( ,,゚Д゚)ギコの大地は乾かないようです 5

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:22:43.67 ID:3DlK2wE70




(;゚∀゚)「え、ちょっと待って。なんでゆでたまご作るのに卵割ろうとしてんの?」

ジョルジュの声にハッとしたように、ペニサスは手の動きを止めた。
ペニサスの手には卵が握られており、その真下には黄色いボウルが用意されていた。
ご丁寧にも、卵の殻を入れる生ゴミ入れまで用意されている。

( ゚∀゚)「君は今、サラダを作ろうとしてるんだよねぇ?
     そしてそのために卵をゆでようとしているんだよねぇ?
     なのに、なんでお湯の中に黄身をぶちこもうとしてるわけ?」

('、`*川「うるさいうるさい黙れ黙れ」

からかうようにそう言うジョルジュの声を、卵を持っていない方の手で振り払いながら、
ペニサスは卵をそのままお湯の中へぶちこんだ。

小さく聞こえてくるペニサスの抵抗が、小屋から脱走しようとして暴れるハムスターのように虚しい。

ξ゚听)ξ「ペニサスって、そんなに料理できないわけ……女のクセにどうすんのよ、これから」

開かれた窓から吹き込む風に前髪を躍らせながら、ツンが足を組む。
なんだか場違いセレブといった感じだ。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:26:49.70 ID:3DlK2wE70

('、`*川「ツン! 傍観してないで手伝ってよ!
     あんただって女じゃん、っていうかそういう考え方はいけないんだからね!」

ミ,,゚Д゚彡「あんただって女じゃん、って自分で言っておきながらその発言はないよな」

( ,,゚Д゚)「……頼むから黙っていてくれ、フサギコ。
     それがペニサスに聞こえたら、俺にとばっちりが飛んでくる」

('、`*川「そこ、なんかいった?」

そう言いながら、ペニサスはトマトを睨みつける。
トマトを包丁で切るのは非常に難しい。トマトが潰れる可能性が高いからだ。

お願いだ、潰れたトマトなんて食べたくない。
ここはしっかりとした角度で包丁をトマトに入れて……潰れた。

ミセ*゚ー゚)リ「ペニサスちゃん、貸して」

今まで、サンドウィッチを作っていたミセリが、見かねたようにペニサスから包丁を受け取った。
ミセリは、ペニサスにより酷く不細工になったトマトを器用に切り分け、
きゅうりを機械仕掛けのような正確さと速さで輪切りにした。

手首しか動いていない、といった感じだ。
手首どころか周りの人間が動いてしまうペニサスとは、天と地の差である。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:29:05.24 ID:3DlK2wE70

家庭科室の朝は、毎日かなり騒がしい。
ここで迎える朝ご飯も四回目となった今日でも、スムーズに料理は進まない。
少量で済む朝ご飯だけでもこうなのだ。夕飯などはちょっとしたイベントと化す。

食料は保健室の冷蔵庫で保存されている。
しかし、やはり学校の備品ということで、家の冷蔵庫よりかなり小さいため、かなりこまめに買出しに行かなくてはならない。

毎週火曜日に安売りをする近くのスーパーに、週一回出向かなければならなくなった。
夏なので飲み物も結構必要となり、帰り道はかなりの重労働だ。

食事以外にも、生活するうえでクリアしなければならない課題は幾つもあった。

問題は服の洗濯だ。
二日目の夜話合った結果、風呂(学校の近くの銭湯)の帰りに、外にある水道場で服を洗い、それを出来るだけ絞って保健室へ持ちかえり、
夜中は室内に干す、ということになった。

寝ている時、自分の頭上に他人の服がぶらぶらしていると思うとなんだかやりきれないが、この生活だからしかたがない。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:33:43.58 ID:3DlK2wE70

( ,,゚Д゚)「おーい、これどうやんの?」

ミ,,゚Д゚彡「おわっ! おめー俺のシャツ踏んでるって!」

( ,,゚Д゚)「あ、悪い」

今までとは違って、何事も自分でこなしていかなければならない。
少なくとも、ギコにとっては酷く新鮮なことだった。

( ゚∀゚)「おら、遊んでねーで洗い物手伝えって」

しかしやはり、いつも自分で家事をしているジョルジュの動きは誰よりも手早かった。
料理も出来れば洗い物も素早い。手洗い洗濯のコツまで教えてくれる始末だ。

なんということだろう。完全にペニサスやツンよりも家庭的である。



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:43:17.47 ID:3DlK2wE70

サンドウィッチとサラダ、牛乳とヨーグルトというおなじみの朝食を摂り終えると、皆で洗い物や片づけをする。

ミセ*゚ー゚)リ「あー、おいしかった」

('、`*川「満足満足、と」

( ゚∀゚)「んじゃ、片付け開始ー」

ギコは、この後片付けをしている風景を妙に気に入っていた。
窓からは朝陽が差しこんでおり、いつもは気にならない窓の汚れが目立つほどだ。

心地よい水道の音と蒸し暑い家庭科室で、忙しく動き回る六人。
なんだか合宿みたいじゃないか。

少しだけ、部活のことを思い出すのは、ギコだけだろうか。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:46:22.33 ID:3DlK2wE70



雑音と雑音の間から聞こえてくるようなラジオDJの声が、鼓膜のところどころを揺らす。
ラジオのスピーカーを蝕み、その隙間から零れてくるようなラジオの声が、ペニサスは好きだった。

なんだか、蝉の声にも似ているような気がする。
うるさいほどに聞こえてくる蝉の声とラジオのノイズが混ざり、なんともいえないしゃがれた声が曲の紹介をしている。

もちろん、歌声もしゃがれた蝉の声だ。

ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと音量あげてくれる?」
( ゚∀゚)「いいよ……えっと、こんくらい?」
ミセ*゚ー゚)リ「ちょっとでかすぎるわよ」
( ゚∀゚)「……ごめん」

ミセリとジョルジュの会話を聞いていると、完全に主従関係が成り立っているように感じる。
まるで女王様と家来のように……もしかしてふたりとも、そっちのケがあるのかな。

('、`*川(……はっ!)

ペニサスは、ふと深く考えてしまいそうになった頭を揺らし、視線を問題集に戻す。集中集中!



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:50:17.83 ID:3DlK2wE70

朝食が終わると、六人はそれぞれが持ってきたワークや問題集で、受験勉強に精を出した。
家にいると全く捗らなかった勉強も、なぜだかここでやれば苦に感じなかった。
ミセリが、新聞もない生活では辛いと言って持ってきたラジオを片隅でかけながら、六人はそれぞれの学習を進める。

特にギコには、ジョルジュやツンなどが問題集片手に寄ってくる。

ξ゚听)ξミ,,゚Д゚彡「ねえねえ、ここの意味がわかんないんだけど……」

( ,,゚Д゚)「ああ、ここは……」

かりかりかり、と紙面を削り取るような音が、様々な方向から聞こえてくる。
まるで、シャープペンシルの芯の先が、四角く削り取られた氷の塊を巧みに彫っていき、器用にある形を浮き彫りにしていくようだ。

('、`*川「うーんと、ここはこうなって……ん」

ペニサスは、数学の文章題が好きだった。
四行以上の問題文を見ると拒否反応が出るのだが、問題文を読みながら、図を頭で描き、
計算式が見事に成り立った時のあの快感は何にも変えられないと思う。

ノンストップで二ページほどをやりきり、心地よい疲労感と共に伸びをするのが最高に気持ちいいのだ。

あれは疲労感というのだろうか。
何時間もかけてジクソーパズルを全て埋めたときのような、何度も何度も練習したピアノソナタを弾ききったときのような、脱力感にも似た疲労感。

からだの中にある内臓が全てすっぽりなくなってしまったような、妙にすっきりとした感触。

それは、この生活の初日、家から抜け出した時に感じたものと酷似していた。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:52:09.10 ID:3DlK2wE70

なんで今まで、あんな勉強漬けの生活が耐えられたのだろうか。
今になってペニサスは思う。

勉強することが苦しくて仕方が無かった日々。
真夜中にひとりで歩いた黒い道。

きっと私はどこがで、父の求める娘像を必死に追っていたのかもしれない。
完成させなきゃ、お父さんの「娘」を。上手に演じなきゃ、「ペニサス」を。

必死に必死に、道の先に立っている自分自身を、止まらずに走って、いくら息切れしても休むことなく追い続けていたのだろう。
だから、走る事をやめた今、勉強する事が苦じゃないんだ。上手に呼吸する方法を、覚えた気がする。

ξ゚听)ξ「ねえ、花火がしたい」

('、`*川「え?」

突然だった。
ツンが問題集から顔をあげて、ふと思いついたようにそう言ったのは。

その声は、氷を削るようなシャープペンシルの音と、陽炎の揺らぎに拍車をかけているような蝉の声にもみ消されそうになったが、
五人は少なからず言葉を受けとめたようだ。

並々ならぬ集中力を発揮しているギコは、手の動きを止めさえもしなかったが。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:55:25.56 ID:3DlK2wE70

ξ゚听)ξ「ねえ、花火しようよ。花火。夏といえば、花火じゃん?
     しかも今あたしらは自由の身なんだしさ、いつだって花火とか出来るわけ。
     屋上っていういい場所があるし、夜中にやれば絶対にばれないよ!」

( ,,゚Д゚)「……」

ギコの止まらない手の動きが、出来るだけ姿を現すような言動を起こさないってのがこの生活の暗黙の了解だ、と息継ぎ無しで言っている。
ラジオからは、夏花火という曲が聞こえてくる。

なるほど、ツンはこれを聞いて花火をしたいと思ったのか。

ミ,,゚Д゚彡「でもさぁ、ただでさえ姿隠してる身だってのに、屋上で花火とか目立つ事極まりねぇじゃん?
      やっぱそれって危なくね? バレたらもう終わりなわけだしさ」

フサギコが、ギコの手の動きを代弁するかのように言う。
隣でギコが、問題集から視線を外さずに頷いている。

('、`*川(確かに二人の言いたい事がわかるけど……)

ペニサスは心の中で思っていた。
やっぱり少しくらい、そういうイベント的なものがほしいな。
……ってもうこの生活自体がイベントのようなものだけど。

ξ゚听)ξ「でも……やりたいじゃん」

ツンの小さな抵抗を最後にして、この話は終わったかのように見えた。


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:57:45.05 ID:3DlK2wE70

ミセ*゚ー゚)リ「ねえ、私も花火がしたい」

ミセリの絞り出すような声が聞こえてきた。

ミセリの声は、周りの景色に同化してしまいそうな程に、自然に時の流れに乗っかるようにして聞こえる時もあれば、
今みたいに必死に必死に出口を探して、そこからやっと音を絞り出したように聞こえる時もある。
感情がそのまま声として表れるのだろう。

( ,,゚Д゚)「まだ言ってるのか。俺達は――」

ミセ*゚ー゚)リ「お願い。私、一度でいいから友達と一緒に花火ってのをしてみたかったの」

説得するように喋り出したギコの声を遮るようにして、ミセリは言った。
ミセリの声からは、ただならぬ焦りのようなものを感じた。

ミセ*゚ー゚)リ「私今までこういう友達みたいなの居なかったし……。
      花火どころか、映画とかただ街へ出かけることもしたことなかったんだ。
      親もそんなこと許してくれなかったから。だから、お願い。今年の夏が、最後のチャンスかもしれないの」

ミセリは、問題集から顔をあげていなかった。
俯いたままで、まるで自分自身に語りかけているようにそう言った。
淡々と、抑揚のない声だったが、そこにはミセリの感情が凝縮されているような気がした。

「最後のチャンス」。

ペニサスの頭の中には、この言葉がオーロラのようにゆらゆらと漂っていた。
しっかりと意味を確認することもないまま、ゆらゆらと。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 18:59:45.78 ID:3DlK2wE70

( ゚∀゚)「しよーぜ、花火」

今まで発言のなかったジョルジュが、ふ、と顔をあげてそう言った。

( ゚∀゚)「いいじゃん。花火しよーぜ。夜中にやれば誰も気付かないし。ま、打ち上げ花火はやめといたほうがいいだろうけどな。
     みんなで円になってさ、線香花火とかしてーじゃん。な?」

ジョルジュはそう言うと、ミセリに首を傾けた。
そして、「うん」とはにかむようにして頷くミセリをみて、満足そうに微笑んだ。
今まで見た事の無い、ジョルジュのやさしい笑みだった。

ξ゚听)ξ「おっ、たまにはあんたもイイコト言うじゃんっ!」

そう言いながら、ジョルジュの背中をばしばし叩くツンとちらりと目を合わせ、
ペニサスは最後の駄目押しに出た。

('、`*川「ね、ギコ君。私もみんなと花火したいな。ジョルジュ君のいうとおり、夜中に学校の屋上見てる人なんていないよ。
     マッチなら理科室にあるし、バケツだって水道にあるよ。写真とか撮ってさ、五年後とかにみんなでそれ見て笑い合いたくない?」

ね? とペニサスが上目づかいでギコを見つめる。
ギコはやっと、問題集から視線を外してくれた。
ペニサスとばっちり目が合うと、恥ずかしかったのかすぐに反らし、

( ,,゚Д゚)「あぁわかったわかった!」

そう、慌てたように吐き捨てた。




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