-6- 猫
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:18:19.75 ID:NkzokRGR0
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-6- 猫
教室に入ってきた一匹の猫。
それが授業中ともなれば、それは絶好の授業中断のきっかけになる。
( ^ω^)「ぬこだお」
いち早く反応したのは、内藤ホライゾン。
それに続くクラスメイト達。
ξ゚ー゚)ξ「あ、ホントだ」
('A`)「ここ三階なのに。よく来たな」
既に席を離れ、猫に寄っていこうとする生徒達を見て溜息を漏らす担任の長岡。
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(;゚∀゚)「……お前ら、猫ぐらいでいちいち反応すんな。小学生か」
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:20:59.29 ID:NkzokRGR0
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生徒たちの好意的な態度に反応するかのように、
皆の注目を集めながら、猫は少しずつ教室の中心部へと歩を進める。
(;'A`)「お。お。なんか来たぞ」
何を思ったのか、猫はドクオに向かっていた。
そして彼の足元まで着くとその額を彼の右足に摺り寄せる。
( ^ω^)「気にいられたみたいだお」
(;'A`)「うーん……」
困ったような返事をするドクオだったが、
それでも好かれているだけに悪い気もしない。
('A`)「……にしても最近、野良猫多いよな」
ξ゚听)ξ「ホントにね。『VIP』に限ったことなのかしら?」
ツンデレの言葉に、内藤が黙考する。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:21:48.82 ID:NkzokRGR0
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確かにここ数年。数ヶ月の間に『VIP』では大量の野良猫が発生していた。
どこから来たのかは不明だが、そのまま居座るものもいればいつの間にか消えてしまったりと色々だ。
( ^ω^)「……多少なりとも『シベリア』や『格付け』にも出てきてるみたいだお」
ξ゚听)ξ「そうなんだ」
('A`)「まぁ旅行客みたいなもんだよな」
ドクオはそんなことを口にしながら、猫の頭を優しく撫でる。
当の猫は、気持ちよさそうに身を委ねる。既に懐いている様子だった。
ξ゚ー゚)ξ「人懐っこいのね」
('A`)「もうアレだな。俺が餌とかあげるべきだよな。ほら、ビーフジャーキーだ」
(;^ω^)「放っておけお」
内藤がドクオの伸ばした腕を制止する。
('A`)「何すんだ!」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:22:54.64 ID:NkzokRGR0
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ドクオはそう言って内藤の制止を振り切る。
気付けば、いつの間にかドクオは完全に猫擁護派に回っていた。
(;^ω^)「野良猫に餌はあげちゃいけないんだお」
('A`)「冷たいぞ!」
ドクオだけでなく足元でじゃれていた猫までもが威嚇するように声を上げた。
言葉が通じるわけもないが、内藤はすっかり嫌われていた。
そんな様子を見るに見かねたツンデレが、仲裁に入る。
ξ゚听)ξ「どっちにしたってビーフジャーキーはやめておきなさい」
('A`)「っていってもなぁ……」
鞄の中を覗いてごそごそと探るが、他に目ぼしいものは見つからない。
暫くして、諦めるようにドクオはまた猫の頭を撫でていた。
( ^ω^)「…………」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:26:18.17 ID:NkzokRGR0
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ξ゚听)ξ「珍しく厳しいわね。どうしたの?」
普段の気の抜けた内藤からは考えられない態度に、ツンデレが言い寄る。
(;^ω^)「いや、別に何でもないんだお」
ξ゚ー゚)ξ「ホントに?」
( ^ω^)「本当だお!」
そうこうしている間に、授業終了のチャイムが鳴った。
途端に自分達の席に戻っていく生徒達を見て、長岡は俯きながら言う。
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(;゚∀゚)「まーた授業が進まなかった……」
(*゚ー゚)「先生、実は諦めてませんか?」
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( ゚∀゚)「あ、バレてる」
しぃの視線が恐ろしく鋭くなるのを振り向くことなく察知、長岡は目を逸らして応戦する。
二人の間には言葉を不要とした『固有結界』が展開されていた。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:27:38.36 ID:NkzokRGR0
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('A`)「長岡。この猫はクラスで飼えないのか?」
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( ゚∀゚)「無理に決まってるだろ。ここ高校だからな。小学校でも中学校でもないからな」
ξ゚听)ξ「長岡の家はダメなの?」
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( ゚∀゚)「ダメだよ。未亡人の大家さんに怒られちゃうもん」
( ^ω^)「長岡なら、長岡ならきっと何とかしてくれる」
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( ゚∀゚)「無理だよ。ここはジョルジュ相談所じゃないもん」
(*゚ー゚)「…………」
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(;゚∀゚)「怒らないで。次はちゃんと授業するから」
ひとしきりの返答を終えたところで、長岡が俯きながら教卓を手を置いた。
それを見た生徒たちは早々と教科書やノートを机にしまう。
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( ゚∀゚)「……っていうかさ」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:29:38.23 ID:NkzokRGR0
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羊、吠える。
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(#゚∀゚)「お前らわざとか! わざと呼び捨てしてんのか!」
向きなおす先、教室には誰もいない。
猫もいない。
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( ゚∀゚)「あれ?」
先ほどまで騒々しかった教室が今では静寂に包まれている。
時間割を見ると、次の授業は科学。おそらく授業が実験室で行われるのだろう。
一人納得する。
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( ゚∀゚)「……あぁ。そう」
長岡もまた、黒いアレを片手に教室を出た。
次は隣のクラスで授業となっている。教えている内容は同じはずなのに進行具合は全く違っていた。
彼の頬に何かが伝う。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:30:22.26 ID:NkzokRGR0
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科学実験室。
委員長の号令がかかり、授業初めの挨拶を済ませる。
そしてセントジョーンズによる酸素とか二酸化マンガンとか、そんな感じの実験が始まった。
(’e’)「始めるよぉ」
癪に障るというか、耳に障るような声が教室中に響く。
生徒全員が嫌な顔をして黒板から顔を背けた。
(’e’)「各班にマッチを配りますよぉ」
(;^ω^)「!」
(;'A`)「!」
それを聞いた数人の男子達が勢いよく立ち上がる。
そして、配布されていくマッチ箱をいち早く手に取ると我が物顔で手元に置いた。
(*^ω^)「マッチは僕が擦るお!」
ξ;゚听)ξ「別に構わないけど」
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:33:03.82 ID:NkzokRGR0
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( ^ω^)「ツン。かけ声を頼むお」
ξ゚听)ξ「え?」
( ^ω^)「何でもいいお。カウントダウンでもレディーゴーでも」
妙に真剣な顔つきで頼んでくる内藤に、恥ずかしそうに目を逸らすツンデレ。
数秒考えた後、仕方ないと了承した。
ξ;゚听)ξ「それじゃ行くわよー。ヨーイ……ってあれ?」
自分から頼んでおきながら、彼らは合図を待たずして事を始めていた。
机の上に散らばった棒と左手に構えた小さな箱。
( ゚ω゚)「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!11」
( ゚'A`゚)「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!11」
それらを勢いよく擦っていく二人。擦っては、投げ、繰り返す。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:34:12.55 ID:NkzokRGR0
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内藤の手から離れたそれをツンデレが慌てて水の溜まったビーカーで受ける。
小さな音と立てて、マッチは鎮火した。
ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと! 何やってんの!」
(#゚ω゚)「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!11」
覚醒した内藤に、ツンデレの声は届かない。
残り数本。
もとより大した数は入っていなかったため、擦り終わるのも早かった。
(#゚ω゚)「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!11」
そして、最後の一本が擦り終わる。
(*^ω^)「……ふぅ」
(*'A`)「……たまんね」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:34:53.15 ID:NkzokRGR0
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飛んでくる火を懸命に消化していたツンデレが、とうとうしゃがみこむ。
ステップを利かせて華麗に舞う姿は絵になっていた。
ξ; )ξ「…………」
毎度のように、ロクでもないことに付き合わされていながら
対処できない彼女こそある意味、重傷である。
(*'A`)「先生ー。俺らの班、マッチが足りないです」
(*^ω^)「こっちもだおー」
(’e’)「おかしいですねぇ」
そう言ってセントジョーンズから新品を受け取り、
何食わぬ顔で実験に取り掛かる二人。
ξ; )ξ「…………」
一方、ツンデレは呆れて言葉が出なかった。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:36:43.72 ID:NkzokRGR0
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帰り道。
内藤とツンデレの二人は一緒に帰路についていた。
友人たちは気を利かせて、時間をずらしたり道を変えている。
(;^ω^)「…………」
ξ#゚听)ξ「…………」
(;^ω^)「……ツン?」
二人の様子から、当事者であるドクオを含めた友人達がいないのは
気を利かせた訳ではなく単にツンデレの逆鱗に触れたくないがためであることが分かる。
(;^ω^)「おっおっお。ツンさんや」
額に汗を掻きながら、ぎこちない笑みを向ける内藤。
阿修羅の降臨は免れないと察して、ならば黙っているよりも話しかけたほうが
事は穏便に済むのではないかと出来る限りのことをする。
この男、必死である。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:37:40.54 ID:NkzokRGR0
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ξ゚听)ξ「……もういいや」
(;^ω^)「お?」
そう言われて暫く何も反応できなかった内藤だが
時間が経つにつれて、事の重大さに冷や汗が流れ肩が震える。
それは許しの言葉ではなく、見限られてしまったということである。
ξ゚听)ξ「はぁ……」
( ;ω;)「ツンごめんお! 許してお!」
ξ;゚听)ξ「……え、ちょっと何泣いてんのよ!」
恥ずかしげもなくその場で涙を流し始めるという内藤の突然の行動に、ツンデレがうろたえる。
原因は間違いなく彼にあるのだが、傍から見ればまるで逆だ。
ξ;゚听)ξ「ああもう! ちょっと走りなさい!」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:39:26.37 ID:NkzokRGR0
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内藤の腕を引き、およそ百メートル程を全力疾走してところで
肩で息をしたツンデレが膝に手をつき立ち止まる。一方内藤はまるで堪えていない様子だった。
ξ; )ξ「アンタ……足が早いのは知ってたけど、体力も、あるのね……」
(;^ω^)「日々の鍛錬だお」
すっかり涙も枯れて、いつもの内藤に戻っている。
そんな現金なところがまた頭にくるのだが、今は堪えることにした。
ξ゚听)ξ「さっきのは冗談よ」
( ^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「……けど、今のもそう、授業のこともそう。アンタは子供過ぎるのよ」
ツンデレが内藤の頭をぽんぽんと叩く。
叩くというよりも撫ぜるに近い程度の強さで、数度。
言葉とは裏腹に、それは幼い子供に対してするような動作だ。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:41:05.14 ID:NkzokRGR0
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(;^ω^)「そ、そんなことないお。僕は演技派なんだお」
自身の頭を撫でるツンデレの腕を掴んで離し、手を離す。
一瞬驚いたような顔を見せるツンデレだったが、すぐに眉を顰めて反論する。
ξ;゚听)ξ「それならそれで釈然としないんだけど……」
(;^ω^)「ああ、いや。違うお。僕は純粋だお。だけど大人だお。ダンディズム溢れるお」
ξ;゚听)ξ「訳わかんないわ」
あたふたする内藤に溜息をつきながら、ツンデレは彼の手を引き走り出した。
それに抗うことなく内藤も走り出す。
二人の表情と速度。先ほどとは少しだけ違っていた。
ξ゚听)ξ「……ほら。行くわよ」
(;^ω^)「トゥメイトゥ」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:42:43.90 ID:NkzokRGR0
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それが充てもなく走っているのではなく、
自身と彼女の家に向かっているのだと気付く頃には辺りもすっかり暗くなっていた。
ξ゚听)ξ「……そういえばさ」
( ^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「猫。どうしたかな」
今朝、一時限目の教室に侵入してきた猫のことだった。
ドクオが随分と気に入り、相手側も懐いていた様子だったが、
結局、ドクオが『男の別れ』と称して泣く泣く突き放すという形でお別れとなった。
( ^ω^)「その辺で寝てるんじゃないかお」
ξ゚听)ξ「冷たいわね」
( ^ω^)「ツンには優しいお」
ξ゚ー゚)ξ「何それ」
ツンデレが少しだけ微笑む。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:43:48.70 ID:NkzokRGR0
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ξ゚听)ξ「別に私だって特別猫が好きってこともないけどさ」
( ^ω^)「お」
ξ゚听)ξ「どうしてそんなに嫌うの?」
そう言われて、内藤は言葉に詰まり返事に迷う。
一方でツンデレがじっと見つめており、少し唸ってようやく内藤が口を開いた。
( ^ω^)「前に雑誌を買ったお」
ξ゚听)ξ「雑誌?」
( ^ω^)「カラオケにいった日の夜だお。一緒に帰って、その途中に買ったお」
間を置いて、思い出したように声を上げてツンデレが頷く。
( ^ω^)「内容は『VIPの今後』だお」
ξ゚听)ξ「思い出したわ。やけにお堅い内容のものを読んでたのよね」
( ^ω^)「あれはたまたま目に付いただけで、普段は読まないお」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:45:27.02 ID:NkzokRGR0
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ξ゚听)ξ「それに、何が載ってたのよ?」
( ^ω^)「色々書いてあったお。一晩じゃ読みきれなくて三日ぐらいずっと読んでたお」
ξ゚听)ξ「……アンタにしては随分と熱心じゃない」
そんな話をしている間に、あのときの内藤が雑誌を買ったコンビニが近くに迫っていた。
( ^ω^)「ちょうどいいお」
そう言って内藤が小走りでコンビニに駆け込む。
慌ててツンデレが追いかけると、内藤は雑誌コーナーで何かを探していた。
おそらくは自身の買ったものと同じものを。
ξ゚听)ξ「あった?」
( ^ω^)「……ないみたいだお」
そう言うと、またも勝手にコンビニから出て行く内藤。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/20(木) 22:46:35.79 ID:NkzokRGR0
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ξ#゚听)ξ「アンタね……」
(;^ω^)「あ、ごめんお」
拳を握りしめたツンデレに、謝る内藤。
( ^ω^)「長いし上手く説明できないから貸すお」
ξ゚听)ξ「そう。ありがと」
ツンデレを残して自宅まで走り、ものの十数秒で戻ってくる内藤。
既に自宅までそれだけの距離になっていた。
ξ゚听)ξ「これね」
( ^ω^)「だお」
いつから。いつまで。
そんな明確な境はなく、彼らの日常は歪み蝕まれていた。
ゆっくりと、少しずつ、確実に。