- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:11:57.67 ID:5jziYpf10
- ( ^ω^)「例えば夢だお」
('A`)「夢?」
入学式の時点で、男女内でさまざまな派閥が生まれた。
故に入学式から1週間経った今となると、休み時間などに言葉を交わす友人もいるものだろう
クラスで目立たない者同士は同士で集い、趣味が合うもの同士は交流を深め、
目立ちたがる者同士は同士で集い、互いの人間関係を知っていく
机を跨ぐ二人の会話は、昼休みの雑踏やノイズの一部に過ぎない
( ^ω^)「正夢の反対語は知ってるかお?」
('A`)「正夢の反対? ただの夢か?」
( ^ω^)「正夢の反対語は逆夢って言うんだお」
ブーンは誇らしげにそう頬を上げると、ドクオは眉をしかめて
口を尖らせながら、「そんなの知って何かの特になるのかよ」と毒を吐いた
だがブーンはそう反論されるのを知っていたかのように、
すかさずドクオの目先で人差し指を立てた
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:13:19.78 ID:5jziYpf10
- ( ^ω^)「今、ドクオは逆夢という言葉を知らないことに対して腹を立てたお」
('A`)「うっせぇなあ」
( ^ω^)「一番そのモヤモヤを持つのは、どのぐらいの年代だと思うお?」
ふとドクオは口を閉ざし、顎に手を当て、長考した
窓から細やかな風が入り込み、カーテンが窓際の席をなぞる
遠くグラウンドから球技を嗜む生徒達の声が聞こえる
顎から手を離し、ドクオは口にした
('A`)「疑問が多いってことなら、子供か?」
( ^ω^)「そうだお」
('A`)「だけど子供はそこまで深く考えないから……大人になりかけの思春期……俺らぐらいの年代か?」
( ^ω^)「大正解だお!」
ブーンは親指を立てたが、ドクオはどう反応すれば良いのかわからない
大正解か、それは良かったと髪を掻いた
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:14:01.00 ID:5jziYpf10
- ( ^ω^)「じゃあ!じゃあだお!」
突然机の中を漁り、一枚の紙を取り出した
目立つフォントで「創部届け」と書かれているその紙を卓上に載せ
その紙に手を載せ、言った
( ^ω^)「創るお!」
('A`)「なにをだ」
( ^ω^)「この世にある未解決事件や不思議事件……それを解決していく部活!」
ブーンは立ちあがり、ふと窓の外を見つめて微笑む
( ^ω^)「解決部だお!!!」
自分がこの部活を創れば、普通に生きていては感じられない何かを
摩訶不思議で、好奇心をくすぐるような何かを
見つけられるような気がしたのだ
( ^ω^)県立VIP高等学校解決部のようです
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:14:38.27 ID:5jziYpf10
- その部室は4階の端に位置するためか、人通りは今のところ部員しか見られない
中央には二つのソファーが細長いテーブルを挟むように置かれ、
端に並べられた机の上のテレビ、埃を被る本棚、ネットにも繋げないパソコンは未だに機能した前例は無い
強いて挙げるならば、彼ら部員は部屋の隅にある冷蔵庫をよく使用する
ξ゚听)ξ「ブーンの誕生日っていつだっけ?」
そう言ってツンは冷蔵庫の麦茶を取り出した
麦茶を中央のテーブルに置き、重力に身を任せ勢いよく座る
('A`)「あー? なにー?」
是が非でもネットに繋げないかとパソコンの前でキーボードを叩くドクオが唯一言葉を返す
窓際の椅子に座るクーは本を読んでいた。表紙には「Братья Карамазовы」と書かれている
ξ゚听)ξ「クー、何読んでんの?」
川 ゚ -゚)「何だと思う?」
読めるか?とクーはツンに表紙を向ける
ツンは何か文字が浮き上がるというわけでもないのに身を乗りだし、眉をしかめ表紙を凝視した
「んー……んー……」と呻き、考えた結果「わっかんない」と息を吐き、肩を落とした
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:15:38.52 ID:5jziYpf10
- ('A`)「ん?カラマーゾフの兄弟……ドストエフスキーだな」
クーが「ほう」と本を膝に載せ、目を丸めた
川 ゚ -゚)「ドクオ、お前ドイツ語が読めるのか」
('A`)「いや、読んだことがあるだけだ」
ドクオがそう頬を掻くと、わざとらしくツンは溜め息を吐き、ソファーに横たわった
既にツンは麦茶のことは忘れ、ドクオの読書好きを嘲笑した
ξ゚听)ξ「アンタ本当に本好きねー。脳ミソの中は文字だらけなんじゃないのー?」
('A`)「バカ野郎」
跳ね返すようにそう口にし、椅子の向きをツンに向け指差した
クーは最早関係ないかのように読書を再開する
('A`)「カラマーゾフの兄弟はドストエフスキーの最高傑作だ
かの有名な哲学者ウィトゲンシュタインはカラマーゾフの兄弟を最低でも50回は読んだらしいぜ?」
ξ゚听)ξ「うわその人すごい暇人なんじゃないの?」
('A`)「彼が第一次世界大戦に参戦してた頃は私物が一つしか無かったからさ」
ξ;゚听)ξ「あ、そうなの?」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:16:39.49 ID:5jziYpf10
- ('A`)「ってかお前ウィトゲンシュタイン知ってんのか?」
ξ;゚听)ξ「もちろん知ってるわよ! バカにしないでよね!」
川 ゚ -゚)「……嘘だな」
クーは頬を上げ、淑やかに微笑んだ。ツンは口を尖らせて、眉にしわを寄せる
('A`)「さすが人間嘘発見器」
ドクオはそう言って再びキーボードを叩き始めた。クーは「その呼び名はやめろ」と釘を刺し、また読書を再開した
クーは人の嘘がわかるという能力を持つ
本人曰く、頬の筋肉の動きや声のトーン、話すときの眼球の動きでわかると言っているが一般的に考えてわかるわけがない
だが彼女は今まで生きてきた中で、数々の嘘を見抜いてきた前例がある。その証人が、部員たちだ
しかし彼女がなぜそのような能力を身につけたか、知る者はいない
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:17:45.96 ID:5jziYpf10
- ξ゚听)ξ「で、話を戻すけどブーンの誕生日わかる?」
('A`)「んなもん聞いてどうすんだ?」
ξ゚听)ξ「ふっふーん。私だってね、本ぐらい読むのよ」
カバンの中に手を伸ばし、一冊の本を取り出し、「じゃーん」とドクオにその表紙を向けた
それは読書の部類に入るのか首を傾げるものだった。思わずクーがそれを見て、吹き出す
ドクオは首を捻り、ツンの取り出した本へと目をやった
('A`)「“わかりやすい365日の誕生花”……ねぇ」
鼻で笑った後、またディスプレイへと視線を戻した
ツンは「なによー」と頬を膨らませる
ξ゚听)ξ「で、ブーンの誕生日はー?」
ツンがぱらぱらとページを捲る中、クーが足を掴むように口にした
川 ゚ -゚)「しかし何でまたブーン?」
ぴたっ、とツンはページを捲る指を止め、徐々に赤面した
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:19:41.76 ID:5jziYpf10
- ξ////)ξ「と、特に意味なんか無いわよ……」
肩を縮め、ぎゅっと服を握り、ツンは動揺を隠す
だが嘘を見抜けるクーに、その行動は暖簾に腕押しであった
川 ゚ ー゚)「奴の誕生日が気になるのか?」
そう茶化すと、ツンは真っ赤な顔を向けて大声を出した
ξ////)ξ「はあ!? なんでアタシがあんな奴の誕生日なんかを……」
川 ゚ ー゚)「ふふっ、そうだな。わかったわかった」
('A`)「ああ」
ドクオは窓の外を見つめた
ちらほら残るソメイヨシノに見とれ、心を奪われた
('A`)「春、だな」
遠く、パトカーのサイレンが聞こえる
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:21:23.20 ID:5jziYpf10
- ('A`)「確か2月19日だ」
ξ゚听)ξ「えっと……2月19日の誕生花は……木蓮かあ。花言葉は恩恵……」
('A`)「恩恵? そりゃ面白い」
ξ゚听)ξ「なにが?」
('A`)「ブーンって名前、英語にしたら恩恵(boon)って意味なんだぜ」
ξ゚听)ξ「へぇー……」
直後、室内にドアのノック音が飛び込んだ
ブーンが帰ってきたか?と思考を巡らせたが
彼はノックをする礼儀を知る人物ではない
部屋の一同が顔を見合わせた。静寂の中、
ドクオがドアの前まで数歩行き尽くし、ドアを開く
('A`)「はい?」
( ・∀・)「あ、あの……ここ解決部ですよね?」
('A`)「はあ」
( ・∀・)「その……解決してほしいことが」
「依頼人!?」と勢いよく腰を上げたのは、ソファーに横たわっていたツンだった
「やっとか」と本を閉じたのは部屋の奥に腰を下ろしていたクーだった
「マジで?」と事態を疑ったのはドアを開けたドクオだった
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:22:49.69 ID:5jziYpf10
- ('A`)「どうぞ、おかけになってください」
平手をソファーに向けると、客人は一礼しぎこちなく腰を下ろした
(;・∀・)「し、失礼します」
先ほどまでツンが座っていた場所に客人は腰を下ろした
ドア側のソファーに座るドクオから見て、客人の背後に
ツンは机を挟んでクーと座っているのが見える
「これドイツ語? 記号じゃない?」と会話が聞こえた
('A`)「ツン、茶を入れてくれないか」
ξ゚听)ξ「面倒だから嫌よ」
そもそも彼女は茶の入れ方を知らないか、と腹の内で思う
ではと話の踵をクーに返すことにした
('A`)「じゃあクー、頼む」
川 ゚ -゚)「生憎、今良いところなんだ。今グルーシェニカが……」
('A`;)「………」
体の捻りを客人へと向き直し、コホンと咳払いをした後口を開く
('A`)「挨拶が遅れました」
('A`)「解決部副部長、ドクオです。今部長はいなくて」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:24:53.22 ID:5jziYpf10
- 客人は口を閉ざし、辺り一面を見渡す
視線を泳がせて、部員一人一人の顔を見る
(;・∀・)「はあ……あ、あの」
('A`)「何か」
ドクオは顔色一つ変えず答えると、客人は「その・・・」と言葉に詰まり、髪を掻いて訊いた
(;・∀・)「本当に未解決な事件を解いてくれるんですね」
ドクオは唸り、顎に手を当てた
そしてドクオも髪を掻き、質問に答える
('A`)「まあ、信用無いのは無理もありません」
( ・∀・)「?」
('A`)「事件の依頼が来たの、あなたが初めてですから」
(;・∀・)「………」
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:27:00.81 ID:5jziYpf10
- ドアノブを回す音の直ぐ後に乱暴な銃声のような開閉音が聞こえた
客人以外のその部屋の人々が、「ああ、これこそブーンの開け方だな」と同時に思う
客人はその無作法な音に、水を被った猫のごとく体をふるわせた
( ^ω^)ノ「ただいマリオネット」
片手を挙げて、意味不明な挨拶で会話を始めるその男
まさしくそれは、ブーンだった。県立VIP高等学校解決部部長の姿だ
('A`)「あれが部長です」
ドクオは適当に指差し、雑に紹介した。客人はブーンに一礼する
(;・∀・)「ど、どうも」
( ^ω^)「お? 入部希望者かお」
('A`)「いや、違う。仕事だ」
(* ^ω^)「依頼人かお!?」
ブーンは歓喜の声を上げ、跳ねるようにドクオの隣に座り込んだ
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:29:14.54 ID:5jziYpf10
- ( ^ω^)「で!? 何を依頼しに来たんだお!?」
少し間を空け、客人は目を逸らして言った
( ・∀・)「あの……実は信じてもらえないかもしれないんですが……」
('A`)「そんな奇想天外な依頼? むしろ歓迎します」
ドクオはそう言って頬を上げたが、客人の顔は未だ変わらない
( ・∀・)「本当に信じていただけますか?」
そう念を押すと、ツンが立ち上がった
ξ゚听)ξ「しつこいわね! 早く言いなさいよ!」
客人はうつ向いて口に手を当て咳払いをし、部員の顔を全て見渡し、おもむろに口を開いた
( ・∀・)「あの、2000万円を受け取って欲しいんです」
1話「2000万の行方」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:30:19.16 ID:5jziYpf10
- (;'A`)「……へ?」
客人は悟りを開いたかのように失笑し、頬を掻いた
( ・∀・)「信じられませんよね。2000万なんてお金」
( ^ω^)「冗談は顔だけにしろテメェ」
('A`#)「おまっ……ちょっと黙ってろ!」
川 ゚ -゚)「嘘じゃない」
クーがそう短く口にし、「どうやら本当だ」と続けた
客人は目を丸くして、クーを見つめる
ξ゚听)ξ「ああ、この子ね。嘘がわかるの」
ツンはそう説明したが、客人は信じられぬまま「はあ」と声を漏らした
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:31:38.79 ID:5jziYpf10
- (;・∀・)「……あの、信じてもらえるんですね?」
(;^ω^)「クーが言うってことは……本当に2000マソがあるのかお!!?」
クーはブーンの方へ顔を向け、縦に頷く。そして目の色を変え、客人に問い詰めた
川 ゚ -゚)「その2000万という大金、何処で手に入れた。まさか地道に働いて稼いだ金でもあるまい」
(;'A`)「まさか……強盗?」
ξ;゚听)ξ「ちょっ……やだ犯罪者!? この場でしょっぴいてやるわ!」
ツンがそう不器用に腕を構えると、
客人は両方の平手を向け「ち、違いますよ!」と弁解した
(;・∀・)「僕は何もしてません!!」
川 ゚ -゚)「じゃあどういうことだ? 包み隠さず全て話せ」
「隠しても、私にはわかるがな」と、彼女は続けて、微笑んだ
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:32:02.42 ID:5jziYpf10
- 客人は自らをモララと名乗った後、話を始めた
今から2週間前、朝の7時
モララは朝食を口に運びながら、テレビの画面を見ていた
――続いてのニュースは……大変な事件にも関わらず、未だに犯人は未逮捕です
そうニュースキャスターが口にし、「ほう」とモララが興味を示した瞬間画面はCMに変わった
モララは手の内に踊らされてる気分になり不快感を覚えたが、それは朝食と飲み込み
CMからまたニュースに戻るテレビ画面に意識を戻した
――昨日、VIP市ゆとりが丘町のひまわり銀行が数名の男により強盗に遇いました
男たちは現金2000万を強奪し、逃走しました
未だ犯人は逃走中の模様で警察はいま……
( ・∀・)「2000万かあ」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:34:16.23 ID:5jziYpf10
- 実際に、自分はそんな大金とは無縁だろうと思い、
モララは支度をし、ブレザーに腕を通し玄関に向かう
ドアを開き、春風に髪をなびかせ、いざ学校に行かんと足を進めたが、
( ・∀・)「ん?」
電柱に貼られた紙の文字に目を奪われた
白く不器用にガムテープで貼られたその紙には
黒く太いペンで目立つようにこう書かれていた
“非日常さしあげます”
文字の下に、11桁の文字がある。時刻を確認した
7時44分。モララの親指は、通話ボタンへと伸びていく
「はいもしもし」
( ・∀・)「非日常ください」
モララは嘲笑気味に頬を崩して言ったが、相手の声の波長は変わらない
「今すぐゆとりが丘3丁目にある“アパート・クオリティ”と看板のある廃墟に来い」
そう言い残し、通話を切られた
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:36:57.30 ID:5jziYpf10
- モララは困惑しつつも、そう遠くない、言われた住所に足を運んだ
非日常を貰う。なんとも魅力的な響きだろう、とモララは笑いを噛み締める
そして目的地に着いたモララは、誰もいない廃墟ひとり声をあげる
( ・∀・)「誰かー、誰かいませーん?」
薄暗い廃墟は歩けば歩くほど入り口は遠くなり、明るさが消えていく
ガラスや金属の破片が散らばり、使い古された花火のカスや
成人男性向けの雑誌、捨てられて間もないペットボトルが散乱している
誰かがここを使った形跡が、わざとかの如く残っていた
直後、モララは何かを蹴ってしまったことに気付く
初めは寝ている人間か、猫かと心臓を鳴らしたが、
モララはしゃがみこみ、目を凝らすとそれがバッグであることに気付く
バッグに手をかけチャックを開けた
( ・∀・)「この中に大金とか入ってねぇかなあ。2000万ぐらい」
大正解。中身は溢れんばかりの現金。2000万円だった
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:38:05.08 ID:5jziYpf10
- (;・∀・)「へぇ!!?」
間抜けな声をあげ、モララは札束を手にとった
透かしてみたり、匂いを嗅いでみたり、重さを確認してみたり
モララは初めて見る大金を思う存分体験した
そしてバッグから札束を取りだし、金額を数え始めた
(;・∀・)「……ほ、本当に2000万円ある……」
モララは溜め息を吐き、どうするべきかを考えた
2000万円という金額に覚えのあるモララは、察しがついた
これは十中八九、銀行強盗の金……犯罪者の金だ
警察に届けるか?いや犯人が捕まっていない今、2000万円を警察に届ければ明らかに怪しまれる
使うか?いやそれも怪しまれる。そもそも2000万なんて大金を隠す技量がモララには無かった
考えれば考えるほど、モララにとって普通の生活を送るにおいて
その大金は全く必要が無かった
だが、捨てる場所も無い。このまま大金を放置しようにも、このバッグと大金には指紋がべったりとついている
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:40:11.47 ID:5jziYpf10
- (;・∀・)「どうしよう……どうしよう……」
そしてモララは、バッグを自宅へもって帰り、一日学校を休んだ
布団を被り、事の重大さを深く実感する。2000万円の、重みだ
それから2日後、部活紹介が目的とされた職員室前の掲示板で
貼り紙を見つける。その貼り紙に書かれた名前が
('A`)「この解決部か」
ドクオは頭を掻き、答える
左手にはペンを握り、モララの証言を記録している
( ・∀・)「そうです」
ξ゚听)ξ「アンタ馬鹿じゃないの? そんなの大金は部屋に置いといて少しずつ使っていけば良いじゃない」
(;・∀・)「部屋に大金を置いといては普通の生活は送れないため精神的に限界が来るので……」
ξ゚听)ξ「ふーん、そんなもんなの?」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:43:29.36 ID:5jziYpf10
- クーは足を組み、客人を指差して話す
川 ゚ -゚)「つまり依頼は、2000万を自然な方法で使いきれと?」
( ・∀・)「はい、お願いします」
「はいはい!」と片手を挙げるブーンとドクオの姿がクーの視界の端に映った
大体何を言うか予想はできたが、短く「何だ」と返答した
( ^ω^)ノ「ブーンはトンファーが5000個欲しいお!!」
( 'A`)ノ「ドクオは新しいパソコンが欲しいお!!」
やはりな、とクーは吹き出した
ツンは二人の頭を掴み、そのまま手を交差させ二人の頭を互いに激突させた
ξ#゚听)ξ「アンタらはちょっと黙ってなさい!!!」
川 ゚ -゚)「2000万円を………わかった。任せろ」
( ・∀・)「お願いします。あの……報酬などは必要ですか?」
川 ゚ -゚)「必要無い。報酬を貰えば最早、部活の域を越えているからな」
( ・∀・)「はあ……」
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:45:27.60 ID:5jziYpf10
- ( ^ω^)「ツンは欲しいもの無いのかお?」
ξ゚听)ξ「え?」
('A`)「ツンが欲しいものは……知ってるぜぇ。俺」
ドクオはニヤニヤしながらブーンとツンの顔を交互に見た
ξ////)ξ「な、なによ……なにが言いたいのよ!?」
ツンはまた赤面し、うつむいた
ぎゅっと服を握り、ふとブーンの顔を見て、またうつむいた
('A`)「あらあら言っていいのかしら?」
( ^ω^)「お? なんだおなんだお?」
ブーンが無邪気にツンの顔を覗くと、ツンはそれを両手でよけた
ξ////)ξ「あっ、あんたは関係無いの!」
(;・∀・)「あの……大丈夫ですか」
川 ゚ -゚)「問題ない」
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:48:04.32 ID:5jziYpf10
- そしてモララと部員たち(主にクー)は、翌日2000万円をもらうことを約束した
「じゃあお願いします」とモララが部室を後にすると、初めに口を開いたのは
( ^ω^)「この件、引っ掛かるお」
ブーンだった
('A`)「引っ掛かる?」
川 ゚ -゚)「やっぱりブーンもか」
( ^ω^)「何もかも不自然すぎるお」
ξ゚听)ξ「ちょっと、何がよ?」
ソファーから立ち上がり、伸びをして腰を捻ってからブーンは言葉を続けた
( ^ω^)「銀行強盗の翌日にホイホイと2000万をもらうなんて、有り得ないお」
川 ゚ -゚)「ブーンの言う通りだ。明らかに怪しい」
('A`)「……確かに有り得ないな。だが、嘘じゃないんだろ?クー」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:49:21.65 ID:5jziYpf10
- 川 ゚ -゚)「ああ、どうやら嘘じゃない」
( ^ω^)「強盗の考えが常人離れしてるか、強盗が突然気持ち変わりしたかのどっちかだお」
川 ゚ -゚)「それだけじゃないだろ?」
クーがそう微笑むと、ブーンは頬を掻いて敵わないと言わんばかりに失笑した
(;^ω^)「流石クーだお」
ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと! どういうことか説明しなさいよ!」
川 ゚ -゚)「もしくは」
川 ゚ -゚)( ^ω^)「「強盗が金を使えない状態になった場合」」
そう声をそろえると、ツンは「そんなに深く考えてもどうせわかんないわよ」と水を差した
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:50:36.69 ID:5jziYpf10
- ('A`)「まあ、パターンは考えてもキリが無ぇさ」
ドクオはそう言って立ち上がり、冷蔵庫を開けた
冷たい空気が腕をなぞり、入る数々の飲料水が目に入る
ドクオはその中から麦茶を取り出した
('A`)「麦茶飲むやつはー?」
( ^ω^)ξ゚听)ξ川 ゚ -゚)「頼む(お)(わ)(かな)」
冷蔵庫の上に載ったコップを4つ手に取り、テーブルに置いた
部員が皆ソファーに集まり、コップに波打つ麦茶を口にする
ドクオはコップ片手に窓際に数歩行き着くし、窓の向こうを見つめあるものを見つける
('A`)「……“のろし”ってあんだろ」
ξ゚听)ξ「煙でなんか連絡とかするやつ?」
('A`)「それ漢字で書いたらどうなる?」
( ^ω^)「知らないお!」
(;'A`)「帰れ」
川 ゚ -゚)「こうか?」
クーは指を指揮棒のように踊らせ、宙に“烽”の字を書いた
('A`)「あー、それもある。“狼煙”とも書くんだ」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:53:12.65 ID:5jziYpf10
- ξ゚听)ξ「ふーん、狼の煙かあ。なんで?」
('A`)「昔、狼煙には煙のよく出る狼の糞を燃料にしたことから由来するんだ」
ブーンがすかさず、「ウン○ー!」と明るく言葉を発すると、ツンはブーンの背中の平手打ちした
ブーンは「ハアッオ゛」と鈍い声をあげ、撃沈する
ξ゚听)ξ「へぇー、そうなんだ」
川 ゚ -゚)「藪から棒に何だ?」
('A`)「いやな」
ドクオは窓の向こうに目をやった
('A`)「狼煙が上がってる」
目線の先には、住宅街の中もくもくと昇る煙の姿があった
平和な住宅街に、一つの煙がぷかぷかとパイプの煙のごとく
空高くたちこんでいた
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:53:55.85 ID:5jziYpf10
- ξ;゚听)ξ「ちょっ……火事じゃないの!!?」
(;^ω^)「大変だお!! 誰か消火に向かうんだお!!」
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「いや、あそこは多分」
( ^ω^)「消火に向かうお!!」
≡≡⊂ニ( ^ω^)⊃「ブーン!!」
ブーンは電光石火の如く駆け抜けた
床を蹴り、風よりもメロスよりも速く、速く駆け抜けたのだ
('A`)「ちょっ……ブーン待て!! ってか速……」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:54:56.53 ID:5jziYpf10
- ブーンの後を追おうとするドクオに、クーが言葉を発した
川 ゚ -゚)「ドクオ無駄だ! あいつの足の速さは89ブーン、お前の足の速さは
22ブーン!!お前の足では追い付くのは不可能だ!!」
Σ('A`;)「なにその単位!!?」
ξ;゚听)ξ「速く追いかけなくちゃブーンが加速の摩擦で焼け死んじゃう!!」
(;'A`)「そんなに速いのかよ!!?」
川 ゚ -゚)「良いことひらめいたぞ!!」
('A` )「おぉ!! 何だ!?」
川 ゚ -゚)「ほっとけば戻ってくるだろ」
('A`)ξ゚听)ξ「「そうだね」」
3人は再び麦茶を口に含んだ。平和な、平日の午後である
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:55:34.43 ID:5jziYpf10
- ブーンは煙の元にたどり着いたが、そこにある光景は想像とは異なるものだった
( ^ω^)「みんな泣いてるお?」
冷たい空気と、悲しみが交差するような場所
煙突から黒い煙が立ち上っていくのが見える
ここは、どうやら火葬場のようだ
( ´ω`)「火事じゃなかったお」
从'ー'从「あら、あなたは?」
( ^ω^)「お? ブーンは火事かと思って飛んできたんだお」
从;'ー'从「はい?」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:57:31.71 ID:5jziYpf10
- ………
从'ー'从「あははは! そっかあ、そういうことかあ」
( ^ω^)「火事じゃなくて安心したお」
从'ー'从「でもね、火事なんかよりも悲しいことはたくさんあるんだよ」
女性は煙を見上げて、「私のお爺ちゃんね、死んじゃったんだ」と遠い目で口にした
「おー……」と煙を見上げる。風に流されるがままに、煙は遠く消えていく
( ^ω^)「じゃああの煙はお姉さんのお爺ちゃんだったのかお?」
从'ー'从「そうよ」
( ^ω^)「……」
从'ー'从「どうかしたの?」
( ^ω^)「お姉さんのお爺ちゃんも、この綺麗な雲になるんだお」
快晴の空を見上げて、輝く目でそう口にした
从^ー^从「うん」
女性は、ブーンと一緒に空を見上げた
ゆっくり雲は滑り始め、日が射す方向へと消えていった
涼しげな春風が二人の頬を撫で、髪をなびかせる
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:59:15.48 ID:5jziYpf10
- 澄み切った空に釘を刺すような声が、耳に届く
川д川「だから遺産は長男のウチの夫のものでしょう!!」
<ヽ`∀´>「親父の面倒を見てきたのは俺だろ!!? 一番遺産を貰う資格があんのは俺じゃねぇか!!」
从'ー'从「まだ話しあってる……」
女性は一瞬声の方向に目をやり、肩を落とした
その表情は、どこか嘲笑してるようにも見える
( ^ω^)「ケンカかお?」
从'ー'从「そう、汚い醜い大人のケンカ」
女性は舌を出し、汚物を差すように眉間にしわを寄せて指差した
( ^ω^)「ケンカは、どっちかが謝れば終わるお!」
从'ー'从「そうなのよね」
女性は溜め息を吐き、また煙を見上げた
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 22:59:46.29 ID:5jziYpf10
- 从'ー'从「遺産が誰に行くかだなんて、どうでもいいのよそんなこと……
……大好きなお爺ちゃんの前で……そんな言い争いしてほしくない」
( ^ω^)「……お爺ちゃん、泣いてるお」
从'ー'从「君もそう思う?」
( ^ω^)「良い天気にケンカするのバカだお」
从'ー'从「そうだよね」
女性は火葬場に目をやり、目を細めて口に開いた
从'ー'从「ほんと、バカだよね」
川д川「ちょっと! あんたが今現金持ってるんだから話に参加しなさいよ!!
」
从'ー'从「わかりました! ……ねぇ、君高校生?」
( ^ω^)「そうだお」
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:00:03.04 ID:5jziYpf10
- 从'ー'从「そっか」
( ^ω^)「?」
从'ー'从「もしも、もしも君だったらお爺ちゃんの遺産、どうする?」
( ^ω^)「うーん……」
( ^ω^)「とりあえずアイツらには渡さないお!!」
ブーンはそう言って、汚い醜い大人たちを指差した
从'ー'从「そっか」
女性は目をつむり、ゆっくりと火葬場の方へ歩き出した
( ^ω^)「……部室に戻るお」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:00:48.09 ID:5jziYpf10
- 川 ゚ -゚)「やっぱり火葬場だったか」
クーはそう口にし、麦茶をコップに注いだ
( ^ω^)「しかも誰か死んじゃったみたいだお」
('A`)「マジか。そりゃ悲しいな……」
ξ゚听)ξ「まあ火事じゃないにしても、めでたいことじゃないわね……」
少しの沈黙が部室に流れる
沈黙を引き裂いたのはクーだった
川 ゚ -゚)「さて、話を本題に戻そうか」
('A`)「ああ」
ξ゚听)ξ「まあ明日2000万来てからでも遅くはないんじゃない?」
( ^ω^)「ってか犯罪者のお金を使ったらブーンたちも犯罪者かお?」
川 ゚ -゚)「そうだな」
Σ('A`;)「はあ!? じゃあPC買えねぇじゃんかよ!」
川 ゚ -゚)「必要無い」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:01:09.55 ID:5jziYpf10
- その日、生徒下校の時刻となったためブーンたちは帰宅し、話題は翌日へと繰越
した
そして翌日の放課後、最初に部室に来たのはドクオだったが
( ・∀・)「……あ、どうも……」
ソファーに腰を下ろしていたのは、バッグを持ったモララの姿だった
('A`)「それが2000万?」
( ・∀・)「そうです」
( ・∀・)「じゃあ……確かに渡しましたので」
モララはそそくさと部屋を後にする
ドクオはそれを目で追い、鼻で溜め息を吐く
('A`)「……なんだあいつ?」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:01:32.95 ID:5jziYpf10
- ドクオはバッグの中身を確認する
(;'A`)「ほ、本当に金じゃねぇか……」
思わずドクオはソファーに腰を下ろした
そしてモララがしたことと同じことをし、部員たちが全員揃うのを待った
その後間もなく、部員の顔ぶれは揃った
ξ;゚听)ξ「ほ、本当に大金ね……」
(;'A`)「だろ……?」
川;゚ -゚)「は、話には聞いていたが……」
(;^ω^)「いざ目の前にあるとなると……なんか緊張するお……」
目の前の溢れんばかりの札束、ブーンたちはじっとそれを見つめた
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:01:59.88 ID:5jziYpf10
- (;'A`)「……強盗の気持ちはわからんでもないかもな」
ξ;゚听)ξ「確かに……こんなものあったら使う気にはならないわ」
川;゚ -゚)「強盗する度胸がありながら大金を手にする度胸が無いのか
(;^ω^)「2000万円って言ったら何が出来るお?」
そのブーンの一言が、話題の軸をずらした
ξ゚听)ξ「家買うとか?」
川 ゚ -゚)「一括払いでか? 怪しまれる」
('A`)「世界一周」
川 ゚ -゚)「世界中の言葉が話せるわけでもない」
( ^ω^)「うまい棒2000万本」
川 ゚ -゚)「生産が間に合わない。しかも1本1円計算?」
ξ;゚听)ξ「意外と2000万って使えないわね……」
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:02:29.39 ID:5jziYpf10
- お手上げだ、と言わんばかりにドクオが手を上げ、「この話は一旦保留にしようぜ」と口にした
一同はそれに同意し、ツンがバッグのチャックを閉めて部屋の隅へ置く
川 ゚ -゚)「そういえば昔、2千円札ってあったな」
('A`)「ああ、あったあった。最近見ないけどな」
ξ゚听)ξ「あれ必要無いんじゃないのぉ? 結局すぐ消えちゃったじゃない」
川 ゚ -゚)「2千円札はこれまでになかった偽造防止技術が多種採用されたお札なんだ
深凹版印刷、ユーリオン、パールインク・・・他にもある」
ξ゚听)ξ「へぇー、知らなかったわ」
( ^ω^)「でも結局すぐ消えちゃったお」
川;゚ -゚)「まぁ・・・そうだな」
クーは頬を掻き、札束の入るバッグを見つめて「どうしたもんかな」と口にした
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:03:15.01 ID:5jziYpf10
- ('A`)「なんかもう考えてもキリ無いから本でも読むわ」
ξ゚听)ξ「じゃあそれ音読してね! 私たちも楽しめるように」
('A`)「なんでだよ」
ドクオはカバンから、一冊の文庫本を取り出した
本は茶色くページを変色させ、古くからある本に見える
川 ゚ -゚)「それは?」
ドクオは文庫本の表紙を見せ、読み上げた
('A`)「ドグラマグラ。夢野久作だ。知らないか?」
ξ゚听)ξ「変な表紙。どんなお話? ほのぼのとしたラブストーリーとか?」
('A`)「狂人奇人のバーゲンセールだ」
ドクオが口を吊り上げ、そう言うツンは「なんじゃそりゃー」とわざとらしく両手を上げた
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:03:43.80 ID:5jziYpf10
- ( ^ω^)「狂人、奇人・・・」
ブーンは思わず口にした。蚊も聞き取れないような小声であったが、クーはそれを聞き逃さなかった
川 ゚ -゚)「どうしたブーン」
( ^ω^)「強盗たちは狂人だったから2000万円を手放したのかもしれないお」
部室に光が差し込んだような空気が漂う。「ああ、そうかもしれない」と部員たちは首を縦にゆっくり振った
ξ゚听)ξ「確かに普通の精神じゃわざわざ強盗したお金を手放したりはしないわね」
('A`)「まさにドグラマグラ。”面食らう”だな」
ドクオは数枚ページを捲り、ある文章を音読した
ドグラマグラを読む上での、はじまりとなる文章だ
('A`)「胎児よ、胎児よ、何故躍る。母親の心がわかって、おそろしいのか」
川 ゚ -゚)「私には、大金を手放す強盗の肝っ玉のほうがおそろしいがな」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:04:05.92 ID:5jziYpf10
- ふと部員たちが窓の外を見上げると、曇り空がたちこんでいた
モノクロで染まった街や、ビルとビルの狭間を叩き落すような雨が、ぽつりぽつりと降り始めた
アスファルトが水滴を吸い取り、ノスタルジアを風味させる空気が現れ始めた
川 ゚ -゚)「・・・っと、降り始めてきたな」
ξ;゚听)ξ「やっば! 今日アタシ傘持って来てない!」
('A`)「予報によると、今日は一晩中降るらしい。小降りのうちに帰ったほうが良いんじゃねぇか?」
ξ;゚听)ξ「そうね、今日は帰ろうかしら・・・」
川 ゚ -゚)「じゃあツン、一緒に帰るか」
( ^ω^)「じゃあブーンも帰るお! 華麗に!」
('A`)「普通に帰れ。じゃあ・・・俺も帰るかな」
現金のバッグをどうするか、という話になったがブーンの「まぁ、おいといても大丈夫だお」との意見に全員賛成し、部室に放置することにした
部員がぱらばらと部室を後にし、鍵を閉め、雨のため薄暗い蛍光灯の光る廊下に足を進め、玄関で靴を履き替え外へ出た
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:04:35.43 ID:5jziYpf10
- ('A`)「まぁ、こんぐらいの雨なら走って帰れるだろ」
川 ゚ -゚)「ツンは私の傘に入れて帰るよ。じゃあまた明日」
('A`)「おう、また明日な」
( ^ω^)「バイバイだお!」
ξ゚听)ξ「じゃあねー!」
手を振り、それぞれの帰路に足を進めた
途中の十字路でブーンとドクオは別れて、ブーンはそのままの足でコンビニに向かった
( ^ω^)「綺麗なお花と、美味しい果物くださいお」
ブーンはビニール袋片手に、もう片方には傘を握りある場所へ向かった
ある場所にはあの人が立ち尽くしていた
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:05:00.54 ID:5jziYpf10
- 从'ー'从「あれ?ボクは昨日の?」
火葬場の、女性がいる
彼女は小柄な体には相応しくない大きい傘をくるくると回し、煙突を見つめていた
( ^ω^)「あ! お姉さん丁度いいお!」
从'ー'从「?」
ブーンはビニール袋を手渡した
( ^ω^)「死んだ人には渡すってドクオ言ってたお!」
( ^ω^)「オソナエモノだお!」
从'ー'从「おじいちゃんに? ありがとう」
( ^ω^)「礼には及ばないお!」
ブーンは微笑み、女性と一緒に煙突を見上げた
避雷針のようにそびえる煙突は曇り空を突き刺すように立ち尽くし
堂々たる裸婦のような貫禄を見せ付けた
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:05:42.63 ID:5jziYpf10
- 从'ー'从「……泣いてるね」
( ^ω^)「……泣いてるお」
从'ー'从「私、曇り空の煙突って好きだな。グレーの空にそびえて、黙々と煙を吐く煙突の姿、かっこよくない?」
( ^ω^)「わからなくもないお」
从'ー'从「でも今日の天気は嫌いだなぁ」
( ^ω^)「なんか、やっぱり泣いてるお」
从'ー'从「やっぱりわかる?」
( ^ω^)「雨は普通良い匂いするのに、今日はしないお。だからきっと悲しいんだお」
从'ー'从「あの後ね、お爺ちゃんの遺書が見つかったんだ」
( ^ω^)「イッショ? お爺ちゃんと一緒なのかお?」
从'ー'从「違う違うw」
女性は吹きだした。ブーンは何が可笑しいのかわからず、首を傾げる
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:08:33.12 ID:5jziYpf10
- 从'ー'从「遺書だよ遺書。お爺ちゃんからの手紙」
( ^ω^)「何て書いてあったんだお?」
从'ー'从「”遺産はみな、ミチコに渡す”って」
( ^ω^)「ミチコって?」
女性は自らの胸を指差し、苦笑した
从'ー'从「それでね、またケンカが始まったの。『法的に認められない』だとか、『これはミチコの作ったニセモノだ』だとか」
( ^ω^)「……」
从'ー'从「私・・・お金なんていらないのに・・・」
( ^ω^)「……」
从'ー'从「オソナエモノ、本当にありがとうね」
なんか、やっぱり笑ってる気がしてきたと、女性は空を見上げた。傘を放り投げ、雲の流れる方向を見つめた
煙は住宅街やビルを越え、モノクロの世界を超えていく
雨音が途切れ始め、雲が分離し始めた
雨が、徐々に止み始めた
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:11:14.12 ID:5jziYpf10
- 翌朝、昨日の雨は嘘かのような晴天だった
いつもの時間になるとドクオがインターフォンを鳴らし、
「あと1分で来なかったらおいてくぞ」と玄関で口にした
3分後に玄関に出ると、ドクオは「遅ぇ! 早く行くぞ」と自転車に跨った
登校中、ペダルを漕ぐ中ドクオの顔は徐々に青ざめ、口に手を当ててつぶやいた
('A`)「やばい」
( ^ω^)「どうしたんだお?」
('A`)「今日、数学ノート提出?」
( ^ω^)「そうだお」
('A`)「何時間目?」
( ^ω^)「1時間目だお」
ドクオは肩を落とし、がむしゃらに首を降って「課題やってねぇ、もうだめだぁオワタァ」とハンドルから手を離し、頭を抱えた
ブーンはそれを見て「ブーンも課題やってないから大丈夫だお」と低レベルな慰めを行ったが、これといって効果は見受けられなかった
直後、二人の自転車の狭間にもう一つ自転車の影が入り込む
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:13:05.01 ID:5jziYpf10
- \(^o^)/「その程度でオワタなど片腹痛い!」
同じクラスのオワタが、ハンドルから手を離し両手を上げ姿を現した
その神々しい姿は、阿弥陀如来か、金剛力士像を思わせる
\(^o^)/「ボクなど分数の足し算がわからない! オワタ!」
('A`)「リアルだな何か」
\(^o^)/「しかもまだ教科書注文してないから全くわからない! ノートも買ってない! オワタ!」
( ^ω^)「買えお」
\(^o^)/「だからドクオ君! その程度でオワタなど片腹痛いのさ! ハッハッハ・・・・」
オワタはそのまま二人を追い抜き、ものすごいスピードで学校へ向かった
周囲の女子高生はオワタに後ろ指を差し、笑っている。時々、引かれている
('A`)「アイツは、本物のアホなんだな」
( ^ω^)「でもいいヤツだお」
二人は学校へと、車輪を進めた
ちなみにその日、オワタは反省文5枚を強いられた
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:14:13.12 ID:5jziYpf10
- その日の部活は職員会議の関係で放課後の校舎使用不可となったため完全下校となった
さてどうするかとドクオとブーンは考えたが、二人で美味いラーメン屋へと足を運ぶことにした
( ^ω^)「みそラーメン! メンマ多め!」
(;'A`)「ちょwww俺まだ決まってねぇよ!」
( ^ω^)「この人も同じもので!」
(;'A`)「勝手に決めんなwwww」
品書きに目を通し、「うん、これだ」とドクオはあるものを指差す
そして、すみませーんとドクオが店主を呼びかけたとき、ブーンの手刀はドクオの脇腹を直撃した
( ^ω^)「待った! 何にするんだお!?」
('A`)「何って、チャーハンと餃子」
( ^ω^)「なんでラーメン屋なのにチャーハンと餃子食うんだお!?」
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:15:06.26 ID:5jziYpf10
- ('A`)「食べたいからだろ常識的に考えて」
( ^ω^)「ラーメンを食うんだお! ここどこだと思ってんだお! アホか!」
(;'A`)「・・・わかったよ。じゃあつけ麺下s」
( ^ω^)「つけ麺だと!? 冗談は顔だけにしろボケがァ!!!」
(#'A`)「うっせぇ!!! 好きなもん食わせろ!」
結局、ドクオはチャーハンと餃子を注文した
スープに漬かる麺を箸で突付き、ブーンはふと店内のテレビ画面を見つめる
――未だ銀行強盗は捕まらず、逃走中の模様。盗まれた現金は現在犯人が持っていると見込んで捜査を・・・
ブーンはふと、その2千万は今自分らの手元にあるということを思い出し、事の重大さを見に沁みて感じた
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:18:20.65 ID:5jziYpf10
- ( ^ω^)「・・・・・あのお金、どうするお?」
('A`)「そうだなぁ。とりあえず部員で分配して使うのがベストだろ?」
ドクオは微笑んで箸を躍らせた
( ^ω^)「でも、犯罪者のお金だお」
('A`)「・・・まぁな」
( ^ω^)「使うべきでもないし、捨てるべきでもないと思うんだお・・・・」
('A`)「・・・・・・・」
餃子とチャーハンが食卓に置かれると、ドクオは躍らせていた箸で餃子を掴んだ
('A`)「一番なのは、持ち主に返すことなんだけどな」
間もなく、メンマが多めな味噌ラーメンが置かれた
(;^ω^)「あれ? じゃあこのみそラーメンは?」
今ブーンが箸で突付いてるラーメンに目をやった
(;'A`)「ちょwwwそれ隣の客のだって!」
隣の客は、宇宙人を見るかのような目でブーンを見ていた
( ゚д゚ )
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:19:12.86 ID:5jziYpf10
- 翌日の部室は、2000万円のことなどすっかり忘れたかのような空気が流れていた
キーボードを指で叩き続けるドクオ、クーの読む本に興味の絶えないツン、それを受け流すクー
そして突如、ブーンは立ち上がった
('A`)「どうした?」
川 ゚ -゚)「ブーン?」
( ^ω^)「・・・わかったお」
一同が顔を見合わせ、首を傾げた
ブーンはドクオに「バッグを屋上に持ってってだお!」と口にし、ある場所に向かう
从'ー'从「あら、また会ったわね」
女性はやはり、また火葬場で煙を見ていた
( ^ω^)「お姉さん、ちょっと来て欲しいお!」
从;'ー'从「え? え?」
ブーンは女性の手を引っ張り、ある場所に連れていった
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:19:58.64 ID:5jziYpf10
- 屋上で、南に吹く風が頬を撫でた
( ^ω^)「着いたお!」
从;'ー'从「ハア……ハア……どうしたの?」
('A`;)「ブーン、その人は誰だ?」
屋上の空の下には、解決部部員と女性がいた
ブーンは数歩歩き、金網に手をかけ雲を見つめる
( ^ω^)「強盗は……お金なんてあげてないお」
('A`)「はい?」
川 ゚ -゚)「……」
ξ゚听)ξ「どういうこと?」
从'ー'从「……」
( ^ω^)「あのモララに2000万円を渡したのは、このお姉さんだお」
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:20:57.52 ID:5jziYpf10
- (;'A`)「は? どういうことだ?」
川 ゚ -゚)「……」
( ^ω^)「お姉さんは、あの時ブーンに聞いたお
“君ならお爺ちゃんの遺産どうする”って」
从'ー'从「……聞いたね」
( ^ω^)「だからブーンは答えたお。“あいつらには渡さない”って」
从'ー'从「……」
( ^ω^)「お姉さんは、その通りにしたんだお」
从'ー'从「………そうだよ」
( ^ω^)「どうしてもお爺ちゃんの遺産が渡したくないお姉さんは、電柱に
いかにも興味をそそる貼り紙を貼ったんだお
そしてモララに2000万を渡した
だけどモララは強盗の事件のニュースを見たからそれを強盗のものだと思ったんだお」
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:21:20.22 ID:5jziYpf10
- 从'ー'从「……なんでわかったの?」
( ^ω^)「あのケンカしていた人は、お金を持ってるのはあなただと言った
からだお」
从'ー'从「……そっか。そのお金、いま君の手元にあるんだね」
( ^ω^)「……」
从'ー'从「たぶん、お爺ちゃんが導いた結果が君だったんだろうね」
( ^ω^)「……」
从'ー'从「そのお金は、あげるよ。好きに使って良い」
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:22:42.87 ID:5jziYpf10
- ('A`)「……良いのか? よくわからんが、大事なお金なんだろ?」
从'ー'从「良いのよ」
女性は空を見上げて、目で雲を追った
風に髪をなびかせ、遠い目で空の青を見つめる
从'ー'从「お爺ちゃんも君らに会ってたら、そうしたんじゃないかな」
ξ゚听)ξ「……」
从'ー'从「私ね、両親がいなかったから小さいときからお婆ちゃんとお爺ちゃん
に育てられたの
お婆ちゃんは4歳のときに他界して……お爺ちゃんが私を育ててくれた」
从'ー'从「だから、お爺ちゃんのお金をめぐってケンカなんかしてほしくなかったの」
( ^ω^)「……」
ブーンは、バッグを持ち上げた
バッグを持ち上げて、風に札束が舞うようにお金を遠くへ投げた
(;'A`)「なっ・・・・・・!!?」
ξ;゚听)ξ「ちょっとブーン!!?」
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:23:49.86 ID:5jziYpf10
- ( ^ω^)「これは、お爺ちゃんのお金だお」
( ^ω^)「だから、雲になったお爺ちゃんに返すんだお」
( ^ω^)「それが一番良いと思うお」
从^ー^从「……うん」
強くありながら爽やかな風が、南に吹いた
雲はゆっくり滑り始め、札束は桜の花びらのように舞っていく
ξ゚听)ξ「そう言えば、銀行強盗は捕まったのかしら?」
( ^ω^)「さあ? わかんないお」
川 ゚ -゚)「きっと今もどこかで逃げてるさ」
雲は空を滑り、流れていく。街の雑踏や喧騒よりも、遥かに高い場所に、雲はあった
札束はまだソメイヨシノのごとく。桜の花びらのように、風に舞っている
('A`)「ああ」
ドクオはそれに見とれ、心を奪われた
('A`)「春、だな」
遠く、パトカーのサイレンが聞こえた
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/23(金) 23:24:55.35 ID:5jziYpf10
-
1話「2000万の行方」 完