった……流石にあの規模のエネルギーを受ければ……いくらこの巨躯とて
ただでは済まなかっただろう……まさに紙一重……体内に巣食う炎を鎮める事ができた……》
(;'A`)「ハインリッヒ! 教えてくれ! アイツは一体何なんだよ!?」
このセカンドは知能を持ち、考えて戦っている。
本能のままに喰らうセカンドではない。
研究されてきたウィルスの習性とは矛盾するが、何故か理性や感情まで持っているとしか思えない。
《…正直言って侮っていた……一瞬でも私を恐怖させた事を……誉めてやる……
………私の全力を持って……光の射手……貴様を叩き潰す………》
( ゚д゚ )《我が名は『クォッチ』……参る……ッ!》
(;^ω^)「……じょ、上等だお! ぶっ殺してやるから、かかって来いお!」
从;∀从「あの顔…あの声……信じたくないけど……間違いない…。
…あれはアタシの兄さん、『ミルナ兄さん』なんだ……」
第5話「新種」終