- 41 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 20:39:01.67 ID:a1+HTfTcO
- 2話
肉体
- 44 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 20:44:53.08 ID:a1+HTfTcO
- 荒巻を送ったブーンは二、三度工房内を見渡すと嘔吐感に襲われた。
自分の敬愛する者。自分の敬愛する者を殺した者。そして今迄自分を虐げてきた者。
これら三人の死体が散乱している様は、まだ死に面と向かって向き合った事の無い少年にとっては過ぎる光景だったからだ。
込み上げる物を抑え切れずにブーンは浴槽に吐瀉してしまった。
戻す事で多少の落ち着きを取り戻したブーンは水面に映る自分自身の姿に絶望する。
顔の血管は赤々と浮かび上がり、首の動脈に至ってはなぜ破裂しないのかといった様子で荒々しく脈を打っていたからだ。
ブーンにとってはこのまま死んでしまう事よりも、この醜い姿を誰かに見られる事の方が堪えられ無い事だった。
- 46 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 20:50:40.93 ID:a1+HTfTcO
- 『物事の本質を見極めろ』
苛められているブーンに向かって荒巻が言った言葉である。
苛めなんて只の暇潰しであって対象は誰でも構わない。
いくら気持ち悪いと他者から罵られようとそれは中身の無い罵倒に過ぎないのだ。
そんな荒巻の言葉が苛められていたブーンを支えてきたのだ。
だが実際に気持ち悪ければ話は変わって来る。
- 47 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 20:51:48.24 ID:a1+HTfTcO
- ( ^ω^)「…」
荒巻を仰向けに寝かせ、白い布を一枚顔に掛けるとブーンは外が暗くなるのを待った。
既に涙は枯れ、不思議とこれ以上泣く事は無かった。
ブーンには自分がセントと中嶋を殺したという自覚は無い。豹変していた間の記憶が無かったのだ。
つまり荒巻以外の二人の死は、当事者であるにも関わらず客観していたのである。
だからこそある程度の落ち着いた行動を取れていたのだ。
( ^ω^)(何があったんだお…)
―――
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- 48 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 20:52:39.09 ID:a1+HTfTcO
- 陽が完全に沈んだ頃合を見計い、ブーンは工房を出る準備を始める。
荒巻が生前使っていた黒いローブに袖を通し、扉を開けて別れの節を呟いた。
( ^ω^)「荒巻、行って来るお」
―――
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- 49 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 20:54:28.91 ID:a1+HTfTcO
- ブーンはラウンジへ向かう前に、唯一の肉親である母に一刻の別れを告げる事を決めていた。
ラウンジまでは列車を使っても往復で三日は掛かる。
今の特殊な状況を考えたら三日で帰れるとは到底思えなかったのだ。
( ^ω^)「ただいまだお」
それに母なら今の自分を見ても愚弄するとは思えなかった。
どんな姿であれ息子だと認めてくれる。と、ブーンは考えていた。
だが照明に照らされたブーンの顔を見て母は言った。
J(;'ー`)し「く、来るな化け物!!」
- 50 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 20:58:08.49 ID:a1+HTfTcO
- ブーンの意識は一旦そこで途切れた。
次に意識を取り戻すと、首から血を流す母と刀の様に鋭く尖った自分の腕が眼に入った。
それらを見比べ、自分が何をしたのか悟り、ブーンは黙って家を出るのだった。
先程の二人も実は自分が殺してしまったのではないかと考えると、『崩壊する』のでは無く既に『崩壊している』と感じ、ブーンは肩を抱いて身震いした。
―――
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- 54 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:03:03.18 ID:a1+HTfTcO
- 夜行列車に乗り込むと、ブーンは座席に着いて早々に就寝しようと試みた。
しかし様々な事が脳裏を過ぎる。
敬愛する者が死に、自分は三人の人間を殺めてしまったかもしれない。しかもその内の一人は自分の母だ。
そう考えると枯れたはずの涙が一筋頬を伝い、赤い線を描いた。
列車内には絶えず石炭を焼べる音が響き、それもまたブーンの睡眠を妨げるのだった。
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- 61 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:14:17.15 ID:a1+HTfTcO
- 「あんたには死なれちゃ困るんでね」
そう言って男は工房の天井に縄を掛け、荒巻を逆さに吊す。
「『魂』はこっちで保管しとくよ」
男が荒巻の首を刀で刎ねると床に敷かれたシートは赤黒く染まった。
―――
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- 64 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:15:46.98 ID:a1+HTfTcO
- (受`∞´)「不審者を通すわけにはいかん!!立ち去れ!!」
予想はしていたがいざ基地へ入る事を拒まれるとブーンは狼狽した。
(;^ω^)「頼むお!『高岡』って人に会わせてくれお!」
(受`∞´)「何度頼もうと無駄だ!それに高岡准将は現在ここにはいない!」
(;^ω^)「…分かったお」
泣く泣く引き返すブーンは今後の事を考えると不安に駆られた。
時間が無い。その事をひしひしと感じ始めていたからだ。
―――
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- 65 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:17:22.14 ID:a1+HTfTcO
- 基地から程近い市場で林檎と水を買い、ブーンは広場のベンチに腰掛けて早めの昼食を摂った。
だが林檎の赤が酷く疎ましく思えて半分近くを鳩に食べさせてしまった。
( ^ω^)「平和の象徴…かお」
ブーンは幸せそうな鳩と自分の現況を比べてぼそりと呟くのがやっとだった。
- 66 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:18:27.40 ID:a1+HTfTcO
- ( ´_ゝ`)「隣りいいか?」
ブーンは鳩から視線を外し、青年を流し見た。
断るのも不自然なので仕方無くそれを承諾する。
( ^ω^)「どうぞですお」
ブーンは青年に向かって、眼も合わせずに軽く会釈をした。
とてもじゃないが話す気になどならない。それが本音だった。
鳩に眼を向け、青年が去るのをブーンは黙って待っていた。
- 68 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:20:00.43 ID:a1+HTfTcO
- ( ´_ゝ`)「お前、何人いる?」
沈黙を破る青年の質問。
( ^ω^)「お?」
無論、何の事だか分からないブーンは聞き返すしかない。
( ´_ゝ`)「今日は実に良い収獲日だ」
青年は立ち上がると懐から短刀を出し、ブーンに向けた。
( ´_ゝ`)「二…いや、三か…?」
(;^ω^)「や…止めるお…」
あまりの驚きにブーンは座ったまま動けなかった。
青年の視線は氷の様に冷たく、体が凍ってしまったのではという錯覚に陥っていたのだ。
青年がブーンの首をかっ切ろうとした瞬間、短刀を握っていた手が後方に吹き飛んだ。
- 70 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:24:01.18 ID:a1+HTfTcO
- 从 ゚∀从「そこまでだ!これ以上動いたら容赦無く撃つ!」
白髪の軍人がその長い髪をたなびかせ、高らかに言い放つ。
从 ゚∀从「『魂狩り』自らここまで出向いてくるとは何のつもりだ?」
( ´_ゝ`)「何、宣戦布告だ」
青年は片手が無くなったにも関わらず痛みの表情一つ見せずに機械的に答える。
从 ゚∀从「ならば受けて立とう」
数秒後、ブーンの目の前で青年は蜂の巣になった。
死体を見る事にさほど動じなくなった自分に気付き、ブーンは胸を痛めるのだった。
そんなことを考えているといつの間にか軍人はベンチの前に立ち、ブーンに質問する。
从 ゚∀从「お前、何人いる?」
―――
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- 72 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:27:50.86 ID:a1+HTfTcO
- 从 ゚∀从「そうか、荒巻が…」
基地に連れて行かれる最中、ブーンは高岡の事を尋ねた。
するとこの男性が高岡だという事が判明し、荒巻の事、これまでの経緯等を軽くを話したのだった。
さらにローブを脱ぎ体を見せすると、高岡は多少驚きはしたもののすんなりそれを認めた。
ブーンは理解者が出来た事を心の底から喜んだ。
从 ゚∀从「詳しい事や今後の事はブーンの『肉体』を何とかしてから決めよう」
基地に入る際、先程受付にいた憲兵とブーンは一瞬目が合った。
憲兵の顔には焦りが見え、それを見たブーンはほくそ笑むのだった。
―――
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- 74 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:30:35.50 ID:a1+HTfTcO
- 数階下り、ブーンが通された部屋は見るからに研究施設といった所だった。
棚にはいくつもの薬品と器材が並び、ブーンは好奇心をそそられた。
だがそれを口に出すのは不謹慎だと思い口を塞いだ。
从 ゚∀从「隣りの部屋だ」
その部屋は非常に狭く薄暗い。だが壁に立て掛けられた棺の様な物が何とも喩え様の無い雰囲気を演出していた。
- 80 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:32:55.74 ID:a1+HTfTcO
- 从 ゚∀从「『鉄の処女』だ。さあ入れ」
言われるがままに棺に入ったブーンが最後に見た物は、自分の体に無数の鉄の棘が食い込んでいく様だった。
ブーンの悲痛な叫び声が棺の外に漏れる事は決して無かった。
―――
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「…お」
从 ゚∀从「やっと目覚めたか…お前、ブーンか?」
('A`)「…そうだお」
- 85 : ◆ZGuRy.Pfdg :2007/02/16(金) 21:34:32.22 ID:a1+HTfTcO
- 2話
肉体
完
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