第三魔術
- 242 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 22:44:57.48 ID:kwrvXIa70
-
(; ∵) 「そ、そう憮然そうな態度取られちゃっても哀しいけどこれ、規定事項なのよね」
ため息を漏らし、初老はお茶を啜った。
『学びの意思あるものに開かれる広き門』をしぶしぶ潜った所で、
四人はこのビコーズに呼び止められ、門に隣接して立てられた門番小屋へと招かれたのであるが……
川 ゚ -゚) 「古い慣習に囚われるのは良くないな」
ξ゚听)ξ「大体、その規定事項って何なんですか?」
('A`)「何であんたオカマキャラなんだよ」
( ^ω^)「おっ、このお菓子美味しいおー」
門番小屋に充満するのは重苦しい空気である。
空気読めていない人間が一人程いるが。
ビコーズは対岸のソファーに腰を据える4人へ視線を配らせる。
返答は様々であるが、どれをとっても使命感ややる気など微塵も感じさせないものだった。
フルログハウスの門番小屋には、どこからかヒノキの香りが漂っている。
- 244 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 22:47:50.98 ID:kwrvXIa70
- 一人で住むにしては広い4DLK。
同じようにフルログの家具には到る所にフリルのレースがひかれている。
50代に差し掛かろうとするおっさんが住む小屋にしては、あまりにファンシー。
そんな中、ビコーズは手元のティーカップに視線を落とし、呟いた。
( ∵)「『魔法学校へ大いなる災い降り注ぐ時、四色の見習い魔術師
学びの意思あるものに開かれる広き門に集いてこれを打ち砕かん――』
これが、古い伝承として残ってる句なんだけど……」
('A`)「……そりゃ、なんだかギブアンドテイク感があるこったな」
( ∵)「伝習とか伝承とか、大抵はそう言うもんよ。納得して。
でもね、君たち……四色の魔術師が揃っちゃった以上、見習い生として
ここに在籍して貰わなくちゃ色々具合悪い訳なのよぅ。しきたりにもそうあるし」
川 ゚ -゚) 「……この学校がどうなろうが、私の知った事では」
( ∵)「ない、って訳にも行かないでしょ?
あんたルナの月からここに通うことになるんだし。常識的に考えてよぅ」
川 ゚ -゚) 「…………」
- 246 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 22:49:25.07 ID:kwrvXIa70
- ブーンがクッキーを咀嚼する音だけがしばらくの間響いた。
ほう、と蕩けたようなため息をビコーズがつく。
カップに手をつけないまま、ツンがビコーズに問う。
ξ゚听)ξ「前例、と言うか、その確証はあるんですか?」
( ∵)「ええ、それがバッチリの助。これは更に具合悪いわよねぇ」
( ^ω^)「……おっ、このクッキー美味しいお」
(* ∵)「あ、それ私の手作りなのよぅ! お目が高いわ、キミ!」
再三言うようであるが、事務室に充満するのは重苦しい空気である。
空気読めていない人間が、二人ほどいるが。
ξ゚听)ξ「ブーン、少し黙って」
流石にイライラして来たのか、普段のそれより何段階か低い声で言って、
テーブルに出されていたマドレーヌをひっつかみ、ツンはブーンの口へ放り込む。
( ゚ω゚)「ふぉっうぇっっ!?」
空気読めない人間一人除外された。
- 247 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 22:52:12.86 ID:kwrvXIa70
- ( ∵)「学校設立からこれまでに過去9回、見習い魔術士が出てるんだけど
その度に冷血竜の襲撃とか蠢く森とか色々あったわねー……」
('A`)「そしてその度に見習い魔術師が活躍した、と?」
( ∵)「その通り。頭の回転が速い子は魔術士向きよー」
そりゃどうも。軽く会釈をするドクオ。
いえいえ。そう言いつつ眉尻を下げ、また憂い気なため息を吐くビコーズ。
( ∵)「選別式から選択式に変わったって事で色々安泰かしらーとかね、
やっぱり思ったんだけど、うん、ダメだわ」
ξ゚听)ξ「偶然なるが必然なるが、ここに四色の魔術師が揃ったってのは、そう言うことですか」
( ∵)「そうそう。来るべき時はどうやってもやっぱり来るのねぇ」
悩ましげに手を頬に添える彼、門番ビコーズ。
文字だけみれば麗しい光景であるが、見間違ってはいけない。
そのアクションを起こしているのは、乙女っ気など露程もない初老のおっさんである。
- 248 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 22:53:09.25 ID:kwrvXIa70
- ( ∵)「それじゃぁ、ちゃちゃちゃ、っとみんなの自己紹介やりましょうか」
ξ゚听)ξ「しきたり、なんですか……?」
疑わしい目つきと声質で聞くツンに、
( ∵)「私の趣味よ?」
何このおっさん。
( ^ω^)ブーンは赤魔術士見習い生のようです 第三魔術
- 252 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 22:54:40.48 ID:kwrvXIa70
- ( ∵)y━・~
(∵)
( ∵) は? 何これ、カメラ回ってんの?
そう言う事は事前に言えよ。なぁ。流暢にタバコふかしちまっただろ。
え? マイクも入っ…………もう、お転婆さんたちなんだからっ☆
( ∵) はいはいはいはーい。寝てる人起きてくださーい。
ここでビコーズ先生のチェキチェキ世界講座はっじまっるよー!
知らなきゃ色々と赤っ恥なんだから、これを機会に色々と勉強していってね!
ああでも、始まる前に先生一つ言っておきたいんだけど、
みんなその三角コーナーの隅っこにへばりついたニンジンの皮見るみたいな目で人を見るのやめようね!
( ∵) この世界には大きく分類して4つの大陸があるの。
詳しくは省いちゃうけど、それぞれに独自の文化があって細々ながら交流もあるわ。
ここじゃあ女神信仰が割りと盛んで、創生暦からいらっしゃったって言う、
慈愛の女神『クロービス』を崇め奉っちゃったりしてるわー。
そんな世界で私たちの住む場所は、一番小さな大陸、『トリストン』ね。
このトリストンには、3つの国があるの。
- 256 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 22:56:57.09 ID:kwrvXIa70
- ( ∵) 一つはもうお馴染みかしら。
天空城を有する王国、ロマティネス王国。純粋な魔法を研究する国ね。
歴史のある王国で、王都はバルテルミ。魔法学校があるのもここよ。
現代国王、ロマネスク三世様が徹底した和平主義を取っていて、今は平和ないい国なのよぅ
( ∵) そしてもう一つは科学と魔法の融合を目指す北の帝国、ランカスター。
んー、ここで特徴なのは選帝侯制度かしら。
その時代で最も力のある『選帝七諸侯』から一人、皇帝になるべき人を選ぶ制度のことね。
昔はホーエンツォレルンって言う、トップを独走する家があったからいいものだったけど、
今の時代はその選帝七諸侯の力が均衡しちゃって、帝国はめちゃくちゃな訳よぅ。
自国での内乱を抑える制度が、かえって首をしめる結果になっちゃったの。
最近は……ケルン大司教だったっけ? それが有力らしいけど、まあどんぐりの背比べね。
( ∵) まあ、絶対的なリーダーがいれば話は別だけど、
自分と同じくらいの力を持った人間の言うこと、誰が聞く? って感じで、今の帝国は事実上の空位。
つまり、皇帝がいない分裂状態にあるの。
いや、正直良い気味よねぇ。
……あらやだ私ったら。さっきのは忘れて頂戴。
( ∵) 実はこのランカスターとロマティネス王国、古くから対立関係にあったのよ。
純粋な魔法と、科学を研究する国……相性は、よくないわね。もちろん。
- 262 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 22:59:53.14 ID:kwrvXIa70
- ( ∵) ん?
( ∵) 戦争?
( ∵) ……小さないざこざはあってもまだそう言う事態には陥ってないわねぇ。
もち近着状態、って言ったほうが正しいかも知れないけど。
何でかって? もう、せっかちさんなんだから!
( ∵) いい? その一つには、帝国の空位が理由としてあるわ。
戦争を旗揚げする人間、つまり皇帝がいないんじゃお話にならないからね。
そして、もう一つは――
川 ゚ -゚) 「そこのオカマ。何一人でブツブツ言ってるんだ。気持ち悪い」
バッチン。
腰を浮かして身を乗り出したクーから放たれた渾身の平手打ちは、
完璧にビコーズの右ほほを捉え、陥没させた。
うわ、とドクオが驚嘆の言葉を漏らすばかりで、他の二人はびきりと音をたてて固まった。
無言による静寂があった。数秒固まり、数秒震えたビコーズは
(; ∵)「……か、仮にも先生にビンタ食らわすとは何事よぅ!」
叫んだ。
- 263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/19(火) 23:00:44.40 ID:kwrvXIa70
- 川 ゚ -゚) 「今のはビンタではない。愛のムチだ」
( ∵)「……最近の子供は」
シレッ、と言ったクーに、ビコーズが諦めに近い響きを漏らした。
四人掛けのソファー、その一番端に座っていたドクオはそれらを見ながらマドレーヌに手を伸ばす。
一口咀嚼して、うまい。小声で言った。
('A`)「あの、で、その戦争がおこらないもう一つの理由ってのは?」
( ∵)「……んまっ、いい子ね! えーっと、そのもう一つの理由だけど――」
川 ゚ -゚) 「私が話そう」
ビコーズの言葉を遮り、クーの静かな声が小屋に響く。
数秒固まり、数秒震えたビコーズは、ため息にも似たような吐息を緩々と吐いてから、
( ∵)「あーまー……うん、その方がいいかもね」
明らかに気落ちした声で同調した。
- 266 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 23:01:52.63 ID:kwrvXIa70
- ξ゚听)ξ「役目取られたからってあからさまに拗ねないで下さい」
( ∵)「いいもの。いい女はここは堪えるものよね……」
('A`)「ツッコミたいが放置するのがいいよな、ここは」
マドレーヌを食べ終わったドクオが自分の指を舐めながら言った。
それから自分の分のお茶を飲み干したらしいブーンが質問する。
( ^ω^)「で、何でクーさんが出てくるんですかお?」
空になったティーカップの底を覗き込んだ所で、おおっ。新発見。
( ^ω^)「このお茶も美味しいですおー」
( ∵)「それね、実は茶葉に秘密があって……」
ξ゚听)ξ「ブーン……?」
テメェ話の腰を折るなよ、とでも言いだけにお茶請けが詰め込まれたバケットへ手を伸ばすツン。
( ^ω^)「…………」
ブーンは笑顔で固まる。懸命っぽかった。
- 270 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 23:04:23.71 ID:kwrvXIa70
- 川 ゚ -゚) 「門でも言ったように、私は教皇領から来たんだ」
('A`)・( ^ω^)「「教皇領?」」
そうしてハミングするブーンとドクオの声。
世間知らずどもが夢の跡である。
――教皇領
女神教会が長、フェインクト7世が統治する永世中立国。
首都は聖都とも名高い、モンテ=カシノである。
王立魔術学校に優るとも劣らない白魔術の権威、モンテ=カシノ修道院学校を有し、周りは高い山脈に囲まている。
『自然の牙城』とも言えるその地理は、他の者の侵攻を決して許さない。
ロマティネス王国とランカスター帝国との中間に位置する国である。
川 ゚ -゚) 「ちょうどサンドイッチの具みたいな立場だな」
('A`)「……投げやりな説明だな」
( ∵)「その教皇領が中間にあるから、帝国も下手に手出しできないのよ。
ほら、宗教徒って怒ると怖いじゃない? 一応、聖地な訳だし」
王国に侵攻するのであれば、その戦地となるのは中間の教皇領である。
そうなれば自然、『自衛戦争は辞さず』との命を掲げる教皇領の武力介入は避けられない。
いくら帝国と言えども、二者を相手にする国力は未だなく、それが戦争の抑止力の一つとなっている訳である。
- 272 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 23:06:24.27 ID:kwrvXIa70
- ('A`)「あー、確か女神クロービスが最後に下界へ降り立った場所ーとかなんだったっけか?」
( ∵)「もうちょっとロマンチックな話もあるんだけど、それはまた勉強するでしょ」
ドクオの言葉に、うんうんと頷いていたビコーズが付言する。
言い終わり、静かに瞼を伏せたクーはそれきり無言だった。
( ∵)「とにかくこれでこの世界の事と、どうしても貴方たちに
見習い生なってもらわなきゃいけない、って言う事が理解出来たと思うわー」
川 ゚ -゚) ξ゚听)ξ「「「「…………」」」」(^ω^ )('A`)
今度こそ静まり返った門番小屋に、嬉々とした男の声だけが響く。
ソファーから立ち上がり、ビコーズは両手を胸の前にあわせる。
( ∵)「さて、ここでよ」
そこで一区切りし、
- 276 名前:赤魔 ◆/u1GirgBlw :2008/02/19(火) 23:08:55.64 ID:kwrvXIa70
- ( ∵)「――見習い生へ、第一の任務を課します。クリアー出来ればそれでよし、もし無理なら、」
(; ^ω^)「む、無理なら……?」
ごくりと生唾を飲み込んだブーンを見て、加虐者独特の嫌な笑みを浮かべるビコーズ。
……わ、忘れていた。と、ブーンは己の間抜けさをいよいよ持って呪う。
そうだった。どうあっても。
どうあっても、オカマでも、初老でも、なにがなんでも目の前の人間は、
( ∵)「それ相応の罰が下るわね」
自分より立場が上――即ち、『王立魔術学校の先生』なのだった。
( ^ω^)ブーンは赤魔術士見習い生のようです 第四魔術へ続く!