( ,,゚Д゚)ギコの大地は乾かないようです 2
- 28 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 16:51:48.10 ID:6xkC8B890
-
2
ギコが住む市は、2チャン県にあるVIPという市で、近辺では比較的「都会」に属している。
といっても、ある一点から離れてしまえばそこは閑散としているし、商店街だってすでに閉まっている店が多い。
生徒はいつも放課後、「都会」に寄ってから家路につく。
駅の周辺に広がる「都会」には、学校帰りの生徒に嬉しい店が並んでいるのだ。
しかし、そんな状況を学校が放っておくわけが無い。
先生達は、毎日「都会」の見回りをしていた。相当暇なのだろうか。
六時以降にも「都会」を徘徊している生徒を見ると、さっさと生徒を帰らせることが目的な筈なのに、
学校に逆戻りさせ、学年指導が始まる。
だから、「都会」は魅惑と同時に危険とも隣り合わせなのだ。
ミ,,゚Д゚彡「やっべぇ、クックルがいるよクックルが。まだ五時半だってのに」
フサギコが、漫画雑誌から顔半分を覗かせた。
クックルというのは生活指導の先生の名だ。
説教の時に、顎に青く残っている不精髭が異様に近づくらしい。
- 29 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 16:54:45.13 ID:6xkC8B890
-
( ,,゚Д゚)「どうする?そろそろ帰る?」
ギコは読んでいた音楽雑誌を閉じると、本棚へと戻した。
女子生徒が、クックルからスカートの長さを指摘されている映像が、視界の隅に入ってくる。
ミ,,゚Д゚彡「クックルも厳しいよな。別にスカートが膝上だからって何が起こるわけでもないのに」
ギコの視線を察知したのか、フサギコは呟くそうにそう言った。
先生達の前でそう叫べない自分を、悔やんでいるようにも見えた。
ギコは時計に目をやった。
五時半過ぎ。今走らないと、五時後半の電車に乗れない。
六時過ぎの電車に乗って帰ったら、親がうるさい。
ギコの小さな溜め息と、フサギコの踏み出す第一歩目が重なった。
- 30 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 16:56:09.52 ID:6xkC8B890
-
駅に着くと、沢山の生徒が思い思いにグループを作っていた。
この時間帯に帰る生徒が最も多いためだろう、
さっきスカートの丈を注意されていた女子グループが、ホームに座りこんで、
早速クックルの悪口を吐いているのが聞こえた。
ミ,,゚Д゚彡「あっ、イヨウとモララーだ!」
隣にいたフサギコが、急に駆け出した。
フサギコの走る先には、クラスメイトのイヨウとモララーがいた。
イヨウは、こちらに向かって手を振っている。
(=゚ω゚)ノ「ギコとフサギコじゃんヨウ。お前らも今帰るとこかヨウ?」
イヨウの声は、猫のように人懐っこく、聞いていて心地良い。
言わなくても良い冗談を口走ってしまいそうなほどに、イヨウがいるとテンションがあがる。
( ,,゚Д゚)「そう。クックルの視線が痛かったからさ」
( ・∀・)「俺達もめっちゃ睨まれたよな」
モララーが低い声を響かせる。
モララーはイヨウと違い、完全に声変わりを済ませた大人の声をしている。
- 31 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 16:57:04.49 ID:6xkC8B890
-
ミ,,゚Д゚彡「まじクックルとかって暇だよな……そんな暇あんだったらあの校舎建てかえてろ!って感じ」
フサギコがそう良いながら、ふ、と視線を泳がせた。
ミ,,゚Д゚彡「なぁ、あそこにいるのってペニサスサンだよな」
フサギコは、くいくい、と顎で三番線の方向を示す。
そこには、一番線の人ごみから離れた場所に、ぽつんと一人で立っているペニサスの姿が在った。
ホームを駆ける風に、抱え込むように持っている本のページをめくられ、少し、鬱陶しそうにしている。
( ・∀・)「なんで三番線なんかにいるんだろ」
モララーはそう言ったあと、右手に持っていた缶コーヒーを一口飲んだ。
その妙に手馴れた仕草が、無駄に親父臭いなとギコは感じた。
(=゚ω゚)ノ「きっと塾だヨウ」
イヨウはそう呟くと、もうペニサスに関心が無くなったらしく、フサギコとじゃれ合い始めた。
イヨウとフサギコを見ていると、中学三年生ってまだ子供なんだなと改めて実感させられる。
- 32 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 16:59:22.02 ID:6xkC8B890
-
日当で遊ぶ子猫のような二人を横目に、ギコはまだ、ペニサスを見ていた。
少し大きめの本を小さな右手にかかえ、絶え間無くそれに視線を落としつづけている。
たまに髪の毛を整える左手の指はすぐに、本のページを支える為、丁寧に位置を探す。
その姿はこの生活への不満の塊にも見えたし、その環境の中で、今にも取れそうになっている
堅い仮面を必死にかぶり、国会議員の娘を精一杯演じている人形のようにも見えた。
ミ,,゚Д゚彡「ギコ、電車来たよ」
フサギコが、ギコの袖を引っ張った。
ギコは、「ん」とだけ頷くと、流れるように電車に乗りこんだ。
ペニサスはまだ、その場に立ちつづけている。
文字の羅列を追っている瞳は、迷路の出口を探しているようにも見えた。
やがてペニサスの姿は、流れゆく景色の渦に呑まれていった。
- 33 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:01:05.36 ID:6xkC8B890
- ※
('、`*川「ふう」
その日ペニサスが家に着いた頃には、限りなく十一時に近かった。
ペニサスは毎日、闇に包まれた街を、一人歩いて帰る事になる。
もう一年以上も前からのことなので、恐さなどは薄くなっているのだが、虚しさだけは毎夜濃密になっていく。
('、`*川(まったく、これじゃいつ襲われても不思議じゃないよね)
聳える様に立つ門を開け、大きな扉を開ける。
('、`*川「ただいまっと」
家に父親が帰っている可能性は、限りなくゼロに近い。
母親も既に眠りに就いており、テーブルの上には冷めきった夕食が置いてある。
('、`*川「うわっ。まーた冷凍コロッケ……」
一口だけコロッケを齧った。
くちゅり、と嫌らしい音をたてながら、油が舌に纏わりつく。
スーパーで売っている、パック入り三個で百九十八円ってとこだろうか。
- 34 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:02:03.12 ID:6xkC8B890
-
ペニサスは何の迷いもなく、皿に並べられていた夕食を三角コーナーに捨てると、そこに水道水を落とした。
コロッケには汚い穴があき、水の勢いがそれを拡張していく。
('、`*川(全く違う世界、か)
水道水を止めると、ペニサスは洗面所へ行き、歯ブラシを握った。
夕食なんて、もう要らない。ペニサスの食道は、意識的に蓋をしていた。
('、`*川(全く違う世界って、一体どんな世界なんだろ?)
- 35 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:04:26.37 ID:6xkC8B890
-
('、`*川「……少なくとも、こんなまずいコロッケが出てくる世界じゃないかな」
今の環境から抜け出されば、どこでもいいかもしれない。
顔を下に向け、口を開いた。
口内の汚れを掠め取るように、うがいを繰り返す。
水の音以外、何も聞こえない。夜の静寂は、酷く重い。
空気の動きさえ抑制するような、静寂という圧迫感。
この静寂を好むようになってしまった私は、やはり少しおかしいのだろうか。
('、`*川「はぁ」
ペニサスはもう一度溜め息をついた。
――今日と変わらない明日は、すぐそこに来ている。
- 37 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:05:57.71 ID:6xkC8B890
- ※
( ,,゚Д゚)「ん……」
不思議な感覚が、体を包んでいる。
心地よい温度が、そこには存在した。
そこは確実に、夏ではなかった。だけれど、冬でもなかった。
人間が過ごす上で、一番心地よい温度。
春の体温のようにリアルで、真夏の水温のようにずっと触れて居たいと感じる。
ここが室内なのか屋外なのかもわからない。
ただわかることは、ここは今まで住んでいた星とは全く違う環境にあるということだけだった。
( ,,゚Д゚)「あぁ……なんか、すげぇ心地いいな……」
ミ,,゚Д゚彡('、`*川
右隣には、フサギコが居た。
左隣には、ペニサスが居た。
ペニサスはもう、教科書なんて持っていない。
三人はただ、空を見上げていた。
- 38 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:07:52.14 ID:6xkC8B890
-
空の色は、学校の天井に似ていた。
薄く、透き通るような碧。
水の中から色だけを掬い取ってきたような、優しい碧だった。
オーロラのように、それは揺れている。光の網が、色の波を創っている。
( ,,゚Д゚)「すげぇ……」
( ,,゚Д゚)(こんな世界があったなんて……)
いつのまにか、繋いでいた手。
フサギコとペニサスの掌の温もりが、ふわりと消えた。
( ,,゚Д゚)「お、おい! どこに行――――」
- 39 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:08:53.36 ID:6xkC8B890
-
――……
―…
ギコは、閉じていた目を開いた。
そこにはまだ碧が広がっていると信じていたが、ギコの視界を染めたのは、薄汚れた白だった。
ギコの部屋の天井が、そこには存在した。
( ,,゚Д゚)「……夢?」
目覚まし時計も無しに、自然に目を覚ませたのはどれぐらい振りだろう。
ギコのからだは抵抗する事なく、眠りから覚めた。頭の中が、酷くすっきりと澄んでいる。
掌を、開いたり閉じたりしてみる。
まだどことなく、あの温もりが残っている気がした。
ギコは顔を洗った。
鏡を見た。
自分が居た。
いつもと変わらぬ世界は、そこに存在した。
- 41 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:11:08.35 ID:6xkC8B890
- ※
('、`*川「おはよ」
がたん、と音を鳴らし、ペニサスが席に座った。
ペニサスはいつも、学校に来るのが早い。
まぁ、それを毎朝見ているギコはもっと早いのだが。
( ,,゚Д゚)「昨日、塾だったんだろ?大変だな」
('、`*川「うん。え、ていうかなんで知ってるの?」
ペニサスは鞄の中身を取り出し、それを引き出しの中に詰めた。
各教科ごとに分別されているらしく、見栄えが美しかった。
( ,,゚Д゚)「昨日、駅でひとりだけ違うとこに立ってたからさ。塾なんかなってフサギコとかと言ってたんだよ」
ギコがそう言うと、ペニサスは突然両手を組み、頭上へ持っていった。
伸びをしながら、からだを左右に揺らす。
- 43 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:13:14.03 ID:6xkC8B890
-
('、`*川「あー……うん。塾。親が中一の終わりに、勝手に申しこんだんだ。別に私行きたくなかったのにさ。」
( ,,゚Д゚)「勝手に?」
('、`*川「うん。しかも終わるの十時半近いの。家帰ったらほぼ十一時だよ?
しかも親は寝てたり帰ってなかったり……もう慣れたけどねー」
ひとりで歩く夜道のスリルだって、楽しめる余裕さえ出来てきたの、と笑うペニサスの目は、
笑顔を作れば作るほどに哀しく見えた。
ギコは、そんなペニサスの横顔を見ながら、夢の世界のことを思い出していた。
天井の薄い碧と、夢の世界の空の色が、重なる。
隣同士手を繋いでいた、フサギコとペニサス。
ギコは、今自分の中にある考えをペニサスに伝えてみようと、口を開いた。
- 44 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:14:19.97 ID:6xkC8B890
-
( ,,゚Д゚)「ペニサ―」
ミ,,゚Д゚彡「おはよー。ペニサスサン昨日塾だったの?」
フサギコとギコの声が重なった。
('、`*川「うん、そう。フサギコ君は塾行ってないの?」
ミ,,゚Д゚彡「俺が行ってるわけないじゃん」
( ,,゚Д゚)「……」
やはり言うのはやめようか。
こんなこと、現実的に考えて不可能だ。
あぁだけれど、やはり聞いてもらいたい気もする。
- 45 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:15:29.31 ID:6xkC8B890
-
やっと、全く違う世界が少し見えた気がしたのだ。
聞いてもらわないと、今の日常から何も変わらない。
――天井の薄い碧が透け、空の奥を突き抜けるように、気分が高揚していく。
( ,,゚Д゚)「なあ、夏休み、学校に住んでみないか?」
あまりにも、ギコの発言は唐突だったらしい。
普通に会話をしていたペニサスとフサギコの顔が、止まった。
- 47 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:17:14.47 ID:6xkC8B890
-
('、`*;川「ギコ君、なに言ってんの?」
ギコの言葉を充分に噛み砕き、実果が最も適切とされる第一声を発した。
窓からの光が碧を照らして、少しだけ白く見えた。
( ,,゚Д゚)「……あのさ、前こんな環境は嫌だーとか、違う世界に行きたいーとか話してたじゃん。
フサギコとも話してたんだけどさ、俺なりに考えたんだよね」
ミ,,゚Д゚彡「その結果が、なに、引越し?」
フサギコがとぼけた声を出す。
( ,,゚Д゚)「いや、別に引越しとかじゃないんだけど」
ミ,,゚Д゚彡「今流行りのプチ家出ってやつですかい? まるでギャルだね。超ありえなーい」
( ,,゚Д゚)「やっぱ現実的には無理かな……昨日ふっと考えが浮かんでさ」
ミ,,;゚Д゚彡「え、無視ですかい?」
('、`*川「ギコ君はなんでそんな考えが浮かんだの?」
フサギコとは違い、ペニサスの表情は真顔だった。
きっとペニサスは、俺と同じ事を感じている。ギコはそう感じた。
- 49 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:20:12.09 ID:6xkC8B890
-
( ,,゚Д゚)「あれだよ、なんか俺の夢の中にネバーランドっぽいのが出てきてさぁ……。
その空がこの学校の天井と全く同じ色だったんだよね。
それで、俺の両隣にはフサギコとペニサスが居て……」
ギコは、一息つき、続ける。
( ,,゚Д゚)「ああ、こういう世界いいなぁって思ったんだ。
みんなで過ごせる場所ってやっぱ学校だ、そして夏休みだ、みたいな」
ミ,,゚Д゚彡「そっか……」
フサギコは冗談に聞こえるように話したつもりだったのだが、ペニサスはその言葉をそのまま受け取ったようだ。
それだけ呟くと、目を伏せ、何かを考えているらしい顔をする。
ミ,,゚Д゚彡「でもさ、現実的に考えてみようぜ。まず許可なんて絶対おりないから、
秘密でってことになるよな。バレる確率が高すぎる。
それに、食料はどうする? 風呂は? 洗濯は?
日常生活を送るうえで学校ってのはちょっと不便すぎねえ?」
- 50 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:22:04.34 ID:6xkC8B890
-
フサギコは、ほとんど息継ぎをせずにそれだけ言い放った。
そのまま後ろの机に両肘をつき、椅子の前足を浮かせ、身体を揺らし始める。
フサギコの言っている事はもっともだ。
いや、もっともだからこそ、なぜだか異様に覆したくなる。
ギコがどうにか何かを言おうと疼いていると、ペニサスが口を開いた。
('、`*川「私は、不可能じゃないと思うな。ていうか聞いてて、実際にやりたい! って思ったし。
だけど実際、私にそこまで勇気があると思えなくって。先生の見回りだってあるだろうし、
校舎内で部活動するとこもあるだろうしさ。……もしバレたら、親がなんて言うかわからないし」
- 51 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:25:22.63 ID:6xkC8B890
-
きっと、結局ペニサスの心に引っかかっている点は、最後の部分だけだろう。
やはり、ペニサスの心に浮かんでいるものは、自分と酷似している。そうギコは思った。
( ,,゚Д゚)「俺も、気になってるのはバレた時ってことだけなんだ。
食料は買えばいい。冷蔵庫は保健室にある。風呂は近くの銭湯にでもいけばいい。
洗濯は水道があれば出来る。生活自体は、できると思うんだ。親もいない、俺達だけの世界」
ペニサスは、頷いた。フサギコは、動かない。
('、`*川「そうだよね……ていうか、実際のリビングみたいなところを保健室にしたらどうかな。
ベッドもあるし、冷房完備だし、冷蔵庫もあるし……うん、家庭科室でご飯も作れるし。
洗濯だって手洗いでなんとかなる」
ペニサスはまるで、自分に言い聞かせているようだった。
きっとペニサスも、ギコと同じように、高揚している気分を必死に落ちつかせているのだろう。
('、`*川「やだ、なんだかドキドキしてきちゃった」
はにかむペニサスの顔が、不覚にも、かわいく思えた。
- 52 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:28:17.36 ID:6xkC8B890
-
ミ,,ーДー彡「……」
フサギコはまだ、考え込んでいるようだった。
言葉の意味と現実の影を、頭の中で重ね合わせているかのように、フサギコの視線は揺るがない。
('、`*川「どうしよう、メンバーは私達だけなの? もっと集めようよ。
私達と同じ事思ってる人はもっといるはずよ!」
隣ではしゃぐペニサスの声が、フサギコの思考を遮っている事は目にも明らかだった。
从'ー'从「ペニサス、次移動だよ〜。行こう」
ペニサスと仲の良い渡辺が、待ちくたびれたようにそう言った。
('、`*川「あ、ごめん、私行くね!」
ペニサスは口早に言うと、渡辺と教室を出ていった。
妙に肩を弾ませながら歩くペニサス。
あの後ろ姿では、きっと今の話を渡辺に聞かせているのだろう。
( ,,゚Д゚)「フサギコ、俺達も行こうよ」
ギコはフサギコの目を見ながらそう言った。
- 54 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:30:23.74 ID:6xkC8B890
-
ミ,,゚Д゚彡「……」
しかし、フサギコの視線は揺るがない。
まっすぐに何かを見つめているようだった。
きっとフサギコは、さっき話していたことを考えているのではない、とギコは思った。
( ,,゚Д゚)「次、サボんの?」
ミ,,゚Д゚彡「うん。悪い」
フサギコはそれだけ言うと、跳ねるように椅子から立ちあがった。
ミ,,゚Д゚彡「俺、屋上行ってるから」
そう吐き捨てると、フサギコはギコと全く正反対の方向へと歩き出した。
フサギコの心の内は、きっと誰にもわからない。
それは時にガラス細工のように繊細で、時に木の幹のように頑固なのだろう。
フサギコは誰の心にも深く干渉しなかったが、それと同じように、自分のことを深く干渉されることを嫌った。
- 55 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:33:50.16 ID:6xkC8B890
- ※
ミ,,゚Д゚彡「ふぃ〜……」
両手両足を、投げ出した。
見えるものは、空、雲をつくりだす光。
少し眩しくて、目を閉じた。感じるものは、コンクリートを駆ける風。
こうして屋上で寝転び目を閉じると、目が見えない代わりに、他の器官が研ぎ澄まされるのを感じる。
普段は聞こえないようなコンクリートの軋みや、人々の呼吸が、聞こえてくる気がするのだ。
ミ,,゚Д゚彡「学校で一緒に暮らそう、か……」
フサギコは閉じていた目を開け、上半身を起こした。
胡座をかいて、両手は背中の後ろに持っていき、三点でからだを支えるような姿勢をとる。
屋上で考え事をするときは、この姿勢がベストなのだ。
ミ,,゚Д゚彡(ギコって、時々とんでもないこと言い出すんだよな。まぁそれが面白いんだけれど)
フサギコは、制服の胸ポケットの裏から、煙草とライターを取り出した。
手馴れた手つきで、煙を体内に送り込んでいく。
- 56 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:37:19.75 ID:6xkC8B890
-
ミ,,ーДー彡「ぷはぁー」
さっき右端にあったうさぎに似ている雲が、今は自分の真上に流れてきた事を見つけ、
もう少しだけ空を見ていようと思った。
それは少しだけ形を変え、今ではもううさぎとは呼べないかもしれないが、その不器用さがかわいかった。
ミ,,゚Д゚彡「……熱っ!」
煙草の先が、ズボンの上に落ちた。
ミ,,゚Д゚彡「やべっ」
フサギコは右手でそれを落とす。もう幾つ目の焼け焦げだろう。
親にバレるのはもう慣れたが、さすがに先生にバレるとやばい。
ミ,,゚Д゚彡「……」
ふと、右腕にはめられている黒いリストバンドを見る。
あの日から、フサギコはこのリストバンドを取っていない。
少なくとも、人前では取っていない。
ひとりで煙草を吸っている時には、時々それを取って眺めていた。
- 57 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:39:55.32 ID:6xkC8B890
-
煙草を吸っていれば、忘れる事はない。あの匂い、あの熱さ、あの色。
フサギコはゆっくりと、右腕のリストバンドを外した。
ミ,,ーДー彡「……」
――あんたが、悪いんだよ
それを外せばいつも、蘇る声。
しゃがれたような声。女性離れした、低くて深い声。
そこに在る物の存在を、突き放すような声。
母の、声。
フサギコはリストバンドをはめ、煙草とライターを胸ポケットの裏に閉まった。
そのときだった。屋上のドアが、開いた。
- 58 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:45:23.55 ID:6xkC8B890
- ※
(*‘ω‘ *) 「ここは重要だぽっぽ! よーく覚えておくっぽ!」
ちんぽっぽ先生は、背が小さい。
授業が終わり白く汚れた黒板を消そうとしても、なかなかうまく消えてくれない。
そうなるとわかっているのなら、自分で上の方に書かなければいいのに……。
( ,,゚Д゚)(フサギコはまだ屋上か……)
ギコは実験の結果が書かれたグラフをノートに挟みながら、屋上を見た。
ここからは屋上全体を見る事は出来なかったが、きっとフサギコは屋上にいるだろうと思っていた。
フサギコだけではなく、他にも悩み事のある生徒や、授業をサボる生徒はよく屋上に足を運ぶらしい。
だから、先客がいる、なんてことも時々あるらしく、屋上で普通の友達とは違った
「同志」が見つかることもしばしばらしい。
なんだかそこらへんにある青春漫画みたいだ。
ギコは、少しそれに憧れている自分に恥ずかしくなった。
- 59 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:46:10.17 ID:6xkC8B890
-
('、`*川「ぽっぽ先生、私達が黒板消してあげるよ」
そう思った途端、ペニサスの高い声がギコの耳に届いた。
ぽっぽ、というのはちんぽっぽ先生のあだ名で、名前がちんぽということからそうなった。と思う。
ペニサスと渡辺が、先生から黒板消しを受け取る。
(*‘ω‘ *) 「ありがとうっぽ!」
ちんぽっぽ先生の声が聞こえる。
- 60 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:48:05.47 ID:6xkC8B890
-
( ,,゚Д゚)「ペニサス」
ギコは席を立ち、ペニサスの腕をつかんでいた。渡辺が隣で、驚いたように手の動きを止めた。
( ,,゚Д゚)「屋上、行こう」
ギコは、それだけ言った。
('、`*川「……わかった」
ペニサスも、それだけ言った。
ペニサスの「わかった」は、「わかってる」に酷似している気がした。
ギコはペニサスの腕をつかんだまま、屋上へと走った。
从///从(ふぇぇー。ギコ君って大胆だなぁ)
真っ赤になって固まっている渡辺を残して……。
- 61 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:49:55.52 ID:6xkC8B890
- ※
ξ゚听)ξ「……誰?」
少女は、言った。少女は、屋上のドアを風に任せて閉め、髪の毛を、耳にかけた。
クックルが目の色を変えて叫び出しそうなスカートのから覗くものは、すらりと伸びる細い足。
手首には、光を受けてきらりと光るブレスレットが、ふたつ。
ミ,,゚Д゚彡「……人に名前聞く時は、まず自分が名乗ってからだろ」
フサギコはからだの向きをそのままに、言い放つようにそう呟いた。
ξ゚听)ξ「三E。ツン」
ミ,,゚Д゚彡「三B。フサギコ」
ツンの凛とした声に、フサギコの低い声が乗っかる。
ツンはふっ微笑むと、フサギコの隣にふわりと腰をおろした。
そんなツンを、訝しげに見つめるフサギコ。
ミ,,゚Д゚彡「なんなの、お前」
ξ゚听)ξ「あんただってサボり組でしょ? おんなじじゃん」
ミ,,゚Д゚彡「ここ、鍵ないと入れねえじゃん」
ξ゚听)ξ「あんたと同じ方法で入ってきましたー」
- 62 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:51:33.98 ID:6xkC8B890
-
ツンの弾むような軽い声が、フサギコには心地よかった。
雲の流れが速くなったように感じた。
フサギコは、両手を頭の後ろに組み、横になった。
誰かが隣にいるだけで、妙な安心感が沸く。
ひとりで見上げる空よりも、誰かの隣で見上げる空の方が、深く、遠く、広く見えた。
ξ゚听)ξ「あんたは、どーして?」
ミ,,゚Д゚彡「なに、突然」
ξ゚听)ξ「あんたはどーして、ここに来たの?」
ツンの言葉は突然だ。
他人からの言葉の意味を噛み砕く癖があるフサギコに、その時間を与えない。
他人から詮索されることが嫌いでも、単刀を直入されたら質問に答えるしかない。
ミ,,゚Д゚彡「ちょっとな、考え事。おまえは?」
ξ゚听)ξ「じゃあ、あたしも考え事」
なんだよそれ、とフサギコが言うと、いいじゃんそれで、とツンは笑う。
今会ったばかりだが、なぜだか心は溶けていく。
まるで、日なたに置いたアイスクリームのような時間だった。
- 63 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:53:32.41 ID:6xkC8B890
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ξ゚听)ξ「ねえ、あんた煙草吸うの?」
ツンの言葉は、やはり突然だ。
ミ,,゚Д゚彡「煙草? 吸うけど……なんで?」
ξ゚听)ξ「いや、だって匂いしたから。不良だね、あんた」
ミ,,゚Д゚彡「おまえだって髪染めてんじゃん」
ξ゚听)ξ「それとこれとは別デス。あなたのは触法行為デス」
こんなふざけたナリのツンから、「触法行為」なんて言葉が出てきた事にフサギコは驚いた。
ミ,,゚Д゚彡(こいつ、多分、根はしっかりとした奴なんだな)
フサギコはぼーっとした頭で、かすかにそう思う。
隣にいるツンは、酷く大人に、そして幼く見えた。
ツンの瞳は、空を見ているというよりは、空の向こうにある何かを見透かしているといった感じだった。
この世界にある汚点すべてを、洗い流すような、視線。
そして、風になびく茶色い髪が、大人っぽさを際立てていた。
- 64 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:55:10.40 ID:6xkC8B890
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そのとき、錆び付いたチャイムの音が、時の流れを急かすように鳴り響いた。
そのチャイムは、この屋上での時の流れをも、止めてしまう。
ξ゚听)ξ「あ、チャイム鳴っちゃったね」
ミ,,゚Д゚彡「そういえばお前、授業の途中から来たんだな」
ξ゚听)ξ「保健室―って言ってここに来た。あたしにとって、屋上は保健室よりも元気になれるとこだから」
ξ゚听)ξ「あんた、授業のはじめからここにいたの? やっぱ不良だっ」
ツンはそう言って、からからと笑う。
ミ,,;゚Д゚彡「だからお前だって不良だから。茶色のクセして」
フサギコがそう言うと、なんだと煙草やろう、と言い、ツンはコツンとフサギコを殴った。
ξ゚听)ξ「じゃあそろそろ、あたし戻ろうかな。決して不良なんかじゃないまじめな子ですからっ」
ツンはからかうようにそう言うと、立ちあがった。
ツンの上靴には、かかとを踏んでいるような跡がない。
やはり、芯はしっかりとしたやつなんだな、とフサギコは思った。
そして気付かなかったが、ツンはかなりの長身のようだ。一六〇後半はあるだろう。
モデルのようにすらりとした四肢に、暖かい空気を纏い、ツンの姿はまるで陽炎のようだった。
- 65 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:57:05.58 ID:6xkC8B890
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やがて、屋上の扉へと歩いていたツンの動きが、止まった。
ξ゚听)ξ「……ねえ、あれ、あんたの友達じゃないの」
ミ,,゚Д゚彡「え?」
フサギコはがばっと上半身をあげた。
俺がここにいることを知っているやつなんて、ギコしかいないじゃないか。
扉を、ダンダンと叩く音が聞こえる。フサギコも、扉へと近づく。
そこには、ギコとペニサスがいた。
右腕にノートやペンケースを抱え、ダンダンとガラスが割れんばかりに扉を叩いている。
ミ,,゚Д゚彡「ギコ、おまえ何やってんの?」
( ,,゚Д゚)「入れないんだって。開けろ!」
ギコの声は、ガラス一枚を挟んだ向こう側から発せられているため、少しくぐもって聞こえた。
ミ,,゚Д゚彡「はいはい。今開けますよ」
フサギコが扉を強く蹴ると、扉は開いた。
少し驚くように屋上に入ってくるギコとペニサスを、ツンはきょとんとして見つめている。
それと同じように、ギコとペニサスもツンのことを「これ、誰?」といった目で見つめていた。
ギコとペニサスにとって、ツンのようなナリをした生徒は異色の存在なのだろう。
それに気付かずに、当たり前のようにそこに立っているツンが、無性におかしかった。
- 66 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 17:59:06.51 ID:6xkC8B890
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( ,,゚Д゚)「……フサギコ、このひとは、誰?」
遂に耐えきれなくなったようだ。
ギコが、恐る恐るそう言った。ペニサスは、ギコの背中に隠れるようにして立っている。
ああ、もしかしたらこれがいわゆる「同志」なのかもしれない。
ギコはうっすらとそう感じていた。
ミ,,゚Д゚彡「ああ、このひとは今知り合ったばっかの不良チャン。
E組の……なんだっけ?」
ξ゚听)ξ「あたしは不良チャンなんかじゃありません。そして名前はツンです」
ミ,,゚Д゚彡「そうそう。ツン。あ、あとギコ、俺、さっき言ってた夏休み学校で暮らすってやつ、参加するから」
フサギコは、ツンの紹介のついでといった感じに、そう言った。
ペニサスが思わず、「え」と言葉を漏らし、ギコの背中から姿を現した。
ギコは、「この少女の名はツン」ということをインプットした後、フサギコの発した言葉の意味をじっくりと考える。
( ,,゚Д゚)「え、今お前なんて言った?」
ミ,,゚Д゚彡「いやだから、俺、夏休みのアレ参加するから」
- 67 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 18:00:22.03 ID:6xkC8B890
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( ,,゚Д゚)「「まぁ、俺らもフサギコがそれ考えるために屋上行ったんだろうなって思ってここ来たんだけど……
なんでまたそんな結論に?」
ミ,,゚Д゚彡「なんだよ、俺参加しない方がいいのか?」
( ,,゚Д゚)「違うって。さっきあんなに嫌がってたっぽかったのに……
なんでかなって思って」
ギコがそう言うと、ペニサスも二回頷いた。
ツンは未だ、隣できょとんとしている。
ミ,,゚Д゚彡「いや、いろいろ考えてたんだけど……俺もやっぱ逃げ出したくってさ。
忘れなきゃいけないけど、忘れちゃいけないことっていうか、いろいろなことから、逃げ出したくなったんだ」
フサギコはそう言いながら、自分の腕にはめられているリストバンドを横目に見た。
皮膚が溶ける傷みが蘇る。母の声が、頭を揺さぶる。
――あんたが、悪いんだよ――
頭の中が、震える。
- 68 名前:1 ◆Cc1bIwcvOk :2007/07/12(木) 18:01:33.38 ID:6xkC8B890
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ξ゚听)ξ「……ねえ」
張り詰めていた糸を、はさみでちょんと切るような、ツンの声。
まだ頭の中が整理できていないといった顔で、続ける。
ξ゚听)ξ「さっきから話が読めないんだけど、なんの話? 夏休み学校で暮らすとか……さっきから何言ってんの?」
ツンがそう言うと、ギコがそれを受けとめ、答えた。
( ,,゚Д゚)「俺達、夏休み、学校で暮らそうって計画立ててんだ。もちろん先生には内緒でな。
部活も終わってあとは受験だけで、もうこんな環境から逃げ出したくなったんだ」
('、`*川「私もー。私は親がうるさいから、ほとんど親から逃げ出すって感じなんだけどね」
今までツンに怯えるようにしていたペニサスが、ギコに代わって続ける。
('、`*川「それで、そのメンバーにフサギコ君もいれようって話だよ。
ちなみに私はペニサス。よろしくね」
ペニサスがそう言って右手を差し出すと、ツンはただでさえ大きな目をさらに大きく見開かせた。
そして、差し出されたペニサスの右手を力強く握ると、それを上下に激しく揺らしながら、こう言った。
ξ゚听)ξ「ねえ、それってあたしも参加しちゃだめかな?」
――続
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